軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話:地の底からこんにちは*2

大きな花は、僕の身長を遥かに超えた位置に花をつけている。

僕の胴体ぐらいある茎が伸びて、僕がベッドにできそうな大きさの葉を生やして……そして、発光する宝石の光を浴びて、ゆったりと、動いていた。

……花って動くんだなあ。まあ、精霊様だろうから、当然か。

それから、飛び交う蛾は、真っ白だ。ちょっと茶色がかった淡いグレーで模様が少しあって、腹の横には不思議な模様。シロヒトリの仲間だろうか。でも、大きさは小鳥ぐらいある。普通の蛾よりはずっと大きい。

真っ白な蛾は、ぱさぱさ、と存外軽い音を立ててホバリングしている。枯れ葉が舞うような音は、聞いていてちょっと落ち着く。

そして、蛾の真っ黒な目が、じっと、僕らを見つめている……ように見える。

それから……花が動いて、僕らを見下ろした。

ふにゃり、と動いた茎がその先の花を僕らの方へ向けて、そして、花の中心で、めしべとおしべがフラフラ動いている。

……花は、金色だ。こんな洞窟の中なのに、輝いてまるで太陽みたいに見える。綺麗だなあ、とぼんやり思う。

「こんにちは」

早速、僕は花の前に一歩踏み出して、声をかけてみる。

すると、フラフラ、と、おしべが僕に向かって伸びてきて……。

「おい、トウゴ!戻れ!」

「え、でも、ご同業だし……」

ラオクレスは焦って僕を背後に庇ってくれたけれど、僕はラオクレスの後ろから顔を出して、伸びてきたおしべを捕まえた。握手。

すると、大きな花のおしべが、僕の手に合わせて、フラフラ、と、上下に揺れる。うん。握手握手!

「お招き頂き、ありがとうございます。これ、お土産です」

それから妖精洋菓子店のお菓子の包みと、水晶の湖の木の実の包みとを差し出す。

すると、おしべがもう一本伸びてきて、包みをそれぞれに受け取ると、花の根元に下ろした。そこには蛾が集まっていって、器用に包みを開けて、中のお菓子と木の実とが見えたところで、喜ぶようにくるくるとお土産の上を飛び回る。

「気に入って頂けましたか」

どうやら喜んでもらえたらしい。ちょっと安心して聞いてみると、今度はまた、おしべが数本、僕に向かって伸びてきた。

ラオクレスが一気に緊張するのが分かった。でも、彼は動かなくて、でも、何かあったら背後の僕だけは守り抜こう、とでもいうかのように、盾を構えて……。

そして、おしべはくるり、と僕の胴に巻き付いて、そのまま僕を持ち上げた!

……そうして、僕は、花の上に下ろされた。金色の花の上、柑橘類みたいな爽やかな香りがするそこで、なんとなく正座して居住まいを正していたら、鳥が飛んできて、招かれても居ないのに花の上に停まった。そして、キョキョン、と鳴く。……図々しいなあ、こいつ。

けれど、相手は心が広かったらしくて、鳥が上に停まっても文句を言うでもなく、ただ、おしべで鳥をつつき回して、それで満足したらしい。

僕も鳥同様におしべであちこちつつかれて、ちょっとくすぐられて、それで終わり。

……多分これ、親愛の表現、なんだろうな、と思う。多分。うちの魔王にちょっと似てる気がする。

「ここの蛾は、騎士ですか?」

聞いてみると、花は何も答えなかったけれど、蛾が飛んできた。

小鳥くらいの大きさの蛾は、小鳥以上にふわふわしている。

「……綺麗だなあ」

……蛾って蝶とは違って綺麗なイメージがあまり無いけれど、こうして見てみると、ふわふわしていて真っ白で、すごく綺麗だ。僕の手の中で懐っこくふわふわしているのがなんとも可愛らしい。用事が終わったら絶対に描かせてもらおう。

「うちの騎士も綺麗ですよ。ほら、あの肉体美。名誉石膏像」

折角だから僕の騎士も自慢してみた。するとおしべがするする伸びて、じっと動かずに堪えているラオクレスの頬のあたりを、ちょこん、とつついて、ちょっと撫でて……それから、ちょっと不思議そうにおしべがひょこひょこ揺れる。

……あ。

「ええと、過去にゴルダの民だったんです。彼」

もしかして、と思って説明してみると、花は納得したようにおしべを揺らして……それで、ぽんぽん、とラオクレスの頭を軽く撫でてから、それからするするおしべを戻した。

それからクロアさんの自慢と紹介もさせてもらった。『ものすごく綺麗だけれど結構森っぽいんです』と紹介してみたら、花はまたおしべで頷いた。

それから今度は、花が蛾の自慢をしてくれた。蛾を呼び集めて、おしべの先に停まらせて、羽の模様を見せてくれた。何か、意味のある模様なんだろうな、っていうことは分かる。多分、この精霊の加護の力が入った模様なんだ。

……僕もこういうの、用意した方がいいだろうか?いや、でもなあ。皆に模様を入れる訳にはいかないし。

こうして僕らはお互いの仲間の自慢をしつつ、お互いに『いいね!』と頷きつつ、親交を深めていった。

……そんな僕らを見上げて、クロアさんが、ポツリ、と呟く。

「精霊様って皆、こうもふわふわなのかしら……」

あの、それ、どういう意味……?

それから僕らはいくらか会話して……いや、会話?花は全然話さないけれど、でも、魔王よりはずっと人間慣れしているというか、人間型の生き物とのコミュニケーションに慣れている、というか……まあ、会話しやすい。

所々、相手の言いたい事が分からないことはある。けれどそういう時は、めしべでちょこんと僕の額をつついてくれる。

そうすると……なんとなく、テレパシーというか、そういうかんじに、頭の中に言葉が浮かぶ、というか……いや、すごく変なかんじなんだけれど、とりあえずそれで、相手の要望は分かる、というか。

今も、『精霊様はこの鉱山全体の精霊様ですか?それともこの地域一帯の精霊様ですか?』っていうような事を聞いたら、めしべでちょこんとやられて、頭の中に突然、鉱山全体の様子がぶわっと流れ込んできたところだ。

……これ、すごく分かりやすいんだけれど、すごく、混乱する。自分が考えていたことなのか、花が見せたものなのかがこんがらがるっていうか……。

「トウゴくーん、交渉、上手くいってるのかしらー」

鉱山の中の様子がなんとなく分かって、この精霊が鉱山の精霊らしい、ということがやっぱり分かって、そんな折、クロアさんが花の根元から声を掛けてきた。

いけない。本題を忘れている!

……改めて、僕は花の上で正座し直して、言ってみる。

「この山の中で、ゴルダ領の人達が毒物を作っていませんか?」

こくん、と頷くように、おしべが揺れた。ああ、やっぱり。

「その毒物が、このままだとうちの森や、レッドガルド領内で使われてしまうんです。森の子らが死んでしまうかもしれない。僕、それは絶対に嫌で……」

僕が説明したら、花は、ぶんぶん、と勢いよく頷くようにおしべを揺らす。

「僕は、なんとかそれを止めたくて……うわ」

途端、花が動き出した。

地面が揺れる。地震だ。

「おい、トウゴ!大丈夫か!」

「トウゴ君!戻ってらっしゃい!」

「震度3ぐらいだから大丈夫だよ」

「しんどとは何だ!お前は時々よくわからんことを言う!」

震度は震度です。地震大国に生まれ育った僕からすれば、このくらいだとあんまり驚かないけれど、クロアさんとラオクレスにはそれぞれ衝撃だったらしい。ものすごく臨戦態勢をとっている……。

「あ、根っこ?」

どうして地面が揺れたのかは、分かった。根っこだ。根っこが伸びてる。

どこへ伸ばしているのかなあ、と思って居たら……めしべが伸びてきて、僕の額にちょこんと触れて、一気に景色が頭に広がる。

……広い空間。洞窟の中。この山のどこか。

そこに、何人かの人が居て、鉱石を砕いて、色々な草や液体なんかを混ぜ合わせては樽の中に詰めている。樽はもう、かなりの数が用意されていた。

そして……イメージの中で、花の根っこが樽の影へちょこん、と伸びて……樽の隙間から、ちょこん、と、根っこの先を差し込んでいた。

「……吸ってる!?だ、大丈夫!?大丈夫ですか!?」

この花、自分で毒を吸っている!根っこの先から、どんどんどんどん、毒を吸っていくのが分かってしまった!

大変だ!この花、責任を感じてか、毒を吸い始めてしまった!何もそんな、『お前の命で責任をとれ』なんてこと、望まないのに!

毒は根っこからどんどん吸い上げられて、花の茎を通って流れてくる。

白い花を色水に活けておくと、花の維管束が色づいていく、っていうのは知っているけれど……それの毒物版だ。

どす黒いような、そんな色が、毒々しく不気味に、花の茎や葉、そして花びらを染めていく。維管束が血管みたいに浮き上がって見えて、すごく……痛々しい。

「花が……トウゴ君!今、どういう状況!?」

「鉱山の精霊様が自分で毒を吸い始めてしまった!」

「な、なんで!?」

分からないよ、それは!

どうしよう、と思いながら、けれどどうすることもできなくて、ただ、僕は花を見守る。

花の周りでは白い蛾達が心配そうに、或いは花を鼓舞するようにくるくると飛び回っていて……そして。

ふわり、と、花が輝いた。

金色に光り輝く花は、その輝きをどんどん増していって……そして。

「……うわっ!?」

枝分かれした茎の先の、蕾みたいな部分から……ぶしゅう、と、すごい勢いで、水を吐き出した!

「……あれ、普通の水だ」

毒を吐き出したのかと思ったけれど、普通の水だった。花は水を吐き出し終えると、ふう、と一息つくように花びらを揺らした。その上の僕と鳥も揺れる。

なんだろうなあ、と思って見ていると、また、花は毒を吸い上げ始めたらしい。茎や葉、そして花弁がまた、毒の色に染まり始めた。

……あ、もしかして。

「……鉱山の精霊様には、鉱山の毒を和らげるお力があるんですか?」

こういうことかな、と思って聞いてみたら……めしべが、ちょこん、と、僕の額に触れた。

頭の中に流れ込んできたイメージから、この花が、この鉱山を守っていて、この鉱山から人の子を守ってきたことが分かった。

鉱山の中には、事故がつきものだ。落盤なんてしょっちゅうだろうし、鉱毒事件なんていうものが僕の世界にはあった訳だし、ただ地面を掘るだけでも、人の子の体に悪いガスが出ることだってある。

……この精霊は、そういった事故から、人の子を守ってきたんだ。

落盤が起きそうなところには根っこを伸ばして地盤を補強して。鉱山から出る毒は自ら吸い上げて、浄化する。

そうやって、この精霊は、この鉱山と人の子を守っている。

大自然が何年もかけてやるような浄化を、この精霊は自分1人だけで、なんとかしてしまえるらしい。

「ラオクレス!クロアさん!なんとかやってもらえそうだ!」

「そ、そうか……」

「どうしましょう、全然進捗が分からないのよね……なんだか花が水を吹き出している事しか分からないのだけれど……」

置いてけぼりになってしまっている2人には大変申し訳ないのだけれど、とりあえず詳しい報告はまた後で、っていうことにして、こっちはこっちでやり取りさせてもらおう。

「あの、大丈夫ですか……?」

花は2回目の噴水を終わらせて、3回目の毒の吸引に入っていた。

けれど……明らかに、元気が無い。1回目よりも勢いが弱い、というか、遅い、というか。

ノロノロと毒が吸い上げられて、それが綺麗な水になって、排出される。排出される水の勢いも、さっきよりずっと弱い。

……明らかに、花は毒を浄化する度に弱ってきていた。

「あんまり無理しない方が……」

声を掛けてみるのだけれど、大丈夫だ、と言わんばかりにおしべで撫でられるばかりで、花は4回目の毒の吸引を始める。

……どう考えても、負担にならない訳が無い。

いくら、この鉱山を浄化している精霊だって、ドラゴン殺しの毒を処理し続けて大丈夫な訳が無いんだ。

僕がちょっと大きなものを描いて出すと寝てしまうのと同じように、この花だって、限界はあるはずだ。なのに、この花は1人で、頑張ってくれている。

……すごく、申し訳ない。

いや、確かにこの鉱山のことはこの花の管轄なんだけれどさ。でも、この花がここまでこの毒を何もしていなかったのって、つまり……この毒が、処理をちょっと躊躇うくらいのものだからじゃないかな、と、思った。

この花の処理能力を超えた毒を処理してもらおうとしてしまっているなら、それは……あまりにも申し訳ない。

「何か手伝えること、ありませんか」

……僕が申し出ると、花のおしべがフラフラ揺れる。ちょっと戸惑うような、そんな素振りに見える。

「何か手伝いたい。僕だってこっちの鳥だって、一応、精霊です。うちの森を守るためなんだから、僕はあなたに協力しなきゃいけないと思う」

僕がそう主張すると、隣で鳥が『えっ』みたいな顔でこっちを向いてきた。いや、君も手伝うんだよ!

……そうして僕が手伝いを申し出て、少し。

花のおしべが、ちょっともじもじするみたいに動いて……そっと、根本に伸びた。

そして。

「あ、お土産……?」

そっと、僕が持ってきたお土産を、持ちあげて見せてくれた。それから、木の実を蛾に預けると、蛾は器用にも木の実に石の欠片をぶつけて木の実の殻を割って、そして、木の実の中身を……花の根元に、そっと撒いた。

……成程。

「……魔力を提供することで、僕らもあなたに協力できる、っていうことですね?」

おしべがこくりと頷いた。

ならば、簡単だ。

僕の仕事は……この花に、栄養を補給すること!

僕の魔力の続く限り、水晶の湖の木の実を描いて出すぞ!