軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミッティア魔法王国の衰退

メジエール村の北西に隣接していた荒れ地は、緑あふれる美しい沃野へと生まれ変わった。

メルが妖精たちの願いを聞いて、五千億の花丸ポイントを投じた結果、呪われた古代ドンウォン共和国の領土に新生ユグドラシル王国が誕生したのだ。

この一件により、現象界と概念界は太くて丈夫な 通路(パス) を得た。

輪廻転生システムを再稼働させ、現象界で苦しんでいた死霊たちを概念界へ送ったことが大量の花丸ポイントの発生に繋がり、その花丸ポイントを妖精たちのために使ったことで、現象界と概念界の関係がこれまでにないほど改善された。

花丸ポイントは信頼の単位である。

思いやりによる献身的な行為と、それに応じた感謝を仲介するのが花丸ポイントだ。

ケチケチと溜めこんでいても意味がない。

皆のために使ってこその花丸ポイントだった。

メルは私利私欲でチマチマと花丸ポイントを使っていたけれど、そんなものは他者のためにつぎ込んだ花丸ポイントと比べたら微々たるものでしかない。

妖精女王陛下の我儘なんて、世界の浄化に必要なパワーと比較したら、それこそミジンコと巨人である。

砂粒と山だ。

『心からの祈りは叶えられる!』と言う人々の信頼が、現象界と概念界の距離を一気に近づけた。

実のところ、メルが用意した霊蔵庫は想像以上の効果を上げていたのである。

死霊たちの願いを叶えて転生させたことにより、より良き未来への希望が芽吹いた。

でも、だからと言ってクリスタの言いつけに背いたことは、チャラにならない。

ウィルヘルム皇帝陛下が催した戦勝祝賀会に参加した後、異界ゲートを潜ってメジエール村に戻ったクリスタは、メルを捕まえて 滾々(こんこん) と諭した。

「呪術を使ってはならぬと、あれほど言ったであろう。悪霊どもを使役するなぞ、もっての外じゃ!!」

「スンマセン……」

しかし、頷くばかりで反省の色が見られないメルに業を煮やし、これは罰を与えるしかないとアビーに相談した。

「呪術はなぁー。未成熟な魂に悪しき影響を及ぼすのじゃ。それ故に、メルが使ってはならん。そう説教したのじゃが、少しも意に介さぬ様子。言いつけを守れない子には、苦痛を与えて反省を促すしかあるまい。したが、どう罰すればよいのやら、上手い方法を思いつかん」

「あらあら……。あの子の耳は、都合の悪いことを聞き流せるんですよ。お説教は無意味ですね」

アビーはクリスタの苦労を想像して、小さく笑った。

「アビーよ。笑い事ではないぞ」

「うーん。だけど、お尻を叩いたくらいだと、メルちゃんに効果は無いです」

「そんなことは分かっておる。だから育ての親に相談しておるのじゃ。何か良い手はないかのぉー」

「そうですね。女の子らしくさせれば、反省すると思うけど……。ドレスを着せても勝手に脱いじゃうから、難しいかな」

「なるほど……。女の子らしくさせると、反省するのかい。ちいと、意味が分からんよ」

「あの子は、ひらひらしたドレスをひどく恥ずかしがるんです。要するに、精神的な苦痛ですね」

「ふーむ。助かったよアビー。そういう事なら、罰として脱げない衣装を用意しよう。妖精女王陛下に相応しい、特別製のドレスをね」

アビーからアイデアを貰ったクリスタは、森の婆さまの姿で酔いどれ亭を後にした。

そして中央広場で遊ぶメルに意味深な笑みを向け、意気揚々と自分の庵へ帰って行った。

「…………」

クリスタの視線に気づいたメルの顔が曇る。

「どうしたメル姉?」

「 婆(ばば) さまが不気味じゃ!」

「丸一日、説教したのに、まだ何かあるのか!?」

「デブ……。婆さまを舐めたらアカンど」

ダヴィ坊やの問いかけに、メルはフルフルと身体を揺らし、背中に張り付いた悪寒を追い払うのだった。

◇◇◇◇

長老サラデウスがグウェンドリーヌ女王陛下の出奔に気づいたのは、主なき『女王の間』で絶縁状を目にしたときだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

【絶縁状】

わらわの命に背き、好き勝手を行う愚か者どもへ……。

貴様らには、ほとほと愛想が尽きた。

それほど権力が欲しくばくれてやろうほどに、調停者クリスタの恐ろしさを十二分に知るがよい。

既にミッティア魔法王国の命運は尽きた故、滅びに至る僅かな日々を心ゆくまで楽しめ。

ミッティア魔法王国の女王として、最後の命令を与える。

わらわを探すな。

グウェンドリーヌより

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テーブルに置かれた便箋を目にして驚いたサラデウスだが、狼狽えはしなかった。

「ミッティア魔法王国の命運が尽きただと……。フンッ。齢を取りすぎて、正常な判断を下せなくなったか」

そもそもグウェンドリーヌ女王陛下から手酷い折檻を受けてきたサラデウスに、忠誠心などない。

そこは長老サラデウスも、自分本位で敬うべき対象を持たぬエルフだった。

自分こそ一番なのだ。

「女王が消えたなら、偽者を立てればよいだけのこと」

女王の替え玉候補なら、履いて捨てるほどいる。

グウェンドリーヌ女王陛下の出奔は、サラデウスにとって都合がよかった。

「あのように臆病で、臣下に当たり散らすしか能のない女は、不要だ」

サラデウスは絶縁状に火を点すと、火鉢に落とした。

当初はグウェンドリーヌ女王陛下に媚びへつらい、調停者クリスタや帝都の地下迷宮に現れたと言う謎の幼女(精霊の子)を警戒していたサラデウスだが、枢密院の貴族たちと付き合う内に生来の傲慢さをコントロールできなくなった。

自尊心を 擽(くすぐ) るおべっかと高価な 貢物(みつぎもの) は、サラデウスの克己心をグズグズに劣化させた。

とどめは、七人委員会のゼルゲがマリーノ・ドルレアン侯爵に暗殺された事実を看過したことにあった。

もう後戻りはできない。

好戦派の貴族たちと癒着したサラデウスには、戦争へと突き進む道しか残されていなかった。

「ウスベルク帝国が、なんぼのものか……。初戦でこそ敗れたものの、戦力が違う。帝国軍はモルゲンシュテルン侯爵領に差し向けられた我が軍の威容に、腰を抜かすことだろう」

大量の魔装化部隊を戦線に投入して、一気に防衛ラインを崩壊させる、ミッティア魔法王国が得意とする物量戦だ。

サラデウスは自軍の勝利を欠片も疑っていなかった。

そんなサラデウスが、ウスベルク帝国への橋頭保としたルデック湾の軍事基地と輸送船団の壊滅を知るのは、 僅(わず) か十日後のことであった。

この敗北はミッティア魔法王国に、取り返しのつかない弱体化を招いた。

這う這うの体で逃げ戻った数隻の輸送船は、怖ろしい情報を持ち帰った。

魔物の軍団を率いた斎王が、ミッティア魔法王国に天誅を下すと言った内容である。

当然、七人委員会は帰還した水兵たちに箝口令を敷いた。

けれど、不穏な噂は野火の如く広まった。

身も凍るような恐怖に直面させられたエルフ兵たちが、宗旨替えしたのだ。

エルフ兵たちの耳元にはベルゼブブが取り付き、昼夜構わず神の声を囁き続けていた。

その数、およそ百万。

だが、カメラマンの精霊が放ったベルゼブブに気づく者は、誰一人として居なかった。

そしてベルゼブブは、生き残りのエルフ兵から圧政に苦しむ民衆へとターゲットを変え、エルフの書にある教えを広めた。

臨界点を迎えると、貧しい人々は徒党をなし、あらゆる魔道具を破壊して回るようになった。

動力ディスクや魔道具に閉じ込められた妖精たちの解放である。

「妖精を助ければ、俺たちも妖精に助けてもらえるぞ!」

民衆は治安維持部隊の鎮圧を嘲笑うかの如く、近隣の魔道具屋や貴族の邸宅を襲撃した。

自由になった妖精たちの助力があるので、そのくらい容易いことだった。

やがて都市のあちらこちらで火の手が上がり、ミッティア魔法王国の経済損失は無視できないものとなった。

「これは、どうしたことだ!?」

七人委員会の会議で、サラデウスは声を荒げて、不甲斐ない同僚たちを詰った。

斎王ドルレアックとメルが知恵を絞った、極悪非道な作戦である。

両者ともに容赦なく、人心を惑わすことに長けていた。

今さら慌てたところで、どうしようもない。

「女子供であろうと、手加減は不要だ。我ら貴族に害なす虫けらどもは、一網打尽にせよ!」

とうとう枢密院は、治安維持部隊に暴徒の根絶を命じた。

ミッティア魔法王国の首都コルマンは、血臭漂う地獄と化した。

◇◇◇◇

その日、恵みの森にある庵で、メルのドレスに付与する魔法術式を考案していたクリスタは、黒犬ロルフが吠える声に気づき顔を上げた。

「おや珍しい。お客様かえ?」

庵の扉を開けると、中庭に品のよい女性が立っていた。

ロルフは女性に頭を撫でられて、 頻(しき) りに太い尻尾を振っている。

『番犬としてどうなのか?』と、首を傾げるクリスタだった。

「初めまして、クリスタ。わたくしはユグドラシル王国の精霊議会で、妖精女王陛下の教育係に任命された、クラウディアと申します」

「ほぉー。あんたは精霊かね。言われるまで気づかなかったよ」

「装うのは得意ですから」

「フムッ。何にせよ、あの子の教育係とは大儀なことじゃ。だけど、あたしとしては助かるよ。ちょうど今、あの子の躾に必要な魔法術式を考えておったところじゃ」

「躾ですか?」

「あの子に躾などしたくないけど、罰を与えても守ってもらわねばならぬ大事があるでな」

「そういう事でしたら、わたくしにもお手伝いさせてくださいませ」

「助かるよ。先ずは茶でも、お出ししようかね。狭い家じゃが、遠慮なく入っておくれ」

「それではお言葉に甘えて、ご馳走になりましょう。お邪魔します」

こうして儀典長のクラウディアは、調停者クリスタと手を組むことになった。

丁度その頃、ダヴィ坊やとタケウマ競争をしていたメルは、側溝の板を踏み抜いてすっころげた。

「ウハッ。大丈夫かメル姉?運が悪いな。そこだけ板が腐ってるぞ」

「フッ、不吉じゃー!」

メルの不吉な予感は、間もなく的中しようとしていた。