軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16 お詫びに?

時は少し遡り、数週間前のこと。

「謝罪……ですか?」

わたし達一家がルビエール辺境伯領から戻り、リキュール伯爵領に居た十二月のある日、わたしの父マーカスとエドワード王弟殿下がリキュール伯爵邸にふらりとやってきたのだ。

エドワード殿下は王族なので、好きなタイミングで大転送魔法陣を使い、王都からリキュール伯爵領までやってくることができるのである。

「そうなんだ。エドワード殿下が、どうしても王族からリカルド君への謝罪の場を設けたいと」

「うん。リキュール伯爵にとっては、すでに忘れ去りたい内容だとは思うのだが……」

申し訳なさそうにしているエドワード王弟殿下は、言葉を選ぶようにしながら、話を続ける。

「聖女の血を引くリキュール伯爵家は、エタノール王国の宝だ。その繁栄を願ったとはいえ、王家のやったことは、リキュール伯爵家との禍根を残しつつある」

「……はい」

「このまま来月、リキュール伯爵が社交界に戻れば、否応にもそのことが国内外に伝わるだろう。それは、国として避けたい事態なんだ。どうか受けてもらえないだろうか」

王家からの謝罪。

妻としては夫と距離を置いて欲しいという気持ちがある反面、彼の貴族としての今後を思うと、謝罪を受けたほうがいいようにも思う。

リカルドは、どうするのだろうか。

わたしが恐る恐る彼の様子を窺うと、彼は眩しいくらいの笑顔でわたしを迎えてくれた。

あまりの不意打ちに、目が見えなくなるかと思った。

本当に恐ろしい人である。

赤くなっているであろう頬に手を添えると、リカルドがわたしの腰をそれとなく引き寄せてきた。

そして、彼はエドワード王弟殿下と向き合う。

「謝罪をお受けします」

「! いいのか、伯爵」

「はい。……ですが、その」

「うん?」

「何故、そのように正直な話を? エドワード殿下であれば、もっと上手く話を運ぶこともできたように思います」

リカルドの言に、わたしも頷く。

この謝罪の話、エドワード王弟殿下の話ぶりだと、エタノール王国側にだけメリットがある話のように聞こえる。

もっとこう、リキュール伯爵家にとって得があるだとか、妻にいいところを見せろだとか、話の持っていき方は色々あったはずなのだ。

わたし達夫婦の疑問に、エドワード王弟殿下はハハハと声をあげて笑った。

「まあ、実際のところ、この話、メリットがあるのは王家だけだからね」

「エドワード殿下」

「聖女の血を引くリキュール伯爵家。かつて居た聖女リリアナの代から、君達は頑なに、侯爵位以上の爵位を受け取らない。他国から常に勧誘の声がかかっている。――君が一部の国の爵位を持っていることも、私は知っているよ」

ニヤリと笑うエドワード殿下に、リカルドもにっこりと爽やかな笑みを浮かべた。

わたしも表面上は微笑みながら、(あれ? ここは魑魅魍魎の集う部屋だったかしら……)と遠くに思考を放り出す。

「君達は実のところ、エタノール王国の謝罪を受け取らずともやっていける。それでもこの国を選んで欲しいと私は願い出ているわけだ」

「……」

「だからこそ、隠したくないと思ったんだよ。王族の末席を担うものとして、私だけでも、君達に誠実でありたい」

エドワード王弟殿下の言葉に、リカルドはただ、ふわりと微笑んだ。

それでわたしは、彼がエタノール王国を選んだのだと理解する。

リカルドが選んだ道なら、わたしはどこへなりともついて行くつもりだ。

そして同時に、彼がこの地で生きることを選んでくれたらいいなとも思っている。

たくさんの土地を見て回ったけれども、わたしはやっぱり、エタノール王国の南方、リキュール伯爵領とマティーニ男爵領のあるこの地が好きなのだ。生まれ育った場所、出会ってきた人達を、わたしは多分、とても愛しているから。

彼の出した結論に、わたしがつい頬を緩めていると、私の父マーカスが、クスリと失笑した。

「まあ、エドワード殿下がうまく誤魔化すような話をしたら、私が全部リカルド君に暴露しましたけどね」

「……マーカス。せっかくの美談に水をさすのはどうかと思うぞ」

「殿下方は私の大事な義息子をいじめたんですから、このくらいは当然のことです」

「やれやれ。本当に、私には手厳しいことだ」

肩をすくめるエドワード王弟殿下に、わたし達夫婦もつい、笑い出してしまう。

そして、空気が変わったのは、殿下がこんなことを言い出したからだ。

「ところで、謝罪を受けてくれるとなると、我々も相応の対価を君に払うつもりだ。兵役免除の件は別としてね。何か希望はあるかな?」

リカルドは目を瞬くと、困ったような顔でわたしを見た。

その急な救難信号に、わたしは慌てて首をブンブン横に振る。

(王家からの謝罪としてのもらうものとして、ちょうどいいもの……!?)

爵位は要らない。

土地を与えられても、管理の手間が増えるだけで困ってしまう。

娘はまだ六歳で、婚約先に困っているようなこともない。

商いや税金での優遇措置というのも、既に今後五十年の兵役免除の手配をされている中、他の貴族達の手前、なんとも憚られる。

身の回りのものも足りていて、正直、王家から取り立ててほしいものは何もない。

消えもの……で済むような金額で済ませるつもりはないのだろうし……。

(無理)

わたしが青ざめながら父マーカスを見たところ、父は呆れたような顔で首を横に振った。

ちょっとお父さん!

今こそ年の功を発揮するときでは!?

「まあ、まだ時間はある。国王謁見のときまでに考えておいてくれ」

「……はい」

「夫婦そろって欲のないことだ」

くつくつと笑っているエドワード王弟殿下に、わたし達夫婦は困り果てた顔をするのみだったのだけれど……。