作品タイトル不明
8話:成長期*7
翌朝。目覚めも気持ちいい。……その一方でまたそわそわしてきて、町に行きたくなってきてしまったのだけれど、それはそれとして、僕は行かなきゃいけないところがあるのでそっちが優先。
僕は鳥にぺたぺたと月の光の蜜を塗る。何の為って、レネを呼んでくるためだ。
フェイ曰く、『レネも居た方が盛り上がるだろ』っていうことで、レネにもパーティに参加してもらうんだってさ。……多分、レネが昼の国の文化を体験するの、楽しみにしてるからじゃないかな。きっとレネは誘われると喜ぶと思うよ。
鳥を光らせて、夜の国へ行って、レネのところまで飛んでいく。……いや、勿論、鳳凰で。自分の羽で飛んだらいよいよ戻れなくなる気がする。
そうして夜の国の城へ飛んでいって、まずは門番さんに挨拶。一応、来たことは伝えておいた方がいいよね、ということで。
門番の人は僕を見て、すぐに誰か分かってくれた。ただ、しげしげ、と僕の背中を見て……それから、城の中へ案内してくれたので、それについていく。
応接間みたいなところに通されて、そこで座って待つこと数分。
「とうごー!」
レネが飛んできた。文字通りの飛行じゃなくて、ぱたぱたぱた、と走ってやってきた。今日はドラゴン形態じゃないらしい。
……けれど。
「……とうご?」
「あ、うん。これ、生えちゃったんだよ……」
レネは僕を見て目を瞬かせると、そっと僕に寄ってきて、そして、じっと、僕の背中に生えてしまっている羽を見つめた。
そして。
「りり、てぃあーれ……」
レネは、そっとため息を吐くような、蕩けるような声でそう呟くと、目を輝かせて更に食い入るように僕の羽を見つめる。あの、ええと、お気に召した……?
「とうご!きれーい!りり、きれい!」
レネはぴょこぴょこと跳ねながら、僕に羽が生えたことを大いに喜んでいる。ええと、喜ばれてしまうと、その、なんとも言えないのだけれど……。
……それからもレネはしばらくずっと、『きれーい!』と時々言いながら、僕の羽をきらきらした目で見つめたり、壊れものを触るような手つきでそっと触ってみたり、僕の羽に夢中だった。なんだろうなあ、やっぱりこういうのは夜の国でも珍しいんだろうか……。
しばらくそれをやってレネが落ち着いたので、レネにやっと、招待状を渡す。……というか僕ら、今の今まで翻訳機を装備していなかったから、慌ててお互いに翻訳機を装備することになった。
『フェイからの招待状です。身内だけの、楽しむ目的のパーティを開くそうだから、もしよかったら来てください』
僕がスケッチブックに文字を書くと、レネはそれを読んで、招待状を読んで、にこにこと頷いた。
『ぜひ出席したいです!パーティはトウゴにきれいなものが生えたお祝いですか?』
『いや、お祝いというよりは、これ以上羽が生えてこないようにするため……?』
レネは僕に羽が生えたことを大いに喜んでくれているようなのだけれど、僕としては複雑な心境だ。これ、やっぱりついてると不便だから、できれば外したいのだけれど……。
……という話をしたら、レネはちょっと残念そうな顔をした。
『トウゴの羽は綺麗です!すごく綺麗!なくしてしまうなんてもったいないです!』
そ、そう言われてもなあ……。うーん、でも、まあ、そういう考え方もあるっていうことで、覚えておきます……。
それから僕らは竜王様に、レネの外出の許可を貰いに行った。
どうやらレネは丁度暇な時だったらしくて、今すぐにでも昼の国へ行ってくることが許可されたので、そのままレネを昼の国に連れ帰らせてもらう。
また鳥を光らせて、昼の国へ帰って……レネはちょっと久しぶりの昼の国にはしゃいで、それから、太陽の光に透ける僕の羽を見て、また歓声を上げていた。更に、僕の羽にそっと埋もれるようにして、「ふりゃ!」と言っていたので……ふと思い立って、レネを鳥の子達のところに連れていってみた。
案の定、レネは鳥の子達にあっという間に囲まれて、おしくら鳥まんじゅうにされた。
それでいてレネはそれはそれは幸せそうな悲鳴を「ふりゃあー」と上げつつ、鳥の子にもみくちゃふわふわにされていたので、とりあえずこれで1つ、夜の国からのお客様をおもてなしすることに成功したと言えるだろう。よし。
そして、夜。
僕はレネをつれて、一緒にパーティ会場へ向かった。
そして玄関ホールでフェイが僕らを出迎えてくれて……。
「ようこそ、レッドガルド家の邸宅へ。……ってことで、お客様。まずは招待状を拝見!」
「はい!」
「じー!」
「よし!確かに招待状!さあ入れ!」
「お邪魔します!」
「おにゃにゃしま……?おにゃにゃしま!」
僕らはフェイと元気にそんなやりとりをして、そして、お屋敷の中へと招かれた。
お屋敷の中は相変わらず、すごく綺麗だ。清潔という意味でも綺麗だし、やっぱり、造形がすごくいい。壁紙の色合いと壁や柱の色の兼ね合い、絨毯の模様、カーテンの織り模様の繊細さ……。やっぱり僕、このお屋敷、好きだなあ。
「お!トウゴ君!久しぶり……という程でもないかな?」
「サフィールさん。お久しぶりです……の内に入ると思います」
それから僕は、会場に入ってすぐ、サフィールさんににこやかに声を掛けられて、握手。
「『絶対に口が堅い知り合いしか招けない小パーティを開くから来てくれ』とローゼスに言われて、何だろうなあと思いながら来たが……成程、こういうことか」
サフィールさんは僕の背中を見て楽しそうに笑って、それから、触ってもいいかい?と聞いてきた。どうぞ、と言いつつ僕が緊張していると、サフィールさんはライラの100倍ぐらい優しく遠慮がちに僕の羽をつついて、おお、とか何とか言った。よ、よかった。あんまりくすぐったくなかった。
「まあ、今日は少し久しぶりに羽目を外させてもらうとするかな。折角、珍しく美しいものも見られたわけだし……他所で話の種にできないのが残念だが」
うん。僕の羽のことは内緒でお願いします。
「妻には言ってもいいかい?」
「あ、それはどうぞ」
「ありがとう。……ふふふ、妻や子にもトウゴ君の姿を見せたかったなあ。きっと本物の天使だ、と大騒ぎだったに違いない」
いや、天使扱いされてしまうのはちょっと……。
うう、折角ならこの羽、リアンとアンジェに生えればよかったのに……。
それからもお客さんが何人かやってきた。
鸞とフェニックスにそれぞれ乗ってやってきた子供達が到着したと思ったら、魔王を連れたライラがやってくる。……子供達もライラも、ちゃんとした格好をしているから、ちょっと珍しい。ライラは大抵、ロングシャツにズボンをはいてエプロン、みたいな恰好なのだけれど、今日は綺麗にドレスアップしている。マーセンさんとインターリアさんの結婚式以来の恰好だ。
そして魔王も何故か、蝶ネクタイをくっつけている。魔王の蝶ネクタイをまじまじと見つめていたら、魔王はぽてぽてと僕の脚元までやってきて、まおーん、と胸を張って鳴く。うん。似合うよ。
その後、珍しく(本当に珍しく!)鎧ではなく、それでいてちゃんとした格好をしたラオクレスが入ってきて皆を驚かせ、その後にドレスで綺麗に着飾ったクロアさんが入ってきて『やっぱりクロアさんは夜のパーティの人でもある』と再確認させられ、そして……ラージュ姫が、やってきた!
「ごめんなさい、遅くなってしまって。上手く抜け出すのに手間取りました」
ラージュ姫はそう言って、ちょっと照れたように笑う。……そういえばお城って今、レッドガルド領と敵対状態じゃなかったっけ。ラージュ姫、ここに来ていて大丈夫なんだろうか?
「いやいや。忙しいところに呼びつけて本当にごめんな」
「いいえ。丁度良かったわ。息が詰まりそうだったんです。本当に、あの父は……あら?」
険しい顔でため息を吐いていたラージュ姫は、僕に目を留めると……首を傾げた。
「精霊様?あの、そのお姿は……」
「あ、いや、あの、トウゴです。精霊じゃないです」
一応、ラージュ姫には僕が精霊じゃないっていうことで通しているので訂正してみたら、ラージュ姫は慌てて『あまりに神々しいお姿だったので!』とかなんとか言った。こ、神々しいと言われてしまった……。
「これは一体……どうされたんですか?町の外側に森が生まれていたことと何か関係が?」
「ええと、その、まあ、森が生えた後ぐらいにこれが突然生えてしまって……」
なんだかうまい説明になっていないことは分かりつつもそう答えると、ラージュ姫はなるほど、と分かったんだか分かってないんだかよく分からない返事をして、それから……そっと、僕の羽をつつく。そこはくすぐったいところなので駄目です!
「さて。本日はお集まりいただきありがとう!えー、本日、差し出がましくも臨時パーティを主催させて頂く、フェイ・ブラード・レッドガルドだ。突然屋敷でパーティ開いてごめんな親父!兄貴!」
やがてフェイの挨拶が始まった。とはいえ、森の仲間とサフィールさん、それにラージュ姫ぐらいのメンバーだから、挨拶も大分フランクなかんじだ。
「本日のパーティの目的は、我らがトウゴ・ウエソラに生えた木だか羽だか分からないものを引っ込めることだ!」
フェイが随分とフランクに僕の紹介をしてくれた。どうもこんばんは。トウゴ・ウエソラです。羽だか木だか分からないものが生えてしまいました。
「どうやらトウゴは森に近づきすぎているらしい!ということで!俺達はトウゴの友人として、トウゴに人間っぽいこと俗っぽいことを体験させ!トウゴが人間に戻ってこられるようにするのが目的である!」
いいぞー、と、サフィールさんが謎の合いの手を入れた。あの、ここ、本当に貴族のパーティで合ってる?貴族のパーティってこういうのが普通?いや、多分違うよね?
「そういうわけで本日は皆々様に大いに楽しんでいただき、そして、我らがトウゴ・ウエソラを大いに楽しませて頂きたい!皆様の熱い友情と、諸々を楽しむ心の豊かさに大いに期待して、開会の挨拶とさせて頂きます!」
フェイがそう言って挨拶を締めくくると、さっ、と入ってきた使用人の人達が、僕らに飲み物のグラスを配ってくれた。よかった。僕のはお酒じゃなくてジュースだ。
「では、我らがトウゴ・ウエソラが人間らしく戻れることを祈って!かんぱーい!」
……そして乾杯の音頭と共に、パーティ……パーティ?らしいもの?は始まった、のだった。
それから僕らは、大いに楽しんだ。
……いや、パーティって何だろう、何をやるんだろう、っていう状態から始まった僕は、最初は本当に何をしていいのか戸惑っていたんだけれど、音楽が始まってクロアさんがフェイの手をさっと取って踊り出したのを見て、成程、僕はこれを描けばいいんだな!と理解したのでそこからは早かった。
僕とライラは画材を出して、踊るクロアさんとフェイ、その周りで踊り始めたカーネリアちゃんとカーネリアちゃんに引っ張ってこられたリアン、何故か魔王と一緒に飛び跳ねるように踊り出したアンジェ、というような面々をたっぷり描かせてもらった!
それにしてもやっぱり、クロアさんは夜のパーティの人なんだなあ、と思う。森に居る時とは全然、表情が違う。いや、同じだな、っていう時もあるんだけれど、それでも、決定的に違う瞬間がある、っていうか……とにかくこういう場所のクロアさんは、森っぽくないけれど、これはこれで魅力的だ。
ひたすら描いていたら、フェイに引きずられるようにして部屋の真ん中に連れ出されてしまった。『絵もいいけどお前も踊ってみろよ!』とのことだったのだけれど、でも、僕、踊ったことなんてないんだよ。
……と思っていたら、フェイがちょっとだけ教えてくれたので、とりあえずそれを学習。初めてやることって、新鮮でいいよね。
ダンスのステップを覚えたので、それでクロアさんと一曲踊ってもらう。
「どう?トウゴ君。楽しんでる?」
ゆったりした音楽に合わせてゆったり動きながら、近い距離でクロアさんが微笑む。シャンデリアの光に照らされてあでやかに微笑むクロアさんは、すごく、夜のパーティの人だ……。
「楽しい、というか、新鮮なかんじ」
「ええと……それはトウゴ君にとっていいことかしら?」
「うん。すごく!」
これが楽しいのかはまだよく分からないのだけれど、知らないことを教えてもらえたり体験させてもらえるのって、間違いなく僕の心の栄養になるんだよ。
「それは良かったわ」
クロアさんはにっこり笑って、それから僕を軸にしてくるん、とターンする。それがまたすごく綺麗で、描きたくなってきてしまう……。
それからひたすら、僕は踊っていた。
クロアさんの次はカーネリアちゃんが立候補してきたので一緒に踊った。半分以上僕がエスコートされるような具合だったけれど、まあ、これはこれで。
それからラージュ姫がにっこり笑ってペアをやってくれたので、それに合わせてまた踊る。最初よりはずっと上手くなったと思うよ、僕。
……ただ、その次に始まった曲が速いテンポの曲で、それを聞いたライラが嬉々として僕の手を取って踊り出したのだけれど……速い!速くて頭も体も追い付かない!僕の頭の中は『赤上げて、白上げないで、赤下げる』みたいな、そういう手旗信号のアレみたいになってしまった!
ライラでへとへとになったところで、僕と同じくダンス初心者だったらしいレネがダンスをある程度覚えたらしかったので、僕ら2人で初心者同士、覚束ないダンスを踊ってみた。これはこれで楽しかったらしくて、レネはにこにこしていた。……ところでレネ、女性の方のダンスを踊っていたんだけれど、やっぱりレネは女の子なんだろうか……?
……あ、レネ、どっちも踊れるみたいだ。今度は魔王を女の子役にして、レネが男性役を踊っている。うーん、どっちなんだろう……。
そうしてぐるぐる相手を変えながらひたすら踊って、僕はすっかり疲れてしまった。
……なんだか全体を通して『全員でトウゴ・ウエソラのダンスの成長を見守る会』みたいになっていた気がする。
「お疲れ!どうだった?」
疲れて椅子に座って飲み物を貰っていた僕に、フェイがにやにやと話しかけてくる。
「……とても新鮮で、あと、脚が痛い。明日はきっと筋肉痛だ」
「ははは、成長痛の次は筋肉痛かあ!ま、それもまた経験、ってやつだな!」
うん。その通り。何事も、経験、経験……。
……うん。
「ってことで、もう一曲、シメにどうだ?全員で踊るやつ」
僕が返事をするより先に、フェイが僕の手を引いて僕を立ち上がらせていた。そのまま部屋の中央に僕が連れていかれると、曲が始まる。
全員で踊るやつ、とフェイが言っていたけれどどんなのだろうか、と思っている間にも、どんどん皆集まってきて……皆で輪になるように手を繋ぎ始めた。
そうして円形になったところで、ダンスが始まる。僕は見様見真似でやってみるけれど、成程。ええと、多分、さっきまでやってたダンスとフォークダンスと盆踊りが混ざったようなかんじのダンスなんだな、これ。そんなに難しくない。
……と思ったら、急に誰かがアレンジを入れてきたりして、そうしたら皆でそれを真似するルールらしくて、中々気が抜けない。一種のゲームみたいなものなんだなあ、と思いながら、僕はくるくる部屋の中を周りながら皆と踊って……。
……そして、明日の全身の筋肉痛を間違いなく約束された状態で、僕は椅子にぐったりすることになった。
「どうだ?新鮮だったか?」
「うん。ええと、新鮮なだけじゃなくて、楽しかったよ」
そしてまた話しかけに来てくれたフェイにそう答えながら、僕はなんとなく満足感みたいなものを覚えて、ほくほくしている。
……新鮮なことは、当然、好きだ。僕のためになる。僕の心の栄養になる。
けれど、それとは別に……何かを、好きな人達とやる、って、楽しいんだなあ。それが例え、自分の興味があまり無いものであっても、一緒にやるのが好きな人達なら、それってとびきり楽しいことになり得るんだ。
「そりゃよかった!そうだなあ、誰と踊ったのが一番よかった?」
「どうだろう。出来は分からないけれど……やっぱり、最後のやつ、好きだったな」
僕のダンスの出来については、あまりコメントを付けられたものじゃないだろうからそれは置いておくとして……やっぱり、最後の輪になって踊るやつがよかったと思う。
「一定間隔で、皆で一直線に手を繋ぐ動きが入るよね。あの時、皆の魔力が分かって、それがなんだかあったかくて、好き」
手を繋いだ時、隣の人の魔力が伝わってくるんだ。それがどんどん伝播して、全員の魔力がじんわり分かる。それがなんとも幸せで、暖かくて……ライラの言葉を借りるならば、『なんかいいのよ』ってやつだと思う。
「……フェイ?」
僕が答えた途端、フェイは嬉しそうな顔になって、でも、すぐ、何かに気づいたような顔になって……そして。
「……あ」
「フェイ?どうし」
「あああああああ!分かった!分かっちまった!」
突然、叫び出した!
「ど、どうしたの?」
皆が注目する中、フェイは慌てて、身振りだけで何かをやって……それからやっと言葉が追い付いたみたいで、説明してくれた。
「手だ!手を繋げば魔力が伝わるんだよ!逆に、手を繋いでなかったら、魔力が伝わらねえんだ!」
「うん」
当然だね。うん。……ええと、それで?
「……あーくそ、どうして気づかなかったんだ!最初っから気づけて良かったやつだよなあ、これ……」
「あの、フェイ。何が?何が気づけて良かったやつ?」
フェイが何だかいつにも増して混乱しているからちょっと不安になりつつも続きを催促してみたら……フェイは、なんだかぐったりとしょげた様子で、答えた。
「……お前の不調の原因、分かっちまった」
「新しく作った森、お前と繋がってねえんだよ。だから、お前になんか負担が掛かってる。そういうことじゃねえか?」