軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20話:魔王との和解*7

「ということで、こちらが完成予想図なんだけれど」

僕らは翌日、早速、魔王に『柄を描き入れていいですか?』の申し込みに行った。

完成予想図というか、『こんなかんじ』っていう絵を数枚描いて持っていった。

全面が星空模様になっている魔王。ワンポイントみたいに数個の星がいくつか固まってデザインみたいになった状態でお腹にある魔王。色とりどりの星がちりばめられた魔王。全体的な色味が白っぽく明るくなった魔王。真っ白の魔王。……色んなパターンがあるよ。

魔王は絵を見ると、目をぱちぱち瞬かせて、『まおーん!まおーん!』と、ちょっと嬉しそうな鳴き方をした。更に尻尾っぽいものを丸めて〇を作って見せてくれる。コミュニケーションしてきた甲斐があったのか、魔王が嬉しそうなのか悲しそうなのかくらいは分かるようになってきたのが嬉しい。

「君さえよければ、君に縮んでもらって、それで、こういう色柄になってもらおうかと思ったんだけれど……どう?」

僕は僕の魔法を説明するために、絵を描いている絵を描いた。そして描いたものが実体化している絵も描いて……魔王の絵を描く絵を描いた。そうすると魔王は瞬きしながらちょっと不思議そうにまおーん。あ、分かりにくいかな。

「ええと、こういう形で君のことを星柄にしようと思うんだ」

ここでもう一度さっきの図を見せると、魔王は大体、理解してくれた、らしい。目を数度瞬かせて……それから、僕が最初に出した完成予想図の中から、ワンポイント星柄の絵を、選んだ。

「これ?」

確認してみると、まおーん。そして、尻尾っぽいので〇を作って見せてくれた。

「じゃあ早速、君を縮めて星柄にしてしまうけれど、いい?」

僕は魔王に筆の先を向ける。

……すると魔王は、まおーん、と鳴いて、尻尾っぽいのでまた〇を作ってくれた!

早速、魔王を描き始める。まずは、魔王が縮んだ状態にしていく。

魔王が縮んだ様子を描くにあたって、僕のことも描いた。大きさの比較ができるものがないと、魔王が縮んだのかなんだかよく分からない絵になってしまうから。

サイズについては、魔王の希望を聞いた。魔王は星模様になっていれば縮んでも構わないらしいので、僕よりちょっと小さいくらいのサイズにさせてもらう。いや、それぐらいだったら夜の国の人達にも親しみやすさを感じてもらえそうだし。

そうして僕は魔王の絵を描き始めた……のだけれど。

「へー。かわいいじゃない」

「りり、せうーと!」

オーディエンスが、増えてる。

「それにしても魔王って触り心地いいわね。寝っ転がるともう、最高」

「……ふりゃー!」

魔王はどうやら安全らしいよ、ということが伝わって、ライラとレネも魔王の上にやってきた。ついでに鳥も来た。

魔王の上で、ライラはころころ寝転がってはにんまり笑顔だし、レネは魔王の尻尾っぽいのをふにふにつついて楽しんでいる。鳥は自分よりも大きな生き物がなんとなく気に入らないらしくて、落ち着かなげに魔王の上を歩き回っていた。けれどその内、鳥の足元からぬくぬくし始めたらしくて、鳥は魔王に寝かしつけられてしまった。すごい。なんか勝った気分だ……。

「騒がしくってごめんね。気にならない?」

休憩する時、レネやライラや鳥も含めて魔王の上で人が騒いでいる様子を描いて魔王に聞いてみたら、魔王は〇を示してくれた。どうやら、魔王としてはこの状況、別に構わないらしい。

「まあ、このぐらいの方が寂しくなくっていいよなあ」

フェイはフェイで、魔王に座って魔王ソファの座り心地を楽しんでいる。ついでに僕の絵の完成待ちまでの時間、休暇と洒落込んでいるらしくて、持ってきた本を読んだり飲み物を飲んだりしている。時々魔王と飲み物をシェアしている。

……うん。飲み物を魔王とシェアしている。フェイが自分を撫でに来た魔王の尻尾っぽいのを捕まえて、それに飲み物を吸わせてみたところ、魔王は『まおーん!』と鳴いた。そして〇を示してくれた。美味しかったらしい。

「……魔王は物を食うのか」

それを見ていたラオクレスが、僕らの昼食に、と持ってきてくれていたバスケットの中から小さなサンドイッチを一切れ取り出して、それを魔王にそっと食べさせていた。魔王は『まおーん!』とまた嬉しそうに鳴いた。そしてまた〇。うん。美味しかったらしい。よかったよかった。

そうして僕らは魔王と触れ合いながら、魔王と僕らとこの世界の絵を描き進めていく。

……魔王が縮むだけじゃなくて、空の色もグレーじゃない色にしたいから、やっぱり、全部まとめて描くことになる。

描くものは前回と同じだ。東の空が朝焼けに輝いて、それを見つめる人々は笑顔。……そして、その人々の中に、縮んだ魔王が混ざっている!そんな絵だ。

絵の中の魔王はご希望通りのワンポイント星模様。模様の図案はそれ単体でも描き起こしてある。ライラに見てもらったら『いいじゃない』というお言葉を頂いた。よし。……人に見てもらって太鼓判を押してもらうのって、その、なんか、いいね。

僕の絵は前回同様、大きめのキャンバスに描いていくから、結構時間がかかる。

『驚いた。まさか魔王が、このようになっているとは。』

時間が掛かるから、絵が完成するまでの日々の中で、竜王様にも魔王の上に来てもらった。

魔王は新しく見る人の姿に『まおーん』と鳴きつつ、興味津々だ。目がじっと竜王様を見つめて、ぱちぱちと瞬いている。

『巨大な猫のようだ』

『僕もそう思います』

そして、僕と竜王様はそんな感想を交わし合った。うん。そうなんだよ。なんとなく、魔王、猫っぽいんだよ……。

やがて、魔王を描き終わる日がやってきた。

「これで、魔王も縮んでこっちに来られるといいんだけれど……」

絵を完成させるときは当然、地上で、だ。魔王の上で絵を完成させたら、縮んだ魔王に乗り切れない僕らは地上に落ちてしまう。だから、僕らは地上。魔王が縮んだら、魔王が自力で地上に来てくれることを期待しつつ……。

「魔王って縮んだら落っこちちゃうかしら」

「あー、かもなあ。そうしたら俺が空中で捕まえてやるよ」

「……なら俺も空中で待機していた方がいいか」

縮んだ魔王をお迎えする用意は万端だ。だから、後は……僕が描くだけだ。

……同じような絵を2枚描くのは、初めてのことだった。

魔王に食べられてしまったから、1枚目を見ながら描くわけにもいかない。下絵は残っていたからそれは参考にしたけれど、色の置き方や細部は、全て今の僕が考え直したものになる。

空に置く色は前回同様、朝焼けの色、なのだけれど……なんとなく、前回よりも、色味を鮮やかにしている。ほら、今の空がグレー一色な分、鮮やかな方がいいかと思って。

それから、人々の視線は必ずしも東に向けられる訳じゃなくて……何人かは、縮んだ魔王を見て笑顔になっている。魔王がこの世界に歓迎されますように。

後は……光。光を、柔らかく描く。

照らされる人々も、建物の屋根も、石畳も、全部全部、強く光に照らされて、金色に染め上げられて、眩しいぐらいに。陰影は濃く。でもその中の人々や魔王はふんわり柔らかく描きたかったから、反射光に照らされるような形で、ちょっと影の色合いを柔らかくした。強い光の表現にははっきりした影が必要だけれど、太陽の反対側から反射光がぼんやり照らしてくるならば、その陰はちょっとぼんやり柔らかくなっていい具合だ。

こういうかんじに、なんとなく、前回の絵よりも全体的に明るく、柔らかい印象の絵になったと思う。

前回は、強いコントラストが強い光の表現になっていた。でも、今回はコントラストが若干弱めで、その分、光も影も、人の表情も、なんとなく柔らかい。

これが理想だ。これが、僕が描きたい未来だった。

……今度は、上手くいく気がしている。

不思議だな、と自分でも思うのだけれど、でも、どうやらそういうものらしい。

上手くいく。きっと、上手くいく。魔王は縮んで、この世界で平和に暮らせるようになって、人々も縮んだ魔王に親しみを持ってくれて、皆、仲良くできたらいい。

夢見がちというか、その、そういう自覚はあるよ。あまりにも理想が高いというか、甘いというか、ええと……ライラやクロアさんに『ふわふわ坊や』と言われてしまいそうな気は、する。

……でもやっぱり、こういうのが、僕の理想だから。これが、僕が絵に描きたい未来だから。

だから僕は、最後の一筆……魔王の尻尾で落ちた影を、描き加えた。

僕が最後の一筆を描き終えると……。

しゅるん。

しゅるしゅるしゅる……。

そんな気の抜ける音がし始めて、魔王が……みるみる縮んでいく!

魔王は、まおーん、と鳴きながら、どんどん縮んでいく。それを見上げる人々は、ざわざわと声を上げながら上空を見上げて、魔王の『まおーん』が段々と重低音から気の抜けたテノール、そしてアルトぐらいの音になるまでをのんびりと聞いて……やがて。

まおーん!と、元気に魔王が鳴く。

そして、魔王が、ゆっくりと、ゆっくりと……僕らの方へ、落ちてくる!

「まおーう!こっちだよー!」

僕らが手を振ると、魔王は宙を泳いで、ふわふわとこっちへ落ちてくる。ある程度は空中でも姿勢を制御できるらしい。流石は魔王。

ふわふわとゆっくり落ちてくる魔王を、フェイとラオクレスがゆっくり見守りながら一緒に降りてくる。地上の僕らはゆっくり待機して、そして。

ふわっ、と、魔王が鳥の上に着地する。鳥は満足げに、かつ偉そうにクッションの役割を果たして、自分と大体同じか少し小さいぐらいのサイズにまで縮んだ魔王を満足げに受け止めた。

「魔王!」

僕らは鳥の上の魔王に早速駆け寄って……そして、魔王が、ぴょこん、と僕に向かって飛びついてきた!

僕はそれを全身で受け止めて、ふにふにした手触りを抱きしめる。

……魔王は僕を尻尾でくるりと巻いて、まおーん、と満足げに鳴いた。

「魔王!無事に縮めたんだな!よかったなあ、おい!」

フェイが魔王をぐりぐりと撫でる。魔王はふにふにと形を変えながら、まおーん、と鳴いた。銀色の円盤みたいな目をぱちり、と瞬かせた後は、ふにゃり、と目を細めて、なんともご機嫌な様子に見える。

「これで少食になった、というわけか」

ラオクレスがそう言いつつ魔王に飲み物を与える。僕が水分補給のために時々与えられていた光るジュースだ。……魔王はジュースのピッチャーに尻尾を突っ込んで、そこからジュースを吸って……そして、ジュースをピッチャーの8分目まで飲んだところで、けふ、と息を吐き出した。

「お腹いっぱいになった?」

まおーん。魔王は満足げに目を細めている。お腹を尻尾でさすりながら。……どうやらお腹いっぱい、ということらしい!

「これで魔王退治しなくてよくなったわね。魔王もこんなに小さくなっちゃったわけだし……ん?」

……けれど。

ライラが、僕と魔王の間に、さっ、と割り込む。僕と魔王は引き剥がされてしまった。何だろう、と思っていたら、ライラはしげしげと、魔王を眺め始めた。

「……ん?」

「ど、どうしたの?」

ライラが訝し気な顔をしているのを見て心配になって、そう、聞いてみたら……。

「……魔王のお腹に、星模様、無いけど。いいの?」

慌てて魔王のお腹を見てみる。すると、魔王のお腹には……無い!描き加えたはずの星の模様が、無い!

「え、うわ、ど、どうして?」

これじゃあ魔王が大変なんじゃないだろうか、と、思ったら……。

……まおーん。

魔王はちょっと小さな声で静かに鳴くと、ちょっと寂し気にお腹を尻尾でさする。……その途端。

「え、うわ、尻尾が!」

「と、溶けた!?」

魔王の尻尾の先が、ほろり、と崩れて、消えてしまった!

魔王は溶けてしまった尻尾の先を、ちょっとしょんぼりした様子で見つめて……それから僕を見て、悲し気に、まおーん、と鳴いた。

……どうしよう。きっと、魔王は星模様無しに縮んじゃいけなかったんだ。魔王が主張していたのは、星模様無しに縮んでも少食にならない、っていうことじゃなくて……星模様無しに縮んでしまったら、魔王は生きていけない、っていう、そういうことだったんだ!

「す、すぐに描くね!」

そうとなったら、描くしかない!魔王が全部消えてしまう前に、急いで、急いで星模様を描かなければ!

僕は早速、絵の具を用意する。

一角獣の角から作ったシルバーグレーの絵の具を月の光の蜜で溶いた銀色の絵の具と、天馬の羽で作った黄金色の絵の具を月の光の蜜で溶いた金色の絵の具。

これらを筆に乗せて、準備完了。

「魔王。おいで」

僕は魔王を手招きして呼ぶ。魔王はてくてくと覚束ない足取りで僕のところまでやってきた。そこに僕は、星模様を描き込んでいく。

……けれど。

「あ、あれ?ど、どうして?」

描いても描いても、消えてしまう。

絵の具は魔王に乗せた端からどんどん消えていってしまって、まるで模様になってくれない。

「ま、魔王。ごめんね、ちょっとだけ、吸収するの、我慢していてくれないかな……」

話しかけてみるけれど、魔王は通じていないのか、はたまたそもそも魔王自身の意思とは関係なく絵の具が消えてしまうのか、まおーん、と悲し気に鳴くだけだ。

そうしている間にも、魔王の耳の端が、また、ほろり、と崩れて消えてしまう!

ただただ僕は焦るばっかりで、でも、絵の具は魔王の体に伸びた途端に消えてしまって、それで……。

……その時だった。

ぽん、と後ろから肩を叩かれて振り向くと……笑顔のフェイが居た。

その手に、勇者の剣の柄を持って。

「おいおい、トウゴ!ここでこそ、勇者の武器の出番だろ!」

フェイがそう明るく言うと、僕に、勇者の剣を渡してきた。つまり……光の筆。

僕が光の筆を受け取ると、魔王は、まおーん、と、ちょっと嬉しそうに鳴いた。

「さあ、やっちまえ、勇者トウゴ!」

……僕はすぐに筆を持ち換えて、光の筆を魔王に向けた。

僕は魔王のお腹に勇者の剣もとい光の筆を向けて……魔王のお腹に、星模様を描き込んでいく。

「……これならいける!」

光の筆で描き込んだ星模様は、魔王のお腹に描き込まれても消えない。極上の絵の具で描き込まれた星模様はまるで本物の星みたいに輝いて、魔王のお腹を彩った。やった、上手くいった!

「よし!んじゃあこのまま魔王に描き込んでやれ!」

「うん!」

これならいける、と思ったら、途端に元気が湧いてきた。焦りも押し留めて、僕はまた、光の筆を動かす。魔王のお腹にはこうして、星模様が描き込まれていく。1つずつ星模様が増えていくごとに、魔王はちょっとずつ元気になっていくようで……。

……けれど。

「うわ」

ぐらり、と視界が揺れる。体が重くなっていく。

描く模様は、そんなに多くない。多くない、のだけれど……どうにも、腕が重くて、瞼が重くて、段々、描けなくなっていく。

……魔力切れだ。

「……トウゴ?ねえ、ちょっと」

「大丈夫。ちゃんと、描いてから寝るから……」

魔力切れだ、というのは、分かった。けれど、ここで寝てしまう訳にはいかない。魔王が心配そうな顔をしている。大丈夫だよ、と伝えて、また筆を握る。大きな筆は、持つだけでも結構難儀だ。でも、やらない訳にはいかない。

ここで僕が寝てしまったら、魔王が消えてしまうかもしれない。そんなの駄目だ。折角、魔王を消さずに済む方法が見つかって、心を通わせることができて、それなのに、こんなところで、僕の力不足で、魔王を消してしまう、なんていうのは……。

がくり、と体から力が抜ける。目が霞む。駄目だ、と思うのだけれど、体がいうことを聞かない。

まだ、ちゃんと魔王に模様を描けていない。まだ、まだ……。

キュン、と、鳥が鳴く。

いつの間にか僕の隣に来ていた鳥は、僕の手から落ちそうになった筆を咥えて、支えてくれていた。

……そして。

「っとと……あれ。トウゴが手、離しても、筆のままね。大分縮んだけど……」

ライラが、鳥と一緒に筆を支えてくれていた。

そして、光の筆は、剣になるわけでもなく、消えてしまうのでもなく……縮んで普通の筆ぐらいの大きさになって、そこにあった。

なんだかびっくりして、現実味が無くて、どんどん意識が遠のいていって、僕は座り込んでしまう。

ライラはそんな僕を見て、鳥を見て、筆を見て……僕に笑いかける。

「安心して寝ちゃいなさいよ。図案、これでしょ?……続き、描いとくわ」

「……いいの?」

なんだか現実味が無い。鳥が端っこを咥えていても、筆は剣にならず、筆のままだ。そして、ライラが筆の真ん中あたりを持っていて、そして……僕の手から、そっと、パレットを持っていった。

「いいわよ。多分、魔力は鳥さんが提供してくれてるんだろうし。なんか知らないけど、これなら私にも光の筆、使えそうだわ。いけるいける」

ライラはそう言うと、早速、鳥に端っこを支えられた筆を器用に動かして、模様の続きを描いていく。

魔王の黒いビロードみたいなお腹に、星の模様が増えていく。魔王は満足げにまおーんと鳴いた。

……ライラと鳥が、ものすごく、頼もしく見えた。光る筆と光る絵の具に照らされた真剣な横顔が、すごく綺麗だった。

魔王のお腹に星模様が描き加えられていく。そして遂に、ライラはやり遂げた。

「よし!これで最後ね!」

ライラが筆を動かして、魔王のお腹に最後の星を描き加えた。途端、魔王は元気に、まおーん!と鳴く。

魔王の鳴き声を聞いて、ライラの歓声を聞いて、僕はなんだかすっかり安心して……目を閉じる。

……おやすみなさい!