軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士団長任命式 5

旦那様の騎士団長任命式。

実際には、騎士団長になってから三年が経過しているが……。

朝から私は準備で大忙しだった。

私の化粧やドレスアップを手伝ってくれたアンナはもっと忙しかったことだろう。

彼女は本気だった――眼鏡を外していた。

『ぴっぴー』

そして今日も蜘蛛形魔導具は、飼い主にじゃれる子犬のように彼女の周りをグルグル回っている。

彼女は蜘蛛が苦手だが、ずいぶん慣れたようだ。

「奥様、お美しいです……」

「そうかしら……でも、主役は旦那様なのにこんなに着飾っても……」

私のドレスは深紅だ。

本来であれば正式な式典にはそぐわない派手な色であろう。

だが、私がこの色を着るのには理由がある。

旦那様の第一騎士団の色は赤なのだ。

そして紋章は剣と薔薇。

フィアーゼ侯爵家の家紋も剣と薔薇だ。意匠は違うものの、第一騎士団長はフィアーゼ侯爵家から選ばれることが多かったのだから無関係ではないのだろう。

ドレスのデザインは、色合いが派手な分、裾の膨らみがほとんどなく落ち着いた印象だ。もちろん第一騎士団を象徴する薔薇の飾りも控えめについている。

化粧も上品で落ち着いていて……鏡に映る私はいつもより大人びていた。

「あいかわらず、アンナの化粧の腕は素晴らしいわ」

「……変装に比べれば簡単ですわ」

――今日もアンナは、王家の影っぽいことを言った。私は聞き流すことにした。

「アンナ、ありがとう」

「晴れの舞台でお力になれたこと、大変嬉しく思いますわ」

アンナはそう言うと、再び眼鏡をかけた。

エントランスホールにはすでに旦那様が待っていた。

旦那様は、白い騎士服に身を包んでいる。

第一騎士団の制服は普段は黒なのだが、正装の場合は白だ。

通常の正装では、騎士は所属する騎士団の色のマントを着用する。

結婚式の日の旦那様のマントは赤色だった。

けれど、旦那様が今日身につけているマントは床につくほど長く両肩を覆うデザイン……純白に金の刺繍……騎士団長だけが特別な式典で着用するマントだ。

「――素敵です、旦那様」

「ありがとう、エミラこそ美しい」

旦那様が私の手に口づけを落とした。

「本当は、美しい君を誰にも見せたくないのだが」

「……旦那様、私を頼ってくださいませ」

「……エミラ?」

「もっと私を頼ってください。旦那様の隣にふさわしくなれるように、努力いたしますから」

旦那様は、私を見つめた。

「君はすでに、俺にはもったいないほど素晴らしい女性だが……?」

「……」

旦那様は本気でそう言っている。一緒にいる時間こそまだ短いが、私は旦那様のことを理解しつつある。

今日、旦那様の腰に下がっている剣は魔剣と聖剣の二本。

本当は魔剣だけ持って行こうとしたのだが、聖剣が頑なについていくと言って聞かなかったのだ。

魔剣と聖剣の声を聞いたことはないが、お互い光って一歩も譲らないという意思は感じた。

どちらも旦那様の晴れ舞台が見たかったのだろう……。

とはいえ、魔獣を相手にすると剣が破損することが多々あるため、基本的に騎士たちは剣を二本持ち歩いていることが多い。つまり、両方帯剣すること自体は問題はない。

旦那様の左の腰には普段使っている魔剣、右には聖剣が下がっている。

二振りの剣は形が同じだが、はめ込まれた宝石が違うため美しく見栄えする。

「格好いいです……旦那様」

「あまり褒めないでくれ」

旦那様の耳が赤く染まった。

照れてしまった旦那様は、正装姿であっても可愛らしかった。

「お父さま……格好いい」

「お母さま……綺麗」

ルティアとハルトがエントランスホールに現れた。

式典は厳粛な雰囲気で執り行われるため子どもを連れていくことはできない。

だが、城門前の広間でのお披露目式は見学予定となっているため、二人もおめかししている。

艶やかだが落ち着いた色合いのグレーのスーツとドレス。

まだ四歳なので膝が隠れる短い長さ。

赤い薔薇の髪飾りでハーフアップにした髪をまとめたルティアは愛らしい。

赤い薔薇の飾りのループタイを首元につけたハルトはやっぱり愛らしい。

「二人とも、とっても素敵よ!」

「「ありがとう!」」

二人は全身を見てほしいとでも言うように、その場でクルリとターンした。

――そう……我が子達は王国一可愛いのである。

二人は続いて旦那様に駆け寄って、心配そうな表情を浮かべた。

「お父さま、あとで見に行くから緊張しないでね!」

「僕が応援しているから……お父さまなら大丈夫だよ」

「はは、二人ともありがとう。少し緊張していたが、二人が応援してくれたおかげで落ち着いてきたよ」

「「えへへ~!!」」

威厳ある騎士団長である旦那様は、式典くらいで緊張はしないだろうが……。

二人がよく知る旦那様は、優しくて甘い父親なのだ。