作品タイトル不明
1話:ドラゴンにも餅は美味い
「知は力なり……ふっふっふ」
先生がそう言いながら、フライパンの上で何かを焼いている。じゅう、ぱちぱち、と、脂が弾けるような音がして、それと同時に、少しスモーキーな香りが漂う。
台詞からしてもどうせベーコンだろうと思って覗き込んだら、案の定、ベーコンだった。そうだよね。分かるよ。フランシス・ベーコン。
「お?どうした、トーゴ。ベーコンエッグ、食うか?いや、食え。もう2人前、作っちまってるのでね。ついでに賞味期限切れの卵を消費してくれ」
食べ物を貰うのはなんとなく申し訳なくて断ろうと思ったけれど、既に作られてしまっているならしょうがない。ありがたくいただきます。
「ちなみに卵は冷蔵庫に入れとくなら1か月以上余裕でもつ。4度条件下なら60日以上らしい。ってことでまあ、賞味期限は気にせずに食べたまえ」
「うん」
元々、僕はそんなに賞味期限は気にしてない。賞味期限はそんなに気にするものじゃない、って、先生と学校の家庭科で習った。まあ、僕の親は賞味期限をものすごく気にする人だから、僕の家では賞味期限切れの食べ物を食べる機会はほぼ無いんだけれど。
「普段ならベーコンエッグだけつついて終わりにするところだが、今日は妙に腹が減ってなあ。よし。パンも焼いちゃうぞ。で、あとは麦茶か……いや、折角だから紅茶でも淹れるか?お徳用ティーバッグだが」
「僕、麦茶がいい」
「そうか。じゃあ麦茶でいいことにしよう。いつもの如く。……あ、お湯割りにするか?」
「うん」
先生はフライパンにジュッと水を入れてから蓋をすると、トースターにパンを突っ込んで、それから麦茶ポットから僕らのマグカップに麦茶を注いだ。麦茶は案の定、ものすごく濃い色だ。これをお湯で割って丁度いいぐらいの濃さになるんだけれど……。
「うーむ、濃縮還元120%麦茶ってかんじだな、これは。ま、これはこれで風情があって中々……」
割った麦茶を啜った先生は、何とも言えない顔をした。どうやら、麦茶とお湯の比率が麦茶に多く偏ってしまったらしい。それにしてもここで感じる風情ってなんだろうか。
やがて、ベーコンエッグとパンと120%麦茶の昼食が出来上がって、そこに剥いた梨が添えられる。僕らはそれを同じ卓で食べることになった。
「よし。程よく半熟!やはり卵ってのはこうでなくてはなあ!」
「うん」
僕も目玉焼きは半熟が好き。とろり、とした黄身がつやつやと皿の上に流れ出て広がっていくのは1つの絵画みたいだ。あと、まろやかで美味しい。陽だまりを食べることができたら、こういう味なんじゃないかな。
「……それにしても、もうすっかり秋だなあ」
皿の上から視線を上げて先生の事を見ると、先生は横を向いていた。
ダイニングルームの食卓から横を向くと、そこには大きな窓があって庭が見える。先生の家の庭は広い。そこにほんの数株だけ野菜を植えたり、はたまた植木が花を咲かせたり、雑草が揺れていたりする。僕はこの景色が好きだ。
「見ろ、トーゴ。どこから飛んできたのかは全く不明だが、落ち葉がある。あれは見たところ桜だが、ここから一番近い桜の木って、公園の奴じゃないか?よくここまで飛んできたもんだ。長旅ご苦労さん、と言ったところだなあ」
先生は席を立って、からり、と窓を開けて、そこに置いてあったサンダルをつっかけて庭に出ていくと、落ち葉数枚を拾って部屋に戻ってきた。
「ほれ。秋だ」
「うん。秋だね」
落ち葉は秋の色だ。茶色がかってくすんだ赤から黄色までのグラデーション。少しだけ葉の付け根の方に緑色の気配が残っていたりして、それもまた、いいかんじだ。
落ち葉は乾いた見た目をしている割に、触ってみるとしっとりとして、水分を感じることができた。もっとぱりぱりしているかと思ったんだけれど、案外、そうでもなかったみたいだ。落ち葉って実際に改めて見てみると、想像の中にある姿とはちょっと違うよね。
「ま、秋だからして、僕の食欲にも納得がいくというものだな。うん。天高く僕肥ゆる秋……まあ、僕も君も、中々肥えない性質ではあるが」
うん。僕もだけれど、先生もそうだね。贅肉も筋肉も無い。だから僕は、細いね、とよく言われる。それがちょっと恥ずかしくて嫌なのだけれど、体質だからどうしようもない。高校に入ってからは昼食を抜くようになって、ますますかもしれないし……。
「……しかし君は食欲の秋、というよりは芸術の秋、なのだろうなあ」
「え?」
「いや、君も僕も、秋に限らず毎日が芸術だが」
うん。それはまあ。僕はそれが趣味というか生き甲斐だし、先生もそれが趣味で生き甲斐で仕事だし。
僕が『当たり前だ』っていう顔をしていたからか、先生は僕を見て頷きつつ、『当たり前だなあ』という顔をした。頷き合って、はい、おしまい。
僕らは麦茶のお湯割り濃縮還元120%を飲んで、ふう、と一息ついて……そこで、ふと、先生が言った。
「……芸術。芸術、ね。芸術って……なんだろうなあ……」
……哲学的だなあ。
先生は時々、哲学的だ。僕も哲学は好きな方だから、哲学モードに入った先生を見ると、わくわくする。
「特に、芸術に値段をつけて、売る、ということについて……金にならない芸術に価値はないというモノサシについて、いや、何なら、芸術それ自体について……こう、なんというかなあ……」
……あ、この先生は哲学モードだけれど、それと同時に仕事の愚痴モードだ。僕には分かる。
「何か仕事の人に言われたの?」
「まあ……うん。過去に、な。今は違うが」
先生はちょっと気まずげな顔をしつつ、『今更か』と諦めたらしい。ちょっと溜息を吐いて、答えた。
「『お前の作品を世の中に出してやるのも金を出すのもこっちだ。お前に意見の権利は無い』と言われた」
「……それ、怒っていい奴じゃないかな」
「だよなあ。僕もそう思うぜ、トーゴ。金を出すのがそっちなら、商品作ってるのは僕だからなあ……。例え、本当に金を出さない奴には何の権利もないとしても、それでも、それを直接言っちまうってこと自体、まあ、品は無いな。思慮も無い。そうだな。流石に怒ってもよかった奴だな。これは」
先生はまたため息を吐いて……それから、またお茶を啜って、ふう、と一息ついた。
「ま、それも昔の話だ。今、お世話になってるところはいいところだぞ。ものすごく。金は無いところだが、それは金よりも芸術ってものを大事にしているせいだからしょうがない」
嬉しそうににこにこしながら、先生はそう言う。それが本当に嬉しそうな顔だから、ちょっとほっとする。
「稀有なことだ。貴重なことだよ、トーゴ。芸術ってものを売って金にするって時に、金より芸術を大事にできる人はそう多くない」
……それは、思う。
僕は、絵を描く仕事ができたら幸せだ、と、夢見ることはあるのだけれど……でも、先生を見ていると、必ずしもそれが幸せなこととも限らない、って、分かる。
芸術を売ってお金にするっていうのは、中々難しい。僕も、もし職業として絵描きになったら、自分の絵を売ることについて、すごく悩んだり、思い通りに行かなくて悔しい思いをしたりすることになるんだろう、と、思う。
まあ、僕が絵描きになれる可能性は、限りなく低いけれど。夢見ることも空しいくらいには。……それでも、ちょっと、夢見てしまいもする、のだけれど。
「まあ……この現代社会においては仕方のないことではあるか。金にならないものに価値はないってのは、一つの価値観、一つの判断基準として、間違っているとは言えないしなあ」
「うん……」
先生の悩む顔を見ながら、それも分かるなあ、と、頷く。
僕の両親も、お金になりそうだから、僕に法学部を勧めてる、と思う。……お金にならないから、絵を描くのに反対してる、んだとも、思う。
分かってる。お金になるかならないか、っていうのは、どうしたって、無視できないものだ。それは、しょうがない。しょうがない中で僕らは生きているし、先生に至っては、その中で仕事をしてる。
「……ま、いいのさ。僕はそこまで金にこだわりは無い。金になるかならないかよりも大切にしたい基準がある。そういう生き物だ。ただし世間の皆々様方もそうだとは限らない。お互い上手いこと生きていきましょう。以上」
先生はそう言うと、梨をフォークでつついてサクリ、とやると、それを口に運んでシャリシャリ食べ始めた。笑顔だ。満面の笑み。……先生は結構、梨が好きなんだよ。
僕もつられて梨を食べる。野菜室でほったらかされた梨はひんやり冷たくて、秋の風みたいでもある。甘みはちょっと薄めだったけれど、噛みしめると口いっぱいに広がる瑞々しさがなんとなく美味しい。……美味しい、って、味だけじゃないんだなあ。
……そうして僕らはしばらく、無心になって梨をシャリシャリやっていた。そうしていればすぐに梨はお皿の上から消え去って、そして僕らは昼食を終える。
ふいー、と、先生は満足げに息を吐いて……そして、ふと、思いだしたように僕に向き直った。
「ってことで、話は戻るが。……なあ、トーゴ。君は何のために絵を描いている?」
「……なんのため」
なんのため、と聞かれてしまうと、すごく困る。
僕が、絵を描いているのは……なんでだろう。
「まあ、君の場合は完全に、『金のため』ではない訳だ。金にならない絵を、それでも描きたい理由さ。さあ、何がある?」
「楽しい、から……?」
「おお、素晴らしいな、トーゴ。多分大正解だぞ」
もっとしっくりくる言葉がある気がするのだけれど、とりあえず、先生から褒められたので、ひとまずはこれで。
楽しいから。楽しいから描いてる。うん。
「先生は?」
きっと先生なら、僕の中にあるかもしれないもっとしっくりくる言葉を持ってるんじゃないか、と思って、聞いてみる。
「僕は、まあ……」
すると先生はしばらく悩んだ。
「……なんだろうなあ」
そして、そんなことを言う!
「おっと、トーゴ。人に聞いておいて自分は答えられないのか、とか、思っちゃいけないぞ。人ってのはなあ……よく分からんことを人に聞くことで、自分の中の答えを探すことだってできる生き物であるからして……」
先生はなんだかそんなようなことをぶつぶつ言いつつ、それでも何か、考えて、考えて……。
「……やっぱり僕も、楽しいから、なんだろうなあ」
そう、結論付けた。
「……もっといい言葉、ある気がする」
僕がそう言うと、先生はちょっと笑った。笑って、麦茶ポットから麦茶のお代わりを注ぐ。
「そうだな。まあ、他に言うならば……使命感、とかかな」
濃すぎる麦茶をそのままちびりと飲みつつ、先生はその渋さに顔を顰めた。僕も真似して、空になった自分のコップに濃すぎる麦茶を注いでみる。
「僕の中にあるものは、僕が生み出そうとしない限り、永遠に形にならない。僕には僕の中にあるものを形にして外に出すっていう使命感がある。……ついでに、誰よりもその、外に出てきたものを楽しみにしてるのも僕なのさ」
……そっか。うん。確かに、そうだ。
僕は……割と、見たものを描くことが多い。けれど先生はそうじゃないから……そうだね。先生が形にしない限り、永遠に、それは形にならない。
「あとは……生命維持だな。うん。僕は多分、書かないと死ぬ」
「僕も描かないと死んでしまう……」
「こりゃ、一種の呪いみたいなもんだな。何かを創るってことは、呪いだ。一度手を出すと二度と離れられないからな……」
うん。呪いか。確かにそうかもしれない。まあ、楽しい呪いだから、いいのだけれど。
そんなもんか、と思いながら、僕は麦茶を啜ってみる。ものすごく苦い。コーヒーみたいだ。先生、コーヒーは嫌いなはずなのだけれど、濃すぎる麦茶はいいんだろうか。
「まあ、そういう訳で、芸術というものは僕らの魂に巣食う呪いみたいなもんであって……同時にきっと、僕らの魂そのものでもあるんだろうな。多分」
僕は麦茶をポットのお湯で希釈しつつ、考えてみる。
……魂そのもの。まあ、分かる気が、する。
「おや、トーゴ。さては君、よく分かってないな?」
いや、分かるよ。大体分かる。
僕にとって絵を描くことは自分の一部で、それが無くなったらきっと死んでしまうようなもので……。
……そういうことじゃ、ないんだろうか。
ちょっと不安になりつつ先生を見ていると、先生は濃すぎる麦茶を啜って顔を顰めて……僕を見て、ちょっと含み笑いみたいに笑った。
「……そうだな。いずれ分かる、と言いたいところだが……まあ、僕から言わせてもらうと、だな」
うん。
「いっぱい描け。君は僕より口下手だからな」
……うん?
それから僕らは食器を片付けて、先生は仕事、そして僕は絵を描くことに戻る。
「……トーゴ。君、僕の予想が正しければ、その落ち葉、描く気だろう?」
「うん。勿論」
僕は早速、画材を取り出しながら頷く。
先生がさっき庭からとってきた桜の葉は、それぞれが微妙に色が違って、質感がちゃんとあって……見ていて描きたくなるものだったから。
確か、先生に貰った美術の資料集に、水彩絵の具で落ち葉を描いた奴があったんだ。濡れた紙に比較的乾いた筆で色を乗せていくやり方が落ち葉の表現に丁度いい、らしい。折角だから、試してみたい。
「そうかそうか。まあ、じっくり描いていくといい」
先生は僕を見て楽し気に笑って、それから、ちょっと目を細めて、言う。
「完成したら見せてくれよ?」
「うん」
……なんだかちょっと嬉しいような恥ずかしいような気持ちになりながら、鉛筆を手に取る。
絵を描き始めると、すぐ楽しくなってくる。
……うん。やっぱり、僕にとって芸術って、魂、なのかな。だって、これがなくっちゃ、生きていけないから。
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第十章:魂ここにあり
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僕らはレネ達に案内されて、客間に通された。今夜は泊まっていってね、ということらしい。
部屋は贅沢に1人1部屋貸してもらえたのだけれど……荷物を下ろしてちょっと経ったら、なんとなく全員僕の部屋に集まって、そこで好き勝手に寛ぎ始めた。うん、まあ、別にいいけれどさ。
……そしてそこで、フェイが頭を抱えている。
「そっか……俺、ドラゴンかぁ……」
まあ……自分が人間じゃなかったかもしれない、ってなったら、頭を抱えるくらいは、するよね。
『レッドドラゴンが裏切った』時の話については、レネが簡単に教えてくれた。
どうやらこの世界の歴史では有名な出来事らしい。多分、僕の世界の日本史で言うところの本能寺の変みたいなかんじ?
……ええと、どうやらこの世界、赤と青と黄色のドラゴンが居て、白のドラゴンを助けながら国を治める、っていうことをずっとやっているらしい。
ただ、魔王の侵略のせいで色が暗くなってしまって、ドラゴンの色は紺とか灰色とかになってしまった、ということらしいけれど。
……そして、そんなドラゴン達はずっと、この国を守っていたのだけれど……魔王がやってきて数百年、昼の国に魔王を押し付けてしまえ、ってなった時に色々とあったみたいで……『赤いドラゴンは夜の国を裏切って昼の国についた』らしい。
赤いドラゴンが昼の国へ行ってしまって夜の国が混乱している間に、夜の国は魔王ごと封印された。そしてそれ以来、この国では赤いドラゴンは絶滅して、更に、赤いドラゴンは裏切り者として、忌むべきものと記録された、らしい、のだけれど……。
「……つまり、魔王が初めて俺達の世界に顔を出した時、夜の国からやってきたレッドドラゴンが……初代レッドガルド、か?」
「あの、レッドガルドさん本人じゃなかったかもしれない。レッドガルド家は、レッドドラゴンを従えていた、っていう家だよね」
「そうだな。その血筋だからこそ、俺様は今、レッドドラゴンを召喚獣にできているんだって思ってたけどよ……」
フェイは、情けない声を上げながら、ベッドに突っ伏した。
「……初代自身がドラゴンで、ドラゴンが戦ってたから、『レッドガルドが従えているドラゴンだ』って誤解された、とかなら、話は通っちまうんだよなあ……」
……ま、まあ、そう、だけどさ……。
「ついでに、初代の日記!あれ、読めなかっただろ?あれ多分、夜の国の言語なんだよ!」
あ、そっか。
……ということはあの『ほかほか論』って、『ふりゃふりゃ論』とかなんだろうか。次に夜の国に来る時にはあの本持ってきて、レネにタイトルを読んでもらおう。多分、レネはふりゃふりゃ言ってくれると思う。
「……で、レネって、今、普通に人の形してるけど、ドラゴンなんだろ?」
「うん」
「じゃあ、初代レッドガルドもそうだったとしても、おかしく、ねえ、よな……?」
ま、まあ……。
「……あんま考えたかねえけど!確かに!俺の家族以外でこんな派手な色の目玉してる奴、見たことねえ!」
うん。それは僕もです。
「……よし」
そしてもう少しして、フェイは……ちょっと悟りを開いたような顔で、言った。
「俺、レッドドラゴンの子孫、だったとして……ま、それはそれで、いいよな……?」
……僕は、フェイが人間でもドラゴンでも、親友だと思ってるよ。
「よーし!もういいや!よく考えたら、俺がドラゴンでも人間でも、元々そうだったんなら今から何かが変わるわけでもねえし!俺は俺だし!領民にも『綺麗な色の目ですねえ』とは言われても嫌がられること、ねえし!何も気にすること、無かったな!」
フェイは吹っ切れたらしくて、すっかり明るい顔でそう言った。元気になってくれてよかった。
「よくよく考えたらトウゴだって人間じゃねえしな!よし!」
そうなんだけれど……ま、まあ、それでフェイが元気になってくれるなら、人間中退した甲斐があったよ。うん。
「なんか悩んでたのが馬鹿みたいだぜ」
「そっか」
そう思えてしまうのはすごいなあ、と思う。ほら、むしろフェイよりもラオクレスとかライラの方がショックを受けているようなかんじがあるし。
「そういやちょっと腹減ったなー。トウゴー、なんか食い物、出してくれねえ?」
「餅でいい?」
「ん?まあ、いいけどよ。……なんで餅?やっぱでっけえ夢みて生きていこうぜ、っつう意味か?あ、俺、枝豆も食いてえ」
「じゃあずんだ餅にするね」
「……トウゴぉ。お前、なんか、餅にこだわりでもあんのかあ?」
ええと……ちょっとある。
ということで、僕は餅を描いて出した。
フェイはずんだ餅が好きだから、それ。ライラはきなこ餅が好きだからそれ。ラオクレスは大根おろしのからみ餅。僕はバター餅。鳥は僕のを横取りしていったので新しくもう一皿描いて……。
そんな時。
こんこん、と。部屋のドアが控えめにノックされた。
「はーい」
返事をしてドアを開けに行くと……。
「……とうごー」
レネは戸口で、もじもじしている。……あ、もしかして、泊まりに来たんだろうか?それとも、別の用事?
「お、レネ。来たのか!」
けれど、レネは僕の後ろからフェイが顔を出すと、ちょっと慌てて何かを言う。それから慌ててスケッチブックに文字を書いて、見せてくれた。
『ごめんなさい。あなた達が来ているって思わなかったんです。』
そのまま、レネは慌てて出ていこうとするので……。
「ま、待って!」
レネの手首を捕まえて、引っ張る。
「そ、その……お餅、食べない?」
「おもーち!」
「うん。お餅」
そうしてレネも餅パーティーの輪に加わった。
レネは遠慮していたけれど、別に、遠慮することなんてないよ。餅だって幾らでも出るし。
「どう?レネ。お餅、美味しい?」
「……おもちい?」
「っふふ、おもちい、じゃなくて、おいしい、なんだけど……書けば伝わるかしら」
ライラなんかは早速、レネとやりとりしている。レネは、おもーち、おいちい……?と言いながら、ライラをにこにこさせている。そうだよね。分かるよ。レネが『きれい!』って言った時、僕もすごく嬉しかったから……。
それから、ライラがレネのほっぺをむにむにやりながら『お餅みたい!』と言い始めた頃。
「レネ。何か用事があって来たのではないのか」
ラオクレスがそう言いながら、同じ文を書いたスケッチブックを見せる。……ラオクレスの書く文字はごつごつしていて、すごく彼らしい。
ラオクレスの文字を見たレネは、はっとして、スケッチブックを捲って、もじもじしながら、そっと、それを僕に見せてきた。
するとそこには、予め書いてあったらしい文字が、あった。
『少しだけ、光の魔力を分けてください。』