軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話:復讐の骨格標本*9

女性のドレスの裾が翻って、靄になって、僕らに襲い掛かってくる。すごい!

「うおっ!?それも魔物かよ!」

フェイは咄嗟に、火の精を前に出した。炎でできた狼が靄に飛びかかると、靄は明らかにそれを嫌がって避けていく。更に、炎でできた鳥が靄に突っ込んでいくと、そこがぽっかりと、空洞になった。やっぱりこいつ、炎が苦手みたいだ。

「ほほほ、無駄よ!こいつはその程度でやられるような魔物じゃないわ!スケルトンみたいな雑魚共とは違うのよ!」

……けれど、炎で開いた穴は、すぐさまもくもくと戻っていってしまう。ここに来るまでの道中で出た黒い靄は、フェイの召喚獣の一撃で決着が着いていたのに、今回はそうもいかないみたいだ。すごいなあ、あのドレス。

……あっ、もしかして、道中で出ていた奴は、この生きたドレスの切れ端とかだったのだろうか。今、目の前に居るのがその本体だとしたら……確かに、手ごわそうだ。

「ほらほら、どうしたの?さっきまでの威勢はどこに行ったのよ!」

更に女性が腕を振るうと、ドレスの裾がまた一層、ぶわりと広がっていく。黒い靄は僕らの所にまで届いた。

途端、呼吸ができなくなる。まるで、首を絞められているみたいだ。振り払おうとするのだけれど、でも、黒い靄は形が無いから、振り払うこともできやしない。

「このっ……!」

僕と同じように呼吸ができなくなっているだろうラオクレスが、果敢に剣を振るう。黒い靄じゃなくて、女性に向かって。

……でも、女性に届く直前、彼の剣は黒い靄に受け止められてしまった。あの靄、触れられるも触れられないも自由自在なのか!

「おいおいおい!ったく、なんてことしてくれやがるんだよ!」

そして、フェイの援護が飛ぶ。炎の精が全部出てきて、狼2匹に鳥2羽、合わせて4体の炎の精が黒い靄を払ってくれる。ラオクレスの所にも届いた炎の精は、女性を守る黒い靄を一瞬、晴れさせる。

そこに、ラオクレスの剣が滑り込んだ。

……けれど、女性には傷が付いたように見えない。一部、黒い靄が消えてしまったようだけれど、女性には剣が通っていないようだった。

「……まるで手ごたえが無い。この黒い靄が、あの女を守っているのか。さて、どうしたものか……」

マーセンさんは冷静にそう言いつつ、また僕らに向かって伸びてくる黒い靄を険しい顔で見ている。

……そんな時だった。

カタカタカタカタ、と、骨格標本達が動き出す。

骨同士がぶつかる、軽く乾いた音が一斉に鳴り響いて、骨格標本達が、それぞれの武器を手に、突進していく。

「なっ、何よ!そんなことしても無駄よ!」

黒い靄が骨格標本達を包み込むけれど、骨格標本達は構わず向かって行く。骨格標本には酸素が必要ないらしい。骨格標本達は呼吸を止められたって、前進を止めない。

更に、骨格標本の眼窩の奥の光が、強まった。そこに感じるのは、強い復讐の心。強い強いそれは、明確な光になって、彼らが持つ剣にまで伝播していく。

「おっ!やってるやってる!よしよし、援護しなきゃあな!」

それを見たフェイが嬉々として、炎の精を向かわせる。すると、黒い靄はぎゅっと縮こまったり、炎を避けたりしながら女性に集まっていって……そしていよいよ逃れられなくなると、女性を守る代わりに切り飛ばされたり、散らされたりし始める。

よし、このままいけばなんとかなりそうだ。骨格標本達の攻撃は数限りなく女性に降り注いでいるし、その攻撃は何故か、靄やその奥の女性にも有効らしい。女性は黒い靄を防御に回すので手一杯みたいだ。何匹か、蝙蝠が増援でやってきたのだけれど、骨格標本達が威嚇したらぱたぱた逃げていってしまったし、戦況はこちらが優勢だ!

……ただ。

きゅう。

空気を震わせるような、悲鳴みたいな音が響いた。

「……なんだ?今の」

骨格標本の悲鳴じゃないよな、と思いつつ骨格標本達を見るけれど、彼らはすこぶる元気だ。元気に女性を攻撃し続けている。

当然だけれど、僕やフェイの声じゃない。ラオクレスもマーセンさんも『きゅう』なんて言わない。それに、女性の声でもなさそうだ。

……と、なると、一体、今の音は何だろう?クロアさん?いや、クロアさんも『きゅう』とは鳴かない……と思うのだけれど。

「……あれっ」

音の出どころは分からなかったけれど、目に見えた変化はあった。

骨格標本達が、戸惑うように攻撃をやめてしまったのだ。

……あれっ。

「お、おーい?どうしたー?」

フェイが声をかけるも、骨格標本達は攻撃を再開しない。それどころか、ちょっと迷うような素振りを見せながら、カタカタ動いて、何か、喋っているようにも見える。これは……。

「あ、あの!皆、戻っておいで!攻撃は中止!」

僕は骨格標本達にそう呼びかけた。すると、骨格標本は皆、さっと戻ってきた。ちょっとほっとしてるみたいにも見える。

「ど、どうしたのよ!何!?怖気づいたのかしら!?ならこっちからいかせてもらうわよ!」

さっきまで防戦一方だった女性は一気に形勢逆転、とばかりに、また腕を振るう。……けれど、今度は、黒い靄が、広がっていかない。

「え……な、何よ!どうしたの!言うことを聞きなさい!」

女性が何度も腕をばたばたやるけれど、黒い靄は依然として、動かずに縮こまってふわふわしているばかりだ。

……成程。

僕は早速、絵を描き始めた。その間も、骨格標本達はカタカタ喋っているようだったし、黒い靄はもじもじとして動かないままだった。

……その内、フェイが僕の手元を覗き込んできて、ひゅう、と口笛を吹き、ラオクレスとマーセンさんは、ちらっと僕を見てにやりと笑った。

そして、僕のがしゃどくろは……僕の手元を見て、僕が何をしようとしているか、分かったらしい。カタカタ、と動いて、それから、素早く黒い靄の方を向いて……カタカタカタカタ、何か喋り出した、んだと思う。多分。

周りの骨格標本達は、そのカタカタを受けて、彼らも何か、カタカタやり始めた。カタカタカタカタ、いい音がする。ちょっとリズミカル。

「な、なによ!こいつも使えないわね!なら……」

そして、女性が何かしかけた、その時。

「よし、できた!」

僕は、魔封じの模様を女性の足元に描き上げた。

ぶわり、と、模様が光る。……あれっ、フェイがやった時は別に光らなかったんだけどな。おかしいな。

でも、おかしくても何でも、とりあえず、骨格標本達からは歓声らしきものが上がっているし、僕も動かないわけにはいかないので……数珠つなぎにした宝石の1つを、黒い靄に向けた。

「あの、こっちに来る?」

黒い靄は、きゅっ、きゅっ、と鳴きながら、僕の方に向かって飛んで来ようとする。いらっしゃい。

……けれど、何かに引っかかったみたいに、途中で動けなくなってしまっている。あれっ。おかしいな。骨格標本の方はこれで上手くいったのに。

「成程。なら、これでどうだ」

それを見たラオクレスが、苦笑しながら、女性の胸元へ剣を繰り出した。

すると……黒い靄は女性を守ることはなくて、ラオクレスの剣は真っ直ぐ、女性の胸元……黒い宝石のペンダントを、見事に貫く。

飛び散る宝石の欠片が宙を舞う。

きらきらと煌めくそれに、きゅうきゅうと靄の鳴き声が重なって……そして、靄は引っかかりが取れたように僕の方へ飛んでくると、すぽん、と、宝石の中に収まったのだった。

よし。いらっしゃいませ!

「な……な、なんなのよ、あんた達……」

「あ?名乗りが必要か?……俺はフェイ・ブラード・レッドガルド!そしてこいつらはその愉快な仲間達だ!」

どうもこんにちは。愉快な仲間です。

……わなわなと震えながら、女性は……ええと、体を隠す。

うん。そうだよね。黒い靄がドレスになってたんだから、その靄がこっちに来ちゃったら、その、服が、無くなっちゃうよね……。

「わ、私に何をする気!」

女性はペンダントの残骸と下着だけの恰好で震えている。確かにちょっと寒いかな。ごめん。

……んっ?あれ?

「あの、すみません」

僕は、女性に声をかけた。

「あなた、透けてませんか……?」

……その女性、ドレスが無くなったら、脚が見えるようになった、はず、なんだけれど……脚のあたりが透き通っていて、その……脚、無いんじゃないかな、これ。

「す、透けてるですって!冗談じゃないわ!なんて失礼な坊やなの!」

え、あ、ごめんなさい。透けてること、気にしてたのか。ええと……うん、ごめん。

「卑猥な目を向けないで!汚らわしい!透けてる、なんて、そんな……ああ、こんな辱め、絶対に許さないわ!」

女性は、より一層、ぎゅっと体を隠すのだけれど、あの、透けてるのって、下着とかじゃなくて、その、脚なんだけれど……。

「あなた達、私をどうする気なの!」

「いや、お前が思ってるようなことは何もしねえよ……。あ、でもちゃんと出るとこには出てもらうぜ。裁判所に行こうな。あの裁判所はな、神の窓から神のお使いがやってくるって評判なんだぜ」

その神のお使い、多分今頃、今日の分のお供えパンを食べて満足げにキュンキュン鳴いてる気がするけれど。

「そんなの御免だわ!あんた達なんて!あんた達なんて、全員まとめてここで死んでしまいなさい!もう、どうなっても知らないわよ!」

女性はヒステリックにそう叫ぶと、何かを唱え始めた。

……けれど、何も起きない。

「何よ!どうなってるのよ!」

「こうなってるのよ」

また女性がヒステリックな悲鳴を上げたところで……なんと、クロアさんがやってきた!

「悪いわね。奥の部屋にあったこれ、壊しちゃったわ」

クロアさんはその手に持っていた、きらきらしたものを見せた。

……それは、黒い水晶玉みたいな、大きな石だった。ラオクレスの手ぐらいの大きさがある球形。黒い水晶、みたいな、そういうかんじなのだけれど、どこか不思議な色合いをしている。

そしてその石には一筋、大きく罅が入っている。

それを見て、女性は一際大きく悲鳴を上げた。

「あら。あなたの反応を見る限り、これ、やっぱり魔物を呼び出すためのものだったのかしら」

クロアさんはくすくす笑いながら、女性に近づいていって……すぱん、と、女性に平手打ちを食らわせた!

「馬鹿なことしてくれたじゃない。魔物を使って町を襲わせて。……あなた、何のためにそんなことしたの」

更に、ぎろり、と、鋭い刃物みたいな目を女性に向ける。クロアさんの綺麗な翠の目が、こんなにも迫力満点だ。

「しょ、しょうがないじゃない!レッドガルドばっかり、精霊の加護だかなんだか知らないけど、急に発展して不公平なんだから!私はその不公平を正そうとしただけよ!神は私に味方してくださるわ!」

女性は平手打ちされた頬を押さえながら、そう、声を荒げた。

……それと同時に、その、輪郭がぼやけ始めている。ええと、ええと……あ、脚だけじゃなくて、髪の毛の先とかも、透け始めた。

「あら、そう。気持ちは分かるわ。そのために何の関係も無い人達を巻き込もうとしたことについても、気持ちは分かるわよ。……でも、だったらもっとうまくやりなさいね。あなたは正しい正しくない以前に、下手だった。それだけのことよ」

クロアさんはそう言うと、持っていた布……マントらしいものを女性にかぶせて、その上から、手早く女性を縛り上げた。プロの技だ……。

「さあ。裁判所に行きましょうか。面白い資料、いっぱい見つかったわ。これを見ても神様はあなたの味方をしてくださるかしらね?」

クロアさんは夜のパーティ会場の時の笑顔でそう言うと、どこから出したのか、いくつかの封筒をひらひら振ってみせた。それを見た女性は、顔面蒼白になる。

「さあ、いらっしゃい。あなたの名誉も身分も何もかも、全部終わりにしましょう」

そして、クロアさんがそう言った、その時。

「し、死ぬより酷い目になんて、遭いたくないわ!ああ、許せない、許さないわよ……私だけ不幸だなんて、絶対に許さない……。全員、不幸に……ああ、私の名誉も身分も、損なわせてたまるものですか……許さない、許さない……」

そう言いながら……女性は、わなわなと震えて……。

……いよいよ、消えてしまった。

こう、すうっ、と……。

唖然として見守るけれど、もう、女性はどこにも居なかった。ええと……成仏したのかな。うん。よかった。

「な、なんだ?どこに消えやがった?」

「あ、あの……」

もしかして、他の人には透けてたのが見えてなかったのかな、と思いつつ、僕は、申し出てみる。

「さっきの人、多分、幽霊だった」

「……私」

すると、クロアさんは、手をちょっとひらひらさせながら、肩を竦めた。

「幽霊に平手打ちしちゃったわ」

……あっ、そこが気になるんだ……。