作品タイトル不明
24話:帰る場所*3
フェイが現れてそう言った途端、ゴルダの領主の人も遺族であるはずの女性も、ぎょっとした顔で硬直してしまった。
「証言が、とれたぜ。『本当の』遺族から、な!」
「被害者は独身!妻どころか恋人も無し!そう、実の弟さんから証言がとれてる!」
フェイがそう言うと……戸口に、1人の男性が、メイドクロアさんに付き添われてやってきた。
「……あの時の」
その人の顔を見て、ラオクレスがはっとして席を立ちかけた。
……ラオクレスが何を感じているのかは分からないけれど……もしかしたら、似ているのかもしれない。弟さんと、ラオクレスが殺してしまったその人と。
「証言しますよ、領主様。俺は確かに、かつてのゴルダの騎士団に兄を殺された者で……そしてあの兄には、嫁さんも恋人も、居やしなかった、ってね!」
その男性はそう大きな声で言って、ゴルダの領主の人を睨みつけた。
「まあ、そういう訳だ。この話は最初っから全部、嘘だった!面会も何もあるもんか!……っつうことで、領主様」
フェイはそう言って、ゴルダの領主の人に詰め寄った。
「……罪の意識を問われるのは、あんたの方じゃあありませんかね?」
フェイの目が燃えている。そんな風に思えた。フェイがこんなに怒るの、初めて見たかもしれない。
そんなフェイに真っ向から睨まれて、証言者の男性にも睨まれて、遺族だっていう話だった女性は只々おろおろして、ゴルダの領主の人は目を泳がせた。
「嘘だ。嘘に決まっている!こちらの証言者が嘘だというのなら、そちらの証言者が嘘でないとどうして言えるのですか!ほら、そこの男こそ、金で雇われた賊なのではありませんかねえ!?」
そんな中、ゴルダの領主の人はそう、言い逃れしようとする。……けれど。
「窓の外を見て同じことが言えるか?」
フェイがそう言った途端、また、ゴルダの領主の人は言葉を失ってしまった。
窓の外の喧騒は、部屋の中からでも分かる程に大きい。
そこに集まった人達の声は合わさって混じり合って1つ1つは聞き取れないけれど、だからこそ彼らの怒りだけを純粋に伝えていた。
「……ゴルダの民衆ですよ、領主様。俺が事情を話したら、皆で手分けして本当の遺族を探してくれました。人づてに情報を得て、遂に知り合いにまで話が行って、証言者と俺を引き合わせてくれたんです。だから……窓の外にいる人々全員が証人なんですよ」
最早、どっちが嘘かなんて、疑いようもない。それは、領主の人にも分かったらしい。
「……こんなことを、自分の領地でも無い場所で?人の領地を荒らすような真似を、よくも」
「ああそうだな。本来ならあなたがやらなきゃいけなかった仕事ですよ、領主様。だがあんたがやらねえからしょうがねえ、俺がやらざるを得なかった!」
「無礼な!」
「これが無礼だっつうならテメエのそれは何だよ!」
領主の人が論点のずれた文句を言った途端、フェイは声を荒げた。その剣幕に、領主の人が怯む。
「……死人に口なし、とは言うけれどよ」
それから、少し自分で自分を落ち着かせたフェイは……怒っていながら悲しんでいるような、そういう顔で、言った。
「それでも……死んだ後に勝手に妻になったり死者の望みを騙ったりするのは、死者への冒涜だろ」
「こうするしか……他にやりようがあったか?いや、私は、こうでもするしか……」
ゴルダの領主の人はぶつぶつ言いながら首を横に振っている。なんというか、ちょっと錯乱気味、なのかもしれない。事情がよく分からないけれど……。
「……まあ、そういうわけで、うちの領の騎士は連れて帰る。いいですね?」
領主の人の様子を見て、フェイはそう、話を締めくくった。これ以上話すことはないぞ、というような、そういうかんじだ。
勿論、僕も無い。ラオクレスには話すことがあるのかもしれないから、彼がそうしたいなら待つけれど……でも、ラオクレスが話したいのは領主の人よりは、証人である男性だと思う。
「ま、待て。……鉱山を荒らしたのも、貴様か」
ゴルダの領主の人は、席を立ち始めた僕ら……特にラオクレスを睨んで、そう言う。
ええと……目撃者というか、襲撃しに来た人達は少人数だったおかげで、全員クロアさんの虜にすることができた、らしい。そしてその人達は森の町の端っこでクロアさんを眺めながら楽しく暮らしているから、話が漏れたとは思いにくいんだけれど……。
……まあ、クロアさんも言ってたよね。『言いがかりは絶対につけられる』って。うん。まあ、分かってたことか……。
「ああ、やはり、やはりこうなるのか……」
ゴルダの領主の人は僕らの返事も待たずに、1人で勝手に結論を出して、その上、なんだかすっかり打ちひしがれてしまった。
諦めが早いというか、『やはりこうなる』って思っていた、っていうのがちょっと引っかかるのだけれど……うん。
「こ、この件は王家に、王家に報告させて頂きますよ!」
やがて顔を上げた領主の人は、そう言ってラオクレスを睨んだ。どうせ睨むならそっちじゃなくて僕とかにしてほしい。ラオクレスが気にするといけない。
「報告したけりゃすればいい。潰れかけの王家に何ができる」
ラオクレスが何か言うより先に、フェイがそう言って鼻で笑って……あ、今の顔、すごく珍しいなあ。フェイは快活に笑ってる時がフェイらしいけれど、怒ってる時も中々いい。今みたいな、ちょっと冷酷な表情も、悪くない。うん。描きたい描きたい。もう一回やってほしい。
「よし。んじゃあ帰るか!突然で悪かったな。事情は帰ったら説明すっからさあ……」
僕の願い空しく、フェイはすっかり明るい表情で笑ってそう言う。ああ、いつもの顔になってしまった……。
ということで、僕らは早く帰ろう、と、部屋を出かけた、のだけれど。
「少し、時間をくれ」
ラオクレスが最後尾で立ち止まって、そう、言った。
僕らが待っていると、ラオクレスは座ったままの女性に近づいた。
「……あんたは、遺族ではなかったんだな」
俯いていた女性はラオクレスが声を掛けた途端、顔を上げてラオクレスを睨みつけた。
「そうよ。悪い!?」
悪いよ。何言ってるんだ。
「……まあ、俺も、思うところはある。とやかくは言わん」
けれど、ラオクレスはそう言って、なんとも気まずげにしているばかりだ。……もっと怒っていいと思うよ。
「その金はあんたのものだ」
「え」
しかも、ラオクレスはさっき出したお給料の袋を示して、そう言った。これには女性もちょっと困惑している。
「今、思い出した。あんたが化粧をしていればもう少し早く思い出したかもしれないが……まあ、あんたの雇い主を殺したのは俺だ。あんたが職を失った原因は俺にもある。憎みたくなる気持ちは分からないでもない」
……さらに、ラオクレスがそう言ったら、女性はいよいよ、狼狽し始めた。
職、っていうと……ええと……あ。
そういえば……僕がラオクレスと出会ってすぐの頃。ラオクレスの剣が置いてあったあのお店で、僕を殺そうとしてきた人達も……雇い主をラオクレスに殺されたから、っていう理由で、僕を殺そうとしてきた、けれど……。
「……どうせこの齢になったら、愛人なんて、やってられなかったわよ」
「そうか。だが、密偵としてはまだやりようがあっただろう」
「どう、かしらねえ……」
……ラオクレスと女性の短いやり取りを聞いて、なんとなく……僕を殺そうとしていたあの人達も、ラオクレスが殺した元領主の人が雇っていた、密偵とか、そういう裏の世界の人だったんだろうな、ということが分かった。
そしてこの女性もきっと、そういう1人だったんだろう。
「何にせよ、二度とこんな真似はするな。これ以上関わろうとするなら、金ではなく剣が出る」
「分かってるわ、そんなこと」
疲れた表情の女性に、ならいい、とラオクレスは言って、それから、何か言葉を探すようにちょっと口ごもって……最後に、言った。
「達者で過ごせ」
それ以上、ラオクレスは女性とのやりとりを望まなかった。『話は終わった』とばかりに僕らに無言でうなずいたので、僕らは、ゴルダの領主の人と座ったままの女性、そして女性の前に置かれたお金の袋とを残して、お屋敷を後にすることにしたのだった。
それから僕らは、ゴルダ領の喫茶店で休憩することにした。
……休憩しているのは、僕とライラとラオクレスとマーセンさん。クロアさんは『まだもう一仕事あるのよ』っていうことでメイドさんの恰好のままゴルダのお屋敷に残っているから、あとはフェイと……今回証言者として出てきてくれた男性だ。
「いや、助かったぜ。ありがとうな。突然押し掛けて、『証言してくれ!』だなんて、ほんと、断られてもしょうがなかったってのに……」
「いえいえ。俺なんかがお役に立てたなら光栄ですよ」
フェイは証言者の男性にお礼を言って、ちょっと気まずげにしている。
……ええと。
すごく簡単に、彼らの動きを聞いてみたら、ざっと、こんなかんじだった。
まず、僕らが鉱山で毒を浄化している間に、面会の話がゴルダ領主の人から出ていたらしい。その書状が森に届いていて、そこで、リアンから相談されたフェイが動き出した。
……ここがフェイのすごいところなのだけれど、フェイは、真っ先に『本当に本物の遺族なのか』って疑ったらしい。そんな人が今更、しかもこのタイミングで出てくるものか?っていうところからの疑問だったらしいけれど、結果は大当たりだったんだから、やっぱりフェイはすごい。
それで、フェイは僕らが帰ってきたタイミングで、クロアさんと一緒にゴルダ領で動き出した。『本物の遺族』を探す為に、ゴルダの町や村を駆け巡ってくれたらしい。
……結構ギリギリのタイミングで駆けこんできたフェイだったけれど、あれ、本当にギリギリだったらしいよ。何なら、今日に間に合わせるのも難しかったかもしれなくて……けれど、クロアさんが事前の調べで『ゴルダ領主邸には奴隷の首輪が何故か保管されている』っていうことは知っていたらしくて、それで、クロアさんがメイドクロアさんになって時間稼ぎする、っていうことになったらしい。
今回、こうやって面会の場にフェイが間に合ったのは、クロアさんがゴルダ領主の人を疑ってかかって色々調べていてくれたおかげでもあり、フェイが持ち前の人懐っこさと熱意でゴルダの人々から色々聞き込みをしてくれたおかげでもあり、そして何より、ゴルダの人達がすごく協力的だったおかげでもあり……ということらしい。
それらが噛み合って、その結果こうまでスムーズに事が運んだ、っていうことらしいので……本当に、幸運だったなあ、って思う。
「……よかったのか」
さて、僕らがのんびりお茶を飲む中、恐らく一番気まずいであろうラオクレスが、恐る恐る、といった様子で切り出す。
「俺はあんたの兄さんの仇だろう。助けるようなことをして」
……今、こうやってお茶会をしているのは、証言者へのお礼のためでもあり……こうしてラオクレスが、彼と話すための機会を設けるためなんだ。
「勿論!だってあなた達は、確かに兄さんの仇ですが……同時に、俺達の恩人なんですから」
証言者の男性は真っ先にそう言った。それを聞いてラオクレスはちょっと不思議そうな顔をする。
「あなた達はそうは思っちゃいないらしいですが、あなた達の存在は俺達の中ですごく大きいんです。あなた達はゴルダの暗黒時代を切り裂いて夜明けをもたらしてくれて、その上、俺達に立ち上がる勇気を思い出させてくれたんですよ」
「それは……」
ラオクレスは、すごく複雑そうな顔をしている。
彼自身、『ゴルダの領主を殺したことは後悔していない』って言っていた。けれど、それにしても、こうまで褒められてしまうと、ちょっと複雑な心境らしい。
ラオクレスの表情を見てか、証言者の男性はちょっと笑って、お茶のカップを両手で包むように持った。カップで暖を取るみたいでもあり、カップを大事に守っているみたいでもある動作は、きっと、彼の心境そのものなんだろう。
「……いやね、そりゃあ勿論、割り切れない思いもあります。俺の兄は、血気盛んというか、喧嘩っ早いというか、馬鹿というか、そういう奴でしたが……悪い奴じゃあなかった。死んでしまって残念に思う気持ちはあります。できることなら、生きていてほしかった。……いや、生きていたら生きていたで鬱陶しかったのかもしれませんけれどね」
ちょっと冗談めかして言って、笑って、その人はまた、続ける。
「でも、兄を殺したあなた達が居なかったら、あのクソ領主は死んでなかった。そうしたらきっと、俺も兄も、あのまま圧政に潰されて死んでいたでしょう。それはきっと、剣で刺されるよりもっとずっと惨い死に方だったはずだ。……飢える苦しみも、奪われる屈辱も、俺は忘れちゃいません」
男性の言葉に、ラオクレスとマーセンさんの表情が曇る。
彼らもまた、当時のゴルダに苦い思いをしてきた人達だから……思うところがあるんだろう。それは僕には分からないことだから、あんまり色々言えないけれど。
「だから俺は、あなた達に、救われてもいるんです。いや、俺だけじゃない。……俺の妻は俺には勿体ないくらいの器量よしでね。だから、あのクソ領主に目を付けられてたんです。あのままだったら、俺は、兄だけじゃなくて妻までもを奪われていたかもしれないんだ。そう、考えたら……」
男性の目が、ふらり、とテーブルの上を彷徨う。斜め向かいの僕のカップ、真ん中に置かれたお茶菓子の皿、彼の手元のカップ。そうして俯いた彼の目は、一拍の間を置いて、ラオクレスとマーセンさんへ向けられた。
「……罪を被って俺達ゴルダの民を救ってくれた騎士達を、恨むことなんて、できませんよ」
「ずっと、言えなかったんだ。お礼くらい、言わせてください。あの時、俺達を助けてくれてありがとう。それなのに、罪に問われるあなた達を救えなくて、本当にすまなかった」
「そんなこと」
「いや。あの時領民全員で蜂起していたら、もっと結果は違ったでしょうから。……その勇気も気概もなかった俺達だって、同罪です。そういう意味では、俺達が俺の兄を殺したんだ」
男性は、なんとなく、吹っ切れた顔をしていた。ラオクレスとマーセンさんは、まだ、それに追いついていない。
「でも、やっと今日、あなた方を救えた。奪われてそのまま黙っていたゴルダの民が、やっと声を上げられた!……って、誇っても、いいでしょうかね」
男性は、どこか苦いものを表情に残しながらも、それでも晴れ晴れと笑ってみせた。
それから僕らは、森へ帰ることにした。
……ゴルダの領主の人が用意した面会自体は酷いものだったけれど、結果としてはちゃんとした面会が出来たから、よかったのかな、と思う。僕が決めることじゃないけれど、ラオクレス達の表情を見る限り、そう、思える。
「ねえ、ラオクレス」
「何だ」
帰り道、夕暮れて端の方がほんのり虹色になった空を飛びながら、ちょっとラオクレスに聞いてみた。
「もし、あの女性が本当に遺族で、それで、ラオクレスにどうしてもゴルダの奴隷になってほしいって言ってきてたら、どうしてた?」
ちょっと心配だった。ラオクレスは誠実で、優しくて、内罰的だ。だから、より自分をひどい目に遭わせる選択肢を取ってしまうような気がした。
……けれど。
「断っていたが」
ラオクレスは呆れたような顔で、そう、すぐに答えてくれた。
「……お前が言ったんだろう。戻ってこい、と」
「そうだけどさ」
改めて言われてしまうと恥ずかしい。でも、僕はどうしても、ラオクレス達に帰ってきてほしかったのでしょうがない……。
「……隊長とも話していたが、もし俺達の身柄を望まれるようなら、徹底して悪役になろう、と、決めていた」
ラオクレスは僕を見て苦笑しながら、そう言って今度は目を伏せる。
「……というと」
「許しを請うより憎まれる方が、相手の支えになれることも、無い訳ではない。特に、俺達の身柄を欲しがる程に俺達を憎んでいるような相手なら」
……ちょっと分かる気がする。分かってしまう自分が嫌でもある。
そうだね。何かを憎く思うっていうことは、パワーだ。それは、分かるよ。それが心の支えになるってことも、ある。それがいいことかどうかは、分からないけれど。
「そこが落としどころだ。相反する2つの望みを叶えたいと思うのならば」
「……うん」
そうだね。落としどころ、っていう言葉がよく似合う。
何ともし難いことってたくさんあって、正解が分からないこともたくさんあって、僕らはその中で、人の心がぶつかり合う中で、うまく、落としどころを見つけていかなきゃいけない、んだと思う。
それで、落としどころの中で……うまいこと、僕の近くに落っこちてきてくれれば、嬉しい。
「これが正しいのかどうかは分からん。だが、お前が望んでいてくれる限り、俺の帰る場所は森だ」
「うん」
うん。更に、森に帰ってきてくれると、すごく嬉しい。
「それにしても……相手の目的が分からんな」
「うん?」
「わざわざ偽物の遺族を用意してまで、俺を奴隷にしたがった意味が分からん。たかが俺1人に何かこだわりがあるでもないだろうしな」
うん……うん。
そう、だね。えーと、目的、目的……。
「ゴルダの民に憎むべき対象を提示したかった、のかもしれんが……」
こいつが全部悪かったんです!ってやるのは、まあ……嫌な事だけれど、でも、人を1つにまとめるのに有効な事だっていうことは、分かる。誰か1人を憎むことで周囲の人達が団結できることって、ある。嫌な事だけれど。嫌な事だけれどさ。
「でも、あの人達の様子を見る限り、それって結構難しかったと思うよ」
「……だろうな」
うん。そうなんだよ。ゴルダの人達は、ラオクレス達のことを、悪く思ってなかった。さっきの、証言者の男性の言葉からもそれは分かるし、領主邸の周りに押しかけてきていた人達を見ても明らかだ。
「だが……だとすると、何だろうな」
「……僕への嫌がらせ?」
「……それが一番妥当か。まあ、お前の、というよりは、森の精霊の、ということか?確かお前は、ゴルダの領主に俺のことを『精霊様のお気に入り』と言っていたな」
ラオクレスがくつくつ笑う。わ、笑わなくったっていいだろ。本当のことなんだから。
「だが……それも余計に分からん。精霊に嫌がらせをして何になる?」
「怒って精霊が出てくるのを待ってた、とか?」
「……ゴルダが滅ぶぞ」
「滅ぼさないよ。滅ぼさないけど。うん、言いたいことは、分かる……」
僕はゴルダを滅ぼそうなんて思わないけどさ。でも、『精霊様は怒ったらゴルダを滅ぼす』って思われていたとしても、不思議ではない……。
「あ、もしかして、あの領主の人、ラオクレスのことがものすごく気に入ってしまった?」
「お前じゃああるまいし」
そうだろうか。でも、これほどの肉体美。名誉石膏像。手元に置いておきたくなる気持ちはよく分かるのだけれど……。
「でも、ラオクレスはアリコーンと一緒だし、何かいいかんじに見えたのかも」
「だとしたら、もう少し穏便な手段を選ぶだろう。……俺が過敏になっていたのかもしれんが、どうにも、領主からは敵意しか感じられなかった」
そっか。まあ、僕もそう思う。
領主の人がラオクレスを睨みつけていた時、本当に、憎々し気だったし……。
「じゃあ、広場の噴水の黄金の騎士像にラオクレスが似てたから虐めたかった、っていうのはどうだろうか」
「何故そうなる」
「いや、造形美に嫉妬して……」
……自分でも変なことを言っている自覚はあるよ。うん。もう僕の発想は出涸らしです。
「……なんだろうね」
結局、『なんだろうね』ってことで、匙を投げるしかない。ぽい。
「何だろうな。まあ、それをクロアが調べているのだろうが」
あ、そっか。クロアさん、『もう一仕事ある』んだったっけ。
なら……任せておけば、色々と事情が分かる、かもしれない。うん。帰ってクロアさん待ち。僕が投げた匙を拾って帰ってきてもらう、ってことで……。