軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ピンポンキャッチ

エーベルヴァイン城に戻ったアーロンは、ウィルヘルム皇帝陛下から呼びだされ、こう命じられた。

「アーロンよ。今後、勅命のない限り…。其方が帝都から離れることを禁じる!」

「えーっ!」

「えーっ、ではない」

「そんなぁー」

「うるさい!」

用事を済ませたら即座にメジエール村へ戻ろうと考えていたアーロンは、ウィルヘルム皇帝陛下の怒りに腰を抜かした。

「オマエが居ない間に、色々とあった」

「そうなのですか?」

「プロホノフのゴリ押しで、ミッティア魔法王国の特殊部隊が地下迷宮を調査した」

「元老院がプロホノフ大使に、言い負かされたのですか…?なんてことだ…」

アーロンの顔色が一気に青ざめた。

「樹がな…。封印の塔を崩壊させて、一夜にして大樹が生えよった。おそらくは精霊樹であろう。それは、実にありがたい事だ。しかし…。我らの混乱をプロホノフに突かれて、調査団を受け入れるしかなくなった。精霊樹の調査を拒絶するので、精一杯だった」

「そのようなことが、ありましたか…」

ウィルヘルム皇帝陛下に聞かされた状況は、想像以上に悪かった。

ではあるモノの、精霊樹が無事に成長したのは喜ばしい事だった。

メルが 屍呪之王(しじゅのおう) に枝を刺したときは、アーロンも首を傾げた。

『それでどうなるのか?』と…。

帝都ウルリッヒへ戻ってみれば、エーベルヴァイン城の敷地内に天を衝くような大樹が育っていた。

アーロンにしてみれば、それこそムネアツな光景であった。

「精霊樹の加護があって、きゃつらは撃退された。ではあるのだが…。このような緊急事態に相談役の其方が居ないとは、どうしたことか?」

「申し訳ございません」

アーロンはウィルヘルム皇帝陛下に 詰(なじ) られて、仕方なく畏まった。

「よいなアーロン。ワシには其方が必要なのだ」

「しかし…」

「問題は、それだけで済まされん。フーベルト宰相から受けた報告によると…。バスティアンを引っ立てさせるべくモルゲンシュテルン侯爵領に向かわせた使者と帝国騎士団が、魔導甲冑の攻撃を受けて全滅させられた」

「なんと…」

寝耳に水である。

ビクッとなるイヤな話だった。

「バスティアン・モルゲンシュテルン侯爵の反乱だ。あやつは、ウスベルク帝国からの独立を宣言しおった」

「モルゲンシュテルン侯爵領には、ルデック湾があります…。わが帝国とミッティア魔法王国を繋ぐ、海路です」

「その通りだ…。あやつの背後には、ミッティア魔法王国が存在する。これを放置するなら…。遅かれ早かれ、ルデック湾はミッティア魔法王国の軍事拠点と化すだろう」

「グヌヌヌヌッ!」

アーロンはメジエール村に帰れなくなった。

屍呪之王(しじゅのおう) が滅せられて、自由の身になれると夢見たけれど、ミッティア魔法王国の侵攻を許せば精霊樹も無事では済まされない。

ウスベルク帝国の失策は、巡り巡ってラヴィニア姫の未来に暗い影を落とすだろう。

(ラヴィニア姫は、幸せになるべきヒトだ!)

それなのに…。

邪魔をする者など、絶対に許せなかった。

「ウスベルク帝国には、強力な魔法兵器がない。『調停者』の教えに従い、そのような研究は行って来なかった…。まあ、情けない言い訳ではあるが…。正直に語るなら、ワシの騎士たちでは魔導甲冑に勝てぬ…。アーロンよ。ミッティア魔法王国を退ける、よい方策を示すのだ」

「はっ…」

「すまぬが、あまり時間の猶予はない。何を使おうと構わぬ。ウスベルク帝国は全力を挙げて、其方の案を実行しよう」

「まずは、クリスタさまに相談申し上げましょう」

早速メジエール村に向かう、よい口実が出来た。

持つべきものは、引きこもりの師匠だった。

「そのぉー、なんだ…。其方の代わりに、使者を送ってはどうか…?」

「クリスタさまは、わたしでなくばお会いにならないでしょう。それに手紙では、細かな相談が出来ません!」

「くっ…。おまえはぁー。ただ単に、メジエール村へ行きたいだけであろう!」

「とんでもございません。帝国のためを思っての事であります…。今すぐに、皇帝陛下の勅命を頂きとおございます」

アーロンは、ここぞとばかりに言い張った。

メジエール村への帰宅を許されないのなら、理由をつけて訪問するのみであった。

◇◇◇◇

大工のニルス兄貴と鍛冶屋のゲラルト親方が、メルのところにやって来た。

「おーい、メル…。屋台が出来たぞ」

「どうだよこれ。メルの背丈に合わせて、注文通りに作ったんだぜ」

「ウォー。カッケェー!」

二人が運んできた移動式屋台の周囲を回って、メルは大喜びだ。

「車軸もオマエさんに渡された部品を仕込んだ」

「うんうん…」

小型のリアカーだ。

右にも左にも小回りが利く。

「そのぉー。ベアリングってやつな。オイラの工房でも作って良いか?」

「もちろん…♪でも、グリースどうするの?」

「それは、錬金術師のホルストに頼んだわ。何とかして見せるとよ!」

「俺っちも仲間に入れてくれよ。この移動式屋台ってやつは、荷車を丈夫で便利にするぜ」

「車軸も車軸受けも、金属製だからな…。そりゃ木製より、ずっと丈夫だわ!」

大工と鍛冶屋のコラボだ。

大工のニルス兄貴は、移動屋台のリアカー部分を荷車に使いたいらしい。

それは実に良い考えであった。

「板ばねも使う。そうすゆと、ガタガタせんよぉー」

「なんだ、そのイタバネって…?」

「あとで見せう」

強度と精度を要求されるベアリングボールの製造なんて、絶対に無理だろうと思っていたが、鍛冶屋の匠は魔法を使った。

花丸ショップで購入した車軸受けは、ゲラルト親方の工房で問題なく複製された。

おそらく板バネも、簡単に拵えてしまうのだろう。

この点では錬金術師だって、技術的に劣るモノでは無かった。

妖精たちがイメージを把握できれば、コチラの職人たちも様々な物を作れるようになる。

メルにしてみれば、願ったり叶ったりな展開だった。

技術の普及を奨励したいところだ。

だが今は、タコ焼きである。

まずはタコ焼きプレートに熱を通して、空焼きする。

そこに食用油を塗って馴染ませる。

「いい匂いだ」

「油が焼ける匂いヨ。まだ、ジュンビ中です」

魔法のタコ焼きプレートは、良い感じだった。

メルは魔法料理店に用意しておいたタコ焼き液と、その他具材を運んできて、移動式屋台にセットした。

「おーっ。ヒキダシ、使いやすい♪」

「そうだろ、そうだろ…。頑張って作ったんだぜ」

ニルス兄貴が得意そうに言った。

全てがメルのサイズだ。

取りまわしやすくて、不便さを感じない。

さりげなく、保存の魔法が仕組まれていて、食品を劣化から守ってくれる。

「すばらしいデス♪」

メルは二人の職人を絶賛しながら、タコ焼きを作り始めた。

タコ焼き液をプレートの丸いくぼみに流し込み、タコと紅しょうがを埋めていく。

程よく焼けてきたら青のりを振って、千枚通しでタコ焼きをひっくり返す。

「うっ、美味そうじゃねぇか…」

「丸いんだな…。見たことのない食いもんだ」

「完成じゃ!」

メルはタコ焼きを木皿にとって、鰹節とソースをかけた。

トッピングは色々で、刻みネギやマヨネーズに醤油ダレも用意してあった。

「あちちっ…。うめぇー。けど、アチィ!」

「これは、口の中がやべぇ。危ない食いもんだ。くっそー。あっちいのに、うめぇー。冷めるまで、待てない」

「うむっ。熱いうちに食べれ。タコ焼きとは、そういうモノであゆ!」

メルたちは三人並んで、ハフハフしながらタコ焼きを食べた。

どうやら、ニルス兄貴とゲラルト親方は、口の中を火傷したようだった。

タコ焼きに慣れるまでは仕方ない。

食べ方もまた、経験から学ぶモノである。

「そうそう、忘れるまえに渡しとく」

そう言ってニルス兄貴が、円錐の筒と非常に軽いボールをメルに手渡した。

「そんなもの、何に使うんだ?」

「オモチャです」

メルは何個かのボールと五つの筒を受け取って、満足そうに頷いた。

ピンポンキャッチである。

ボールを飛ばす仕掛けは要らなかった。

そこは風の妖精に頼めばよい。

「こぉーして遊ぶ」

メルはボールを筒に入れると、風の力で飛ばした。

「おっ。ボールが飛んだ」

ニルス兄貴が驚いた。

「セイェーマホォーの風ヨ」

「なるほどなぁー」

「そんでもって、キャッチ!」

落ちて来るボールを筒で受ける。

「飛ばして取ゆ。みんなで遊びます」

「面白そうじゃないか、オイラにもやらせてくれ」

「エエよぉー」

「俺っちもやりてぇ!」

「風のヨォーセイさんに、お願いすゆ」

メルが説明すると、ゲラルト親方がボールを飛ばした。

「おっ、飛んだわ。オイラにも出来たぜ」

「そそっ。上手です」

「俺っちも負けねぇぞ!」

ゲラルト親方のボールを器用にキャッチしたニルス兄貴が、ボールを飛ばした。

円錐の奥で風を起こすだけだから、的当てより簡単なのだ。

何しろ遊びの少ないメジエール村である。

大人たち二人は、メルを放置してピンポンキャッチに夢中となり、せっかく屋台で獲得した高評価を失った。