軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12. 騎士のかたち

王城にあるアクアスティードの執務室では、やっと仕事が終わったところだった。窓の外を見ると、夕日が沈む少し前といったところだろうか。

思ったよりも遅くなってしまったので、急いでキースの城へ行こうとしたのだが、その前にレヴィがやってきた。手には食材の入ったカゴを持っている。

「本日の夕食は、私が森の妖精王の城で作らせていただければと思っております。陛下のご準備が問題なければ、ご一緒させていただきたく」

「夕食を? わかった。同行を許可する」

「では、急いで支度をしますね」

アクアスティードがレヴィに許可を出すと、すぐにエリオットが準備をした。書類を揃えて棚にしまったりするのだが――レヴィの突き刺さるような視線に気づく。

「ええと、何か?」

「……いえ。そろそろでは? と、個人的に思ったものですから」

「そろそろ……ですか」

どこか圧のあるレヴィの言葉に、エリオットの頬が引きつる。内心では、どうしてわかったんだ!? と、とてつもなく焦っている。

睨み合うような二人を見て、アクアスティードはやれやれと肩をすくめた。

「きちんと動いているからそう睨みつけるな、レヴィ」

「それは何よりです。差し出口を失礼いたしました」

頭を下げるレヴィに、これと四六時中一緒にいるオリヴィアはすごいな……と、アクアスティードとエリオットは思ってしまった。

***

〈ほほう、姫は騎士になりたいのか!〉

「そうなの! とっても格好いいでしょ? わたしがお母さまとお父さまを守ってあげるの。ルカとリオも!」

〈まだ幼いのに、心意気があるな〉

ティアラローズがシュティルカ、シュティリオ、キースとお茶を飲みながらのんびりしている横で、ルチアローズはグリモワールと話をしている。

宙に浮いているところをとても気に入ったようで、さっきまでは「わたしも浮かびたい」と羨ましそうにグリモワールを見ていた。

〈どんな騎士になりたいんだ?〉

「どんな?」

グリモワールに問いかけられたルチアローズは、こてんと首を傾げる。騎士になりたいとばかり思っていたので、どんなと問われてもよくわからない。

「う~ん……」

〈騎士に関する知識はあまりないか。生活するための給金をもらうために騎士になることがほとんどだろうが、姫は報酬がほしいわけではないだろう?〉

ルチアローズ自身はよくわかっていないけれど、きちんと国からルチアローズの予算は用意されている。それを使って生活の場を整えているのだ。管理自体は、まだ幼いのでティアラローズが行っている。

わかっていないルチアローズに、グリモワールが騎士の話をしてくれる。

〈騎士といえば、一番は誰かに忠誠を誓うということだろう。その者を絶対に守るという信念が必要だ。ほかには、敵から国を守りたい……というのもあるだろう。姫は王族だから、国を守るための騎士も向いていると思う〉

「国を?」

〈そうだ。国には姫が大好きな家族も含まれる〉

「家族も……」

グリモワールの言葉を聞いて、ルチアローズは何度か目を瞬かせてうつむいた。どうやら、どんな騎士になりたいのか? というのを、ルチアローズなりに考えているようだ。

ルチアローズは「みんなを守れる騎士になりたい」と呟きながら、みんなとは誰だろう? と思い浮かべる。

ティアラローズ、アクアスティード、シュティルカ、シュティリオ。ルチアローズの大好きな家族だ。

もちろん、祖父母も大切だからルチアローズが守りたい。フィリーネやエリオット、クリストアたち兄妹も好き。ルチアローズが危なくなったら守ってくれるタルモもそうだ。それから、たまに遊びに来てくれるアカリ。美味しいご飯を作ってくれる王城の料理人もそうだし、ルチアローズと遊んでくれるメイドたちも。

数えてみたら、両手の指でも足りなかった。足の指を使っても足りない。

ルチアローズはむうぅっと口を尖らせて、「みんな守りたい!」とグリモワールに告げる。

〈ならば、悪と戦う騎士になればいいのではないか?〉

「あく?」

〈主人を持つ必要もなく、自分の誇りと大切な人を守ることができるだろう〉

「大切な人……」

グリモワールの言葉を聞いて、ルチアローズは大きく頷く。自分は騎士になって悪い奴を倒して国や大切な人を守るのだ。

「わたし、悪と戦う!」

〈その意気だ、姫!〉

ぐっと拳を握りしめるルチアローズと、それを応援しているグリモワールを見て、アクアスティードはいったいなんの話をしているのだろうと首を傾げた。

ちょうど今、アクアスティード、エリオット、レヴィの三人は到着したところだ。

「アクア、お仕事お疲れ様です」

「ありがとう、ティアラ。……ルチアが盛り上がっているけど何をしてるの?」

「どんな騎士になりたいか、という話をしているみたいですよ」

楽しそうに盛り上がって、ルチアローズとグリモワールが仲良くなったことをティアラローズが告げる。

「なるほどね」

グリモワールは落ち着いた、淡々とした性格なのかとアクアスティードは思っていたが、意外にも熱血な一面があったようだ。

歴史書であるグリモワールは、きっと多くの騎士の生き方を知っているだろう。そう考えると、たくさん話をするのはいいことだとアクアスティードは判断する。

「やっときたのか」

「ああ。子どもたちと遊んでくれてありがとう、キース」

「別にこれくらい、なんてことはない」

いつでも遊んでやると、キースが笑う。

アクアスティードは「それはありがたいな」と笑いながらティアラローズの隣に腰かけ、のんびり見守ることにした。

隣に座った旦那様を見て、ティアラローズは急いでお茶の用意をする。今まで仕事をして、急いで合流してくれたのだ。今はゆっくりしてほしい。

「花茶をどうぞ」

「ありがとう」

しかしキースの膝に乗っていたシュティルカとシュティリオがアクアスティードに飛びついたので、ゆっくりはできないかもしれない。

疲れているだろうに、アクアスティードはそんな様子は微塵も見せずにわしゃわしゃっと撫でまわす。

「いい子に遊んでいたかい?」

「うん! 今度、妖精と一緒に森に行くんだ!」

「約束したの」

シュティルカとシュティリオは何をしていたのかアクアスティードに話し、嬉しそうに遊びに行く計画を口にする。

この勢いでは、明日にでも行くといいそうだ。

少しすると、レヴィが「すみませんが……」と書庫に顔を出した。

「どうかしたのかしら」

「食材を運んで、夕食を作ると張り切っていたはずだけど……手伝いが必要なのかもしれないね」

「この人数の食事を一人で……というのは、確かに大変ですね」

ティアラローズは手伝えることがあればと立ち上がったが、レヴィから出た要望は手伝いではなかった。

「オーブンは使えるのですが、コンロの火がつかないのですよ。どうやらきちんと使える設備になっていないようなのですが」

「ああ、そういえばコンロは一応作ったけど、面倒で火が起きるようにはしてなかったな」

キースが「使うとは思わなかったからな」とくつくつ笑う。

ティアラローズがお菓子作りで使うオーブンだけは、ちゃんと動作するように整えていてくれたらしい。

「ご飯を作るのに、火がいるの? なら、わたしにお任せ!」

「ルチア?」

自信満々に出てきたのは、グリモワールと騎士の話をしていたルチアローズだ。その横には、宙に浮いたグリモワールもいる。

――確かにルチアは火の属性が強くて得意だけれど……。

魔法の練習というものは、まだほとんどしていない。

ルチアローズの抜群のセンスでぬいぐるみを動かしたりはできるけれど、火を起こせるのかと言われたら……できないわけではないのだろうけれど、心配になってしまう。

ティアラローズがアクアスティードを見ると、同じことを考えていたようだ。二人で頷きあって、ルチアローズの下へ行こうとしたのだが――「見てて!」と腕を上げた。

「グリモワール、レヴィが使うための火のページ!」

「――っ!?」

ルチアローズの言葉に、ティアラローズはひゅっと息を呑む。

グリモワールはルチアローズの言葉に応えるように、閉じていたページがパラパラとめくれていって、とあるページで止まった。文字は赤く光っていて、火の属性が強いということがわかる。

「ルチア、やめなさい!」

「グリモワール、勝手なことをするな!!」

アクアスティードとキースの声が重なったが、少し遅かった。

「我が願いを叶えよ、ファイア!」

ルチアローズが高らかに言葉を告げると、グリモワールがごうっと火を噴いた。その勢いはかなり強く、天井まで達してしまう。

しかしそれに一番驚いたのも、ルチアローズだった。

「ひゃあぁぁっ」

びっくりして、自分の体を庇うようにしゃがみ込んだ。けれどそのままでは炎に巻き込まれてしまい、怪我をしてしまう。

ティアラローズが慌ててルチアローズの下へ駆け寄ろうとするが、アクアスティードに「駄目だ!」と制止されて体が止まる。代わりに、アクアスティードがルチアローズの下へ走った。

焼け落ちた天井の木の部分をアクアスティードがなんなく手で払って、「大丈夫だよ」と優しくルチアローズを抱きあげる。

「お、お、おとうさま……っ! うわあぁんっ」

「怖かったね、ルチア。大丈夫だ、もう大丈夫だよ。お父様もお母様も、みんないる」

「……はい」

ぐすぐす泣きながら、ルチアローズもアクアスティードにぎゅっと抱きついた。

「ったく、お転婆な姫だな……」

アクアスティードがルチアローズを抱き上げたのを見て、キースはやれやれと頭をかく。どうやら、ルチアローズは無事のようだ。

「キース、ルチアは……」

「問題ない。グリモワールが魔法を使ったが、ルチアの魔力も一緒に使ってる。自分の魔法で傷つくことはよっぽどじゃない限りない」

「そう……ルチアが無事でよかった……」

キースの言葉を聞いて、ティアラローズはほっとする。安心して体の力が抜けて、その場で座り込んでしまった。

これで無事に終わった――かに見えた。

〈うぅ、姫の魔力が多すぎて火が止まらない……!〉

「――っ! ぐりも……っ!」

グリモワールの叫ぶような声を聞いて、アクアスティードに抱かれていたルチアローズがびくっと揺れる。

ルチアローズは火の精霊サラマンダーから力をもらっているため、火の属性がずば抜けて高い。グリモワールが考えていたよりもルチアローズの魔力が多く、制御ができなくなっているようだ。

「ルチア、ルチア……! 今、助けるわ!」

ティアラローズがルチアローズの下へ走り出そうとした瞬間、ぐいっとキースに腕を引かれた。

「――ルチアローズに、森の妖精王の祝福を」