軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話:魔王との和解*6

とりあえず、僕らは城に帰って、そこで竜王様に聞いてみることにした。『魔王が星模様になりたがっているんですけれどこれどういうことですか?』と。

すると当然、竜王様は何が何だか、みたいな顔をしたので、順を追って説明していく。

まず、魔王はただ縮んでも少食にはならないらしい、ということ。

そもそも魔王は地上で人々が困っていることに気づいていなかったらしい、ということ。何なら、自分の目の前に飛んできた赤いドラゴン達と僕らのことしか知らない、ということも。

それから、僕が『なんとか少食になってくれないと困る』っていう絵を描いて見せたら、魔王自身のお腹に星模様が描き加えられた状態で自画像を描いてくれたこと。

……以上。

『星模様、というのは恐らく、光の魔力が一定量欲しいということなのだろう。』

少し考えた後、竜王様はそう答えてくれた。

『魔王とは現象であり、魔法である。我々はそう考えている。実際、単なる生物ではないはずだ。』

『僕もそう思います。ただの生き物にしてはちょっと変です。』

魔王って何なのかは、未だによく分からない。ただ、まおーんと鳴く、ふにふにした、とんでもなく大きい、生き物、っぽい、何か……?

意思があるらしいっていうことが判明したのもごく最近なわけだし、まだまだ魔王については分からない。生き物にしてはちょっと変だし、実際、何百年も夜の国の人達は魔王のことを魔法とか現象とかだと思っていたわけだし……。

『光の魔力を一度に大量に得て体の中に星を持ったならば、確かに、それ以上の光の魔力を得ずとも生きていけるようになるという理屈は分かる。』

あ、そういうものなのか。そっか。魔王は、食べずに生きていくために、お腹に星模様が必要なのか。

……それって逆に言うと、星模様が無い今の魔王は、お腹に星模様が欲しくて沢山の光を食べていた、っていうことになる、のかな。

『レネは瞳の中に星を持っている。』

竜王様の唐突な説明に少しびっくりした。突然レネの話になってしまった。

……でも、それは分かる。

レネの瞳は、星空色だ。鮮やかな紺に、光がジワリと滲んだような、そんな色合いをしていて、きらきらしていて、すごく綺麗だ。

『あれは光の魔力の現れだ。レネは幸運にも、魔力を多く持って生まれた。光の魔力も多い。だからあれの瞳はああも美しい。』

竜王様はそう書きながら、ちょっと笑った。……そうか。竜王様も、レネのこと、綺麗だと思うのか。夜の国の人は皆それぞれに風変わりで綺麗だと思うのだけれど、夜の国の人から見ても、レネの目はちょっと特別で綺麗らしい。

そっか。それはなんとなく嬉しい。同じものを見て同じように綺麗だと思えるって、貴重なことだと思う。

『レネはその分長生きするだろうから、空の木の守護の役に選ばれた。』

……けれど、そう知ってしまうと、その……なんというか、少し、寂しい、というか。

レネは生まれつき綺麗で、でもそのせいで、望まない役職に就いていたわけで……。

うにょうにょにわんこ心臓していた時のレネのおっかなびっくりした様子を思い出すと、なんだかすごく、寂しくなってくる。……この世界において、光の魔力って、すごく重要なんだな、とも、思う。

『魔王も光の魔力が欲しいのだろう。奴が生命体だというのならば、その生命の維持のためには光の魔力がある程度必要になるはずだ。魔王は生き残るために光の魔力を欲しているのかもしれない。』

竜王様の話にも納得せざるを得ない。魔王だって生きるために、光の魔力が必要なのかもしれないし……。僕は未だにこの、光の魔力、というものが何なのか、よく分かっていないのだけれども。

『生き残りたいから、という理由以外に、光の魔力が欲しい理由ってありますか?』

他にも理由が何かあるかな、と思って、竜王様に聞いてみる。

すると、竜王様はちょっと考えて……考えて……。

『光ると美しい。』

そう、答えてくれた。

あの、ええと、そ、そうですね……。

そっか。光ると美しいのか。ということは、うちの鳥も、美しい……?

……そういえばうちの鳥、光るのが好きだよなあ、と、ふと思い出した。

「あのさ。君って、なんでそんなに光りたがるの?」

ということで、僕は早速、魔王と同じぐらい意思の疎通が難しい鳥にそう聞いてみることにした。

鳥はキョキョン、と鳴いて首を傾げている。頼むよー。

「光るのって、目立ちたいから?」

聞いてみたら、鳥はまた首を傾げつつ……翼を広げて胸を張った。キョキョン。

……自慢げなかんじがする。ええと、これは、目立とうとしているポーズ、なのだろうか。

「……君、精霊だから目立ちたい、とか、そういうこと、ある?」

これには首を傾げられてしまった。あ、そう。光りたいのはこの鳥自身の気持ちっていうことなのかな……。

分からないなあ、と思っていたら、鳥が自分の羽毛の中に首を突っ込んで……中から金平糖みたいな形の、透明感のある緑の実を出してきた。あ、これ、星マタタビ。……なんで羽毛の中に収納してるの?

突然の星マタタビにどうしていいのか分からないでいると、鳥は咥えた星マタタビをずいずいと僕の口元に押し付けてくる。食べろってことなのは分かるから、しょうがない。食べる。

サクサクした食感。きゅっとすっぱい味。うーん、星マタタビ味だ……。

「……あの、どうしたの?」

何故僕は鳥の体温に保温されて生温くなった星マタタビを食べさせられているんだろうか。鳥に聞いてみても、鳥も『あれ?』みたいな顔で首を傾げている。なんなんだこいつ。

そして鳥はまた羽毛の中から星マタタビを出して、今度は自分で食べて……発光し始めた。この実、猫が食べると発光しながら踊り出すらしいのだけれど、鳥が食べると酔っぱらわず、ただ発光だけするらしい。

鳥は見事に発光すると、満足げに頷いて……そして、また僕に星マタタビを……あの、それ、いくつ羽毛の中に収納してるの?

結局、僕は星マタタビを食べても光らなかった。そりゃ、猫じゃないし……。

鳥はそんな僕を見て、ちょっと不満げというか、残念そうな顔をしている。

「あの、僕を光らせたかったの?」

聞いてみると、鳥がふわふわしながら頷いた。そっか。僕を光らせたかったのか。……駄目だ、全く分からない。

鳥に話を聞いても、まあ、分からないよなあ、と思いつつ、鳥に埋もれてみた。

すぽん、と鳥の胸に埋もれると、なんというか、底が無いくらいふわふわの羽毛にすっかり埋もれてしまって、ふわふわでぬくぬくで気持ちいい。光ってるけど。

「……ということで、鳥に聞いても分からなかった」

「だろうな」

「でも鳥あったかかった」

「それはよかったな」

僕は部屋に戻って、竜王様と鳥からの情報の報告をした。

要は、魔王は光の魔力が単に欲しいか、或いは、綺麗になって目立ちたいのかもしれない、と。ついでにうちの鳥の報告もした。奴は今日も元気に光っています。

「……魔王が何を考えているのかは分からんが」

ラオクレスは光る鳥が窓の外を飛ぶのを横目に見つつ、言った。

「目立ちたい、ということなら、分からんでもない」

「ラオクレスも目立ちたいの?」

「違う」

あ、よかった。ラオクレスが発光したがっていたらちょっとなんか、その、嫌だ……。

「……魔王は長らく、天災の類だと思われていたのだろう?」

「うん。そうらしい」

「なら、目立つことで自分への印象をよくしようとしたか……いや、そもそも地上に人々が暮らしていることを魔王はよく分かっていない様子だったな。なら……」

「俺のご先祖様達に見つけてもらえるように、か?」

あ、そうかもしれない。

魔王は、初代レッドガルドさんや他の赤ドラゴン達にもう一度会いたくて、光ろうとしていた、のかな。勿論、それ以前から光を食べていたみたいだから、生命維持とか、もっと他の理由もあるんだろうけれど。

でも、単純に星模様になりたいっていうのは……きっと、そういう理由も、含まれてるんだろうなあ。

だって、魔王は喋ろうとしてるから。

魔王は、喋ろうとしている。それって、夜の国の人達にとってはすごく珍しいことらしい。今まで魔王は喋っていなかったみたいだし、だからこそ今、びっくりされているんだろう。

……魔王が『まおーん』と鳴くのは、きっと、目立ちたいからだ。自分がここに居る、っていう声を発しているんじゃないかな。気づいてもらうために、今までほとんど発していなかった声を発してみたんじゃないだろうか。

「もし、魔王が喋ってなかったら、僕、魔王を消してしまっていたかな」

ふと、思う。

魔王は『まおーん』と鳴いた。だから僕らは『そういえば魔王だって、消えてしまうのは嫌だよなあ……』っていうことに気づけた。いや、その可能性に思い当たった、というか……そもそも、魔王に意思があるかどうかすら、僕は知らなかった。無いものだと思い込んでいた。

「まあ……そうだよなあ。俺達、魔王が喋って初めて、魔王のこと、考え始めたわけだし」

フェイもそう言いつつ、魔王を見上げて渋い顔をする。

……魔王はなんだか可愛げがあるというか、いじらしいというか、そういうところがあるって、分かってしまった今は……ただ、魔王を消そうとしていたことに、ぞっとする。

「発されない声は存在しないのと同じだ。声を発して、他者に認識されて初めて、存在していることになる。……前の主に言われたことだが」

ラオクレスがそう言って、少し気まずげに続ける。

「『お前が声を発さない限り、お前は存在しないのと同じだぞ』と。……当時、雇われていた庭師と揉め事があった時、俺が黙って罵られていたら、そう、教えられた。お前の言い分も聞かせてくれ、と言われて……まあ、今もその教えを守り切れている自信はあまりないが。だが、まあ、心掛けてはいる」

こういう話をしてくれる時のラオクレス、なんだか好きだよ。僕より長く生きていて、僕より色々な経験があって、それでいて、色々な物事をちゃんと考えてくれている人のこういう話、すごく好きだ。

「……要は、何かを表現するということには価値があるということだ。自分の存在を表明しない者は、存在しないものとして扱われても仕方がないとも言える。だからこそ、自分の考えを、或いは自分の存在を、主張することには価値がある」

ちょっと考える。

発されない言葉は存在しないものと同じ。……うん。それは、似たようなことを先生が言っていた気がする。『だから僕は書くんだぜ、トーゴ』って、言ってた。先生は、先生の言葉と、先生の言葉で表される世界を存在させるために、書いてる。うん。先生が生み出さないと生まれないから。

それと同じだ。何も主張しなかったら居ないのと同じ。うん。分かるよ。

「……そうかもしれない。うん。それは、分かる」

けれど、魔王を見上げて……同時に、思う。

「でも、だからこそ、僕はちゃんと、魔王を確認しなきゃいけなかったように思う……」

声を発さないところの声を聞きに行く努力を怠ってはいけないよなあ、と。

声を発する側は、声を発する努力を怠ってはいけない。けれど同時に、聞く側も、聞く努力を怠ってはいけない……。皆が幸せでいるために、言い漏らしも聞き漏らしも、無い方がいい……。

「まあ……そうかもしれんが」

「結構難しい話だけどなー。まさか喋るとは思ってなかった、って奴が喋るかもしれねえわけだし、かといって、石ころとか虫とかにまで話しかけるのもどうかと思うしよ……」

そうだね。フェイの言い分も分かる。ある程度は、仕方ない。それに、きっとどこかでは、線を引かなきゃいけない。そもそも、聞く側が頑張るよりは、話す側が頑張った方が効率はいいわけだし……。

……だからこそ、今、魔王が『まおーん』と鳴いてくれていることを、僕は嬉しく思うよ。

「ま、いいじゃねえか。今回は魔王が喋ってくれて間に合った!何も取り返しのつかねえことは起きてねえんだ。ま、後は……魔王とのんびり仲良くやろうぜ。あいつ、変わってるけどいい奴だからさ」

「いい奴、か……?」

「和解の可能性は十分にありそうだろ。な?」

うん。僕もそう思うよ。魔王はいい奴。多分。

……うん。大丈夫。まだ間に合う。よし。元気出していこう。

「で、考えたんだけどよ」

そして、フェイは唐突に言った。

「魔王って、精霊の一種なのかもな」

「へ?精霊?なんで?」

僕とご同業?それはまた、なんで。

僕が混乱していたら、フェイがちょっと慌てて解説してくれた。

「ほら、魔法とか現象とか天災とかそういうのに近しいって時点で、割と精霊じゃねえか」

え、え、ちょ、ちょっと待って。精霊ってそうなの?精霊って……そういうものなの!?

「いや、お前は違うけどよ。精霊は大事にされねえと荒むっていうだろ?逆に、悪い精霊も精霊として大事にすれば、その内いい精霊になるっていうじゃねえか」

いや、知らないよ。

……でも、ちょっと分かる感覚だ。日本でも、神様は大事にしないと天変地異とか起こすっていうし、或いは、悪霊でも神様として祀れば神様になってくれる。菅原道真とか、そうだよね。

「だから……魔王って、その、悪くなっちまった精霊みてえなもんなのかな、って思ったんだよな」

「ちょっと悪い精霊は光りたがるものなんだろうか」

ちょっと鳥を見てみる。鳥は『何?』みたいな顔で首を傾げている。……人のパンや餅を横から持っていく鳥は、悪い鳥に含まれるだろうか。ちょっと悪い鳥、には含まれる気がする。うん。

「いや、まあ、あの鳥はまた別としてもよお……なんつうか、こう、光ると人に見てもらえるだろ?それで、信仰されれば精霊としての力を取り戻すっつうかさあ……。うーん、逆に、夜の国の人達に現象とか天災とか魔法だとか、そういう風に思われていたから、魔王ってそういう風になっちまったのかもしれねえよな」

それは……なんというか、すごい考え方だ。

どう思われたかによって姿や力を変えてしまう、っていうのは、成程。確かに、生き物じゃないなあ……。

「何なら、俺達が魔王の存在に気づいたから、魔王も意思の疎通ができるようになったのかもしれねえし。ってことは、このまま魔王を『少食な小さい可愛い生き物』だと思うようになれば、魔王ってそういう生き物になっちまうんじゃねえの?可愛がられると可愛くなっちまう、とか」

「それ、結構難しいと思うけれど……」

現に、魔王、でっかいし。空に居るし。まおーんって鳴くし。うーん……。いや、でも、結構かわいい奴ではある……。

「あー……だから魔王は、星が欲しいのかもなあ。レネの瞳みたいな色合いっつーか光具合っつーか、そういうのになれば、夜の国の人達に好かれて、自分も夜の国にとっていい形になれる、とか?」

……それはどうか分からないけれどさ。

でも、うーん……魔王にとってはもしかしたら、自分が星柄になることが、ものすごく大事なことなのかもしれない。大体、それによって少食になるようなことを伝えてきているし、僕らがそれを手伝わない理由はなくて……。

……よし。まあ、いいや。

「じゃあ、魔王に柄、描いてみる」

魔王を星柄にしよう。レネの瞳に負けないくらいの綺麗な魔王にしてやろう。そうしよう。

魔王がそれを希望しているっていうのなら、僕はそれを叶えてあげたい!