軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話:準備も楽しい結婚式*2

こうして、僕らは結婚式の準備を始めた。

フェイと僕がはしゃいでいたら、ちょっと森に花が咲き始めてしまった。僕がはしゃぐと森もはしゃいでしまうらしい。まあしょうがない。僕は森だし、森は僕だし。うん。

けれどその花を見つけて僕が大はしゃぎしているのを察知したクロアさんが駆けつけてきて『こういうのは花婿さんと花嫁さんが第一に決めるべきなのよ!本人達よりはしゃいでどうするの!気持ちは分かるけれど!』とお叱りの言葉が飛んできた。本人達よりはしゃいでごめんなさい。でも、森に季節を先取りして花が咲いてしまうのは我慢しておくのが難しいからお目こぼしいただきたい……。

……ということで、準備はマーセンさんとインターリアさんの意見を聞きながら進めていくことになる。

とはいっても、2人とも結婚式のイメージがあまりないらしいので、ある程度は僕らがサンプルを考えて、数パターンを描いてみて、その絵の中から選んでもらう、っていう形にした。

ただ……やっぱりそれにも限界はあるので。

「ドレスだらけだ」

「そりゃあね。ドレス専門の仕立て屋さんだもの」

……クロアさんお勧めのドレス屋さんに、僕らは来ています。

ドレス屋さんに来ているのは、僕とインターリアさんとマーセンさん、そして、しっかり変装したクロアさんだ。

……秘書風の恰好をしたクロアさんは、何故か、いつもの金髪じゃなくて黒髪になっている。髪の毛どうしたの、と聞いたら、カツラよ、と言われた。いや、違和感が無いからカツラに見えない。すごいな、最近のカツラとクロアさん……。

そして、インターリアさんとマーセンさんは私服だ。騎士達の私服姿は、なんというか、詰め所でくつろいでいる時の恰好とも違うから、ちょっと見慣れない。新鮮だ。

クロアさんは早速、店に入ってお店の人に何かを言って、何かを見せて、また別の何かを渡すと……お店の人はにっこり笑って、お店の外に『臨時休業』の札を出した。す、すごい。クロアさんは一体何をしたんだろう……。

「な、何したの?」

「ああ、下手な貴族とこのお店で鉢合わせしたら、私の正体が分かっちゃいそうだったから。臨時休業ってことで貸し切りにさせてもらったの」

「どうやって……」

サラッと言ったけれど、それ、とんでもないことなんじゃないだろうか。

「簡単よ。私、ここの上客だもの。会員証を見せればすぐ特別待遇になるわ。それに……ちょっと賄賂を、ね」

うん。……あ、成程。宝石か。道理で。王都に来る前に『ねえトウゴ君、1個、大したことないけれど大粒で綺麗な宝石、くれないかしら』って言われたの、それか。納得。

「さて。じゃあ早速、選びましょうか。この仕立て屋のドレスならどれを選んでも間違いは無いわ。王家御用達なのよ」

……店に並んでいるドレスは、どれもこれも、すごく綺麗だ。僕は服飾の知識はほとんど無いけれど、安っぽさが無い、というか、そういうのは分かる。

繊細なレースや緻密な刺繍。たっぷり使われた上等な絹の布。惜しみなくあしらわれた金銀や宝石。洗練されたデザイン。……こういう手の込んだ美しいものは、見ていて楽しい。こういうのも1つの芸術だ。

「お、王家御用達……!?」

「そうよ。まあ、あの王家は大したこと無いけれど……この国で『この店でドレスを買いました』って言えば、オーダーメイドのドレスじゃなくったって馬鹿にされないわね。品質は私が保証するわ」

成程。それで、クロアさんはここがお勧め、と。

……クロアさんの密偵現役時代は、ここでドレスを調達していたのかな。上客だって言ってたし。成程、確かにクロアさんに似合いそうなやつがたくさんある……。

「しかし、私には、こういったものは、似合わないのでは……」

「似合わないと思ったら、『このデザインでこの色』とか、『ここの形だけ変えたい』とか、そういうのなら対応できるから言ってほしい」

そして、ある程度の改造なら僕にもできるから、そこは安心してほしい。

「い、いや、あまりにも恐れ多い……」

「そうね。私の見立てだと、ここら辺がいいと思うわ。色合いは大体この辺りかしら。……折角だから花嫁衣裳以外のドレスもあってもいいわね。なら色合いは……」

インターリアさんはこういう場所に不慣れなのか、縮こまってしまっている。マーセンさんはその隣でぽかんとしている。けれど、クロアさんは慣れた様子で店の中を闊歩して、幾つかのサンプルを手に戻ってきてはインターリアさんに当ててみて、色合いや形について吟味している、らしい。うん。クロアさんが居てくれてよかった。

「クロア殿!こ、こんな高価そうなドレス、私にはあまりにも不相応だ。クロア殿、私は……」

「あら、いいのよ。値札なんてあって無いようなものだから」

インターリアさんは遠慮がちにまごまごしているのだけれど、クロアさんはそう言って、それから、ちょっと真剣な顔でインターリアさんを見つめる。

「いい?結婚式なんて、花嫁が綺麗になるための機会みたいなものよ。あなたが主役なの。遠慮なんて何も要らないわ。人生で一番の我儘を言うぐらいの気持ちでいて頂戴。だって、あなた、花嫁さんなのよ?楽しまなくっちゃ損だと思わない?」

そう言って……クロアさんはにっこり笑って、そして、言った。

「ということで、インターリアさんはこれ、試着してきてね。背中が編み上げになっているから、マーセンさんがやって。トウゴ君はその間に、こっちのドレスの色違い、描いて出しておいて。私はまた別のドレス、探してみるわ」

クロアさんにてきぱきと動かされて、僕らはそれぞれ動く。

ところで僕が描いたらドレスが増える訳だけれど、ドレスが急に増えてお店の人、困らないだろうか……。

……まあいいか!

「ところでクロアさん」

「あら、何?」

クロアさんが別のドレスを探す傍ら、折角なので聞いてみる。

「クロアさんは、ドレスは要らないですか?」

すると、クロアさんはきょとん、として、ぱちぱちと瞬きをした。

「いや、クロアさんも参列するならドレスが要ると思ったし、その、そもそも、僕はあなたにとびっきりの贅沢を提供することであなたをモデルとして雇っているので……」

僕がそう説明すると……クロアさんは、途端にころころと笑いだした。

「あらあら!そんなの、もう十分すぎる程の贅沢させてもらっているのに!」

そうだろうか。でも最近は全然そういうの無い……というか、僕が10か月も寝ていたので。

「そうね……でも、折角だし、そういうことなら私も一着、おねだりさせてもらおうかしら」

でも、ここは流石のクロアさんだ。にっこり笑って、下手な遠慮はしない。早速、インターリアさんのドレス探しと同時にクロアさん自身のドレスも探し始めたみたいだ。

「ついでにカーネリアちゃんとアンジェにもお土産で一着ずつあってもいいかと思うんだけれど……あとライラ」

「そうね。あの子達のサイズは大体分かるし、子供は体にぴったりしたドレスじゃあ動きにくいでしょうから、ちょっとゆとりがあるものを選んでいけば丁度いいわね。ライラのも任せて。良いのを選びましょう」

よし。そっちも選ぶとなると大変だ。さっさとクロアさんご所望の絵を描かなければ。

「あ、そうだわ。レネちゃんは?レネちゃんにはドレス、お土産にしなくていいの?」

「レネって女の子かどうかわからないから……」

「あら。男の子だって、似合うならドレス着ていいと思うわ。何ならトウゴ君も、着る?」

着ない!

こうして無事、インターリアさんにぴったりのドレスが見つかった、らしい。

最終的にはインターリアさんとマーセンさんの好みで決めた、ということだったけれど、クロアさんも大満足らしいよ。顔がそういうかんじだ。

ついでにお土産用のドレスも買い込んで、今、マーセンさんが絶賛荷物持ち中。……僕も持つよ、って言ったのだけれど、持たせてもらえなかった。まあ確かに、マーセンさんの筋力なら僕の手伝いなんか要らないんだろうけどさ……。

「ドレスの調整、2週間くらいですって。なら、一緒にマーセンさんの衣装も見つけて仕立ててもらいましょうか」

「また仕立て屋か……いや、踏ん張りどころだな。ああ」

「すまない、クロアさん。我々はこういったことには中々不慣れで、迷惑を掛けているね……」

そして、クロアさんが大満足な中、インターリアさんとマーセンさんは、それぞれちょっと疲れた顔をしている。或いは、戦場に居るような顔をしている。まあ、不慣れなことをするのって、疲れるよね。ところで僕はわくわくが勝っているので疲れてません。

「あら。折角王都まで来たんだもの。用事は一度に済ませた方がいいわよ。このくらい、迷惑でもなんでもないわ」

クロアさんは優しくそう言って、それから……マーセンさんを見て、言った。

「それに……まあ、マーセンさんの服は、2週間じゃあ、済まないでしょうし……早めに見繕わなきゃね、とは、思ってたの」

……うん?

それから結局マーセンさんの服も見た。ドレスよりもずっと種類が少ないから、選ぶのは拍子抜けするくらい簡単だった。

ただ……こちらは仕立て直しというか、もうオーダーメイドで作ってもらうことになった。

……成程。クロアさんが言っていたことが分かった。

要は、名誉石膏像であるマーセンさんに合う礼服なんて、オーダーメイド以外に無いんだ!

インターリアさんもだけれど、特にマーセンさんは体格がいいから、新しく服を仕立てないとその鍛え抜かれた筋肉が収まらない!成程!

「……これ、ラオクレス達も連れてこないと、結婚式に参列する服が無い?」

「まあ……私としては彼らが盛装するところ、興味があるけれど。彼らは甲冑姿じゃないかしらね……」

あ、成程。そう言われればそうだ。森の騎士団は甲冑姿が正装。盛装じゃないけど、正装。

「……式典とかお祝いとか用の鎧、作ろうかな」

「あらあら。それは楽しみね」

うん。折角だから、名誉石膏像の皆さんには格好良くいてほしい。それにやっぱり、お祝い事だから!

それから僕らはクロアさんお勧めのご飯どころでご飯を食べて、のんびりして、それから帰るために王都郊外までのんびり歩いて行くことにした。

ほら、街中だとインターリアさんとマーセンさんを乗せてきた天馬が目立つし、それ以上にアレキサンドライト蝶のクロアさんが目立ってしょうがない。

……なんでこんな目立つデザインの生き物を描いてしまったんだろうか、僕は。いや、クロアさんに似合うし、森の花の蜜を吸っているアレキサンドライト蝶の姿は中々に綺麗で好きなんだけれどさ。

そういう訳で、召喚獣を出しても目立たない場所まで、王都の通りを歩きつつ、途中のお店で皆へのお土産を買いつつ、僕らは進んでいって……。

「あ」

そこで僕は、見つけてしまった。

ぴかぴかした金色の派手な格好を。

……ゴルダ領の人が、向こうからやってくるのを。

「ん?トウゴ君、どうした」

一瞬、迷った。今のマーセンさんとインターリアさんは私服だ。鎧姿じゃないから、騎士だと思われることもないかもしれない。

けれど2人とも『これ無しに精霊様を連れて出歩くわけには……』ということで帯剣はしている!あ、やっぱり駄目だ!素知らぬ顔して通り過ぎるのはちょっとリスキーだ!

ラオクレスだけじゃなくて、インターリアさんとマーセンさんも顔を知られている可能性がある!なら、出会わない方がいいかな、と思って……。

「こ、こっち!」

僕は慌てて、横道の方に皆を連れていく。できるだけ、怪しくないように。おかしくないように。違和感が無いように……。

「……誰か居たの?」

横道に入ってすぐ、クロアさんがそう、聞いてくる。

「ゴルダ領の人が居たから、つい……」

なのでさっさと話してしまうことにした。……マーセンさんとインターリアさんはちょっと不快な思いをするかもしれないけれど、でも、僕、なんとなくあの人、苦手だから……2人のことはさておき、できれば避けたい。

「……そう」

そこでクロアさんは、ちら、と大通りの方を見て……そして、僕らをそっと、押しやった。

「先に行ってて。様子を見てから追いかけるわ」

「え」

そ、それはまた、なんで。

僕がぽかんとしていると、クロアさんは……ちょっぴりサディスティックな笑みをじんわり浮かべて、獲物を見つめる肉食獣みたいな目で、通りの向こうを見ていた。

「ゴルダ領主は要注意なのよ。レッドガルド家率いる貴族連合に与するでもなく、中立を気取って宙ぶらりん。そいつが今、王都に居るってことは……何かあるかもしれないわ」

……どうやら、クロアさんは、まだまだ現役らしい。

「1人で大丈夫?」

「ああ、大丈夫よ。1人の方が動きやすいし、そもそも、心配が要るようなことはしないわ。ただ、そうね。もし私がペガサス達のところに30分戻らなかったら、先に帰ってフェイ君に相談してくれる?まあ、10分ぐらいで戻ると思うけれど……」

なんというか、まるで緊張したところのない言葉に、ちょっと気が抜ける。

「まあ、折角だからお土産をもう一つ、ってところね。そういうわけで、ほら。トウゴ君達は早く行って。私は久しぶりのお楽しみといくわ」

クロアさんは何とも楽し気にそう言って、さっ、と横道を出て大通りに進んでいった。

……うん。まあ、心配はしてないよ。大丈夫かなあ、じゃなくて、大丈夫だなあ、っていうかんじがする。だって、クロアさんだし。