軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7話:成長期*6

それから、フェイは『準備があるから俺は家に帰るぜ!』って家に帰っていったので、僕らも家に帰って、そこで、アンジェとカーネリアちゃんにきゃあきゃあとはしゃがれることになった。

「羽だわ!トウゴに羽が生えたわ!」

「トウゴおにいちゃん、きれい!」

綺麗と言われても困る。僕はどういう顔をしたらいいんだ。

「……ほんとに生えたのかよ」

「生えちゃったんだよ」

「ま、トウゴらしくていいんじゃねえの?なんかふわふわしてて……あ、案外ひんやりする」

一方、呆れたような顔のリアンもやってきて、そっと、僕の羽に触っていった。なので、わさ、と羽を急に動かしてみると、リアンがちょっとびっくりしていたので面白い。

「トウゴー!あんた羽生えたんですって!?」

そして、ライラもどこから話を聞きつけてきたのか、やってきた。ちょ、ちょっと。妖精洋菓子店は!?

「描いていい!?」

「い、いや、いいけどさ……」

「じゃあ描くわね!やった!」

……なんというか、僕が森化している中、ライラは僕化している気がする。

うーん……ちょっとそれが嬉しいのはなんでだろうか。ということは、森も僕が森化して嬉しい……?うーん……?

それから僕は、着替えさせられた。あの、例の『精霊の恰好』。流水柄の着物に透き通った羽織のやつ。

背中にわさわさ生えているものがあるから上手く服が着られないんだけれど、ライラが上手く着付けてくれた。ただ、この着方だと大きく襟を 開(はだ) けることになるから、肩も背中も出て、その、すーすーして落ち着かない……。

その恰好のまま、僕は木の上に運ばれて(運んだのは鳳凰とラオクレスだ)、太くてがっしりした木の枝の上にうつぶせで寝そべるような恰好をして……その状態で、描かれることになった。

……描くことは多いけれど、描かれることは少ない僕としては、結構、その、落ち着かない。

ライラはひたすらに僕を描いて、その間、ちょくちょく妖精達がやってきては僕の羽に触ったり、僕の周りを飛んだりしてにこにこきゃらきゃらやっていて、でも動くとライラから「動くんじゃない!」と一喝されるのでじっとして……。

……そして。

「はあ、満足したわ!久しぶりに変なもの描いて大満足!」

やがて、ライラは大いに満足した顔で筆をおいた。……変なものって!変なもの描いた、って!変なもの扱いされた側として、遺憾のいと不満のふを表明します!

「さて。じゃ、あんたが人間っぽくなるお手伝い、しなきゃね」

そうしている間にもライラはてきぱきと片づけを進めて、その傍ら、クロアさんがいつの間にか外に出していたテーブルの上に……お菓子を並べ始めた!

「森が食べないもん食べたら、ちょっとは人間っぽくなるんじゃない?……ってことで、お店のケーキよ!いっぱい食べなさいよね!」

成程。確かに、森と太陽の光とその他諸々しか、森は食べない。だから、ケーキを食べれば森化が収まる……?

「それにしても不思議な眺めよね。それ。生えてんの?」

「生えてる……」

「何なら動かせるものね、トウゴ君」

「うん」

それから僕らはお茶会にした。最近はカーネリアちゃんがお茶を淹れる練習をしているらしくて、今日もたっぷりとお茶を淹れて持ってきてくれたから、それと妖精洋菓子店のお菓子とでお茶会だ。

「トウゴおにいちゃん、さわってもいい?」

「どうぞ」

「ありがとう。……わあ、しっとりしてつやつやして、やわらかい」

アンジェは僕の背中に手を伸ばして、羽……というか木の、葉っぱの1枚をつまむ。ふに、ふに、と指先で撫でたりつまんだりされていると、その、ちょっとくすぐったい。

「私も!私も触りたいわ!」

「あ。じゃあ私もいい?いいわよね?ね?」

「どうぞ……」

それから、カーネリアちゃんとライラにも要請されたので、許可。うん。もう好きにしてください。

……あ、ま、待って!ちょっと待って!やっぱり好きにしないで!その、もうちょっと優しく、端っこの方触って!あ、あ、そこはだめ!そこはだめ!

「……へえ。感覚もあるのね、これ」

「そうらしい……」

カーネリアちゃんとライラに容赦のない触られ方をして分かった。この羽、ちょっと敏感肌だ。あんまり触られるとくすぐったい……。

「ふーん。ま、今だけかもしれないし、思う存分触っておこう、っと」

「や、やめてやめて!そこは駄目だってば!くすぐったい!」

ライラは完全に面白がっている!やめてやめて!意地悪!ライラの意地悪!

そうしてお茶会は終わった。ライラに意地悪されたけれど、ケーキは美味しかったし、話して楽しかったからこれはこれで……いや、でも、もう羽は触らないでほしい。なんか、その、ちょっと癖になりそうなので……。

「さーて。じゃ、私は早速、作業に取り掛かるとするかな……」

「作業?」

ライラが伸びをしながらそんなことを言っているので尋ね返してみたら、ライラは、つん、と僕の羽をつついた。

「これ。普通の服、着られないでしょ?だからいくらか、羽が出せるような仕組みの服、作ってあげる」

「いいの?」

「ま、それくらいはしてあげるわよ。あ、出来に期待しないでよね。私、縫製職人じゃないし、ただ、普通の服ちょっと改造するだけだから」

うん!それでもいい!十分だ!ありがとう!持つべきものは良き友人だ!

……まあ、多少、人の羽を触ってくすぐってきても、ライラは十分すぎるくらいに良き友人だよ。

ライラが服を作ってくれる、ということで、僕は大いに期待しながら……何故かそわそわしてきた。

「どうしたんだよ、トウゴ」

そわそわしていたらリアンが声を掛けてくれる。のだけれど……。

「あ、うん。なんか……ええと、伸びたい?伸ばしたい?うーん」

上手く説明できない。なんだろうな。ちょっと焦燥感みたいなものがあって、伸びたいような伸ばしたいような、ここじゃないところに居たいような……あ。

「町に行きたい」

「町に?なんでまた」

「分からない……」

森化しているのだから森に居たいんじゃないかと思ったんだけれど、どうやら今、僕は町に出たいらしい。

ただ……。

「この格好で町に出てしまうと、間違いなく僕は不審者になってしまう」

「今更だろ」

リアンにも遺憾のいと不満のふを表明したい。

「でも……まあ、目立つよな。じゃあ隠せばいいんじゃねえの?」

けれどリアンは真剣に考えてくれているらしくて、テーブルクロスを引っ張ってきて、僕の頭から羽にかけて、ふわり、と掛けてくれた。

……うん。

「私、知ってるのよ!これ、テントっていうやつだわ!インターリアと旅してた時、こういうのに泊まったの!」

見事、僕は背中にテントを背負っているみたいになってしまった。

「……動かせるんなら折り畳めねえの?」

「うーん……このくらいまでなら」

一応、少し頑張れば羽を折り畳んで、背中がもこもこしている程度にまではなる。ただ、それでもやっぱり背中に何かがあるのは分かってしまう……。

どうしようかな、と考える。多分、僕は確かに今そわそわしている訳だけれど、だからと言って無理に町に出る必要は無いだろうし、僕の恰好を見て町の人を心配させたら申し訳ないし……。

……と、思っていたら。

「私にいい考えがあるんだわ!」

カーネリアちゃんが元気に手を挙げた。

……そうして。

「なんだかピクニックみたいね!」

「たのしいね」

「久しぶりにこういう荷物背負ったなあ……」

僕ら4人は、町の中を歩いている。全員、薄手の長いコートを着ていて……そして僕以外の3人は、そのコートの下にリュックを背負っている!

「これならトウゴの背中にあるのも荷物に見えるわ!」

そう。カーネリアちゃんが提案してくれたのは、『みんな一緒なら大丈夫だわ!』という画期的なやつで……僕の羽をカモフラージュするために、全員が同じ格好をしてくれる、というものだった。

……子供達が皆、優しくて賢くて、僕は嬉しい。

町の人達は僕らを見て、『お揃いの荷物を背負ってお出かけなのね』みたいな顔をすることはあっても、僕らを不審がる人は誰も居なかった。すごい!

「で、どうなんだよ。満足したか?」

「あ、うん。なんか、いいかんじ……」

そして僕のそわそわは、大分収まった、というか、『ここに居るのが丁度いい!』という感覚、というか。

「……なんかいい、のかよ」

「うん。なんかいい」

「ライラ姉ちゃんみてえなこと言ってるなあ……」

うん。上手く言葉にできないんだけれど、なんかいいんだよ。町に居るの……。

それから僕らはしばらく町を散策して、結婚式場は人気が無いからそこでちょっと遊んで、そうして満足した僕らは僕の家に帰る。

何故って、夕食の為だ。大抵、僕らは夕食を僕の家で食べている。……そんなに広くない家なんだけれど、どうしてか、皆ここに集まってくるんだよ。

「ただいまー」

そして、恐らくクロアさんがいつもみたいに料理を楽しんでいるんだろうな、と思いながら、なんだかいい匂いのする家の中へ入って……。

「おかえり」

……そこに居たのは、エプロンを着けた石膏像だった。

僕だけじゃなくて、リアンもアンジェも、カーネリアちゃんも、思わず硬直する。いや、だって、ラオクレスが。ラオクレスが、エプロンつけて、仁王立ちしている……!

「今日の夕飯は俺が作れとのことで、クロアから頼まれた」

「あ、ああ、な、なるほど……?」

な、何故クロアさんは、ラオクレスに?

色々と疑問だったけれど、食卓に着いて分かった。

「お前が精霊になる前に食べていたものは、ほとんど俺しか知らんからな。まあ、人間らしくなるには、こういうことも必要なのかもしれん」

食卓の上にあるのは、パンにハムとチーズ挟んだやつだ。つまり、僕の好きなやつ!

でも、それだけじゃない。それだけじゃなくて……テーブルの上には、でん、と大きな鍋が置いてあって、その中で野菜や肉がごろごろと煮込まれている。

「それから、ソレイラの外、レッドガルドの町の方で作られた食材を食っておけ、ということだ」

成程。確かに、鍋の中身からは森の気配が無い。どうやらラオクレスはわざわざ、森の外まで買い出しに行ってくれたらしい。

「……まあ、食材を適当に煮ただけで、大したものじゃあないが、食え」

「うん。いただきます!」

ということで、僕らは早速、ラオクレスご飯を頂くことにした。

相変わらず、ラオクレスパンは塩気がしっかり利いていて、チーズのこくとハムの旨味がじわじわして美味しかったし、ラオクレス鍋は『適当に煮込んだ』というラオクレスの説明どおり、すごく適当に根菜とか塩漬け肉とかが煮込まれていて、でも、それがしみじみ美味しかった。

よく煮込まれて柔らかくなった人参とか、ほろほろ繊維ごとに崩れるくらいになった肉とか、出汁がよく染み込んでとろけかけのジャガイモとかって、どうしてこんなに美味しいんだろう。

「なんか、クロアさんとかライラ姉ちゃんの飯じゃねえの、新鮮だな……」

「とってもおいしいよ!」

「インターリアが話してくれたことがあったのよ!これがきっと、騎士に代々伝わる『オトコノリョウリ』ってやつだわ!そうでしょう?」

ラオクレスご飯は子供達にも人気だった。ラオクレスはエプロン姿のまま、ちょっと満足げな顔をしていた。満足げな石膏像……描かねば!

そうして僕らは満腹になって、そうしている間にライラが夕食を食べに来つつ、僕に服を一着、渡してくれた。

「はい。とりあえず間に合わせならこれでいいでしょ」

「ありがとう、ライラ……うわ、結構すごいデザインだ」

ライラに渡されたシャツは、その、背中が無い。襟だけあって、前も普通のシャツで、でも、後ろ側が、首の後ろから肩甲骨の終わりぐらいまで、何も無い!

「しょうがないでしょうが。背中ざっくり開けなきゃ、あんたの羽、どうしようもないでしょ!ほら!その分ケープつけてあげたんだから感謝しなさいよね!」

そして、ライラがもう一着渡してくれたのは、ケープだ。レネが着てたようなやつ。

ケープの背中側には2本切れ込みが入っていて、要は、3枚の布が背中側でひらひらすることになる。切れ込みの間から羽が出るから、背中がいい具合に隠れて、それでいて羽が出せる、っていうことになるのかな。

「……背中側だけじゃなくて、前側も結構派手だね」

そしてこの服……ちょっと、派手だ。いや、派手っていうか、豪華?なんというか……フェイが正式なパーティの時に着てそうだな、というかんじのデザイン。

「そりゃ、当然でしょ」

けれどライラはそう答えて……それから、にんまり笑って、言った。

「だってあんた、貴族のパーティにお呼ばれするんだからさ」

……えっ。

翌日。

「よお、トウゴ!急で悪いけどよ、これ、今夜のパーティの招待状!もうこっちで『出席』で出しといたから!よろしくな!」

「ま、待って待って。話が見えない」

唐突にフェイがやってきて、僕に招待状をくれた。いやいやいや、どうしたんだよ、急に!

「いやー、やっぱり人間らしく、ってことで、文化とか社交とかそういう方面に触れた方が良さそうだと思ったからよ。ま、お前の恰好見せても平気そうな身内だけの小さい奴だけど、パーティ開くからな。堅苦しいこと抜きにして、楽しもうぜ!」

フェイは楽しげにそう言って、それからふと、まじまじと僕を見つめ始める。

「そういやお前、堅苦しいこと抜きのパーティ、初めてかあ……」

「結婚式の二次会はあったよ」

「お前にとっちゃ、あれはパーティじゃなくてお絵かき大会だったろーが」

あ、そうか。

「軽食とダンスと音楽とゲームと、それから歓談!それで夜更かししようぜ!」

「森だって夜は眠るけれど……」

「お前、そりゃ、森じゃなくなろうってんだからむしろ夜更かしは当たり前だろ!」

あ、そうでした。そっか。森より人間らしくなるには、夜更かしも大事……。

「綺麗どころがわんさと集まるんだから、思いっきり楽しんでいけよ?ラージュ姫も来てくれるっていうしさ」

……本物のお姫様が居るパーティって、すごいなあ。

「ってことで、楽しみにしとけよ、トウゴ!」

「うん。楽しみになってきた」

パーティっていうと、今のところ、王城に呼ばれたフェイについていった奴と、ソレイラの名前の発表会くらいしか経験が無い。マーセンさんとインターリアさんの結婚式の二次会はパーティっていうよりはお絵かき大会だった。うん。

まあ……知らないこととか、やったことがないことをやってみるのって、大切だから。だから、パーティ、そういう意味でも楽しみだな。

……皆のおかげでちょっと人間に戻ってきたのか、それとも町を歩いたりなんだりして疲れたからか、その日はぐっすり気持ちよく眠ることができた。