軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話:成長期*3

「森の外まで守ろうとするから悪いんだよ。だから、森を増やしちまえ。ソレイラを森の中にしちまえ」

……ん?え、ええと……?

「植樹して森の範囲、増やすだろ?森が広がるだろ?徴税で集まる魔力が増えるだろ?な?」

……えっ?え、あの、ええと……。

「ぼ、僕、広がっちゃうの……?」

「いやいやいや、お前じゃなくて森!」

あ、うん。ええと、僕じゃなくて、森……いや、でも、森って、僕なんだけれど……。

……僕が困っていたら、フェイは……ちょっと困った顔をした。

「そうなんだよなあ。理論上は、それで完璧なんだよなあ。ただ、それ、心配なことがあるんだよ」

「あ、うん。僕も心配だ。いきなり自分が大きくなってしまうのは……」

フェイは僕の心配を聞いて、いよいよ頭が痛い、みたいな顔をした。なんだなんだ。

「あのな、トウゴ。お前……最近、かなり、森になってねえか?」

……ん?

「僕は森だよ?」

「うん。そうだな。でもお前は森じゃなくて精霊で、何なら1人の人間なんだぜ?トウゴ」

うん……うん?あれ?

僕は、森で、でも、人間……1人の……森じゃなくて……。

「トウゴ・ウエソラと森は切り離された別々だ、って、お前、忘れてねえか?」

「……ちょっと忘れてた気がする」

うん。なんか、なんか……意識して考え始めたら、その、ちょっと、思いだしてきた、というか……フェイがこういう顔してしまう理由が分かってきた、というか、僕も頭が痛い顔になってると思う!

「な、なんでだろう。なんでか、僕、ここ最近は大分森になってしまっていた……」

「だよなあ……」

僕の意識がすっかり森になっていたというか、森が僕の意識に侵食してきているというか、僕が森に広がってしまっているというか……上手く説明できないけれど、なんか、そんなかんじだ!

「……考えられる可能性としては、やっぱ、お前、頑張りすぎなんじゃねえのかな、っていうのが1つな。竜王様が攻めてきた時に結界の維持、すごく頑張ってただろ?だから、あの時、お前、大分無理して……その辺りから、お前の森化が進んでる気がするんだよな」

フェイに言われて、思いだす。ああ、そう言えばあの時は、確かに大変だった。僕が森で、森が僕で、それで、結界が殴られると痛くて……あ、また混じってきている!

「もう1つは、お前が精霊として力を付けちまってるからかな、っていうやつ。ソレイラができて、人が住んで……お前、信仰を集めてるだろ?」

あ、うん。お供え物、いつも美味しくいただいてます。ありがたい。

「で、お供え物、食ってるじゃねえか。でもあれ、お前と鳥以外が食うと……すっげえ、酔うんだよ」

うん……。フェイが枝豆1つで凄い顔してたのは覚えてるし、最近魔王にお供えを分けてみたら魔王も酔っぱらって不定形になってしまっていたし、それは知ってる。

「で、お前、あれを毎日食ってんだろ?」

「うん。毎日おいしいよ」

この間の、枝豆ペーストとふわふわとろとろのオムレツとハムが挟まったパン、美味しかった。その前の、枝豆の炊き込みご飯みたいな、米とか米以外の雑穀とかが入ったやつも美味しかった。あと、果物は選りすぐりの甘くて美味しいやつを供えてもらっているし、焼き立ての素朴なお菓子も、野菜の漬物みたいなのも、いつも嬉しい。

「あれのせいで、お前、精霊寄りになっちまってるんじゃねえかな」

……けど、フェイにそう言われてしまうと、ちょっと、怖くなってくる!

「ある意味、お供え物を貰ってそれを食ってるって、魔力の徴税ににたところあるのかもな。でも、お供えだと森じゃなくて結界装置でもなくてお前自体に魔力が蓄えられて、で、お前がどんどん精霊として成長してる、って訳で……要はそれってトウゴの人間離れなんだよなあ」

人間中退の文字が改めて僕の頭の中に重々しく浮かぶ。うう……。

「だからよー……森を下手にでかくしちまったら、お前、ますます、人間離れしちまわねえかな、って、ちょっと心配なんだよな」

それは僕も心配だ。自分の人間離れが深刻な今、あまり不用意なことはできない。かといって、森の結界は強化したいし……。

「ただ逆に、森化が収まる可能性も考えられる。もしかしたらお前の森化って、お前の魔力が有り余ってるせいなのかもしれねえから。だから、お前の魔力に見合うくらい、お前の体……っつうか、森をでかくしてやったら、お前の魔力の行き場ができて、お前が森化しなくていいのかもしれねえ」

あ、そっちの可能性、いいな。すごくいい。いや、勿論、それが正解かは分からないけれどさ。

「或いは……お前の魔力で結界の維持してた時。あれ、要は森が負担するはずの魔力をお前が出してたってことだろ?だから、その分、お前が魔力の負担分、森になっちまった、とか?」

あ、それも納得がいく。うん。そっか。……とすると、僕の森化って、不可逆?う、うわ、それはちょっとショックだ。

「本来なら、精霊に魔力が溜まったら森が育っていくような気がするんだよな。けどさ、森の周りに壁造っちまっただろ?で、その周りには町ができて、森を増やすどころじゃなくなっちまった。ある意味、自然の摂理に反してるわけだ。だから……それでお前の中で、魔力と森との均衡が崩れちまったのかもしれねえ」

……都合のいい説明だとは思うんだけれど、でも、そう言われると納得してしまう。成程。壁は確かに、自然の摂理に反してました。

そうだよなあ、僕だって、成長していいんだよな。魔力を沢山得てしまって、人が増えて、なのに僕が増えないのはちょっと……いや、僕じゃなくて森!森が!森が増えないと、ほら、こういう風に僕が森になってしまう気がする!

……それから僕らは、ああでもない、こうでもない、と話してみたのだけれど、結論は出ない。

「結局は分からねえんだよなあー!精霊がどうなったら精霊に寄っていくのかなんて、前例聞いたことねえし!お前みたいな奴、他に居ねえし!」

「うん」

僕も、自分以外の精霊様をゴルダの山の中で初めて見た。……あ、いや、鳥が居るか。うん。鳥。鳥も精霊だった。あいつは僕の先輩にあたる。

その『先輩』の子である鳥の子達がジュースのお代わりを要求してきて、僕がそれにジュースを描いて出していたら鳥の親の方が戻ってきて、図々しくもこいつ用のジュースを要求してきた。しょうがないなあ。

なんだかもうどうでもよくなってきて、僕とフェイもジュースのお代わりを飲みつつ、鳥達がジュースを飲んでキョンキョンキュンキュン騒がしいのを眺めつつ……。

「……あの、フェイ」

「ん?」

確か、僕が精霊になるって決めた時もこうだったなあ、と思いながら、話す。

「僕、どちらにせよ、森は増やした方がいいと思う。そうすれば結界が上手く作れて、ソレイラの人達を安全に守ることができるようになる、っていうことなら、僕がまた人間離れしてしまっても、しょうがないんじゃないかな」

フェイは僕に何を言えばいいのか、迷っていたみたいだった。僕を止めようとしているようにも見えたし、それを戸惑っているようにも見えた。

しばらく、フェイは何も言わずに考えて……そして、僕に聞いてくる。

「……本当にいいんだな?」

「うん」

これはね、もう、しょうがないよ。やってみなきゃ分からないことなんだし、やらなきゃいけないことでもある。僕が迷おうが何だろうが、結論は変わらないだろう。

「まあ……お前の気持ちは、分かるんだよ。俺だって貴族の端くれだ。自分の家が治めてる領地の民のことは守らなきゃいけねえし、そのためなら俺達は命だって擲たなきゃいけねえ。それが、治める者の責務ってやつだと、思ってる」

フェイはそう言って、それから、ちょっと寂しそうな顔をして……僕の肩をばしばし叩いた。

「けどまさか、お前もこっち側に来ちまうとは思ってなかったんだよなあー!」

「僕も思ってなかったよ」

貴族とか、治める者とか、本来の僕とは一生無縁だったと思うよ。けれどそれがどうしてか、僕は精霊になってこの森と街を治める立場になってしまっているし……うーん、よくよく考えてみると、すごいことをしている。

「ま、お前が決めたんなら俺はもう止めねえ。範囲も立場も違えども、俺達は共にレッドガルド領を守る立場、って訳だ!」

やがて、フェイは元気になったらしくて、勢いよくそう話す。

「……ってことで、トウゴ。これからも、よろしくな。共にレッドガルド領を治める者として……あと何よりも、親友として!」

「うん!」

改めて、差し出された手を握って、ちょっと思う。

……もし、僕がもっと森になってしまったとしても、きっとフェイは親友でいてくれる。そして、フェイはこうやって、僕が人間だってことを、ちょくちょく思いださせてくれるんじゃないかな。

そしてそれはきっとフェイだけじゃなくて、森の皆がきっとそうで……。

……うん。だから僕は安心して、森の精霊をやっていられるんだよ。

「ま、実際、どうなるかはホントに分かんねえもんなあ。むしろお前の森化が戻って、何もかも上手くいくかもしれねえし。うん。ちょっとそういう気、するんだよな」

「うん」

そうだね。なんだか、ちょっといい具合に事が運ぶような気がしている。あくまでも予感であって、根拠は無いんだけれど。

だからか、僕は既に、森を拡大するつもりでいて……あと。

「あとね……その、なんだか、体がむずむずする」

「……ん?」

「大きくなりたがっている気がする……。あのさ、多分、僕、成長期なんだよ」

「成長期かぁー……」

「うん。成長期」

「そりゃ、うん。まあ……楽しみだなあ。トウゴが成長するのか……」

「僕もちょっと楽しみ」

森を大きくすることは、不安でもあるけれど、少し楽しみでもあるんだ。

そう。ちょっと不安で、ちょっと楽しみ。確実に何かが変わるけれど、どう変わるかはよく分からない。それでいて、きっと必要なことだ。

……成長って、そういうものじゃないかな。

「……なあ、それ、本当にお前の成長か?森の成長じゃないか?大丈夫か?」

……うん。

その、あんまり深く考えると、また、堂々巡りになりそうだから……。