軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5話:成長期*4

そうしてその日の内に、ソレイラの住民の皆さんに意見を貰って回った。

聞いて回ったのは、もう、そのままのことだ。『森の精霊様が、このままだとソレイラまで守り切れないので、町の中や町の周りに森を増やしていいですか』っていう。

ソレイラの人達は大らかで気のいい人達だ。皆快くオーケーしてくれた。すごいなあ。居るかどうかも分からない精霊のために、いきなり自分の町の周りが森になることを許可してくれるなんて。

……人々の中には、『じゃあ、トウゴさんもしっかり食べて健康な体でいなきゃね!』とパンをくれたり、『頑張ってくださいね、トウゴさん!』と果物をくれたり、色んな人が居た。

ええと、森の成長と僕の健康は関係ないことになっているし、頑張るのも僕ではなく精霊様、っていうことになっている、はず、なのだけれど……あれ?

それからフェイのお父さんに『森を増やしていいですか?』の許可を貰う。……元々、森が領地の真ん中にあって困っていたレッドガルド領なのに、更に森を広げるって、よくよく考えたらとんでもなく迷惑な話のはずなのだけれど、でも、フェイのお父さんは笑って快諾してくれた。

なんでも、今やレッドガルド領にとって、森は多くのものを生み出す重要な場所、なんだそうだ。褒められて嬉しい。

……あと、僕の成長期が楽しみなんだそうだ。ええと、あの、それはまあ……楽しんでもらえるならそれはそれでいいか。

そうして翌日。

早速、森の拡大が始まった。

まずは……ソレイラの北部から。ええと、結婚式場とかがある位置なんだけれど、その更に外側に、森を増やすことにする。

「結局、お前が描いて出すのかぁ……」

「うん」

この方が早い。だって、植樹して、それが森に育つまで待つ、なんてやってたら、10年20年、簡単にかかってしまうよ。

「お供え、貰ってるから。それに、ほら。こうやって森を増やして、お供えで貰ってしまった魔力をこっちに流せば、僕の森化は防げる気がする」

「あ、成程なあ。お前、頭いいなあ」

フェイに褒められつつ、僕は早速、森の絵を描いていく。

森の絵自体は結構たくさん描いてきたし、依頼されることも多いから、もうすっかり慣れっこだ。今ある風景に違和感なく森を増やして描くことだって簡単にできる。

北側にある森だけれど、どうせ日は当たるから、そこまで気にせず色々描く。折角だから、ちょっと背の高い木があるといいな。広葉樹を多くしたら秋には紅葉が綺麗だろうか。子供達がつまんで食べるために、木苺とかブルーベリーとか、実がなる低木も植えて、あとは栗とか柿とか、あ、ビワとかグミとかもいいね。

それから、花も沢山あると華やかでいい。下草は柔らかく。木の枝は高めの位置にあるようにして、人の顔を叩いてしまったりすることのないようにして……。

……そうして、僕の満足のいく森が描けた。

森の絵は、僕が筆をおいた途端、ふるふる、と震え始めて……きゅ、と縮まって、ふわり、と広がっていく。

そして。

「森だなあ」

「うん。森だね」

森が増えた!

目の前に生まれた森は柔らかな緑をたっぷりと茂らせて、初夏の風にさわさわと音を立てている。

森を通って吹き抜けてくる風は木と花の爽やかな香りを乗せてきて、胸いっぱいに吸い込むとなんとも清々しい。

横を見るとフェイも僕と同じように深呼吸していた。そしてしばらく2人で生まれたての森を堪能して……。

「なんか変わったかんじ、あるか?」

「特に無い」

僕に変化が無いことを確認し合った。

……いや、本当に、無いんだよ。変化。強いて言うなら、ちょっと疲れたくらい?でもそれって絵を描いて出したことによる疲れだと思うし、変化に数えなくていいと思う。

「えーと、森になったとか、逆に人間になったとかは?」

「ちょっとよく分からない……」

あと、自分自身の内面の変化って、そうそう気づけるものじゃないよね?うーん……もう少し森を広げていったら、分かるようになるかな。

……と、思っていたら。

「……ん?」

「お?どうした?なんか具合悪いか?」

フェイに心配されつつ、僕は、ちょっと……息がしやすくなったような、そんな感覚になる。なんだろうな、根詰まりを起こしていた鉢植えの木が、もうちょっと大きな鉢に植え替えられた、みたいな。

それから少し意識して自分の体の様子を見ていたら……体のむずむずが、ちょっと和らいできた。

これは……いいかんじ、かもしれない!

「なんだかいいかんじだよ、フェイ。体のむずむず、少し減った」

「お!それは……」

なんだか調子がいいよ、というアピールをしてみたら、フェイは少し複雑そうな顔をする。

「……それって、どっちの意味でいいかんじ、なんだ?人間として調子がいいのか?森として調子がいいのか?」

「……さあ」

けれど、うん。まあ、それは分からない。僕は僕だし、僕は森で、森は僕で……いや、僕は1人の人間なのだけれど、でも、どうしても完全に切り離せるものじゃない、っていうか……。

「うーん……どうする?これ、お前が森として絶好調!ってことだったら、ヤバいんじゃねえか?この状態で何日か様子見するか?」

心配そうに、フェイはそう言う。けれど……少し考えて、僕は首を横に振った。

「いや、もうちょっと増やしてからにするよ。どうせ森を増やさなきゃ、ソレイラを結界で守ることはできない。だったら、僕がどうなろうとやることは変わらないんだから」

フェイはちょっと躊躇いがちだったけれど、僕の決意は固いんだ。

当然、僕がこれ以上森になってしまうと、その、人間としての僕というか、そういうものが消えてしまいそうなのでそれは嫌なのだけれど……でも、町の皆を守れないのは、もっと嫌なんだよ。

「そうかあ……」

フェイはちょっと唸って、考えて、でも、僕を止めないことにしたらしい。僕の頭をわしわしやって、そして、言った。

「よし!じゃあ、もう一丁いくか!でも、ラオクレスが来る前に切り上げるからな!」

「うん!」

僕らは次なる森予定地に向けて、それぞれの召喚獣で移動することにした!

町の東にも低木の森を作った。太陽の光をあまり遮らないように、できるだけ背の低い木や茂みなんかの森にして、高い木は最小限にしてみた。……森っていうか、林?

そこでラオクレスが僕らを探しにやってきたので回収されて、お昼ご飯を食べて、それから今度は西に森を作って、それから夜にかけて南にも森を作って……。

そして……翌朝。

目が覚めて、僕は……発熱した上、全身がむずむずしていた!

「……成程な。急激に森を増やしたら、熱が出て、全身がむずむずする、と」

「うん……」

僕はベッドの中で寝っぱなしで、そこに朝食のお知らせに来てくれたクロアさんが僕の異変に気付いて、ラオクレスを呼んできた。なので今、僕はクロアさんとラオクレスに眺められつつ、ベッドの中だ。

「むずむず、って、どういうかんじなのかしら。くすぐったいかんじ?動きたいかんじ?」

「伸びたいかんじ……あ、ええと、体がむずむずするのか、魔力がむずむずするのか、よく分からないんだ。でもむずむずする……」

「……魔力か体かが、伸びようとしている、のか?」

「成長痛、っていうことなのかしらねえ……。ということは、熱は知恵熱、ってことなのかしら」

あ、成程。知恵熱と成長痛か。

……成長痛!?

「僕、成長するの!?」

「まあ……森は、成長しちゃったわけでしょ?それも、急に」

あ、うん、そう、だけれど……。

「森が成長してお前が成長痛、というのは分からんが、魔力の話なら、まあ、分からんでもないな。均衡が崩れて体に不調が出ているということかもしれん」

そうか……森が急に増えたら、結界装置に集まる魔力がいきなり増えるってことになるのか。それで、バランスが崩れて、僕が、成長痛……?

「……詳しくはフェイに聞け」

うん。そうする。ラオクレスもクロアさんも、魔法の理論とかにはあんまり詳しくないみたいだし、フェイならそのあたり、詳しいし。

……でも。それにしても!

「むずむずする……」

「……そうか」

「ベッドの上でごろごろしてみたら?体を動かしたら少しはむずむずが紛れるんじゃないかしら」

むずむずする!すごく、むずむずする!体に熱がこもってなんだか落ち着かなくて、そして、全身というか体の内側がむずむずするようなくすぐったいような痛いような、そんなかんじだ。

僕、今、この瞬間、世界一むずむずしている人間ではないだろうか!

それから昼前にフェイが来た。フェイが来てくれたからか、ちょっと熱とむずむずが和らいだ気がする。

「ごめんなあ、トウゴ……こうなるってのは、ちょっと考えりゃ分かったのに……」

フェイはしゅんとして僕のベッドの横の椅子に座っている。そんなに申し訳なさそうにしなくていいのにな。

……フェイの診断も『成長痛』だった。まあ、そうだろうなあ、と自分でも思っていたから、納得がいく。成長したくてむずむずしていたのに、成長してしまってむずむずするようになってしまった、っていうのは我ながらおかしい。

「でも、これで結界は頑丈になると思うんだ。それに、この成長痛が収まったら、僕が人間になるのか森になるのかはっきりするだろうしさ」

「そうは言ってもよお……あーくそ、それも心配なんだよなあ!お前、森か?やっぱ森になるのか!?」

「森でも人でも、なるようになるよ。多分」

「お前、なんでそう悠々と構えてられるんだ!?さては森か!?もう森になってるのか!?」

さあ……。

それからフェイは、『知恵熱が出てるならやることは簡単だろ!』ということで、外に出て、そして、少ししたらリアンとアンジェとカーネリアちゃんを抱えて戻ってきた。いや、正確には抱えてきたのはアンジェとフェニックス。そこを抱えて連れていくと『アンジェをどうするんだ?』とリアンがついてくるし、『フェニックスを持って行かないで!』ってカーネリアちゃんもついてくるので、結果、全員集まってしまうみたいだ。

「よし!じゃあ全員トウゴと昼寝!」

「は、はあ?なんでだよ、フェイ兄ちゃん」

「私達眠くないわ。どうしてお昼寝なの?」

リアンとカーネリアちゃんは至極尤もな疑問を抱いている。その通りです。ご尤もです。

「……トウゴおにいちゃん、ちょっと、妖精さんみたい」

そんな中、僕のベッドの端っこに上って僕を覗き込むアンジェが、そう言った。

……妖精さんみたい、とは。一体。

「確かにそうだわ!なんだか今日のトウゴは妖精さんみたいだわ!どうしたのかしら?」

いや、それを僕に言われても!ねえ、妖精さんみたいって何!?何!?

……どうやら、アンジェやカーネリアちゃんの言うところの『妖精さんっぽい』は、その……人間離れしている、ぐらいの意味、らしかった。要は、なんだか僕が森に寄ってしまっている、というような、そういうことなのかもしれない。

「ふかふかだわ!」

「ほかほか!」

「なんで俺まで……」

そして今、子供達が僕の周りで一緒に昼寝を始めてくれて、そのおかげか体のむずむずが少し収まってきていて、すごくありがたい。知恵熱の方は相当楽になった。やっぱり、自分より魔力が少ない相手と一緒に居ると、こういう時に具合が良くなっていいね。

「ま、我慢してくれよ、リアン。俺だってトウゴの魔力吸い取ってんだからさあ」

ちなみに、フェイ曰く『この中で一番魔力が少ないのは多分俺!』とのことだった。道理でフェイが来てくれた時、熱もむずむずも和らいだわけだよ。

そうして子供達と一緒にベッドの中でもそもそしていたら、ふと、アンジェが僕の背中をさすりながら、聞いてきた。

「トウゴおにいちゃん。むずむずする?」

「うん。する」

背中というか全身がむずむずする。いや、さっきよりは大分収まって楽になったけれどさ。

やっぱりこうしてくれる子供達が居るのってありがたいなあ、と思いながら……次のアンジェの言葉に、僕は、ぎょっとすることになる。

「トウゴおにいちゃんも羽、生えるの?」

……え?

僕、羽、生えるの?