軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法料理のユニークスキルが生えた

「てぇへんだ!てぇへんだ!」

西の草原で家畜を飼っている牧人が、ファブリス村長の屋敷に駆け込んできた。

「落ち着きなさいマルコ。そのように慌てていては、何が大変なのかも分からないよ」

「いや……。これが落ち着いていられるか!?ての……。ハァハァ」

「まずは茶でも飲んで、一息つきなさい。話はそれからだ。おい、パウラ。マルコさんに、お茶を差し上げなさい」

「あい。すぐに、お持ちします」

小間使いのパウラは、マルコの前に良く冷えた茶を置いた。

「おっ、冷たい茶か。コイツはかたじけない」

そうして一息ついたマルコは、空から飛来した巨鳥に家畜が攫われた 顛末(てんまつ) を語った。

「その話からすると、ヒツジを攫って行ったのはホゲホゲ鳥で間違いなかろう」

ファブリス村長は困ったことになったものだと、ため息を吐いた。

メジエール村の傭兵団はフレッドに率いられ、帝都ウルリッヒの治安を守るために出払っていた。

何なら、冒険者ギルドも同様の状態だ。

メジエール村は、森の婆さまが張り巡らせた結界に守られている。

なので村人たちが魔獣に悩まされるような事件は、これまで起きていない。

この結界を潜れるのは、魔素量が低く、危険度の低いスライムくらいのものであった。

だからファブリス村長は、メジエール村の傭兵隊と冒険者たちが帝都ウルリッヒへ行くことを許したのだ。

「フゥー。災厄は備えのない時にこそ降りかかるもの……。嫌まったく、難儀なことであるな」

このような事件を相談できる相手と言えば、エルフ族との窓口を務めている 斎女(いつきめ) のエグランティーヌか、森の魔女だった。

先に話を持って行くべきは、森の魔女だろう。

その後、エグランティーヌに頼んで、エルフ族から優秀な狩人を貸してもらうしかあるまい。

必要とあらば、ドワーフの長ドゥーゲルに罠の製作を頼むという手も考えられる。

ファブリス村長はメジエール村の安全を守るためになすべきことを素早く算段した。

「しかし……。家畜を襲って持ち去るような巨鳥が、どうやって結界の内側に入り込めたのやら……」

その答えは簡単だった。

クリスタが設計した魔獣除けの結界は筒状なので、上空から侵入されたのだ。

別段、ホゲホゲ鳥が賢い訳ではない。

たまたまである。

「何にしたところで、この話を吹聴して歩いてはならんぞ」

「えっ?村人に注意を促さな、アカンやろ。子ろもでも攫われよったら、洒落にならへんどぉー」

ファブリス村長の指示に驚いたマルコが、反論した。

「それはワシの仕事だよ。マルコさんのように血相を変えて、『てぇへんだ!てぇへんだ!』と騒ぎ立てたら、村人が怯えてしまうだろ」

「いや、そうは言うけんどなぁー。わらしどもには、一大事じゃけ……。多少 喧(やかま) しゅーしても、しゃーあるメェ」

「それではいかんのだ」

「そうかぁー。アカンかぁー。よぉー分った」

マルコは素直に頷いたが、村人を怯えさせなければ良いんだと勝手に解釈した。

ファブリス村長も注意して欲しいことがあるなら、ハッキリと言えば良いのだ。

『幼児ーズに聞かれたくない』と……。

ファブリス村長の屋敷を後にしたマルコは、荷馬車を走らせて中央広場にやって来た。

「中の集落に来るんは、ほんに久しぶりじゃ。メル坊に会えるかのぉー」

以前はよく酔いどれ亭に入り浸っていたマルコだが、ある日を境に出禁となった。

収穫物を中の集落まで運び、その夜は酔いどれ亭でメルを膝に載せ、好きなだけ飲み食いする。

それがマルコの楽しみだった。

メルとは大の仲良しである。

「おらんのぉー。酔いどれ亭におったら、わらしは顔だしできんよって」

なぜ出禁にされたのか、まったく理解できないマルコだった。

自分は上客だと思い込んでいたが故に、フレッドとアビーには隔意がある。

顔を合わせても、わだかまりなく挨拶ができるとは思えなかった。

荷馬車の御者席から降りたマルコは、仕方なく冒険者ギルドへと足を向けた。

そこで怪鳥討伐の依頼書を張らなければならない。

賞金は近隣の畜産農家からかき集めた。

冒険者たちは出払っているとファブリス村長から聞いていたが、同じ悩みを抱える皆からの頼まれごとだ。

依頼書を受け付けてもらえるなら、やっておくべきである。

真面目なマルコは、そう考えた。

「邪魔するよ」

冒険者ギルドのドアを開けると、がらんとしたフロアの受付けに猫が座っていた。

ミケ王子である。

「うぉ。コレが噂のケット・シーか」

「受付獣のミケと申します」

「依頼書と報奨金を持って来たけぇー。手続きを頼んマス」

マルコは依頼書と報奨金を受付カウンターに置いた。

「手数料があるニャ。報奨金の五分を頂くニャ」

「ああ、それでエエよ。よろしく頼んマス」

マルコが受付の猫に頭を下げると、フロアの端にあるバーカウンターからグラスの鳴る音が聞こえた。

「んっ?」

「おや、マルコしゃん」

「メル坊!」

「久しいのぉー。こっちへ 来(き) んさい。一杯おごるきに」

「いやいや、ちょっと会わん間に、大きゅうなったのぉー」

メルがカクテルシェーカーをシャカシャカと振って、中身をグラスに注ぐ。

我が物顔で飲みものを用意するメルは、すっかりなんちゃってバーテンダーだった。

幼児ーズはバルガスたちの留守を狙って、冒険者ギルドを遊び場にしていた。

本物の冒険者ギルドを舞台にした、本格的な冒険者ゴッコだ。

だけど一件も依頼が来ない。

だから掲示板には、怪しげな依頼書がペタペタと貼ってある。

その掲示板に、ミケ王子が新しい依頼書を貼り付けた。

「摘まみもあるで」

「おおっ。ごちになろうか」

摘まみのプレートには、フライドポテトにソーセージ、コーンのバター炒めが盛られていた。

「ところでミーケさんや。マルコしゃんの依頼は、なんぞ?」

「大きな鳥の討伐ニャ」

「ほーん。その依頼、冒険野郎一番星が引き受けた」

「はっ!?冒険野郎一番星って、なんや?」

「わらしデス」

メルがフンスと胸を張った。

「いやいや、そりはアカンやろ」

「大船に乗った気持ちで、ドーンと任せておきんしゃい」

「いや。他の人はおらんのかい。メル坊が魔獣退治とか、アカンアカン。そりゃ大船でのおて、泥舟じゃ」

幼児期のメルしか知らないマルコは、大いに慌てふためくのだった。

◇◇◇◇

ホゲホゲ鳥は昼間に活動する。

夜行性ではない。

ホゲホゲ鳥が飛来するのは、放牧の時間帯だ。

従って、広大な牧草地の何処が襲われるのか予測できない。

だからドゥーゲルの罠は使えなかった。

クリスタが用意したのは、侵入警報の魔術式だった。

円筒形の結界内に魔獣の存在を感知すると、警報が鳴り響く。

ドミニク老師はエルフ族の若者を広く牧草地に配置して、ホゲホゲ鳥を狩ることにした。

心もとない作戦であるが、他に方法が無かった。

一方メルは、ダヴィ坊やとマルグリットを含む三名で事に当たる。

飽くまでもミケ王子はオマケだ。

だが、こちらには妖精たちの助けがあった。

クリスタの警報が鳴るより前にホゲホゲ鳥の接近を察知して、行動に移す。

「デブ、マルー。作戦開始じゃ」

「おう!」

「承知しました、姉さま」

「メルー。ボクのことを忘れないでよ。一応、ボクがギルマス代行だよ」

「ギルマスなら、ギルドにおれ」

「イヤだ。ボクも見に行くんだい!」

こうしてモモンガァーZを身に着けたメルたちは、現場へと直行するのだった。

ホゲホゲ鳥の飛行進路から予測される襲撃ポイントでは、既に戦いが始まっていた。

「よし。気張れよぉー!お世話になったメジエール村の人々に、いいところを見せるチャンスだぞ」

「おーっ!」

「よぉーく狙え。外すなよ」

魔法と矢による一斉攻撃だ。

「ちっ。老師、攻撃が通りません」

「諦めるな。何度でも撃て」

エルフ戦士たちが放った攻撃は、ホゲホゲ鳥の体表まで届かない。

すべて弾かれてしまう。

「なんで飛べるのか分からんような、太ましい鳥じゃのぉー」

「メルさん。メルさん。ボクたちだって飛んでいるじゃないですか」

「魔法か……!?」

ダヴィ坊やが納得顔で頷いた。

「魔法というか、妖精が手助けしとる」

「エルフたちの攻撃を弾いているのも、妖精たちですわ」

マルグリットがメルの台詞に説明を加えた。

「そんじゃ、ホゲホゲ鳥を助けている妖精たちも敵か?」

「ちと、説得してみるわ」

そういうとメルは、ホゲホゲ鳥に急降下した。

そして、今まさに捕らえた羊をぶら下げ、飛び去ろうとしていたホゲホゲ鳥の背中に立つ。

「よぉー聞け。わらしは妖精女王なるぞ!」

一発だった。

メルの声を聞いた妖精たちは、一斉にホゲホゲ鳥の味方を止めた。

「ホゲェー。ホゲェーッ!?」

妖精たちの助けを失ったホゲホゲ鳥は、羽ばたいても揚力を得られず、草原に墜落した。

「陛下、ご助力に感謝する!」

一声咆えるなり、メイスを振りかざしたドミニク老師が、ホゲホゲ鳥に襲い掛かった。

「行きます」

マルグリットも魔法ステッキを剣に変え、ホゲホゲ鳥の脳天に特攻する。

「おう。出遅れた」

「いいじゃないですか。ここはエルフ勢に花を持たせて上げるべきですよ」

「うーむ、確かに……。エルフのオッサンら、張り切っていたからな」

「譲って上げましょうよ」

「だな……」

ミケ王子とダヴィ坊やは、地上の喧騒を見下ろしながら頷き合った。

「アチョォーッ!」

そんな気遣いを他所に、メルの幼児拳がホゲホゲ鳥の眉間に炸裂した。

「ホゲッ!?」

大きな目玉をはみ出させ、ホゲホゲ鳥が全身を痙攣させた。

「あーっ。わしらの手柄が……」

「あらら……。お姉さまが、とどめを刺してしまいましたわ」

戦果を求めていた二人は、ガッカリである。

ピコリーン♪

ホゲホゲ鳥にとどめを刺したメルは、頭の中で響くチャイムの音を聞いた。

「なんぞ?」

ステータス画面を調べてみると、新たなスキルが表示されていた。

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【魔法料理】

妖精女王のユニークスキルです。

様々な魔獣の調理方法を獲得しました。

これを用い、精霊たちを心のこもった料理でもてなしましょう。

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「なるほろー。コレは考えておらんかった」

メルはボソッと呟いた。

初めて魔獣を倒したことにより、新たなユニークスキルが発生した。

どうやら魔獣を素材とした料理が、本当の魔法料理らしい。

しかも、精霊たちが喜ぶようだ。

取り敢えずホゲホゲ鳥は、食材として保存だ。