軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レイブランド 3

――馬車が停まった。

御者はアンナだ。

窓の外を見れば、ぴーちゃんがピョンピョンと追いかけてきている。

よほどのことがなければ、問題は起こらないはずだ。

魔剣がチカチカと光っている。

辺境伯領に向かう途中にある黒い森を通り過ぎたときと同じだ。

警戒しているのだ。

「魔剣さん、いつもそう言うけど私は嫌だから」

「僕だって……どうしてすぐに宝石を壊せって言うの」

「……」

魔剣の宝石を壊せば、たぶん何が起ころうと私たちは助かるのだろう。

けれど、ハルトは言っていた。魔剣の本体は宝石なのだと。

アンナが馬車の御者席から降りた。

彼女は険しい表情を浮かべている。

やはり、馬車のトラブルとか、そういうことではないようだ。

「――ハルト、ルティア。絶対に馬車から出ないで」

「「……」」

怯えているのかと思ったが、ハルトは窓の外に厳しい視線を向けていた。ルティアはすでに涙目だが……。

二人は魔剣を抱きしめている。嫌な予感がとめどなく湧き上がる。

アンナと蜘蛛型魔導具ぴーちゃんは強い。

けれど、馬車はすっかり囲まれてしまったようだ。

――今日訪れたお茶会は、王都の壁のすぐ近く。

確かに、中心地から離れてはいるが……。

馬車の近くに何かが投げられた。

魔法陣が展開され、淡い紫色の煙が立ち上る。

アンナが倒れ込む。ぴーちゃんへの対策も検討していたのだろう。

甲高い音が聞こえる。馬車の扉を守ろうとしたのか、アームを広げたままぴーちゃんも崩れ落ちる。

「「アンナ! ぴーちゃん!」」

二人が叫んだ。

「私の後ろに!」

飛び出そうとした二人の腕を掴み、背中側にかばう。

「私たちが魔力を注げば簡単に壊せるなんて」

「言わないでよ……僕たちにとって魔剣さんは」

ゆっくりと扉を開く。

子どもたちだけでも助かるように交渉しなくては……。

「もう一度言うわ。馬車から降りないで」

「辺境伯家のお祖父さまにもらった通信の魔導具を起動したから……助けが来るよ」

「すごいわハルト。――そう、では時間を稼ぐから心配しなくて良いわ」

「行かないで、お母さま」

「ルティア、ここにいたら大丈夫。絶対に助かるわ」

ハルトはルティアを守るように抱きしめ、ずいぶん落ち着いている。

一方、ルティアはガタガタと震えて青ざめ、目には涙を浮かべている。

戦う力がない私には、交渉するしか方法がない。

震えを抑えて、手を上げて馬車から降り、前へと歩み出る。

「あなたたちの目的は何かしら? 金品ならすべてお渡しするわ。私が狙いなら、足手まといになる子どもではなく私だけをお連れなさい」

毅然と言うことができているだろうか。

――こんなときは、誇り高く、まるで死など怖くないとでも言うように毅然と。

子どもたちを背にしているのだ。せめて、子どもたちが助かるように時間を稼がなくては。

『ぴ……』

先ほどの異音の衝撃から回復してきたのか、ぴーちゃんが動こうとしている。

私を取り囲んだ男たちは、無言のまま剣の柄に手を掛けた。

最悪の状況だ。彼らが欲しいのは、お金ではなく人質でもなく私たちの命のようだ。

先ほど起動した魔導具で倒れたのはアンナだけ。

幸いなことに馬は無事なようだ。ずいぶん興奮している――折を見て驚かせば走り出すだろう。

子どもたちが怪我をする可能性はあるが……王都の壁の中であれば、騎士団が駆けつけてくれる可能性が高い。

迷っている暇はないようだ。隙を見て、馬に石を投げつければ良い。

覚悟を決めた、そのときだった。

「だめだよ」

ひどく冷たい声がした。

それは、どこか旦那様の声にも似ていた。

「ルティア、魔剣さんの鞘を持って」

「え……」

「早く、力を合わせるんだ!」

「う、うん!」

子どもたちや私は、魔剣に触れることができる。

けれど、鞘から抜くことができるのは旦那様だけだ。

魔剣に認められるほどの力がなければ、鞘から抜くことはできないはずだ。

「魔剣さん、力を貸してよ!! 魔剣さんもお母さまもルティーもアンナも大事な家族なんだ!!」

その声からは、先ほど感じた冷たさは消えていた。

「家族は、僕が、守るんだーっ!!」

馬車の中から溢れんばかりの赤い光。

まぶしさに目を細めたのは、私だけだ。

鞘から剣を抜く音が聞こえる。

子どもたちを守ろうと馬車の扉に走り寄ろうとしたそのときだった。

「あ~、久しぶりだな。リアムの初陣以来か? しかし4歳か。二人で力を合わせたにしても、恐ろしい才能だ」

私の横を誰かがすり抜ける。

振り返ると、白銀の長い髪をなびかせた男性が、私たちを守るように立っていた。

「――ハルトに怪我をさせるつもりはないが、筋肉痛で泣くくらいは許せよ」

「あなたは?」

だが、答えはわかりきっている。

振り返った彼は、私を見つめ、柘榴石のような赤い目を細める。

「レイブランド・フィアーゼ」

慈愛に満ちたその目は、まるで子どもを見る父親みたいだった。