軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42 下町大通り 三回目

急遽やってきた下町大通りは、特段いつもとかわりなく賑やかな様子であった。

沢山の人に、沢山の食べ物の香り、沢山の遊戯に、楽しそうな声。

それを初めて見た幼子がどのような反応を示すか、もうおわかりだろう。

「なあなあ、マリア! あの綿菓子ってやつが食べたい!」

「あれ! マリア、あれ! 輪投げってやつ、やってみたい!」

「マリアー! さくらんぼアメ、可愛い!」

「マリア〜、このお肉、どっちがおいしいと思う!?」

「ほら、マリ」

「ママ!!!! リーも!! お肉、食べたいのー!!」

銀色娘の唐突な叫びに、わたしもシルクちゃんも、リカルドもスザンヌ様もイーゼル殿下も、なんなら道行く人々もびっくりである。

叫んだ本人は、ほっぺをぷくぷくに膨らませて、必死の形相で、わたしの左手に絡みついている……。

~✿~✿~✿~

実は、シルクちゃんと幼子二人には、下町でははぐれないように、必ず大人の手を握っておくように言いつけておいたのだ。

そうしてわたしがシルクちゃんに右手を差し出したところ、シルクちゃんは少し固まった後、砂糖菓子みたいな笑顔でわたしの手を握ってくれた。

その後、屋台を見ては「マリア」、屋台を見ては「マリア」と、赤毛の子猫がじゃれつくような、あどけない様を見せてくれるシルクちゃん。

可愛さ爆発のその様子に、わたしの目尻は溶けて無くなってしまったと思う。

しかし、ママのそんな様子を許す銀色スナイパーではないのだ。彼女は別に、お肉が食べたいわけではない。ママの視線を奪いに来た、怪盗娘なのである。

プルプル震える銀色スナイパーに、わたしはくすくす笑いながらその場でしゃがんで、彼女に視線を合わせる。

「ごめんね。リーは世界で一番可愛いアイドルなのに、ママはよそ見してたね」

「!! そ、そうなの。リーはアイドルだから、ママはずっとリーを見てなきゃだめなの」

「マリア、あたしは……?」

「二人とも、とっても可愛いわ。それでね、可愛い女の子達は、仲良く一緒にいるほうが注目を浴びるものだって、よく聞くんだけれど……」

「「!!!」」

わたしの言葉に納得したのか、二人は謎に頷きあって、お手手を繋ぎながらご機嫌で屋台選びを始めた。

二人揃って、たまにこちらをチラッチラッと伺っているのが、もうめちゃくちゃに可愛い。

ちょっとあまりに可愛すぎたので、後ろから二人に「可愛い!」と抱きついてしまったのはご愛嬌である。

ちなみにこの間、スザンヌ様とイーゼル殿下は、初めてのお忍びに緊張しすぎて、カチコチのブリキ人形のような動きでわたし達の後をついてきていた。

リカルドも、同じく緊張した面持ちでついてきていた。

実は、急な出発により私服護衛が張り付く暇がなく、護衛は彼が一手に引き受ける形になってしまったのだ。

少しずつ私服護衛らしき人物が周りに増えていっている気配は感じるけれども、彼の心労は減らないらしい。

ところで、今日のこれはそもそものところ、本当にお忍びになっているのだろうか。

リカルドもリーディアも色を隠していないし、みんな割と、王宮向けの華やかな服を着ているし……。

「マリア〜、おかしいぞ。ここ、ドラゴン饅頭がない!」

「え?」

「ドラゴン饅頭。すっごく美味しいんだぞ。前はいっぱい売ってた」

「……?」

どこかで聞いたことがある名前だ。

ドラゴン饅頭?

「ドラゴン饅頭なら、ミゲルお兄ちゃんの家にあるよ」

「あ」

「シルクちゃん。ミゲルお兄ちゃんのおうちに行ってみる?」

「行く行く! ドラゴン饅頭があるんだろ?」

うんうん、思い出した。

ミゲル兄さんの家を訪問した際に、兄さんがそんな名前を口にしていた。

でも、あれ?

そのお饅頭って、確か、黒鳥ヴィッキーの三人組が必死に止めていたアレじゃなくて……?

わたしが冷や汗をかいていると、リカルドがわたしのほうに近寄ってきた。

「ミゲルさんのところに行きたいのか? だったら、そちらに向かったほうがいいだろう」

「リカルド」

「ここは人が多すぎる。準備なしに長居するのは危険だ」

それもそうかとわたしが頷くと、リカルドはポケットからある物を取り出した。

金色の文字盤に、虹色のバンドが目に痛い、主張の強い電波通信腕時計である。

ミゲル兄さんがどこぞから取り出した電波通信腕時計は、全部で三つ。

一つはプレゼントされたリーディアが、一つはリカルドが、そしてもう一つはミゲル兄さんが持っているのだ。

「それがあれば、連絡を取れそうね」

「うん。……いや、難しいな。どうやって起動するんだろう」

「えっ。えーと、ボタンが多いのね」

「パパ! 大丈夫なの。リーにまかせて!」

もたつくわたし達を見た自信満々銀色スパイ娘は、意気揚々と自分の腕時計を取り出すと、慣れた手つきでミゲル兄さんに連絡を取っていた。

小さなお手手がピコピコとボタンを押して操作する様を見て、わたしは、なるほどこういう新しいおもちゃは、子どものほうが操作が上手いものなのかもしれないと感心する。

素早く操作するリーディアを見て、シルクちゃんとイーゼル殿下が興味津々なのは気になるけれども……ミゲル兄さんになんとかしてもらおう。

「ミゲルお兄ちゃん、来てもいいって!」

この一言で、行き先は決定だ。

こうしてわたし達は、今度はミゲル兄さんの家に行くことにしたのである。