軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3話:安心と信頼の*2

「……というわけで纏めると、『アージェント家は屋敷の兵士達をほとんど全て、遠征に出し続けている』ということだ」

オーレウス王子が、僕らにそう、報告してくれる。

……うん。

それ、どういうことだろうか……。

フェイにこっそり解説を求めると、フェイはこっそり、教えてくれる。

「屋敷の守りは最低限にして、ひたすら、兵士達をアージェント領の端の方に出してる、ってことだったよな?」

「うん」

「ってことは、領土の拡大か、領地の開墾……ってとこだな。兵士達も、森林を切り開いただの、畑を耕す領民達の見学をしてきただの、開墾の監督をしてきただの、それらを報告書にまとめて鳥文で出しただの、そういうことしか言ってねえしなあ……ま、概ね、そこらへんだろ」

成程。

つまり、アージェントさんは、とにかく、領地を広げたかったか、領地を開墾したかった……?

……何故だろう。駄目だ、全然分からない。

「どういうことだろうなあ。領地の端っこになんかあるってことか?でも、そういう話は兵士達から出てねえわけだし……」

うーん。僕らは揃って唸る。

……駄目だ。パス。

「王家からの声明は、本日の夜、発表する手筈だ。貴族連合の独立を認め、互いに独立した機関としながらも協力しあっていくことにした、という発表と……アージェント家の者が城内にて抜刀し、王を害そうとした、ということについての発表だな」

それから、オーレウス王子がそう言った。……発表の手筈とか、王様じゃなくて王子が整えてるのか。うーん、貴族連合の人達じゃないけれど、これは、譲位が近いっていうことなのかもしれない。あ、いや、王様を悪く言うわけじゃなくて、その、業務の引継ぎが始まっているのかな、っていう、そういう意味で。

「民衆には広場で口頭で伝える。既に王都の要所には王家からの声明発表がある旨を張り出してある。また、各領地には書面を出そう。貴公らはどうする」

「なら、我々貴族連合もそれに合わせましょう。我々の発表は主に書面で。王家との和平を結んだという点については、王子からお伝え願いたい」

フェイのお父さんは何となく楽し気だ。こういうのが得意な人は、こういうのが楽しいんだと思う。多分、僕がフェイのお父さんの立場だったら、只々胃が痛いだけじゃないかと思うよ。少なくとも、僕にはこういうことは向いてない。

「アージェントがどのように反応するか、実に見ものだ」

「そうだな。まるで予想がつかない。流石に、ルギュロス・ゼイル・アージェントを切り捨てる判断はしないだろう。『勇者』として擁立した血族をむざむざ捨てるようなことはしないはずだ。そもそも、ルギュロスを送り込んできたこと自体に、何らかの思惑があったのであろうし……」

……まあ、つまり、出たとこ勝負、ってことか。アージェントさんが何を企んでいるのか、ある程度はこの次で分かる、と思いたい。

うーん……アージェント家の目的はまず間違いなく、国内で優位に立つことか、貴族連合のように独立すること、だと思うんだけれど……そのために何をしようとしているのかが、全然分からない、っていうのが、なんというか、もどかしい……。

「いやー助かるよトウゴ君」

「我々はこの手の作業が本当に苦手だから……」

「羽まで使って作業してるといよいよ人間離れして見えるけどな!」

……はい。

ということで、僕はまた、レッドガルド家の封緘作業を手伝っている。

あちこちに出す書面を、綺麗に畳んで、封筒に入れて、封をして……っていう作業だ。

羽が割と自由に動くことに気づいてしまったので、両手の他に両羽も使って作業に勤しんでいる。羽は指先みたいには使えないけれど、ちょっと押さえておくとか、ちょっとつついて形を整えるとか、そういうことには至極便利なんだ。

「なんか、本当に現実味が無い光景よねえ、この、ちょっと透き通った羽が光に透けながら、わさわさしつつ、こんなに繊細に作業に従事してる、っていうの……」

「う、うるさいよ」

「いいじゃない。誉めてんのよ」

ちなみにライラは、僕の横で封蝋を押す係をしている。作業の分担は効率が上がっていいね。

「ま、いいんじゃねえの。その羽、トウゴっぽい使い方してる分にはトウゴが人間っぽくなってくる気がするし」

「そうね。じゃあトウゴ。あんた次は羽で絵筆持って描きなさいよ」

「いや、羽で絵筆は流石にちょっと……あ、でも、パレットは持てたよ。両手が空いてると、筆先に集中できて、それはそれでいいかんじだった。まだ慣れない分、変なかんじだけど」

「既に使ってたか……。流石としか言いようがねえ……」

……ということで、羽が段々器用に動くようになっていくのを楽しみつつ、僕らは楽しく封緘作業を進める。フェイ達は文章の手書きが大変そうだけれど、僕はこういう作業が好きだから、ちょっと嬉しい。

「あーッ!また字ィ間違えたー!」

「フェイ。慌てなくていいから落ち着いてやりなさい。全く、お前は慌てん坊だから……」

「父上。そういう父上も宛名をお間違えです」

「おやっ!」

「やーい親父の慌てん坊ー!」

……それから、フェイ達の仲良しぶりを見ることができて、これもちょっと楽しい。

そうして、夕方。僕らやオーレウス王子達が封緘した手紙が、それぞれお城の鳥達によって運ばれていった。王都からの手紙を運ぶ鳥達は、金色にも黄色にも見える、綺麗な色の羽をしている。そんな鳥達が夕焼け空の下で一斉に飛び立っていくのは、中々に綺麗だ。

「さて。次は広場での発表だな」

「王子。くれぐれもお気を付けください。アージェントの奴らがあなた方の命を狙うなら、間違いなく、広場での発表の時です」

「ああ、分かっているとも。万全の警戒で臨む」

そうだね。城の外での発表っていうことだし、そこで暗殺を狙う、っていうこともあるかもしれない。

僕も気を付けておこう。いや、僕が気を付けたところでどうなるでもないんだろうけどさ。

そうして、夜。

広場では魔石ランプがきらきら輝いて、広場を明るく照らす。ランプが揺れると影も揺れて、いくつものランプの分、影は幾重にも重なって、なんだか少し不思議な眺めだ。

そんな中、人がたくさん集まってきて……その中央の演説台で、王様が声明発表を始める。

「いやあ、歴史的瞬間だぜ」

演説台に立つ王様を見ながら、フェイは晴れ晴れとした顔だ。……そうだね。歴史的瞬間、だ。

「……そういえば、ラオクレス。あなた、鎧姿なのね?」

「アージェントの輩が何かしないとも限らんからな」

そして同時に、結構な緊張の瞬間でもある。

この瞬間にも、アージェント家の人達が何かやるかもしれないんだ。

……尤も、王家の兵士の人達も居るし、ラージュ姫は召喚獣入りの宝石をたっぷりと身に着けて万全の体勢だから、これ以上の心配のしようは無いのだけれど。

僕らが周囲を警戒しつつ、その時を待っていると……やがて、王様が、話し始める。

「ええー……諸君。本日集まってもらったのは、他でもない。諸君らに重大な発表があるからだ」

王様がそう話し始めると、王都の人達は『なんだなんだ』『いよいよ始まったぞ』というように王様を見つめる。

「諸君らも知っての通り、王都周辺の貴族領は、ここ最近、王家への反発を強め、時に粗暴な振る舞いをし、或いは、王家を蔑ろにしてきたが……」

……そして王様がそう話し始めると、横に控えていたオーレウス王子とラージュ姫、それから他の王子様や王女様が、じっ、と、王様を見つめる。見つめられた王様は、ちょっと慌てて咳払いをして、話を続けた。

「……だが、同時に、王家が貴族諸侯らに対して粗暴な振る舞いをしたり、蔑ろにしたりしてきたことも、また、事実だ」

王様は少し不服そうに、でも、きちんとそう言った。

それに、王都の人々はざわめく。王様がこういうことを言うなんて、想像していなかったんじゃないかな。

「我らの間に生まれた溝は深く、我らの間に生じた壁は高い。諸君らも、レッドガルド領ソレイラに突如として生まれた『精霊の守護壁』のことは知っているかとは思うが、正に、あのような壁が、じわじわと、王家と貴族諸侯らの間に生じたように思う」

……『精霊の守護壁』なんていう名前が付けられているらしいうちの壁にちょっと思いを馳せながら、僕は王様を見つめた。王様は僕に気づいたのか、ちょっとこっちを見て、それから、複雑そうな顔で数度瞬きして……遂に、発表した。

「この溝、この壁は、最早取り払い難い。王家は貴族諸侯らとの会談の末、共に在ることが難しいと判断した。よって、この度、王家は……諸貴族達が国家から独立することを、認めることとした」

……王様がそう発表した途端、ざわめきが広場に広がっていった。まあ、王都の人達からすると、結構な衝撃なんだろうなあ。

「だが、案ずるな。貴族連合との関係は極めて良好だ。互いに和平関係を結ぶことができた。王家と貴族連合は互いに別の機関として、協力し合いながら、より良い未来のために尽力していくこととなる」

王様の説明は、今一つ人々に届いていないようだった。王都の人達からすると、『自分達の住んでいる国が力を失う』っていうところが一番に問題なんだろうな。

それって住んでいる人からしてみると、自分達の日常が変わってしまうかもしれない、とか、生活水準が下がるかもしれない、とか、暮らしが不安定になるかも、とか、そういうことだから、戸惑うのも無理はないと思う。

「静粛に!……えー、それから、もう一つ、重大な報告が……」

人々がざわざわする中、王様はそう言って……次に、『アージェント家の人が襲い掛かってきた』っていう話をする、予定だったんだと思う。

ただ、その先の話がされることは、なかった。

悲鳴が上がったからだ。

人が集まってごった返した広場の中で悲鳴が上がれば、そっちに注目が行く。けれど、人がたくさん居るせいで、悲鳴の発生源はよく分からないし、何が起きているのかもよく分からない。

……けれど、そこで、誰かが、叫んだ。

「大変だ!王家の兵士が人を襲い始めたぞ!」

一気に、広場は混乱する。

誰かが「逃げろ!」と叫んだ途端、広場からはどんどん人が出ていこうとして、皆が一斉に動くものだから、全員が上手く動けない。

一体何が起きているんだろう。

僕が呆然と眺める先で……王家の兵士の人が、ぎこちない動きで、剣を振り上げるのが見えた。

「行け!」

フェイが鋭く叫ぶと、レッドドラゴンと火の精達がぶわり、と現れて、即座に王家の兵士へと襲い掛かった。あっという間に兵士は取り押さえられて、誰も傷つけることなくその場に倒れる。

「くそ、どうなってやがる!」

周りを見れば、あちこちで王家の兵士達が剣を抜いて、人々に襲い掛かろうとしていた。……ただ、彼らは皆、それぞれに動きがぎこちなくて、彼ら自身も自分達の行動に驚いているように見える。

「……まずいわね」

クロアさんは周りを見て……僕に、言った。

「トウゴ君!」

「わ、分かった!すぐ、彼らを取り押さえる!」

そして、僕が画材を取り出すと……。

「違うわ。……この広場を、封鎖して」

クロアさんは、そう、言った。

「……これがアージェントの狙いだったんだわ」

珍しくも焦った表情のクロアさんを見て、僕は……いよいよ、まずいことになった、と、理解した。

「このまま民衆を逃がしちゃ駄目!勿論、傷つけても駄目だけれど……ちゃんと原因究明して説明して誤解を解かないと、王家が民衆を集めて殺そうとしたことになるわ!そして……失った信用は、もう取り返せない!」