軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20話:緋色の親友

その日もある程度絵を描いたら、そこで休憩。僕もレッドガルドさんも、病み上がりだから。無理はよくない。……魔力不足とやらになると死ぬらしいから、本当に、無理はよくない。

無理をしないためにも、今日も僕は外で寝ることにした。馬達は僕がブランケットをもって外に出た途端、待ってましたとばかりに寄ってきた。うん、ありがとう。お世話になります。

「ほ、本当に俺もいいのかぁ……?」

「うん。あなたは馬達の恩人だからいいと思う。だから馬が引っ張るんだと思うし」

そして、レッドガルドさんも外で寝る。

彼が『トウゴがペガサスとユニコーンに囲まれて寝てるとこは面白そうだから見たい』という理由で外に出てきたら、彼も馬に引っ張られたり押されたりして、泉の木の方へ連れてこられてしまったのだ。だから僕は、彼の分のハンモックも描いて出した。

レッドガルドさんは恐る恐る、馬達の間を抜けていって、ハンモックに寝そべって、そこで毛布を被る。……すると、やっぱり馬達がおずおずやってきて、彼の下に潜り込んだり、横に張り付いたりし始めた。

「ほら。ね?」

「おおー……これ、すげえなあ。すげえ厚遇……。すげえな、ここのペガサスとユニコーン」

レッドガルドさんはそういう感想を漏らしていた。そうなんだ。ここの馬達は皆いい奴なんだ。馬が褒められると、何となく、僕も嬉しい。

翌日、僕は絵の仕上げに入っていた。

影になる部分に濃い色を置いて、陰影が足りないところによりはっきりした色を置いて……。

水彩画は、こうやって色を重ねていくのが楽しい。少しずつ、少しずつ。全部の描画が重なって積もって、1つの色に、1つの絵になっていく。これが楽しい。

僕がやってることは無駄じゃないんだって、そういう気分に、少しだけなれる。

……そして、僕はこの絵で一番大切なところ……レッドガルドさんの瞳を、描いていた。

できるだけ、細かく。それでいてはっきりと。

服や背景なんかは、結構ざっくり描いた。それでも模様なんかはちゃんと細かく描いたけれど、それでも、わりと淡く。……でも顔は、ざっくり、なんてわけにはいかない。

特に、瞳は。一番目がいくところだから。だから、一番細かく、一番はっきり、一番綺麗に描き上げたい。

……のだけれど。

「どの色にしよう……」

僕は、絵の具を出したパレットと、試し塗りした紙の前で悩んでいた。

どうにも、彼の瞳にしっくりくる色が無い。

絵の具というものは、基本的に、混ぜれば混ぜる程、鮮やかさが失われていく。

それを『深みが出る』と言い換えることもできるだろうけれど……輝くような緋色の瞳の表現には、向かない。

そして、僕が持っている絵の具は、どれも微妙に色が違うのだ。

赤い花の花びらの色も違う。赤土の色じゃあない。僕の血の色もなんだかしっくりこない。

……それで、ちょっと困っている。

「おーい、トウゴ、大丈夫か?」

「うーん……」

全部、微妙な差しか無いじゃないか、と言われてしまえばそうだ。でも、その『微妙な差』を妥協したくない。特に、レッドガルドさんの瞳については、絶対に、妥協したくない。

どうしようかな。今から外に絵の具を探しに行く?それも違うよなあ……。

……そうして僕が迷っている時。

きゅー。

そんな声が、窓の外から聞こえてきた。

「お。お前も来たのか」

家の外に出てみたら、そこにはレッドドラゴンが居た。緋色の翼をはためかせて着陸して、そこでレッドガルドさんに撫でてもらって気持ちよさそうにしている。

「あー、すまねえな、トウゴ。こいつは家に置いてきたんだけど……こっちに来ちまったみたいだ」

そういえば、レッドドラゴンについては『いい魔石が無い』って言ってたな。どうやら召喚獣というものは、召喚獣の住処になるような宝石が必要らしい。普段はその宝石を身に着けておいて、いつでも召喚獣を出せるようにするんだそうだ。

だから、その宝石が手に入るまで、このレッドドラゴンはお屋敷の庭に居ることになっていた、らしいんだけれど……。

「こらこら。くすぐったいって」

……レッドドラゴンは、レッドガルドさんの頬を舐めて、それから擦り寄っては嬉しそうにしている。うん。これだけ懐いているのなら、引き離しておくのはかわいそうだったな。

「悪いな、トウゴ。ちょっと絵の方は待ってもらっていいか?こいつともう少し遊んでからにするよ」

「うん」

僕はレッドドラゴンや他の召喚獣達、炎の狼と炎の鳥が戯れるのを眺めながら……。

……あっ!

「お?トウゴ、どうした?」

僕はレッドドラゴンに近づく。

半分以上僕の血で描いたからか、この緋色の竜は僕にもある程度、懐いてくれているらしい。僕が近づいても首を傾げるだけで、攻撃したりはしてこない。

僕はそんなレッドドラゴンを眺めて……嬉しくなった。

「この色だ!」

レッドガルドさんの目の色!これだ!レッドドラゴンの鱗の色が、本当にそっくりそのままなんだ!

そうとなったら急がなきゃならない。僕は早速、レッドドラゴンにお願いする。

「鱗を一枚、ください!」

絵の具にする分だけでいいから!

……結局。レッドドラゴンは気前よく鱗をくれた。尻尾の方の剥がれかけてた奴を1枚。

レッドガルドさんにも許可を取った。『どうせ脱皮するだろうからいいだろ!』とのことだったので、ありがたく鱗を頂く。

さて。

僕は早速、絵の具のチューブを描いて、色のラベルに鱗を張り付けて……とても綺麗な緋色の絵の具を作った。

さあ、これでいよいよ、絵を完成させられる!

「レッドガルドさん!」

……と、思ったのだけれど。

「あー、悪い、トウゴ!もうちょっと待ってくれ!」

どうやら、レッドドラゴンや火の精達が、レッドガルドさんを離したくないらしい。モデルが居ないので、もうちょっと絵はお預けだ。

うん。しょうがない。しょうがない、んだけれど……。

……早く描きたい!

結局、絵が仕上がったのは翌日だった。

けれど、いよいよ絵は完成するんだ。やっと。やっとだ。描けるようになってからも長かったし、描き始めてからも長く感じた。緋色の絵の具を手に入れてからも、とても長く感じた!

「じゃあ、いきます」

「お、おう」

僕はしっかり倒れる準備をして(つまり、ブランケットを出して、馬が寄ってこられる位置に陣取って、そこで)、最後の一筆を描き加えた。

これで、絵は完成。

……その瞬間。

ふるふる、と水彩画が震えて、きゅ、と集まって……。

「うおわっ!?」

レッドガルドさんに纏わりついた、と思ったら。

「……あ」

彼は、両手を動かしながら、それをじっと見ていた。……両方の目で。

「……トウゴ!」

歓喜に溢れた彼の顔を見て、僕はやり遂げたことを知る。やるべきことができた。やりたかったことができた。

すごく、嬉しい。

「うわ!トウゴ!おい!しっかりしろ!」

そして僕はまた、気絶した。

でもしっかり準備して気絶したので大丈夫だ。おやすみなさい。

目が覚めたら朝だった。おはよう。どうやら僕は朝に気絶して、翌日の朝に起きた、ということらしい。

僕はハンモックに乗せてもらっていて、そこで馬に囲まれていた。おはよう。いつもお世話になっています。

ハンモックから抜け出すと、僕はすぐ、家に戻った。確かめたかった。夢じゃなかったことを確認したくて……。

「お、トウゴ!おはよう!」

……そこで、両目がしっかりあって、両手で本を持って読んでいたレッドガルドさんを見て、心底ほっとしたのだった。

「いやー、お前、本当にしょっちゅう魔力切れになるんだな……。よくそんなに気絶できたもんだぜ。いっそ感心する。普通はこんなにアッサリ魔力切れなんて起こせねえんだぞ?魔力が切れるより先に魔法が発動しねえんだからな?」

「うん。よかった。レッドガルドさん、調子はどう?」

彼の言葉はいまいち耳に入らない。それよりも今は、目の前の彼の調子が知りたかった。

天馬の翼を治した時は、ちゃんと翼が動いていたし、空も飛んでいたけれど……。

「ん。バッチリだ。ちゃんと指も動くし、目も見えてる!」

……よかった。本当にうまくいったみたいだ。よかった。本当によかった。

「あの、レッドガルドさ」

「ところでよ、トウゴ」

僕が言いかけた時、レッドガルドさんは少し屈んで、僕の目をじっと覗き込んだ。

「レッドガルドさん、っつうのはもうナシだぜ、トウゴ」

……え?

どういうことだろう、と僕が困っていると……彼は、満面の笑みを浮かべて、言った。

「フェイ、だ。親友同士、変な遠慮はナシにしようじゃねえか!な!」

「……親友?」

「ん?親友だろ!一緒に死線を潜り抜けた!お互いに助け合える!ついでに気も合う馬も合う!なら身分も世界の違いも関係ねえ!もう親友だろ!」

親友、なのか?そういうものなんだろうか?気が合う?馬も合う?……うん、まあ、合うかもしれない。身分の違いは、世界の違いの方が大きいからそんなに気にならない。いや、彼がそういう人だから、というのが大きいような気はするけれど。

でも……何となく実感が湧かない。なんだろう。なんというか……うん、僕は、今まで、『親友』と呼べる相手を、持ったことが無かったんだ。ああ、先生は別だ。先生は友達でありながら先生であったし、だから、親友というよりは……うん、なんか、別だった。

でも僕らは……いつの間にか、親友、ということになったらしい。

「な?トウゴ。な?な?」

僕は困った。こんなタイプの人、今までに見たことないよ。どうしていいんだか、よく分からない。

……けれど、彼は僕を、期待に満ちた目で見つめてくるので。

「……フェイ?」

「おう!そうだ!やったぜ!」

……うん。呼んでみて思ったけれど、レッドガルドさん、と言うよりも、フェイ、と呼ぶ方が、発音は楽だ。あんまり口を動かさなくても音が出る。

じゃあ……今日から彼は、フェイ。僕の親友……らしい。

いや、そこはまだ、実感が無いけれど……。

「ってことで早速、俺の家に行くぞ、トウゴ!」

「えっ」

「朝飯は1時間ぐらい後でもいいだろ!な!」

「え……え?」

「早速出発だ!行くぞ!」

よく分からないまま、ふわふわする頭でぼんやりしていたら、いつの間にかレッドガルドさんに手を掴まれて、外へ引っ張り出されていた。

そして僕は、炎の狼の背中に乗せられる。

……あっ、これって、もしかして。

「じゃあ、ユニコーンもペガサスも!悪いがトウゴ借りるぜ!……よし!出発!」

レッドガルドさ……じゃなくて、フェイがそう言った瞬間。

炎の狼は、勢いよく走り出した、のだった。

「速い!速すぎるよ!」

「ん?そうか?ならもう少しゆっくりにするか?」

「そうしてほしい!」

とんでもない勢いで森の木が後ろに流れていくのは、ちょっと……いや、とんでもなく、怖い。しかも、まっすぐ進むんじゃなくて、木を避けながら時々曲がって、時々は木を足掛かりにしていくものだから、益々怖かった。

……でも、フェイが何か合図すると、少し速度が緩む。とんでもない走り方もしなくなって、僕は心底ほっとした。

「……あ、そうだ」

そんな中、フェイは隣を走りながら、ふと思い出したように言った。

「お前、うちのお抱え絵師になる気はねえか?」

「話はまた家に着いてからな!まあ、じっくり考えてくれよ!」

……僕は、フェイの言葉を頭の中でゆっくり反芻して……気づいた。

これ、とんでもないことになったのではないだろうか、と。

でも、気づいても何でも、炎の狼は止まらない。僕の隣を同じく狼に乗って走る『親友』も、止まらない。

……うん。

なるようになるさ。多分。