軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 プロポーズ ※リカルド視点

「本当に、リカルド兄さんを愛しているのですか」

リカルドは、それを聞いて、動くことができなかった。

使用人達にレイモンドの行方を聞き、ティールームのテラス席まで来たのはよかった。

ティールームの室内側、観葉植物の近くまで来たところで、レイモンドの声が聞こえてきた。

それが、リカルドがずっと聞くのを躊躇っていた事柄だったから、彼は思わず足を止めてしまったのだ。

若く真っ直ぐなレイモンドの言葉に、ほんのりとマリアの頬も赤く染まっている。

リカルドは三人の前に出ていくことも、立ち去ることもできず、ただ青ざめていると、マリアが口を開いた。

「彼を男性として意識したのは、彼がありのままの私のことを受け入れてくれていると知ったときなのだけれど……」

それはきっと、リカルドが彼女にプロポーズしたときのことを指しているのだろう。

リーディアとの親交を深めた彼女に、娘の後押しを得た中、勢いで流すように彼女にアプローチをした。

リカルドは、マリアをかけがえなく思っていて、どうしても手に入れたかったからだ。

けれども、マリアは?

「わたし、きっとね。本当は、その前から彼のことが好きだったんです」

いたずらをするように笑うマリアに、リカルドは大きく目を見開く。

「わたしとリカルドは、わたしの実家のマティーニ男爵領で出会いました。迫る女性達からの避難を兼ねて、視察に来ていたんです。先日、リカルドが皆さんにお伝えしたとおり」

「……はい」

「そのときね。あの人、女性達のことを決して悪く言わなかったんですよ」

ハッとするレイモンドに、マリアは何かを慈しむような目で微笑んでいる。

「自分があんなにも追い詰められていたのに、彼女達を上手く躱すことができなかった自分を責めるばかりで。『せっかく好意を向けてもらったのに』って」

「……っ、それで自分が倒れたのでは意味がない。それは、弱い男です」

レイモンドの言葉に、リカルドは歯を食いしばった。

彼の言葉はリカルドの心の弱いところに刺さり、それでようやく、リカルドは自分の気持ちに気が付いた。

結局、マリアに対する自信のなさの大本は、そこにあるのだ。

彼女のいるマティーニ男爵領を訪れた際、平静を保つことができていなかった己の弱さ。

あんなふうに情けないところを見せてきた自分。

彼女の心を射止めたのは、皆が褒めそやす自分の容姿ではなく、では一体、何が彼女を自分に繋ぎとめているというのだろう。

考えれば考える程、指先が冷え、心も冷えていく。

しかし、マリアは、そんなリカルドの気持ちを解きほぐすかのように、ふわりと笑った。

「そういう見方もあるかもしれません。だけど、私は思ったんです。なんて強い人なんだろうって」

マリアは、なんのてらいもなく、そう口にした。

信じられなかった。

自分は、強くなんてなかった。

強かったら、もっと上手く躱すことができたはずなのだ。

あらゆる好意を、一方的な愛を、自らを削ることなく躱すことができたはず。

リーディアを傷つけることもなく、大人の男として、全て上手くやっていけたはずで。

リカルドは、ずっと自分が許せなかったのだ。

ずっとずっと、後悔していた。

強くあることができなかった自分を、皆に助けられなければ立ち上がれなかったことを、領主として、男として、恥じていた。

それなのに、リカルドの愛する妻は、そんな弱くて情けない彼のことを、強い男だと認識している。

「きっとね、わたしだったら思ってしまったと思うの。どうして好意を押し付けるの? 身勝手に、無神経に、愛を押し付けるなんて、酷いじゃないかって」

「それが普通のことです。自分を守るために、必要な気持ちだ」

「そうですね。……これからの彼のことを思うと、自分ばかりを責めずにいてほしいと思います。もっと、周りに怒ってもいいとも。――だけどあのとき、女性達の好意を大切に思って、自分で抱え込もうとした彼の気持ちを、わたしはただ……美しいと思ったんです」

◆◇

わたしは、あのマティーニ男爵領で、契約結婚することが決まったあの日のことを思い出す。

あのとき、リカルドはわたしに、深く頭を下げた。

至らない自分のためにありがとうと、心からの感謝を告げてくれた。

彼は何も悪くないのに。

被害者に過ぎない彼が、誰を責めることなく、自分の無力さだけを責めていた。

それがとても悲しくて、胸が痛いほど愛しくて――この人の力になりたいと、わたしは心からそう思ったのだ。

周りに優しくて、自分に厳しくて。

それを当然として生きてきた、とても強くて、真っ直ぐな人。

◆◇

「わたしは、あのときの彼の気持ちを否定したくないと思ったの。そう思っている時点で、わたしはきっと、リカルドに心を奪われていたんだわ。わたしは彼を、心から愛しています。だから、レイモンド様。あなたの気持ちはとても嬉しいけれど、受け入れることはできません」

迷いのないマリアの言葉に、リカルドの頬を、ほろりと熱いものが流れ落ちた。

彼女はやはり、リカルドの天使だ。

リーディアに告げた言葉は、間違いではなかった。

どうしてこんなにも簡単に、リカルドを救ってくれるのだろう。いつだって、マリアはリカルドの一番欲しい言葉を、救いの手を差し伸べてくれる。

レイモンドは、揺らぎなくリカルドへの愛を告げるマリアに、「こうもはっきり振られてしまうとは」と泣き笑いで肩をすくめた。

「あなたは、リーディア様が理由で、彼の傍にいる訳ではないのですね」

「はい。わたしは自分の意思で、わたしが一番愛する人の傍に居るんです」

華やぐ笑みを浮かべたマリアに、レイモンドはようやく、憑き物が落ちたような、晴れやかな笑顔を浮かべた。

ルシアおばあ様は、そんなレイモンドを見て、呆れたような、安心したような顔で胸をなでおろしている。

そして、リカルドが顔をぬぐい、三人に声を掛けようとしたところで、大きな声が響き渡った。

「なんだ、面白いことをしているじゃないか」