軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話:帰る場所*2

そうして、数日後。

僕らはゴルダの町へ向かった。

「よし!描くぞ!」

「描くわよ!」

「ははは。楽しんでいるね、トウゴ君もライラも」

「……ライラ。最近、トウゴに毒されてきていないか?」

僕らは4名。僕とライラと、ラオクレスとマーセンさんだ。

「えーと、それで、本当にいいの?私が同席してたら、なんか、変なことにならない?ほら、トウゴは今の雇い主なんだし、一応同席する理由があるけれどさ……」

そしてライラは、町を歩きながらちょっとだけ、遠慮がちだ。

……僕らは、ラオクレスの面会に同席する。うん。そうなんだよ。ラオクレスとマーセンさんだけが面会に臨むのかと思っていたら、僕らにも同席してほしい、とのことだったので……。

ええと、今回の面会……会場が、ゴルダ領主邸、っていうことで、つまり、この面会って、ゴルダ領主の人を通して来ているものなんだよ。だから何か、あるんじゃないか、っていうことで……うん。

ラオクレスには、『面白くない話になるだろうが』って、言われてる。けれど僕は、許されるならそれを見届けたいっていう気持ちもあるから、同席を了承した。

……ラオクレス達が辛い思いをする場面を見ることになるんだから、気を引き締めていかなきゃいけない。

「まあ……お前達を町に放り出しておくのは、あまりにも心配だからな……」

「僕、そんなに子供っぽい?」

「トウゴはともかく、私はそこまで心配されなくていいと思うんだけれど」

「ははは。子供でなくとも、精霊様と森のレディだ。その上、2人ともそれなりに名の知れた画家なのだからね。……そもそもここは敵地のようなものだ。そこに大切な仲間達を放り出してはおけないさ」

なんだか不当に子ども扱いされている気がして抗議してみたのだけれど、マーセンさんの言うことはご尤もだった。うん。そのとおりでした。僕、一応は精霊なんだから、自分の森でもない所であんまりフラフラしていたらまずいね……。

「……私はてっきり、トウゴのおもりのために同行するんだと思ってたんだけれど」

「僕のおもりって……僕はライラもゴルダの街並みを描きたいんじゃないかと思って誘ったんだけれど」

「あと、リアンやアンジェやカーネリアちゃんよりは大人だから、ってことでしょ?分かってるんだからね」

「うん。頼りにしてる」

今回、ライラに声を掛けたのは僕だ。ラオクレスとマーセンさんにも『まあいいんじゃないか』と許可を得ている。僕としては、まさか面会にまで同席することになるとは思っていなかったから、ライラにはお絵かき小旅行、兼、僕が1人で居ると不安であろうラオクレスのためのお誘いをかけたのだけれど……。

「それから、クロアさんにも勧められたわ。折角だからゴルダの街並み、楽しんできたら、って。……トウゴ。何か聞いてる?」

え、そんなこと、クロアさん、言ってたのか。えーと……。

「いや、特に何も。……他意は無いんじゃないかな」

「そう、ね。まあ……クロアさんだからって、常に暗躍してるわけじゃないか。ん。ま、いいわ。面会までもう少し時間、あるんでしょ?なら、その間は予定通り、街並みを描かせてもらおうかしら」

「うん。そうしようそうしよう」

……けれど、まあ、少し予定が狂ったにせよ、ゴルダの街並みが美しいことに変わりはない。

「まあ、じゃあ、気を取り直して……よし!描くわよ!」

「描くぞ!」

だから……まずは描くぞ!描くぞ!

描くのにお勧めの場所はありますか、と聞いてみたら、ラオクレスが中央の広場をお勧めしてくれた。……金のタイルが綺麗なんだってさ。

そして、実際に行ってみると……確かにそこは見ごたえのある場所だった。

金象嵌の大理石のタイルが敷かれた広場は随分と華やかだ。太陽の光を反射する金が、眩く広場のアクセントになっていて中々いい。

他にも、魔法の灯が灯るのだろう街灯の覆いが紅色のガラスと繊細な金属細工でできたものだったり、広場の周囲の柵が鋼鉄で作られていながらしなやかさを感じる蔓草のモチーフだったり……金鉱と鍛冶と細工物の町、というかんじがする。

アシンメトリーというか、増設を繰り返して自然と広がっていった広場の形は、不揃いな割に取ってつけたようなかんじはあまり無くて、むしろ、生き生きとして動きがあるように感じる。成程。レッドガルドの町には無いかんじだ。

……けれど、ラオクレスが事前に教えてくれなかったものが、何よりも目を引いた。

広場のちょっと端の方には、小さな白大理石の噴水があって、噴水の中央には小ぶりな黄金の像がある。金が産出している町、っていうかんじだ。

「なんかいいわね、あの像。普通だったら黄金の像なんて成金趣味で悪趣味だと思うところだけれど……いい出来じゃない、あの像」

「うん。中々の造形美だ。躍動感もあって中々いいね。最近作られたものみたいだ」

「これ、マントの質感がいいわよね。肩にかかる部分とか、本当にしなやかで布みたい。金属彫刻だとは思えないわ」

「勉強になるなあ……」

僕らは早速、広場の片隅にある噴水、その中の像を眺めて、デッサンを始める。

……噴水の真ん中の像は、騎士の像だった。鎧を纏い、マントを靡かせて、剣を高く掲げる騎士の像。

「……この像、ちょっとラオクレスに似てるね」

「そうね。確かにちょっと似てるわ」

勇ましい騎士像は、ちょっとラオクレスに似ている。……だから余計にこの像の出来がよく見えるのかもしれない。

それから、広場全体をスケッチして、気に入った一角を数枚描いて……とやっていたら、面会の時間になってしまった。

「……そろそろ、か」

ラオクレスは懐中時計を見てそう呟いて、時計の蓋を閉じて、懐にしまい込む。なんとなく落ち着きのない動作は、彼の緊張を物語るようだ。

「行く?」

「そうだな」

緊張気味のラオクレスと、ラオクレス程じゃあないけれどやっぱり緊張気味のマーセンさんと一緒に、僕らは待ち合わせ場所へ向かう。

待ち合わせ場所はゴルダ領主のお屋敷だ。

……そして。

僕らは、ゴルダ領主のお屋敷へ、到着して……。

「いらっしゃいませ。お約束のお客様ですね。どうぞ、こちらへ」

「……あの」

「どうぞこちらへ」

「あの、ええと……」

僕らは、出迎えに、ものすごく……困惑している!

「クロアさん、なんでここに居るの……?」

何故か、メイドさんの恰好をしたクロアさんが、僕らを出迎えてくれたので!

クロアさんは変装しているけれど、なんとなく、クロアさんだって分かる。なんで分かるかが不思議なんだけれど……ええと、森の子だからだろうか?

「え、く、クロアさんなの?」

「いや……驚いたな。まるで別人じゃないか」

そして、ライラとマーセンさんは大いに驚いていた。こちら2人はクロアさんの変装に気づかなかったらしい。ラオクレスは……驚かなかった自分に驚いている、みたいな顔をしている。まあ、ラオクレスはクロアさんの変装を見破れてもいいと思うよ。僕と同じだけ、クロアさんとは付き合いが長いわけだし。

「お客様。潜入している密偵にそのようなことを仰らないでくださいませ」

クロアさんは完璧な一礼をしながら、そう言った。あ、うん。そうだよね、ごめん……。

「……そんなに私達が心配だったかな?」

「いえ。単なる時間稼ぎ……或いは別件で御座います。詳しくはまた後程、ということで」

クロアさんはにっこり笑って、僕らをゴルダのお屋敷の中へと導いていく。……メイドさんが板についている。すごい。これがプロの密偵さん……。

メイドクロアさんに案内されて、僕らはゴルダのお屋敷の中を進む。

何かあるんだろうなあ、と思いつつ、僕らはメイドクロアさんに案内されるがまま、屋敷の中、応接室らしい場所に通されて……。

ドアを開けて、クロアさんが一礼する。クロアさん自身は部屋の中には入らないらしい。さっ、とクロアさんはどこかへ行ってしまった。……なんだろうなあ。

でも、クロアさんを気にしてここで立ち往生しても仕方がない。僕らは意を決して、部屋の中へ入る。すると……。

「……おや、町長殿がいらっしゃったのですか?な、何故?」

ゴルダの領主の人が僕を見てちょっと慌てた。

「こんにちは。お邪魔します。あ、お土産です」

他所のお宅へ行く時はお土産。妖精洋菓子店のお菓子の箱を出すと、ゴルダの領主の人は困惑しながらそれを受け取った。

「あの……それで、その、町長殿」

「はい」

「本日は、どのようなご用件で……?」

「えっ」

ご用件って……1つしか無いんじゃないだろうか。

「その、うちの騎士が面会するというので……」

「えっ、そ、それに同行していらっしゃった、と……?」

……そんなにおかしなことなんだろうか。別にいいじゃないか。

「し、しかし……あまり面白い話にはならないと、思いますが……あの、別室で待機なさいますか?」

「いえ、お構いなく……あ、居ると迷惑ですか?」

「い、いえ!そんなことは……」

ゴルダの領主の人がちらり、と振り返る先に居るのは、1人の女性だ。クロアさんよりは年上に見えるけれど、僕の親よりは年下。そんなかんじ。

……多分、この人が、ラオクレスが殺してしまった人の遺族、なんだろう。

ゴルダの領主の人は戸惑っていたし、それにつられてか、遺族の女性も何故か戸惑っていた。けれど、別に僕が同席していても居なくても、話の内容は変わらないはずなので、僕はそっと、それでいて堂々と、一番端っこの席に座らせてもらった。

……そうしたらライラは僕より更に端っこの方に座りたがったので、一番端っこはライラに明け渡したけれど。

「で、では……面会を始める、ということで……」

なんだかやりづらそうにしているゴルダの領主の人の声で、面会は始まった。机を挟んで向かい合うラオクレスと遺族の女性、そしてそれぞれの隣に座っているマーセンさんとゴルダの領主の人とが居住まいを正す。

「……その、私の夫を殺したのは、あなたなのですね?」

そして、最初に遺族の女性がそう、切り出した。それにラオクレスは緊張したように、体を強張らせる。

「……ああ」

ラオクレスが返事をすると、遺族の女性はそれに頷いて、淀むことなく、決まっていた台詞を喋るみたいに話し始めた。

「この十年あまりの間、私がどれほど苦しんだかお分かりですか?愛する夫を奪われる苦しみがあなたに分かりますか?本当に悔しいです。私の夫はあなたに殺されたのに、あなたはまだこうして生きているだなんて!」

……ラオクレスに会ったらこう言うぞ、って、決めていたのかな。いきなり、本当にいきなり、喋り出したし怒りだした、っていうか……感情の起伏が激しいというか、なんか、そういう印象を受けた。

それと同時に、女性の言葉がすごく、辛い。

……遺族の苦しみも分かるし、それを聞いているラオクレスが辛いだろうな、と思うから、それで、辛い。

「片時たりとも、あなた方への憎しみを忘れたことはありませんでした。あなた達に殺された夫が生きていたなら、今、どう過ごしているだろうかと、そればかり考えているんです。そして、憎いあなた達がどう過ごしているのか、とも」

ぎゅ、と、ラオクレスが唇を引き結ぶのが見えた。マーセンさんも同じような表情をしている。

けれど2人とも、俯くようなことはしなかった。目を逸らすことなく、遺族の女性をじっと見つめて……その視線に、遺族の女性はちょっと、たじろぐようだったけれど。

「あなた達が精霊の町で豊かな暮らしを送っていると領主様からお聞きしました。許せません。よくも、人を殺しておきながら、悠々と暮らしていられますね?どうせ夫のことなんて忘れて、無責任に過ごしているのでしょう?」

「……あなたの苦しみには遠く及ばないが、俺も、俺が殺したゴルダの民について、忘れたことはなかった。無論、それが責任を果たすことになるとは思っていない」

ラオクレスが罪を忘れたことなんてないって、僕は知っている。

それですごく苦しんでいたのも知っている。

……それで、今、その罪を吹っ切ってほしい、っていう僕の我儘に付き合わせて、余計に苦しめているのも、分かってる。

けれど……その我儘で、苦しませる分以上に、彼が望むことをできるんじゃないか、って、信じている。

「なら、罪を償ってください!今まで何もしなかったくせに、反省しているなんて言うんですか?謝るだけなら誰にでもできます!」

女性はそう言って、ラオクレスに詰め寄る。

するとラオクレスは……袋を、テーブルの上に乗せた。

ジャラ、と重そうな音がするそれに何が入っているか、僕は知ってる。……彼らのお給料だ。奴隷身分から解放されて、正式にお給料が出るようになって、そこでの最初の、お給料。その全額。

……お金の袋がテーブルの上に乗る音を聞いて、女性の目が袋にくぎ付けになる。

「俺達は長らく奴隷だった。ついこの間、奴隷身分ではなくなって、給金が出るようになった。これはそれだ」

ラオクレスは、袋をそっと、女性の方へと押し出した。

「俺には、どうすれば死者に償えるかが分からない。いや、分からなかった、と言うべきか……とにかく、彼に妻が居たならば、1つは償いの方法がある。今まで苦しい生活をさせてきたことと思う。これからは、あなたの生活は俺が保証しよう。何一つ不自由させない」

……すると、女性は袋に手を伸ばして、袋を取って……。

「いや、しかし!金で人の命を買うようなことがあってよろしいのでしょうか!私はそうは思いません!我が領の民が苦しめられてきた事実を考えれば、金程度でどうこうできる問題ではないかと……!」

そこで、ゴルダの領主の人がそう言った。すると、女性は慌てて袋から手を放した。

「勿論、金で人の命が贖えるとは思わない。だが、遺族が生活に不便するようなことがあるなら、それが更なる罪になると思うだけだ。これで許してくれなどとは言わない」

ラオクレスは誠実だなあ、と、思う。それが余計に見ていて辛いし、そんな彼を苦しめる人達が嫌だし、でも、目の前の女性にはラオクレスにそうする権利がある、というか……。

……取り返しのつかないことがあるっていうことが、辛いなあ、と、思う。

「私は、あなた達がゴルダの地で奴隷として過ごすことを望みます!そうして償ってください!夫が生きていたら、彼もきっとそう望むはずです!」

女性の声が、一際大きく、部屋の中に響いた。

皆が黙る。女性は『これ以上言うことは何もない』と言うかのように口を噤んでしまったし、ラオクレスとマーセンさんは何か言うべき言葉を探すかのように黙っている。ライラは何か言いたげだけれど、言っていいものか迷って黙っている。僕も似たようなかんじで……。

「まあ、そういうわけで……」

ゴルダの領主の人が、沈黙を破って、喋る。

「もし、あなたに罪の意識があるのなら、ゴルダ領で奴隷としてあなた方を雇う準備はできております」

彼はそう、ラオクレスとマーセンさんに、持ち掛けたのだった。

「彼らはもう奴隷じゃない!」

僕は思わず、声を出していた。それに、ゴルダの領主の人は驚いていたし、誰より、ラオクレスが驚いているように見えた。

「……だから、また奴隷になれだなんて、おかしい」

ゴルダの領主の人を見つめてそう主張すると、ゴルダの領主の人は慌てたように言葉を付け足していく。

「え、ええ。そうです。ですから……その、あくまでも、罪の意識があるなら。他でもない、彼らの自由意思によって、一定期間奴隷になってもらう、ということに、なるのですが……」

卑怯だ、と、言いたい。何が、罪の意識があるなら、だよ。それって脅しじゃないのか。

……でも、それが、必ずしも不当だとは言えなくて……絶対に、ラオクレスの良心の呵責に付け込んでいるって、思うのだけれど、でも、それって、人を殺してしまった彼にとっては、受けるべき罰なのかもしれなくて……でも、僕は、絶対にラオクレスを森の外へやる気なんて、無くて……。

「……おい、首輪の準備はどうしたのだ。もう持ってきていい」

僕の頭の中、言葉がぐるぐるしていたら、ゴルダの領主の人のそんな声が聞こえる。

首輪、っていうのが何のことかは、分かる。

……奴隷の首輪、だ。

この間、ラオクレスが外したばかりの。外して『違和感がある』って言っていた。その違和感のあまり、管狐を首に巻いてみた、あの時の……。

僕の頭がいっぱいいっぱいになってきた、その時。

「そ、それが……何故か、奴隷の首輪が、見当たらず……」

召使いらしい人が、そう、言った。

「なんだと!?」

ゴルダの領主の人が慌てる。遺族の女性もおろおろしている。召使いの人もおろおろしている。

……そんな彼らを見ながら、僕は思った。

多分これ、クロアさんだなあ、と。

どういうことだろう、とは思う。クロアさんは『時間稼ぎ、或いは別件』って言っていた。ということは、ええと……これは時間稼ぎ?何か、もっと違うことをやろうとしている?ええと……。

……慌てているゴルダの領主の人を見ながら、僕は、どうしていいものやら考えあぐねて、いっそのことこのままラオクレスとマーセンさんを攫ってライラと一緒に逃げてしまった方がいいかな、とか、そういうことまで考え始めて……。

そんな時、ふと、喧噪が聞こえてきた。

窓の外を見ると、わいわいと人々が騒いでいるのが見えた。……すごい数だ。ゴルダ領主のお屋敷の庭を埋め尽くす勢いで集まった人達が、何か、主張を繰り返している。

なんだなんだ、と思っていたら……。

「よーし!そこまでだ!」

……そこに何故か、扉を蹴破る勢いでフェイが入ってきた!

「そいつは被害者の妻じゃねえ!全く何の縁もない、ただ領主に雇われただけの、赤の他人だ!」

しかも、なんだか衝撃的なことを言っている!