軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レイブランド 2

貴族夫人の集まりは、和やかな雰囲気だ。

会場に入ると、参加者たちが次々と私たちのもとに集まってくる。

ルティアとハルトは同年代の子どもたちに手を引かれ、嬉しそうに輪の中に入っていった。

二人は双子だったから、いつも一緒に過ごしてきた。

寂しい思いをしたことはなかっただろう。けれど、私に周囲と関わる余裕がなかったため、友人と呼べる子どもは少ない。

――そういえば、シノア・イースト卿の弟、ジェイルは元気にしているだろうか。

彼はルティアとハルトより五歳年上だが、よほどの理由がなければ王都に来るのは王立学園入学となる十三歳、今から四年先になるはずだ。

彼は二人にとって大事な友人ではあるが、身近にも仲良くできる友人が必要だろう。

これからも集まりに参加をして、交友を深めていきたいと思いつつ、紅茶を口にする。

――紅茶の香りには覚えがある。辺境伯領の茶葉だ。

「素晴らしい歓迎をありがとうございます」

「ふふ、ベルティナ様が、フィアーゼ夫人は紅茶がお好きだとおっしゃっていたので取り寄せましたの」

「懐かしい香りでしたわ」

故郷の紅茶は生産量がそれほど多くなく、王都で手に入れるのは難しいだろう。

それにもかかわらず、私が参加するからと用意してくれたのだ。

心遣いに感謝しつつ微笑む。

楽しく語らい、交友を深める。

これから、社交界に積極的に参加し、旦那様を支えるのだと気負っていたけれど――私にとっても、同年代の夫人と過ごす時間は楽しいものだった。

* * *

そして、夕方近くに集まりは解散となった。

思ったよりも長い時間が経っていた。

馬車に乗り込むと、二人はまず最初に魔剣を抱き寄せた。

「「魔剣さん、ただいま!!」」

魔剣は宝石を軽く光らせた。おそらく返事をしたのだろう。

「うん! とっても楽しかったんだよ、魔剣さん! お母さま! また来たい!」

「そう、よかったわね。友だちができた?」

「うん!」

社交的なルティアならわかるが、開口一番にそう口にしたのはハルトだった。

てっきり会場の端でルティアにベッタリになるかと思っていたが……。

ルティアに視線を向けると、歳に見合わぬ大人びた表情を浮かべていた。

「ルティアはどうだった?」

「そうね、いい交友関係が築けたと思うわ」

「――交友関係?」

「アクセサリーやドレスの話ばかりだから……もちろん、話を合わせることはできるし勉強になったけど」

「……そう」

ルティアが興味があるのは、剣の話だろう。彼女は普段はアクセサリーをつけることがない。

剣の練習の邪魔になる、というのがその理由だ。

もちろん、先日のちょっとした悪戯からもわかる通り、アクセサリーやお化粧にもそれなりに興味はあるようだが……。

ロレンシア辺境伯領では、魔力があれば女性であっても武器を持つ。

そうでなければ、過酷な地で大切な人を守ることができない。

しかし、王都の貴族令嬢には武器を握るものは少ない。

私は彼女が剣を握ることを止めることはなかったし、四歳のお祝いに模擬剣が欲しいと言われればそれを与えた。だが、きっと王都の貴婦人の中では娘が剣を握るのを許さない人も多いことだろう。

――王都に魔獣が侵攻してから三百年。この場所は、まるで魔獣なんて存在しないと勘違いしそうになる程平和なのだから……。

ルティアは、先日聞いたときには『お嫁さんになりたい』と言っていたが……それと同時に騎士になりたいという夢を持っている。

ただ、旦那様が長期間いなかったことで私が苦労しているのを見ていたため、あの場では言い出せなかったのかもしれない。

「ところで、ハルトはどの家の子とお話ししたの?」

「ベルセンヌ公爵家のレントン様だよ」

「まあ、ベルセンヌ公爵家の」

ベルセンヌ公爵といえば、近衛騎士団長ロイス・ベルセンヌ卿の兄だ。

つまりレントン様は、ベルセンヌ卿の甥にあたる。

思わぬところで騎士団との繋がりがあって、私は驚いてしまった。

だが、貴族社会は案外狭い。

社交界と関わっていけば、自ずと繋がりもできていくのだろう。

「なんの話をしたの?」

「魔導具! ベルセンヌ公爵家には、珍しい魔導具がたくさんあるんだって! ロレンシア辺境伯家のお祖父さまや魔導具同好会の話をしたら、ぜひ参加したいって言っていたよ!」

「魔導具同好会……」

ハルトはいつものように勢いよく魔導具語りをしてしまったのだろうか……と心配していると、ルティアがため息混じりに口を開いた。

「大丈夫よ。だって、あちらも相当早口で、勢いよく、ハルトに負けず劣らずの知識を披露していたもの」

「――ハルトと魔導具について互角に語り合っていた?」

ハルトの魔導具に関する知識は、すでに大人顔負けのレベルだ。

ベルセンヌ公爵家の子息、レントン・ベルセンヌ様はハルトと同い年、四歳だったはず。

父様が中心になっている魔導具同好会。

そこにはいったい誰が参加しているのだろう。

「ところでハルト、魔導具同好会にはどなたが参加していらっしゃるの?」

ベルセンヌ公爵家の子どもが興味を示したとなれば、派閥の兼ね合いも考えねばならない。

「んー。直接お話ししたことないからなぁ……でも他の国の人もいるらしいよ!」

「まあ!」

王国の中心は平和なものだが、周囲は魔獣が闊歩するため他国との交流は少ない。

人と人との争いが少ないことだけが救いだろうか……。

参加者については、次にベルティナが王都に来たときにでも聞いてみよう。

「――あ〜あ、私も剣について語り合える友だちが欲しくなっちゃった」

ルティアが羨ましそうにハルトを見つめながら口を開いた。

「ルティーには、僕がいる! 剣のお話もできるよ!」

「ハルは私そっちのけで、レントン様とお話してたでしょ!」

珍しいことにルティアが頬を膨らませた。

ハルトがルティアに抱きついた。

「魔導具もレントン様も大好きだけど、ルティーのほうが好きだ!」

「そう……それなら、ベルセンヌ公爵家にお呼ばれしたときには、私も連れていってね。ベルセンヌ卿にお会いできるかもしれないし」

ルティアが軽く頬を染めると、今度はハルトが頬を膨らませた。

「ふふ、そんな顔しないの。私が一番好きなのはハルだよ」

「本当に?」

「本当よ! ハルは違うの?」

「――僕だってルティーが一番好きだ!」

馬車の中で、二人はぎゅうぎゅうと抱き合った。

本当に仲が良いことだ……。

二人の様子をほのぼのしながら見つめていると、激しい音が響き、馬車が急停車した。