作品タイトル不明
2話:安心と信頼の*1
……ということで、無事、ルギュロスさんと彼の率いていた兵士の皆さんは、それぞれに骨と鎧の騎士団に護送されて、王城の地下牢へ収監されることになった。
念のため、王様をはじめとした人間は全員ルギュロスさんに近づかないようにした。ほら、王様が近づいた時、にやにやしてたから、何かあるのかと思って。
……だからか、ルギュロスさんは少しばかり、機嫌が悪そうな顔をしていたのだけれど……うーん、何なんだろうなあ。王様が近づく分には嬉しいけれど、やる気に満ち溢れた骨と鎧の騎士団がガッチリガードしてくる分には嬉しくないらしい……。
ルギュロスさん達が全員地下牢に収まったところで、改めて、ダンスパーティが再開された。
……とは言っても、やっぱり、あんなことがあったばかりだから、ダンスを楽しむ気分にはなれない。全員口々にあれこれ推察や感想なんかを話しながら、王城の軽食と軽いお酒、お茶なんかを楽しんでいるだけだ。
「ま、予想通りっちゃ予想通りかぁ」
そんな中、フェイもしっかり軽食を確保して、ジュース片手に僕らと話している。
「丁度、そういう話、していたところだったもんね」
僕もフェイが持ってきた軽食を分けてもらいながら、ジュースを飲む。……軽食は、小さなタルトに果物が乗ったやつとか、パンだかクッキーだかよく分からないものにハムやチーズや野菜が品よく挟まったやつとか。あと、魚の白身を滑らかに潰したものがクラッカーに乗ったやつ。これ、美味しい。
「アージェントが仕掛けてくるだろうなあ、とは思ってたけどな。しっかしまさか、貴族連合独立の正式発表がある前に来るとは思ってなかったぜ」
フェイはちょっと疲れた顔だ。お疲れ様。
「ルギュロスさん、何か隠し持ってるよね」
「だろうなあ。あの態度、単なるハッタリだったら大した役者だぜ」
……ルギュロスさんの態度を見る限り、絶対に何か、あると思うんだよ。じゃなきゃ、王様に剣を向けておいて王様を仕留め損なって、そのまま牢屋に入れられてしまうっていう一連の流れでどこにも焦りが無かったのは、おかしい。
「まあ……それは正直、確かめようがねえ。もし発覚することがあるとすれば、そりゃ、ルギュロスが隠し持っていた切り札を切った時だけだ」
フェイは結構、シビアに現実を捉えているらしい。
「腐っても、アージェントだからな。注意しねえと」
「うん」
まあ、相手が相手だから。うん……。注意、しないとな。どう注意していいのかよく分からないけれど……。
結局、その日は王城に泊まることになった。
何かあった時に僕らが居た方がいい、っていうのと……貴族連合がこの場で、会議を始めることになったので。
「いや、すまないね。先に帰宅していてもらってもいいんだが……」
フェイのお父さんは、少し申し訳なさそうに僕にそう言う。貴族連合の会議を決めてしまったのはフェイのお父さんだ。まあ、折角、貴族連合の人達が集まってるわけだし、丁度いいといえば丁度いいのか。
「落ち着かないから僕も居ますよ」
「それはありがたいね。いや、何、トウゴ君が居ると、大いに安心できる」
そしてフェイのお父さんの安心につながるなら、もう1日2日、お泊りになってもいいかな、と思う。お世話になってるし。
「……ところで」
「はい」
フェイのお父さんはそっと、囁くように、僕に何かを尋ねようとしてくる。なんだろう。
「先程、国王が口にしていたお菓子だが」
……はい。
「その、いつでもいいんだが、私もアレを食べてみたくなってね……また、出してもらえないだろうか?」
出します!沢山出します!どうぞ!
貴族連合の会議は、大福を添えてスタートした。
ちなみに大福は粒餡、漉し餡、クリーム入りやフルーツ入り。どれも小さめ一口サイズ。僕の一押しは大粒のブドウが一粒、白餡と一緒に包んであるやつ。
大福は人気だった。珍しい食べ物だっていうことで、面白がられつつ食べられている。渋めの紅茶とよく合うらしくて、貴族の人達はお茶を飲みながら一口大福を食べている。……変な眺めだ!
そうして変な会議は進む。
「まず、アージェント家への対応を考えるべきだろうな」
まず、サフィールさんがそう言った。その手にブドウ大福があるから、ちょっと親近感。
「王家がどういった声明を出すのかは分からんが、貴族連合の立場から出す声明はまた別に考えておいた方がいいだろう。ルギュロス・ゼイル・アージェントの粗暴なふるまいは我々も目の当たりにしたのだからな。一言、釘を刺す程度はしてもいいだろう。アージェントに舐められる訳にはいかない」
「王家の魔物達が無害な召喚獣であることも表明していいだろう。さもないと、アージェントが我々にまで攻撃してきかねない」
「いや、むしろ王家を見限ってしまった方が安全にアージェントと渡り合えるのでは?」
……色々な意見が出ている。けれど、仲が悪いっていうかんじじゃなくて、それぞれにより良い方策を考える中で色々な意見がとりあえず出ている、っていうかんじだ。
「王家と貴族連合が和解していることはアージェントにとって予想外の出来事だろう。なら、我々は王家と手を組むべきだと考える」
フェイのお父さんがそう言うと、成程ね、というように、貴族の皆さんが頷いた。
「しかし、このまま王家を捨ててアージェントと和解するという選択も取れる。王家は手を組むに値する相手か?」
「まあ……現国王はともかく、オーレウス王子とは親しくしておく価値があるだろう。譲位もそう遠くはあるまい」
「ああ、確かになあ……」
……貴族の皆さん、その、結構、物言いが遠慮無いなあ。すごい。
「となると、ルギュロスの切り札が気になるところですな。あれは尋問にかけるべきかな?」
「いや、下手に近づきたくないな。少なくとも私は御免だ」
「王家に任せるというのも……事態がややこしくなりそうだなあ……」
そして、ルギュロスさんについての話題に言及すると、皆、悩み始める。
「……アージェントのことだ。何も無しに『勇者』を名乗らせた血族を送り込んでくるとは思えん。今回のことだって、貴族連合がこのように王城に集まるという情報をどこかからか得て、突撃してきたのだろうしな……」
「そもそも、どこから我々のダンスパーティの情報を得たというのだ。まさか、この中に裏切り者が居るとも思えん」
「何か裏があることには違いないな。うむ……」
「となるといよいよ、尋問にかけて情報を出させたいところだがなあ……」
どうしようどうしよう、と、貴族の皆さんが悩みながら紅茶を飲んで、大福をつまんで、ほっと一息ついている。
……僕は会議で喋ったりする方面ではお役に立てないけれど、お茶菓子の提供という点でちょっとはお役に立てたようで、何よりです。
そうして貴族連合の方針が決まった。
まず、王家が貴族連合の独立を正式に発表したら、貴族連合は王家と和平関係を結んでいることを宣言してしまう。これで、アージェント家は拍子抜けするだろうし、王都やその他にお住まいの国民の皆さんの無用な不安を減らすことができるだろう。
それから、アージェント家に対しては、さっさと『理性的な対話を求む』っていう要求を出すことにした。多分アージェント家は応じないだろうけれど、まあ、ポーズは取っておいた方がいい、ということで。
……そして。
「ルギュロス・ゼイル・アージェントについては、尋問にかけるようなことは一切せず、ただ牢で大人しくしていてもらう。これでよいかな?」
ルギュロスさんには、特に何もしないことにした。
ルギュロスさんを尋問にかけよう、とか、魔物達に頑張ってもらえれば何とかなるんじゃないか、とか、そういう話も出たのは出たんだ。
けれど……結局は満場一致で、『ああも自信たっぷりな奴を尋問にかけたところで、多分碌な情報は出ない』という結論に至った。
それだけ、アージェント家っていうものを警戒しているっていうことでもある。何せ、貴族連合とは別に、王家に反旗を翻した人達だ。相当な自信と計画が無いと、そんなことはできないだろう。
一方、ルギュロスさんじゃなくて、ルギュロスさんが連れてきていた兵士の人達。彼らから、話を聞く分にはそんなに問題が無いようだったので、彼らからは話を聞くことになった。
兵士の人達はルギュロスさんとは違って、おろおろしたり混乱したり、悲観的になっていたり、色々だ。多分、この人達はあんまり深いところは知らないんだろうなあ。でも、それってつまり、ルギュロスさんが持っているかもしれない切り札を、この兵士の人達はまず間違いなく持っていないだろう、ということだ。
安心安全な尋問ができるので、そこは、王家の兵士の人達が頑張ってくれることになった。よろしくお願いします。
……そうして、翌日。
朝食を頂いて、ちょっと暇を持て余して、ライラと一緒に城内スケッチ大会を勝手に開催させてもらっていたところ。
「あ、トウゴ。ちょっといい?」
中庭の噴水に腰かけるクロアさんを描いていたライラが、ふと、唐突に、そう、言った。
「うん。何?」
「ちょっと羽出してじっとしててくれる?」
……なんだろうなあ、と思いながら、僕は一旦筆を置いて、羽を出して、じっとする。
すると。
「んー……?」
ライラは……ライラは、僕の羽の匂いを嗅ぎ始めた!
「な、なにしてるんだよ」
「じっとしててってば」
な、なんなんだろう。これ、一体、何なんだろう……。
僕はただ、じっとしたまま、ライラが僕の首筋のあたりで、すん、とやるのを感じつつ、落ち着かない気持ちで待っていたのだけれど……。
……少しして、ライラが、言った。
「トウゴ。あんた、なんか、いい匂いするわね?」
……うん?
「羽がいい香りなのかと思ったけれど、そうじゃないみたいだし……んー?」
「そうなの?どれどれ、じゃあ、私もいいかしら?」
僕がライラの言葉に首を傾げていたら、モデルをやっていたクロアさんが寄ってきて、ライラと同じように好き勝手やり始めた。一体何なんだ……これは一体、何なんだろうか……。
「あら……ほんとだわ。トウゴ君。あなた、いい匂いね」
……そして、僕としては非常に反応に困る言葉を言われてしまった。あの、これ、僕、どういう顔をしたらいいんだろう?
「……あの、臭くない?」
怖々聞いてみたら、クロアさんは、ふふ、と笑って首を横に振る。
「全然。さっきも言ったけれど、いい匂い」
いい、匂い……とは、一体。
「これ、きっと森の香りだわ。木の香りかしら。そこに花や果物の香りが混ざっているようだけれど」
クロアさんはそう言って、また、すんすん、とやる。……も、もうそろそろ勘弁してもらえないだろうか。
「うん。全然男臭くないのね、あなた」
「……男臭い、とは」
「……まあ、ラオクレスはそうよね。あと、フェイ君もそうかしら。というか、大抵の男ってそうよね。でもトウゴ君は違うみたい」
あの、それ、まるで僕が男じゃないとでも言うかのような……どうせ僕はラオクレスやフェイみたいに格好良くはないけれどさ。でも、人並みくらいには……あ、駄目だ、自信が無くなってきた。
「というか、人間の匂いじゃないでしょ、これ」
「男どころか人間ですらないと!?」
ライラに、さらりととんでもないことを言われてしまった!
「トウゴの人間離れっていうとさ……この羽、引っ込まないのね。ずっと生えっぱなし?」
ライラは、つん、と僕の羽をつつく。くすぐったい、くすぐったい。
「私はこのままだと嬉しいけどね。綺麗だし。引っ込めちゃうなんてもったいないわよ」
……それ、レネも似たようなこと、言ってた気がする。でも僕はこれ、引っ込めたいんだよ。羽が生えてるなんて、ちょっと恥ずかしい。
「まあ……トウゴが人間に戻れるのは、まだもうちょっと先、ってことなのかもね」
ライラはそう言って、やれやれ、とでもいうような身振りをしてみせた。
「と言うと?」
「アージェントが云々、ってあるじゃない。魔王が云々、もあるし。だから、まだ森は力を抜くわけにはいかない、ってことなのかな、って思ったのよ」
ああ、成程。僕としてはその予感、外れてほしいところだけれど……。
……うん。まあ、アージェント家の人達が、王家じゃなくて貴族連合、そして、その中でもソレイラを集中して狙う、っていうことも、あり得ないわけじゃ、ない、のか……。
気を引き締めないとなあ。森として。あ、いや、ええと、森の精霊として。そして、人間として!
そうして、ライラとクロアさんが僕で気晴らしした後。
「トウゴー!ちょっといいかー!」
フェイが駆け寄ってきた。なんだろう。
「尋問、終わったってよ!ある程度、情報がまとまったらしい。来るか?」
「うん。行く!」
……どうやら、王家の兵士の人達は、徹夜で頑張ってくれたらしい!ありがとう、王家の兵士の人達!