軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロレンシア辺境伯領 8

ハルトは冷たい表情のまま、試合終了の礼をして退場した。

もしかしたら、これから先ハルトは変わってしまうのだろうか……。

だが、観客席に戻ってきたハルトは、私と視線を合わせると急に目を潤ませた。

「お母さま~!!」

そして放たれた矢のように勢いよく私に抱きついてきた。

「き、緊張したよ~!!」

「よく頑張ったわ!」

ハルトは先ほどまでの勇姿が嘘のように震えながら、しばらくの間私に抱きついていた。

そして、顔を上げる。

「ルティー、どうだった?」

「まあまあね! 剣が折れなければ私が勝ったけど!」

ルティアは先ほどまでのハルトの強さに対する賞賛なんてなかったような態度だ。

「でも、とても格好良かったわ」

ハルトは首をかしげると、ルティアに歩み寄った。そして、模擬剣の柄を差し出す。

「ありがとう――ルティ-に捧げる勝利だよ」

「ええ、ありがとう」

ルティアはハルトから模擬剣を受け取って、剣先を上に向けて胸の前で掲げた。

「……次は負けないわ」

「僕のルティーは強いからね」

「私のハルだって強かったわ」

二人はしばらく見つめ合うと、剣を置いてギュウギュウ抱き合った。

本当に仲がよくて微笑ましい。

それからハルトとルティアは、手を繋ぎ旦那様を上目遣いに見た。

「「お父さま、どうだった?」」

旦那様は席から立ち上がり、ルティアとハルトの頭を交互に撫でた。

「強いな、ハルトは」

「そうかな……」

「誰かのために立ち上がれる、それは一番大事な強さだ。俺は君が息子で誇らしい」

「……っ!!」

旦那様の言葉に、ハルトは頬を染めて目を輝かせた。

「ルティアも素晴らしかった」

「負けたのに?」

「今回は負けただけだ。練習していたのだな……剣筋が美しく努力してきたとわかった。俺は君が娘で誇らしい」

「ふふ!」

旦那様の言葉に、ルティアは満面の笑みを見せた。

「「お父さまも頑張ってね!!」」

二人の声援に旦那様は、大きく目を開いた。

まるで、初めてこんなふうに応援された、とでもいうような反応だ。

いや、事実そうなのかもしれない……。

「旦那様……応援していますわ」

「はは、無様な姿は見せられないな」

旦那様は魔剣を私に差し出した。

「真剣勝負ではあるが、魔道具の使用は厳禁だ。預かっていてくれ」

「……ええ、お預かりいたします」

旦那様は試合用の剣を手にすると、選手の控え室へ向かった。

その背中は頼もしい。旦那様はどんな戦い方をするのだろう、と期待に胸が膨らむ。

「「ねえ、魔剣さん。どうだった?」」

魔剣を抱えたまま席に着くと、ルティアとハルトが私と魔剣に貼り付くように話しかけてくる。

――父様と母様、そしてベルティナがその様子を無言で見つめている。

周りが見れば、幼い子どもたちが夢見がちに魔剣に話しかけているようにしか見えないだろう。

だが、ロレンシア辺境伯家は魔剣と対になる聖剣を所蔵しているという。

――三人は双子が魔剣と会話できることに驚いたようだ。

「子どもたちは、魔剣の声が聞こえるのか」

「あの、父様……?」

父様が近づいてきて、私に向き合う。

ロレンシア辺境伯家の観戦席は、周囲とは離れているから会話の内容を聞き取られることはないだろう。

「ええ……二人は魔剣と会話ができます」

「そして、お前も魔剣に触れられるのか。ところで、子どもたちは魔剣の光や姿を見ることがあるか?」

「……ありませんわ」

魔剣の光が見えるのは、私だけだ……。だが、魔剣の姿とはいったい何のことだろう。

父様は何か考える素振りを見せたあと、再び口を開く。

「そちらは受け継がれなかったか――エミラ」

「は、はい!」

父様に名を呼ばれることが滅多になかったので、呼ばれただけで緊張してしまう。

ルティアとハルトが赤い目をスッと細めて父様を見ている。

「このトーナメントが終わったら、お前に見せたいものがある」

「……」

「もちろん、婿殿も一緒にな」

「承知いたしました……」

父様はそれだけ言うと、自分の席へと戻ってしまった。

母様とベルティナがどこか気遣わしげに私を見ている気がした。

子どものころから、二人のこんな視線を何度も感じてきた。

――意味を聞くことはできなかったが、このトーナメントが終わればそれがわかるのだろうか。

観客が歓声を上げた。近距離武器の試合はトーナメントの花形だ。

しかも、今回第一騎士団団長である旦那様が参戦したことで、観客は大いに盛り上がっている。

旦那様がこちらに視線を向けて軽く手を振る。

勘違いなどではない。間違いなく私に向けて笑いかけている……。

氷のようだった表情が蕩けて、その笑顔に会場が騒然となった。

もちろん、私の心臓もはぜそうなほど高鳴ってしまった。