軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての家族旅行 9

最後の街で、食料を買い込んで峠を越える。

数十年前までは、徒歩で行くしかなかった峠も街道が整備され馬車で移動できるようになった。

「「……わあ!」」

ルティアとハルトは、拓けたところに立つ山小屋を見て目を輝かせた。

山小屋と言っても、辺境騎士団が拠点としているため大勢で泊まれるし造りもしっかりしている。

日が高いうちに山小屋に着いて胸を撫で下ろす。

山の中で日が暮れてしまうと危険だ。明日早く出れば、夕方には辺境伯領の中心部に着くだろう。

「今夜はここに泊まるの!?」

「そうよ」

「わあ……食事はどうするの?」

「夕食は俺が作ろう」

二人は顔を見合わせた。

「「お父さま……料理できたの?」」

「当然できるさ」

旦那様は侯爵家の長男だ。

通常であれば、身の回りのことすら使用人に任せるような身分のお方だ。

だが、旦那様は自信があるようだ。

「今日は外で調理する」

「「わあああ!!」」

ルティアとハルトは、すっかり興奮してしまった。

「火を使うから、走り回らないこと」

「「はい!」」

すると、木々の間からガサガサという足音が聞こえてきた。

もしかして、駆除されていない魔獣でもいるのかと身構えていると、のんびりとした声が聞こえた。

「旦那様、薪はこのくらいでよろしいですか?」

それはアンナだった。

麓の街に馬を預けたあと姿を消していたアンナだが、獣道でも通ってきたのだろうか。

現在は眼鏡をしていない彼女は、両腕いっぱいに薪を抱えている。

「十分だろう……周囲はどうだった?」

「問題ありませんでしたわ」

「そうか……」

すでに周囲を探索してきたようだ。

乗馬服姿のアンナは、いつもよりも凛々しく見える。

辺境騎士団の救護所を手伝っていたため、私も火を起こせないわけではないが、旦那様の手並みは鮮やかだ。

子どもたちに、どうすれば火がつけやすいか、火力が強くなるか、長持ちするかを説明しながら手早く薪を組んでいく。

子どもたちは、旦那様に尊敬の視線を向けている。

確かに、この場所での旦那様はいつも以上にかっこいい。

「ねえ、お父さま。魔道具は使わないの?」

「ああ、今日は使わない」

「じゃあ、どうやって火をつけるの?」

「火を付けるための道具があるんだ」

旦那様は小さな皮袋から道具を取り出した。

火打石と火打金、それから何かの毛だ。

「風属性の魔力を持つ魔獣の毛はよく燃えるから火口に適している」

「「へえぇ……!」」

旦那様は火打石と火打金を打ち合わせ、火花を飛ばすと一発で火をつけた。

簡単に見えるけれど、案外難しいのだ。

子どもたちは、真剣な表情で見守っている。

「火打石に火属性の魔鉱石を使えば、もっと簡単に火がつけられるが……高価だからな」

「お父さま、僕にもできる?」

「練習すればできるようになるだろう。だが、まだ早い」

「私にも教えてくれる?」

「ああ、六歳になったら教えよう」

ルティアとハルトは、焚き火の前で内緒話をしている。

「勝手に火を使うのは禁止だ。火事を起こしたり火傷をするからな」

「「はい!!」」

旦那様は続いてチーズとパンと薄くそいだ干し肉を焚き火で炙った。

パンに挟んで子どもたちに手渡している。

「これがお料理?」

「そうだ、簡単な料理も外で食べると美味いものだ」

「いい香りがするね」

「ああ。よく噛んで食べるんだぞ?」

チーズはとろけて、とても美味しそうだ。

二人は夢中で食べて、普段は食が細いハルトまで二個目を完食した。

いつの間にか、夜空には満天の星。

王都は最新の魔道具で明かりが絶えない。こんなに明るい星を見るのは、久しぶりのことだ。

「さあ、お嬢様、坊ちゃん。そろそろ寝ましょうね」

「え〜! もう寝るの?」

「もっと焚き火見ていたい〜」

もっと起きていたいと主張する二人だが、疲れていたのだろうあくびまじりだ。

「魔剣さんも一緒に来るの?」

「いいよ! じゃあ、一緒に寝よう?」

「旦那様、良いのですか?」

「構わない。予備の剣もあるからな」

ルティアとハルトが、二人で魔剣を持ってアンナとともに山小屋に入っていく。

魔剣と離れていいのか、と旦那様に視線を向ける。軽く頷いたから問題ないのだろう。

旦那様の腰には、もう一本短めの剣が下げられている。

魔剣を使う旦那様は、もう一本の剣を使うことはないが、魔力が高い者は複数の武器を携帯するのが一般的だ。

人の領域を超えた力に、武器が耐えられずに破損してしまうことが多いからだ。

魔剣は千年、折れることも欠けることもなかったという。

だが、念には念を入れるに越したことはない。

アンナとルティア、ハルトが去ると、周囲には静寂が訪れる。

焚き火は赤く周囲を照らしながら、パチパチと小気味よい音を立てている。

見上げれば満天の星。

「美しいですね」

「ああ……少し冷えるな」

旦那様はマントを外すと、私の肩に掛けて下さった。

ずっしりと重いけれど暖かくて、ハーブにも似た爽やかな香りがする。

「デートみたいですね」

「……そうだな。君と見る星空は、いつもより美しいようだ」

旦那様の瞳は焚き火に照らされていつも以上に美しい。

二人きり、星空の下で口づけを交わす。

静かな夜は更けていくのだった。