軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミッティア魔法王国の精鋭たち

チルたちは活気を失って墓地のように静まり返ったタルラ地区から、半日をかけて繁華なシェリナ地区へと移動してきた。

そして妖精の導きで炊き出しの現場を発見すると、急いで順番待ちの行列に並んだ。

「おいしそうな匂いだよォー」

「ああっ、よだれが溢れて来る!」

「ありがとう、妖精さん。あたい…。お腹の空きすぎで、倒れるかと思ったよ♪」

チルたち三人は引っ越しするつもりで移動してきたから、背に大きな荷物を担いでいた。

とは言ってもズタ袋の中身は木の食器と毛布、それに防寒着と着替えだけだ。

孤児の財産としては立派なモノだけれど、普通に考えるなら極貧である。

ズタ袋に入った財産のうち、お金を払って買ったモノと言えば、衣類を繕うための裁縫道具くらいだろう。

あとは全て、そこら辺から拾い集めた品だ。

チルたちの採取生活は、妖精の助けがあってこそ成立していた。

妖精はチルが欲しがるものを何であれ探してくれる。

対価を請求することはない。

チルたちの喜びと感謝の気持ちだけが報酬だった。

安全なネグラだって、妖精の助けがなければ見つけられなかっただろう。

なにか助けてもらうたびに、チルたち三人は大喜びで妖精に感謝した。

そうなれば人を喜ばせるのが大好きな妖精たちだって、チルのために張り切ろうと言うモノだ。

こうしてチルと妖精のコミュニケーションは、どんどんと深くなっていった。

妖精使いであるチルの能力は徐々に成長して、妖精たちの個性を見分けられるまでになった。

妖精たちの方でもチルの意図を汲み、間違わずに欲しいものを見つけられるようになり、今では先回りして引っ越しを促せるほどになった。

ほぼ人と妖精の理想的な関係が、ここに有った。

だからチルたちは窮乏していても絶望しなかったし、悲しんでしゃがみ込むより現状打破をよしとした。

今日より楽しい明日…。

それが生きる上での指針だ。

「おっ、新顔じゃねぇか?」

炊き出しをしている屈強な男が、チルたちを目にして言った。

「うん。タルラ地区から、引っ越して来たんだ!」

チルはズタ袋から自前の椀を取りだし、男に突きつけた。

「随分と良い食器を持ってるじゃねぇか!」

男が笑った。

チルが差しだした木の椀が、とても大きかったからだ。

「ケチケチしないで、どぉーんとよそってね!」

「おまえ、良い根性してるわ…」

「気に入ってくれても、構わないわよ。小父さんの情婦には、ならないけどネ…」

「けっ…。十やそこいらの子どもが、ナニ言ってやがる。もっと、お行儀よくしねぇと、沢山よそってやらねぇぞっ!」

男はタップリとシチューが入った椀を乱暴な仕草でチルに返した。

チルの台詞に機嫌を損ねたのだ。

小さな少女に情婦などと言う台詞を吐かせる街が、気に喰わなかった。

「行儀かぁー。そんなのより、あたいらはネグラを探さなきゃだよ」

チルはシチューの匂いを嗅いで満足そうな笑みを浮かべると、炊き出しの混雑から離れた。

シチューは具沢山だった。

大きな肉の塊まで入っている。

「うまぁー♪」

「マジで美味いな」

「チルについてきて良かった…」

妖精の導きに、間違いはなかった。

「おいっ、ワレン!」

「どうした、フレッド?」

「だれか手の空いてる奴がいたら、あいつらを見張らせろ」

「ははん。あの小娘が、気になるんか…?」

「そうだよ。悪いか…?鼻垂れどもが無茶しそうで、我慢ならねェー!」

強面な外見に反して、妙に面倒見の良いフレッドだった。

とくに相手が少女ともなれば、メルと被ってしまい目を逸らせなくなる。

フレッドの中身は、気の良い親バカでしかなかった。

非道なヤクザたちを容赦なくボコるフレッドが、小さな孤児のグループにやきもきする様子は、ワレンのささくれた気持ちをホンワカと和ませた。

良い気分にさせてくれたボスの命令は、とっておきの笑顔で引き受けてやるべきだろう…。

ワレンはニヤニヤと笑いながら、孤児たちの監視につける手下を選びに行った。

「おーい。おまえたち、こっちへ来い!」

ワレンが掃除をしていたチンピラ風の若者に、声をかけた。

「へい、師匠…。ただいま参ります」

「おらっ、いくぞテメェら!」

「おうよ!」

ワレンが狩人の追跡術を仕込んでいる最中の、下っ端たちであった。

現場には出せないが、子供の尾行なら丁度よい訓練になる。

「五人で行け。報告を欠かすなよ。間違っても襲うんじゃねぇぞ。アソコにいるチビたちを監視して、保護するのが仕事だからな!」

「やめてくれよ師匠…」

「おれたちゃ、もうガキを襲ったりしねぇよ」

「襲うなら、あくどい金持ちだ。覚悟を決めて、キッチリと計画を立てろだろ…?」

「まあチンピラだから、オイラたちに信用はない」

「おまえら、馬鹿か…。信じてもらえたからこその、仕事だろ。師匠の信頼を裏切らないように、せいぜい努力しようぜ!」

分かっているのか分かっていないのか、微妙な弟子たちであった。

新設されたヤクザ事務所の見習いなので、色々と足りなかったりするのだ。

何しろカヨワイ女性や老人を相手に 俺TUEEE(カツアゲ) して、ヨルグとワレンに捕まった連中である。

事務所に拉致られて、命との引き換えに便所掃除からの修行を課せられ、頭の中までまっさらに漂白されてしまった。

『魂のこもった鉄拳制裁が、馬鹿ガキの生き方を変える!』と言うのが、ヨルグなりの哲学だった。

ヨルグは殴って殴って殴って、若者たちを矯正した。

『おめでとう…。諸君は真人間に生まれ変わった!』

『ありがとうございましたァー!』

性格は従順に叩き直されたけれど、バカは治らなかった。

脳ミソは殴られ過ぎて、ツルツルになった。

以前より、脳のシワが減った。

若者たちは、人生を一から学び直す必要があった。

「よぉーし、おまえら。猟犬のように働け!」

「ウッス!頑張ります!!」

ワレンの号令に声を張り上げて応じる若者たちは、何処から見ても立派なチンピラでしかない。

チンピラとして生まれ落ちたのだから、そこは変えようがなかった。

ゴブリンがゴブリンであるように、チンピラはチンピラなのだ。

だから若者たちは、今日も肩で風を切って歩く。

『俺TUEEE…!』

どうにも、長生きしそうになかった。

◇◇◇◇

ヤニックことヨーゼフ・ヘイム大尉は、無口な特殊部隊の隊員たちを前にして憂鬱な顔になった。

ボーセル少尉もヤニックの横に立って、暗い目をしていた。

何となればヨーゼフ・ヘイム大尉の指示を受けてボーセル少尉が放った調査隊は、ひとりとして情報を持ち帰らなかったからだ。

一夜にして生えた巨木を調べに行った者たち、地下迷宮の様子を探りに行った者たち。

それら全員が全員、ウスベルク帝国の手に落ちたのだ。

現地工作員の腕っこきである。

失ったダメージは大きい。

しかもウスベルク帝国の了承を得ない調査であるから、非合法な活動でしくじった部下を返せとも言えない。

『盗人の仲間である!』と白状する、秘密工作員は居ない。

いま目のまえにいる特殊部隊の隊長から事情説明を求められたが、ヨーゼフ大尉に報告できるのは子供でも見れば分かる事ばかりだった。

「大尉殿は、いったい何をしていたのですか?」

「フンッ。おまえの嫌味を聞けるほど、余裕のある状況ではない。俺は機嫌が悪い。口に気をつけろ!」

「良いでしょう。我々が探索結果を持ち帰り、ミッティア魔法王国に報告します…。あなたが無能であると…!」

「やれるものなら…。黙って、やって見せろ!ただし…。これだけは忠告しておこう。帝国側は魔法具を破壊する、何某かの手段を持っている。市井にばら撒いた魔法具が、悉くコアユニットを破壊されていた。特殊部隊が自慢する魔法装備だって、無事では済まされんぞ!」

ヨーゼフ大尉は、敵意を隠そうともせずに脅した。

「バカらしい。世迷言も、大概にしてもらいたい」

「忠告はしたからな。あとで聞かなかったとは、言わせん!」

地元権力者たちからのクレームを受けて魔法具の調査に当たったのは、魔導技師のナヴァルだった。

ナヴァル魔導技師の腕は、ヨーゼフ大尉が信頼を置くところである。

『魔素ポットが、全損しております!』と、ナヴァル魔導技師は調査結果を報告した。

何重にも保護された魔素ポットの故障は、通常であれば考えられない。

何者かが故意に破壊したと、捉えるべきだった。

それも全ての魔法具が、魔素ポットを破壊されていたのだ。

(偶然は、あり得ないんだよ!)

ヨーゼフ大尉やナヴァル魔導技師には、どのような手段で破壊が行われたのか分からない。

だが、敵はコアユニットだけを狙い撃ちしている。

これを先に知っていれば、ヨーゼフ大尉もエーベルヴァイン城に調査隊を向かわせたりしなかった。

いま同じ轍を特殊部隊が踏もうとしているけれど、知ったコトではなかった。

彼らはプロホノフ卿の手下なのだ。

ヨーゼフ大尉の計画が進行しないので、痺れを切らせたプロホノフ卿は本国より特殊部隊を呼び寄せた。

特殊部隊はプロホノフ 大使(・・) の依頼で、ウスベルク帝国の了承を得て地下迷宮へと侵入する 親善(・・) 調査団だ。

実にインチキ臭い話だが、これはプロホノフ大使が交渉で勝ち取った成果と言える。

ヨーゼフ大尉としては、事の成り行きを黙って見ているしかない。

(だが、貴様らの失敗を祈ってやる。俺の全身全霊をかけて、呪ってやるわ!)

ヨーゼフ大尉は、非常に機嫌が悪かった。

ミッティア魔法王国から派遣された特殊部隊を率いるフレンセン隊長は、極度の魔導技術信奉者だった。

極度のとは言うモノの、それはミッティア魔法王国のエリートであれば一般的な態度であった。

つまるところ、フレンセン隊長は本国の優位性を露ほども疑わず、周辺諸国の文明を下に見る。

(魔素の概念すら扱えぬサルどもを相手に、いつまでも手こずる無能どもめ…。我が魔法王国の恥さらしが…!)

フレンセン隊長の憎悪は、同胞の不甲斐なさに向けられていた。

帝都ウルリッヒの地下迷宮探索に困難が伴うとは、全く考えていなかった。

それだけの優れた最新装備と、魔法能力に秀でた部下たちが、フレンセン隊長を支えていたのだ。

フレンセン隊長と部下たちは隠れ家であるマチアス聖智教会を出ると、颯爽とソレル大通りを歩き始めた。

その自信に満ちた姿は、どことなくワレンの 手下(チンピラ) たちを連想させた。

『俺TUEEE…?』

特殊部隊の隊員たちもまた、大して長生きしそうになかった。