軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15話:復讐の骨格標本*10

帰り道、ラオクレスとマーセンさんの後ろに、僕とフェイとクロアさん、そしてたっぷりの骨格標本達がそれに続いて歩く。

「いやあ、それにしても幽霊、かあ。……ったく、ビビったぜ」

「フェイ、幽霊苦手なの?」

「まあ、人間よりは苦手かな……」

そっか。フェイは幽霊がちょっと苦手か。うん。

「それにしても……幽霊だったか。参ったな。道理で剣が普通には通らない訳だよ」

「奴を連れて帰って尋問して情報を抜き出すつもりでいたが……消えられてはそれもできん。全く、厄介な奴だったな」

騎士勢は尋問を考えていたらしいけれど幽霊を尋問する時って、どういうかんじなんだろうか。塩とかを近づけて脅したりするんだろうか。お経を唱えるとか?

「まあ、しょうがないわね。私が手に入れた情報だけで、分かったことをまとめましょ」

……でも、こんな中でもクロアさんはやっぱりクロアさんだ!

幽霊さんは消えてしまったので、もう、彼女から話を聞くことはできない。だから、僕らは残されたものから推測しよう。そうしよう。

「まず、相手の素性ね。彼女、ラウン家の夫人か娘か、そういう身分だったみたいよ」

「ラウン家?」

聞き返すと、クロアさんは地図を指さして教えてくれた。

「ここら辺に『あった』領地ね。王家直轄領の近くだったけれど……結構前に、取り潰しになってるわ。領主が妾を囲っては碌に働きもせず遊び惚けていたからだけれど。まあ、当然のことね」

辛辣……。

「当時にまだ小さい娘が居たら、今頃成長してあのくらいだったと思うけれど……幽霊さんだったなら、当時の夫人だったのかもね。それで、自分達の領地が取り潰されて自分達が貧しくなったものだから、今を時めくレッドガルド領を勝手に逆恨みしたのかも」

クロアさんはそう言って、ため息を吐く。

「……ただ、それで幽霊が魔物の手を借りた、っていうのは困るわよね」

「要は、恨みの気持ちが強い幽霊が適当に拾われて、魔物に使われた、っていうところだと思うのよね。幽霊さん自身は多分、そんなつもりは無くて、『魔物から力を借りてレッドガルド領に制裁を下す』ぐらいの気持ちで居たんでしょうけれど」

ああ、そういうことだったのか。そっか。幽霊が魔物に使われて……魔物って、幽霊をああいう風な形にする技術とかも持ってるのか。すごいな。

「あー……要は、恨みの気持ちを魔物にうまいように使われた、ってことだろ?成程なあ……。ってことは、あの幽霊、幽霊じゃなくて、幽霊とか残留してた恨みとかを元に作られた魔物だった、っていう方が近いのかもな」

そういうものなのか。魔物ってすごい。形の無いものを形にできるって、すごいことだと思う。

「……そういうことなら、これも納得がいくわね。彼女もまた魔物だったなら……彼女もまた、これの力でここに留まっていた、のかも」

そしてクロアさんは、荷物から取り出したものを見つめて、ため息を吐く。

それは、黒い水晶玉だ。表面には深く罅が入っている。クロアさんが割ったらしい。

どうやらこの石こそ、魔物を生み出すための道具だった、らしい。

「ここから魔物が出てきてたのか……。もったいなかったなあ」

「な、トウゴ。そう思うの、お前ぐらいだからな……?」

もう割れてしまった石は、残念ながら、もう使用することはできない。もったいない……。うーん。

「……ま、この石を1つ潰せたってだけでも、今回は成果だろ。な?」

「うん……」

まあ、とりあえず、僕らの町を襲う相手の手を1つ潰せた、っていうことになる、のかな。なら、これはこれで成果だったんだ。

魔物を生み出す石が無くなっちゃったのは、ちょっともったいなかったけれど……。

「後は、部屋に残ってたものを詳しく調べてみれば、更なる敵の本拠地が分かるかもね。まあ、頑張ってみるわ」

クロアさんはそう言って、幾分晴れやかな顔をしている。こういうのは彼女の得意分野らしいから、お任せしよう。お世話になります。

……そこでクロアさんは、僕の首元を、ちょん、と触った。

「トウゴ君。あなた、またモデルさんを捕まえたの?」

「え?ああ、うん」

クロアさんがつついたのは、黒い靄だ。黒い靄は今、幽霊さんのドレスから僕の襟巻きに転職している。ふわふわしてとても触り心地がいいよ。

「……おい。こいつもモデルにするのか」

「いや、モデルっていうか、効果をつけるのに丁度いいかな、って思って……」

ほら、ちょっと霧が出ている風景とか描きたい時に丁度いいんじゃないかな、こいつ。雰囲気が出ると思うよ。

「でも、黒いなあ。霧の風景をやりたい時は、白い方がありがたいんだけれど。こいつ、洗濯したら白くなるだろうか……」

「いやいや、その黒さは汚れという訳じゃあないんじゃないかな、トウゴ君……」

「……案外、トウゴがやったら、白くなるかもしれん」

そっか。なら、帰ったら試してみよう。何事も挑戦だ!

「ただいまー」

「おかえりなさーい!トウゴ!この黒いふわふわさんはだあれ!?教えて!」

「えーと、元ドレス、現襟巻きの靄」

そうして森の町へ帰った僕らは、皆に出迎えられた。真っ先に飛びついてきたのはカーネリアちゃん。彼女は靄が気になるみたいなので、そっと、靄を首から外してカーネリアちゃんの首に巻いてみた。『ふわふわして、しっとりして、触り心地がとってもいいわ!』とのこと。好評。

「トウゴ様……お怪我は」

「うん。大丈夫。怪我は無いよ」

それから、ジュリアさん……じゃなくて、ええと、ラージュ姫。彼女も、すごく心配そうな顔で出迎えてくれた。心配されるようなことは無かったんだけれど。

「ラージュ姫、ずっとあんた達の心配をなさってたのよ。全く、もっと早く帰ってきてよね!」

「ライラも心配してくれてありがとう」

「わ、私は別に心配してないわよ!あんたのことだから、どうせクロアさんもフェイ様もラオクレスもマーセンさんも振り回して楽しくやってるんだろうなあって思ってただけ!どうせまた、新しいモデルとか攫ってきたんでしょ?」

あ、うん。その通りです。すごいなあ、ライラには何でもお見通しらしい……。

「この通りです」

僕はそっと、骨格標本達を出した。

……すると骨格標本達は、揃って挨拶し始めた。礼儀正しい。

「きゃ、ほねさん……!」

「う、うわっ、びっくりしたっ!お、おい、トウゴ!こういうの出すなら先に言ってから出せよっ!」

骨格標本はアンジェとリアンを驚かせてしまったらしい。ごめん。

……でも、アンジェはそっと、リアンの背後から出てきて、骨格標本の1体に近づいて、そっと、手を伸ばしている。すると骨格標本はアンジェに目線を合わせるように屈んで、そっと、アンジェの手を握る。そうするとアンジェはもう、笑顔だ。うん。そうだよ。この骨達は、分かり合える骨だよ。

「……トウゴ様は、魔物とも心を通わせられるのですね」

その様子を見ていたラージュ姫がそう言って、ほう、とため息を吐くけれど、これ、別に、僕だからできることなんじゃないと思うよ。

それから僕らは、クロアさんの解析を待って、作戦会議。

「そうですか……。では、魔物は確かに、動いているのですね」

「そのようね。勇者の剣の他にも狙っているものがありそうだけれど、とりあえず、魔物の目的は魔王の復活。つまりは勇者の邪魔をすること、っていうことになるわ。……そうよね?」

クロアさんが尋ねると、カタカタカタカタ、骨格標本達が鳴り始める。オーディエンスが賑やかだなあ。

……クロアさんは持ち帰ってきた封筒や日記帳から、色々と読み取ってくれた。けれど、そこにあったのは幽霊の生前の様子がメインだったから、幽霊さんが何のために魔物を使っているのか、っていうことはあんまり分からなかったらしい。

だからクロアさんは、僕と一緒に、骨格標本達に聞き込みを行った。また、根気強く質問を重ねて、時には図を描いてもらって……そうして分かってきたのは、彼女は魔物から力を与えられて、黒い水晶玉で自分も実体化したり魔物を生み出したりできるようになって、それで、レッドガルド領を襲う手筈になってた、っていうことだった。

つまり、幽霊さんがやっていたことは、下請けだ。魔物の中でも頭がいいやつが居て、そいつが幽霊さんみたいな人達に力を与えて、それでレッドガルド領を襲っている、らしい。

……ただ、ちょっと、気になることもある。

「マーピンクさんもそうだったのかな」

そう。ラージュ姫がここに来る前から、この町は魔物に関わられているっていうことになる。

「ああ、あの馬鹿な男?そうなんじゃない?魔物に唆されたって言ってたし」

ライラは辛辣だ……。というか、この森に居る女性って、皆、辛辣、というか、その、強かだ。アンジェとカーネリアちゃんは女性っていうかまだ女の子だから強かっていうかんじじゃないけれど、彼女達も成長したら辛辣になっていくんだろうか……。

「えっ?この森には、私が来る前から魔物の手が及んでいたのですか?」

「うん。ちょっとだけ」

ラージュ姫が戸惑っている。うん。そうだよね。彼女がここに逃げ込んできたからこそ、魔物の襲撃があった、っていう風に考えていたけれど……よくよく考えると、マーピンクさんも幽霊さんと同じように、『魔物に力を与えられて森の町を襲った人』なんだ。やり方が大分違うけれど。

そう考えると、別に、ラージュ姫が来ても来なくても変わらなかった……っていうことは無いだろうけれど、でも、勇者の剣とラージュ姫だけが狙われている訳ではない、気がする。

「でも、がしゃ君達からは、特にマーピンクの話は出てこなかったわね……」

クロアさんは顎に手を当ててちょっと小首を傾げつつ、そう悩む。あ、がしゃ君っていうのはクロアさんなりのがしゃどくろの呼び方らしい。がしゃ君。がしゃ君。……僕は彼のこと、がしゃどくろって呼ぶけれど、こういうあだ名みたいなものがあるのも楽しいのかもしれない。

「っつうかよ、あの幽霊女もマーピンクも互いの存在を知らなかったっぽいよな」

「だろうな。……いつでも切り捨てられる奴に個別に仕事を与えることで、黒幕の正体が割れないようにする。常套手段だろう」

そっか。下請けってそういうこともあるのか。……マーピンクさん、元気かな。ちょっと不憫になってきた。

「……俺、よく分かんねえけど、そういうのって人数集めて、協力してやった方がいいんじゃねえのか?」

リアンが不思議そうにそう言う。……リアンからこういう話が出てくるのが、嬉しい。彼はこの森に1年くらい居て、すっかり、他人と協力するようになってしまっている。この変化が、僕には嬉しい。

「まー、戦力は固めた方がいいよなあ。ってことは……」

「黒幕が下請けの反乱を恐れていたために敢えて協力させなかったか、はたまた、それぞれが別の目的を与えられていたか、といったところか」

フェイとラオクレスがそう言って、考えている。そうか。固まると反乱し始める、っていう考えは、分からないでもない。でも、それぞれが別の目的を与えられていたから、っていう方がしっくりくる。何せ、こっちはラージュ姫が狙われただけじゃなくて、マーピンクさんが来ている実績がある。

幽霊さんとマーピンクさん、2人の目的が同じだったとは思えない。幽霊さんの目的は間違いなく勇者の剣だったし、マーピンクさんが来た時、森に勇者の剣は無かった。だから……。

「そうね。別々の目的を与えられていたんだと思うわ。勇者の剣や勇者を狙う者達と……この森に元々あった何かを狙っている者達。私達には敵が多いわね」

……考えることが山積みだ!

その時だった。

べたん、と音がしたと思ったら……窓の外に、居た。

「……そんなに張り付かなくても」

鳥が。ぺったりガラス窓に張り付いて僕らを覗いているものだから、羽毛がガラス窓に押し当てられてぺたんとしているのが見える。こいつ、いっつも変な時に来る気がする。

……あ。

「もしかして、この鳥が結界を強化したがったのって、勇者の剣が来るからじゃ、なかったのかな」

結界に穴が開けられた時、鳥に聞いた。『こういうことになるから僕を精霊にしたのか』って。

その時、鳥はてけてけ走りながら小首を傾げる、っていうちょっと小憎たらしいとぼけたリアクションをとってくれていたけれど……あれ、本当に『違うよ』だったのかもしれない。

……じゃあ、この森には、何があるんだろう。