作品タイトル不明
15話:地の底からこんにちは*1
……そして、夜。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。トウゴおにいちゃん、気をつけてね」
「気を付けてよね、ほんとに。一応、敵陣に殴り込みに行くわけなんだし……」
「殴り込みじゃなくて、話し合い、なんだけれど……」
僕らは、出発することになった。
向かう先は、ゴルダ領。向かうメンバーは……。
「よーし!それじゃあ、精霊様ご一行、出発ね」
僕。それからクロアさんと……。
「今回、クロアはこいつに乗るのか」
「そうねえ、蝶の羽は目立つし……鳥さん。いいかしら?」
……ラオクレスと、そして、鳥。
鳥は『ここぞ出番!』とばかりに、キョンキョン鳴いている。あと、やる気に満ちて、羽毛が逆立って、いつもより更に丸っこい。触るとふわふわだ。
僕ら、3名と1羽。このメンバーで、ゴルダ領の鉱山にお邪魔します。
……精霊、居るかなあ。居たらいいなあ。
今回の作戦は、言ってしまえば単純だ。
鉱山に入る。鉱山に精霊が居たら、協力してもらえるように言ってみる。もし居なかったら……その時は、僕らが自力で、毒をどうにかすることになる。
ラオクレスは道案内だ。ゴルダ領の地理を一番よく知っているのは、ラオクレスだから。
……他の森の騎士に同行してもらう案も出たのだけれど、もし僕らが見つかってしまった時、森の騎士の中にラオクレス以外にもゴルダで働いていた騎士がいるって知られないように、もう顔を見られてしまっているラオクレスだけに来てもらうことになった。
それから、クロアさんは密偵としての勘と情報で、誰にも見つからないような道を選ぶ係。ラオクレスの知識と照らし合わせながら、っていうことになるのかな。
……それで、僕と鳥が、交渉役だ。手土産も持った。手土産は、龍の湖の木の実。あれをライラが染めた浅葱色の薄絹で包んで、妖精洋菓子店のお菓子数点と一緒に持ってきた。
「鉱山の精霊様、喜んでくれるだろうか……」
「まあ……精霊が人間の形をしている可能性は低いだろうな。図鑑やこの鳥を見る限り」
そもそも会話ができるかどうかも怪しいんだよなあ、向こうの精霊……。
色々と不安はあるけれど、とりあえず進むしかない。僕はラオクレスと一緒にアリコーンで2人乗りして、クロアさんは鳥に埋もれるみたいにして乗って飛んでいく。
向かう先はゴルダ領。初めて行く場所だけれど……どんな場所だろう。
夜空の下を飛んでいくと、段々眠くなってきてしまう。途中でラオクレスに『寝ていていいぞ』って言われたので、お言葉に甘えて、うとうとさせてもらった。
こういう時、2人乗りしていると支えていてもらえるから、ちょっと楽ができる。……僕を支えているラオクレスはその分大変だろうから、申し訳ないけれど。
それで、うとうとしてから目を覚まして、それから少しすると……。
「……うわあ」
「ああ、見えてきたな」
微かに届き始めた朝陽に照らされて、黄金色に輝く街が、見えてくる。
ほんの微かな光でも、十分に輝くその街並みは……すごい!金で飾られている!
「ゴルダ領は金細工で有名だとは聞いていたけれど、町がこういう風に飾られているとは思わなかったわ」
「まあ、実際に金で飾られているのは領主邸と街の一部程度だが。そうだな、俺が居た頃は、広場のタイルには金が使われていたか」
よく分からないけれど、すごい。もっとじっくり見ていたい。
……のだけれど。
「急いで抜けるぞ。未明とはいえ、人が居ないとも限らん。町の近くはさっさと抜けたい」
「そうね。了解。……鳥さん、少し急いで頂戴ね」
まあ、今回は町をゆっくり見ている暇は無いし、何なら、町の人達に見つかっちゃいけないので……観光は、また今度。
町から少し離れた位置を抜けて、真っ直ぐ飛んで……そのまま進んでいくと、前方に大きな山が見えてきた。
「あれだ」
「成程ね……。まあ、裏から回るのが妥当かしら」
「だろうな。一応、裏にも坑道がある。見張られている可能性も十分にあるが……」
ラオクレスとクロアさんはちょっと話しながら、道を決めている。
今見る限り、見張りの人は居たとしてもそんなに多くないだろう。だから、裏から入れば、まず大丈夫なんじゃないかな、とも思うのだけれど……。
とりあえず、僕らは山の裏側に着陸した。ラオクレスの言う『裏にある坑道』からも離れた位置だから、人の目は無い。丁度、山の窪んだ位置に着陸したから、着陸するところも見られていない、はず。
「ここから偵察してみる?」
そして早速、クロアさんが密偵らしくそう提案してきた。
「……外から見える範囲だけが見張りの範囲ではないだろう。坑道に入った途端に出くわす可能性もある」
「まあ、そうね。……うーん、なら、出たとこ勝負で行っちゃう?」
「出会った分は、まあ……気絶させて進むか、撒くか……」
クロアさんとラオクレスは早速、中々にアクティブなところを見せてくれている。
……けれど。
なんとなく……その、落ち着かない、というか。
他所のお宅に来て、裏口から不法侵入するっていうのは、失礼だよなあ、とか、色々、思ってしまったので……。
「あの、ごめんください。僕、レッドガルドの森の精霊です。ゴルダの山の精霊様、ご在宅ですか?」
一応、声をかけてみた。
……ラオクレスとクロアさんが、何とも言えない顔で僕を見ている。い、いや、そんな顔で見なくったっていいだろ!
相手が精霊なら、山に居る者の声は聞こえるだろうし、聞こえたら何かしてくれる可能性はあったし……。ほら、一応、僕、ご同業なわけだし、鳥も居るし……。
「……まあ、ご挨拶は、大事、だものね」
「そう、だな……」
今度はちょっと僕を励ますような笑顔でこっちを見てくる!そんなに僕、変なことをしているんだろうか!?
……ということで、僕が不当な扱いを受けていたところ。
ころん、と、何かが落ちてきた。どうやら、小さな石の欠片がぱらぱら落ちてきているみたいだ。
あれ、と思って見上げると……。
「……あら」
「これは……」
……僕らの頭上、山の斜面の一角、ちょっと落ち窪んだそこの岩が横にころころと転がってずれて、その奥にぽっかりと、洞窟が見えていた。
ほら!やっぱり挨拶して正解だった!
どうやらこの山には精霊が居るらしい。僕はなんだか元気が出てきた。よくよく考えると、他所のご同業に会うのは初めてだ。楽しみだな。
「こんな道は知らなかったな……いや、俺とて、この山にそう長く潜っていたわけでもないが……」
ラオクレスもこの道は知らないらしい。ランプを掲げて道の先を照らしながら、慎重に進んでいく。
「……そういえば気になっていたのだけれど、あなた、よくこの山のことも知っていたわね。騎士として山の警備でもしていたの?」
「いや……犯罪奴隷になってから、鉱山の採掘に使われていた。尤も、他の労働者達が俺に対してどう接していいのか測りかねて、あまりにもぎくしゃくしたものだから、すぐ市に売られたが」
あ、ああ、そういう……。ラオクレスの職歴って、聞けば聞くほど、その、いたたまれなくなりそうだ。
「この道は下へ下へ続いているようだな」
「そうねえ。螺旋階段みたいだわ」
しばらく歩いて、僕らは大分、下った、と思う。
暗い中、周囲は岩壁だらけ、っていう状況だから、方向感覚なんてとうに消え失せてしまっているのだけれど、でも、多分、全体的には下へ下へと降りているところ、じゃないかな、と思う。
「……もしかしたら本当に、精霊様がいらっしゃるのかしら」
「多分、そうだと思う」
僕が呼びかけたら、道を示してくれた。この道を進む僕らは、今のところ、誰とも出会っていない。
だから……きっと、この山の精霊が、僕らを招待してくれているんだと、思うんだけれど。
「あっ、また鳥さんが後ろでつっかえてるわ!道理で静かだと思った!」
「君、もうちょっと縮めない?」
「……仕方ない。少し引っ張るぞ」
……あの、山の精霊様、すみません。ご招待頂いているのに、特別な道まで用意してもらっているのに、うちの鳥が……うちの鳥が……。
道中、4、5回くらい、鳥を引っ張って、すぽん、とやった。鳥の大きくて丸っこい体だと、狭い道だとつっかえて詰まってしまうんだよ。でも引っ張れば通り抜けられるんだから、やっぱりこの鳥、羽毛で大分かさ増ししてるんじゃないだろうかと思う。
「大分降りてきたが……」
「うーん、少なくとも、この先に毒があるとは思いにくいわね。多分この道、ゴルダの人達も知らないんじゃないかしら……」
そろそろ終点にならないかな、と思いながら僕らが歩いていると……。
カサリ、と、音がした。
枯れ葉が舞うような音。それから、ぱさ、ぱさ、と、軽いもので風を起こすような、そういう音。
何だろうなあ、と思いながら、音のする方……前方を気にしながら、進むと。
突如、広い空間に出た。
ぽっかりと高い天井。鳥が飛びまわれるくらい広い部屋。そして壁面には発光する宝石の結晶がきらきらしていて、部屋の中はぼんやりと明るい。
……その、広い部屋の真ん中。
ぼんやり光る、大きな大きな花があって、その周りを真っ白な蛾が飛んでいた。
……この花が精霊様だ、と、僕は直感でそう理解した。