軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11. 玉座に頂く王の名は:前編

代々、マリンフォレスト王国の王族にのみ伝えられている妖精王までの道。

それは王に愛されし者が、自分の子孫へ残した希望の光。

かさり、と。アクアスティードが歩くと地面いっぱいに敷かれた葉が音を立てる。ツリーゲートとはくらべものにならないほどの、緑のトンネル。

色とりどりに咲き乱れる花は、王城ですら見たことのない種類ばかり。おそらく森の妖精たちから多大なる祝福を得られなければ、地上で見ることはかなわないのだろう――。

それが、王妃の私室から妖精王の下へ繋がる通路だった。

「これはまた、すごい通路ですね……。森の妖精が好みそうです」

「ああ。この先に、妖精王のキースがいるんだろう」

多少の時間はかかったが、アクアスティードは隠し通路を通ることに成功した。難しい魔法ではあったのだが、その先にティアラローズがいるのだ。

無理をしないわけにはいかない。

通路を進むのは、アクアスティードとエリオットの2人だ。

アクアスティードはエリオットに待機をと考えていたのだが、「それは出来ません」とはっきり告げられた。主であるアクアスティードを1人、妖精王の下へ行かせることは嫌だったのだ。

――ティアラローズ様のことになると、周りが見えなくなってしまいますからね。

いつも冷静なアクアスティードならば良いが、こと溺愛する姫に関してだけはそうもいかない。

そもそも、執務室にまだ嫁いでいない他国の姫を入れるということからしてありえないのだ。

――花嫁修業の1年間で、いったいどれくらい溺愛ぶりがエスカレートするのやら。

さすがに自国の令嬢をないがしろにしては、今後に影響がでてしまう。アクアスティードは王太子という身ではあるが、力のある貴族に嫌われてしまえば即位が危うくなってしまう。

それだけは、気をつけなければいけない。このマリンフォレストで恋愛結婚を優先させられるのは、一番の重圧がある国王だけとされている。

それ以外の王族は、国益を優先するという風潮が、公にはなっていないが確かにあるのだ。もちろん、国益のある令嬢と恋愛をし結婚する王族もいる。

ふうと息をついて、エリオットは前を見据える。先は見えない一本道だ。

「どれくらいの距離があるのか、わからないな。先がまるで見えない」

「魔法の通路ですからね。……先ほどから調べようとはしているんですが、上手くいきません」

「そうか。エリオットに無理なら、厳しいだろうな」

探索などの魔法に関しては、アクアスティードよりもエリオットの方が得意だ。その彼が「お手上げです」と言うのだから、これ以上探るのは無理だろう。

――とりあえず、このまま進むしかないか。

もしかしたら、たどり着けないような魔法がかかっているかもしれない。もちろん、そんな特殊な魔法はかかっていないという可能性もある。

魔法での探索が不可能なのだから、歩いてみるのが手っ取り早い方法だ。

が、次の瞬間――!

ガッ! と、アクアスティードの眼前に鋭い剣が姿を見せた。

「……っ!?」

「アクアスティード様!」

それは天井から勢いよく地面に突き立てられた。典型的な、罠だ。

間一髪後ろへ下がることで避けたアクアスティードだが、ほっとする暇はなかった。2本、3本目の剣が天井からアクアスティードをめがけて降り注ごうとしていた。

帯剣していた剣を構え、降り注ぐ剣をアクアスティードが薙ぎ払っていく。あまりにも唐突だったが、普段から剣の稽古をしているアクアスティードには造作もない。

「大丈夫ですか?」

「問題ない。それにしても、わざわざ罠を用意されるとはな」

元々、この通路は妖精王と寵愛されていた王妃とを繋ぐものだ。もちろん、その時分にこのような罠があったとは考えられない。

つまり、キースがアクアスティードに向けて用意をした罠と考えるのが妥当だ。

「私が前を歩きます」

「いや。一刻も早くティアラを迎えに行きたいからこのままでいい」

護衛として前に出ようとするエリオットを制し、アクアスティードはそのまま真っ直ぐな道を歩き続ける。

罠があるということは分かったので、すぐに対応できるよう剣の柄に手を添えながら。

が、仕掛けられた罠とは無常なものである。物理的な攻撃に備えていたアクアスティードを次に襲ったのは、落とし穴だった。

「な、……っ!」

こればかりは剣で弾いたりすることは出来ない。

アクアスティードはとっさに「空よ!」と声を上げ自分の体を風で浮かす。しかしそれも一瞬だが――その瞬間があれば、アクアスティードには十分だった。

穴のふちに手をかけ、そのまま勢いよく腕の力で体を持ち上げ脱出する。服に付いた土を払い、しかし何事もなかったようにすぐ歩き出す。

さすがにエリオットもあきれた顔でアクアスティードを見るが、彼が急いでいることは十分承知なので何も言わず後ろを歩く。

「急ぐぞ、エリオット」

「了解です」

罠で時間をとられるわけにはいかないと、アクアスティードは進む速度を上げていく。

次は側面から剣が飛び出たり、木の葉が鋭い刃のように襲いかかってくる。――が、それらすべてを剣で叩き落しながらアクアスティードは進んでいく。

これでは、どちらが従者かわからないじゃないか。そんなエリオットの呟きは、アクアスティードには届いていない……。

◇ ◇ ◇

「うぅん……」

『あ、ティアラ起きたよ~』

『フルーツ、食べようよ~』

ふわふわとした心地よいベッドの上で、ティアラローズは目を覚ます。

周りにいるのは森の妖精たちで、楽しそうにティアラローズを覗き込んでいる。きゃっきゃとはしゃぐ可愛い緑の子には、疲れている心も癒されるなぁとほっこりしてしまう。

「……と。そうだった、わたくしキースに無理やり連れてこられたんだった」

『王様、今はいないー』

『ティアラ遊んで~』

「え? 遊ぶのはもちろんいいんだけど――んぐっ」

いったんお城に戻りたいと伝えようとしたティアラローズの口に、森の妖精がみずみずしい果物を押し付けた。『食べて食べて』と嬉しそうにされて、ひとまず差し出された苺を口に含む。

もぐもぐと食べていれば、妖精たちは次々と果物をティアラローズの下へ運んできた。苺、林檎、蜜柑……と。ティアラローズが今まで見たことのないような黄色いころんとした果物。

まさに森の恵みという果物がそこにあった。

『いっぱい食べて~!』

にこにこと、森の妖精がティアラローズに果物を渡す。それを次々に頑張って食べるのだけれども、いかんせん妖精たちの渡してくるペースがとても早い。

ふるふると首を振って、「そんなに食べれないです」と苦笑すれば、妖精がきゃらきゃらと笑う。

「ありがとう。もうお腹いっぱいよ」

『よかった~!』

『美味しかった~?』

「ええ。とっても。森の恵みは、とても美味しいのね」

お腹がいっぱいになったところで、ティアラローズは室内を見渡してみる。

森につつまれたようなその部屋はとても心地よく、ほっと安心出来るような空間だった。まるで真綿に包まれて大切にされている。そんな錯覚に陥ってしまうほどの。

「っと、それどころではなかった。妖精さん、わたくしお城に帰りたいのだけれどどうすればいいかしら」

『お城に~?』

『もう帰っちゃうの? 寂しいよ~!』

ティアラローズに『もっと遊ぼう』と妖精たちが声をかける。しかし同時に、『こっちだよ』と部屋の扉を指差した。

そんな優しい妖精たちに申し訳ないと思いつつ、ティアラローズはそっと扉に手をかける。装飾として飾られている花が揺れる音色は、扉が開かれたことを告げる。

扉の先は通路になっていて、どこかに繋がっているようだった。

『こっち、くる~』

「そっち?」

妖精がティアラローズの手を取って、妖精王の城を案内していく。どこもかしこも心地よい緑が溢れていて、人間の国とは比べられるような場所ではない。

長い通路を歩いていくと、広い部屋へとたどり着いた。

――ここはいったいどこだろう?

出口がいまいちわからない。そんな風に考えていたティアラローズだが、あるものに気づく。部屋の上座部分にあるのは、王が座る玉座だ。

しかし今、そこにキースの姿はない。

妖精たちが出かけていると言っていたから当たり前ではあるのだが、王のいない玉座はとても寂しそうに思えた。

「今は帰らないと。アクア様が心配しているかもしれない」

前回、キースと一緒にいたところを目撃されひどく嫉妬をされたのだ。自分だって、アクアスティードが異性といていいとは思えない。

これ以上、お互いに誤解をしたくはない。

『アクア様って~?』

「わたくしの婚約者なの」

『ティアラの好きな人?』

「ええ。とっても大好きなの」

きゃっきゃと妖精がティアラローズに声をかけ、恥ずかしくなりつつも素直に頷いた。

ティアラローズが懸念すべき要因は、乙女ゲームのみだ。それ以外、例えばアクアスティードの気持ちに関しては信じている。

むしろ、信じる以外に道はないというほどに甘やかされているのだ。ゆえに、乙女ゲームの強制力以外に怖いものはない。

逆を言えば、乙女ゲームの力がとてつもなく恐ろしいのだ。

「――本当、人間ってわかんねぇなぁ」

「キース!」

ふわりと、ティアラローズの背後に転移魔法でキースが現れた。そのまま後ろから抱きしめるようにもたれかかる。

叱咤するようなティアラローズの声には耳もかさず、抱きあげて玉座へと腰を落ち着かせた。

キースの膝に座るかたちになり、「やめてください」と抗議の声をあげるがスルーされてしまう。いったいどうしたのかとキースを見るが、その表情は読めない。

「……何か、あったんですか?」

「いいや? ティアラは城へ帰りたいか」

「もちろんです。アクア様に、これ以上ご迷惑はかけたくありませんし……」

俯きながら、アクアスティードの負担にはなりたくないと告げる。

森の妖精に祝福され、森の妖精王に気に入られているティアラローズだ。負担どころか、十分国に貢献できているのだが――他国出身からか、あまりその重要性に気づいていない。

いや、乙女ゲームのことが頭の大半を占めているから、考えている余裕がないといったほうが正しいかもしれない。

「本当、人間は面倒だな」

くつくつとキースが笑い、そっとティアラローズの髪を撫でる。「お姫様は待ってればいいんだよ」とぶっきらぼうに告げて、一息つく。

「キース?」

何かを知っているらしい妖精王をいぶかしみながら、ティアラローズは眉を寄せる。しかし同時に、妖精王がその質問に答えてはくれないだろうという予想もつく。

どうしたものかと考えていれば、玉座の間にある大きな扉がバンと音を立てて開かれた。

「ティアラ!」

「アクア様……っ!」

ティアラローズの視界いっぱいに入ったのは、深い青。彼女が愛してやまない、最愛の人だ――。