軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロレンシア辺境伯領 9

――旦那様は次々と試合相手を薙ぎ倒していった。

剣を振るのが早すぎて、私には剣筋すら見えなかった。

「かっこいい……」

剣を振るたびに白銀の髪が煌めいている。

柘榴石のような赤い瞳が冷たく相手を見据えている。

家ではいつもニコニコと穏やかな旦那様は、別人のようだった。

「「お父さま、かっこいい!!」」

ルティアとハルトも大興奮だ。

今日から二人にとって一番の推しの騎士は、旦那様になることだろう。

なんだか眩しいな……と思い、魔剣に視線を向けるとピカピカ光って何故か自慢げだった。

「俺が育てた?」

「俺の愛弟子?」

双子が魔剣に話しかけている。

つまり魔剣は弟子の活躍を自慢しているのだ。

――フィアーゼ侯爵家の始祖である騎士レイブランドも弟子なのだろうか。

そんなことを思いながら、手にした魔剣を見つめていると、光が急に消えた。

答えにくいことだったのかもしれない。

「……ねえ、イースト卿が決勝の相手なの?」

「お父さま、勝てる?」

あっという間だった。

私はあまりトーナメントを観戦したことがなかったのだけれど、旦那様が相手を一瞬で倒して行くため、試合の進行が早いようだ。

決勝戦の相手は、辺境騎士団長シノア・イースト卿。

彼の強さは誰もが認めるものだ。

辺境伯領には、魔力が強い実力者が数多く集まっているけれど、接近戦で高位魔獣の相手ができる者は数少ない。

――父様、そしてイースト卿が辺境伯領の防衛ラインの中心戦力なのである。

旦那様の戦い方は、独特だ。

ゆらり、ゆらりと体を揺らしたかと思えば、風のように剣を振るい相手を倒してしまうのだ。

死神……とは、味方にとっては彼の剣を賞賛するものなのかもしれない。

対するイースト卿は大剣を手にしている。

スピードと力で彼に勝てる者はいないだろう。

風を切るように振るわれる剣は、旦那様の剣と打ち合うたびに、高い音を立てている。

「お父さま! 頑張って!!」

「お父さま! 負けないで!!」

ルティアとハルトは小さな拳を握りしめて、旦那様を応援している。

自分たちの試合よりも必死になっているかもしれないその姿が愛らしい。

チラリ、と父様と母様、そしてベルティナに視線を向ける。

三人は真剣な表情で試合を見守っている。

――おそらく、三人はどうすれば旦那様を倒せるか考えているのだ。

闘争本能……それが、ロレンシア辺境伯家の本質なのである。

旦那様が踏み込み、剣を大きく斜め上に振るった。

カァン……と甲高い音を立て、大剣がイースト卿の手から離れる。

「「わあ……イースト卿に勝っちゃった」」

正直私は、旦那様がここまで強いとは思っていなかった。

もちろん、騎士団長を務め長い間戦場にいたのだ。

だが、侯爵家の長男という地位もあるから、騎士団長になったのだと思っていた。

しかし、実力主義の辺境騎士団に入団したとしても、旦那様は騎士団長に上り詰めたであろう。

旦那様は、イースト卿と試合終了の挨拶を交わし、握手をした。

眉根を寄せているところを見れば、辺境伯領恒例の握力対決はイースト卿に軍配が上がったようだ。

旦那様が、私を見つめて微笑んだ。

そして、早足で応援席まで戻ってくる。

「――お父さま! かっこよかったよ!!」

「――お父さま! 今度はボードゲームより剣を教えてよ」

ルティアとハルトが旦那様にしがみついて、興奮しながら話しかける。

旦那様は二人を抱き上げると、私の前に歩み寄ってきた。

「……かっこよかったです」

「……それは、参加した甲斐があったな」

旦那様のことをたくさん褒めてあげたかった。

だが、旦那様があまりにも格好良すぎたため、ようやく口にできたのは、四歳児と大して変わらぬ感想だけだった。

それでも、私の言葉を受けて旦那様はとても嬉しそうに笑った。