軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士団長任命式 6

メインホールを前に旦那様と別れ、家族席に座る。

帰還した騎士とその家族を労うための宴は華やかだったが、式典は厳粛な雰囲気だ。

壇上に視線を送る。陛下の隣には、お祖父様が座っている。お祖父様も、騎士団長としての正装に身を包んでいる。

――第一騎士団の先代騎士団長は魔獣との戦いで命を落とした。

だから、騎士団長に証を与えるのは先々代騎士団長であるお祖父様、サミュエル・フィアーゼ様なのだ。

「――いってくる」

「ええ……」

「はは、そんなに緊張することはない」

確かに、今日の主役であるはずの旦那様より私のほうが緊張しているかもしれない。

旦那様は余裕のある笑みを見せると、壇上に上がっていった。

ラッパの音が鳴り響いた。

第一騎士団員が整列する。

黒い騎士服と赤いマント……ほぼ全員が集合しているのだろうか。

ここまで華やかなのは、騎士団の色が赤である第一騎士団ならではであろう。

陛下が立ち上がり厳かな口調でこう言った。

「汝、忠義を誓い、魔獣を打ち倒す者となるか」

「――私の剣が王国に仇なす、すべての魔獣を薙ぎ払うことでしょう」

旦那様の言葉は、歴代の騎士団長達が誓い続けた言葉だ。

いつか魔獣との戦いを終わらせ、平和を手に入れる日が訪れることを願い、誓いは歴代の騎士団長に引き継がれてきた。

「……汝を王国の守護者、第一騎士団長に任ずる」

次にお祖父様が旦那様の前に立つ。

授けられたのは、第一騎士団の団長としての紋章が刻まれた指輪だった。

旦那様は指輪を受け取ると、陛下を前にひざまずいた。

彼が抜いたのは、今日この日まで共に戦い続けた魔剣であった。

「我が忠義は聖剣とともにこの国を守り、我が身は魔剣と共に戦い続けることでしょう」

「――喜ばしいことだ」

陛下は旦那様の額に触れた。

これで、一連の式典は終了のはずだ。

旦那様は恭しく礼をすると、お祖父様の隣りに並んだ。

第一騎士団の騎士たちが、一糸乱れぬ動作で剣を胸の前に捧げる。

「我らが力は、団長とともにこの国を守らん!」

陛下は一つうなずくと、席を立ち退場していく。

続いてお祖父様が退場した。

最後に旦那様が会場を去って行く。

ほんの一瞬だけ、赤い目が私のほうを向いた。

そして、旦那様の騎士団長任命式は終わりを迎えた。

会場から一人、また一人と人々が去って行く。

けれど、私は最後まで動くことが出来なかった。

「エミラ」

「旦那様?」

私一人だけが残ったホールに、旦那様が戻ってきた。

旦那様は、私に先ほど受け取った騎士団長の証である指輪を差し出した。

「この指輪は実際に使うことはないんだ」

「――証……なのにですか?」

「……そう、フィアーゼ家から騎士団長が輩出されたときには、この指輪はいつも妻の指に輝いていた。――生きて帰る場所であれという願いを込めて」

上手く笑えているだろうか。

ポロリとこぼれてしまった涙。

そう、この場所から動けなかったのは、旦那様が立つ場所の重みを感じてしまったからなのだ。

「あなたの……帰る場所でありたい」

「――俺が帰る場所は、君のそばにしかない」

手を差し出せば、右手の中指に指輪がはめられた。

「この指輪に誓いを込めよう……騎士団長としての俺は、この王国ごと君を守ると」

――入り口から大きな拍手とヒューヒューという口笛が多数聞こえてきた。

第一騎士団の団員たちが、全員そろって私たちを祝福している。

赤と水色の光――魔剣と聖剣も私たちを祝福しているようだ。

見られていると思わなかった私の頬は真っ赤に染まった。

それなのに、旦那様は平然と彼らに笑いかけ、あろうことか皆の前で私に口づけした。

「さあ……君の出番はここからだ」

旦那様の言うとおり、任命式を終えた騎士団長が現れるのを広場で待つ観衆は皆、待ち焦がれていることだろう。

口づけは今まで私を隠そうととばかりしていた旦那様が、これからは私を堂々と守るという意思表示のようでもあった。

「行こう、エミラ」

「はい、旦那様……」

でも、できれば頬の熱が引くまで待ってほしい……私は切実にそう思うのだった。