軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11. 読書の時間

〈むうぅ……。書庫に一人でいるというのは、思ったよりも暇なものなのだな……〉

森の書庫では、保管されているグリモワールがため息をついた。司書がいるときは話し相手になってもらっていたのだが、今はお菓子の妖精に招待されたパーティーへ行ってしまっている。

そのため、グリモワールは森の書庫に一人きりなのだ。

一応森の妖精たちは何人かいるが、グリモワール的には妖精のレベルが低すぎて話が合わないとかなんとか。

〈しかし、せっかく意志を持ったのだから何かしたいな……〉

本棚に収納されているだけではもったいないのではないか? と、グリモワールは考え始める。

自分の役目はマリンフォレスト王国の歴史書だ。

しかしその歴史は長く、様々な知識が自分の中に蓄えられている。

その中でも特に珍しいものは、妖精という存在だろうか。マリンフォレストにしか存在せず、他国では見ることのできない存在だ。逆に、精霊はマリンフォレスト以外の国で暮らしていることが多い。

〈魔力はたっぷりあるから、魔法を使うことはできそうだが……〉

グリモワールは、〈うぅむ〉と考え込む。

〈これといって使いたい魔法もないな。火を使って書庫の本が燃えてしまっては大変だ〉

もし誰かが自分の使い手にでもなってくれたらいいのに……そんな風に考えながら、グリモワールは静かな書庫で寂しそうに息をついた。

***

「ティアラローズ様、ティアラローズ様、本日は比較的ゆっくり過ごせそうですわ」

お菓子の家のパーティーからしばらくして、オリヴィアが嬉しそうに告げた。ここ最近はパーティーや歴史書の手伝いがあったことで、ティアラローズもアクアスティードも普段より少し忙しかったのだ。

オリヴィアの言葉に、ティアラローズは頷いた。

「ええ。今日はルチアたちと一緒に遊んだり、お菓子作りをするのもいいかもしれないわね」

庭園を散策したり、ルチアローズたちの遊びに付き合うのもいい。もし騎士の鍛錬を見たいのであれば、タルモに案内してもらうこともできる。

しかし、オリヴィアは別に目的があるみたいだ。「あの……」と人差し指を合わせもじもじしながら言葉を続けた。

――何かしたいことがあるのかしら?

珍しいと思いながら、ティアラローズはオリヴィアの話を聞く。

「わたくし、森の書庫へ行きたいのです」

「書庫に……」

行きたい行きたい行きたいと、オリヴィアの顔に書いてある。確かにあそこはいろいろな記録があるので、ゲーマー心をくすぐられる場所だ。

「一人で行けたらよかったのですが、わたくしは悪役令嬢で……妖精たちに好ましく思われていませんから」

「オリヴィア様……」

森の書庫に入る許可はあるけれど、オリヴィアとレヴィの二人で行ってキースや森の妖精たちに迷惑をかけたり不興を買ったりしたくないのだと眉を下げた。

――特に用事もないし、ルチアたちを連れて書庫へ行くのもいいかもしれないわね。

キースの王城にはお菓子用のキッチンもあるし、森の妖精たちもルチアローズたちが大好きでよく一緒に遊んでくれる。

「ルチアたちも誘って、一緒にキースのところへ行きましょう」

「ありがとうございます、ティアラローズ様!」

ぱあああっと顔を明るくして、オリヴィアが「すぐに確認してまいります! レヴィ!」と言って部屋を出ていった。

「ふふっ、オリヴィア様がいるととっても賑やかね」

ティアラローズはくすりと笑って、お土産に持っていくお菓子を用意しながらオリヴィアが戻るのを待った。

***

「こういった準備を進めるのは、なんとも嬉しいものですね」

「そうだな」

アクアスティードの執務室では、ちょうど仕事が一段落したところだった。エリオットが最後の書類を見ながら頬を緩めている。

それをしまったところで、室内にノックの音が響いた。

「オリヴィアです」

「どうぞ」

アクアスティードが許可を出すと、すぐにエリオットが扉を開いてオリヴィアを招きいれる。もちろんレヴィも一緒だ。

「お仕事中、失礼いたします」

「構わないよ。どうしたんだ?」

「森の書庫へ行きたく、その許可をいただきにまいりました」

「書庫へ?」

オリヴィアは自分が書庫の本を読みたいけれど、妖精たちに好かれておらず行きにくいため、ティアラローズやルチアローズたちと一緒に行きたいのだと理由を説明した。

アクアスティードはすぐに納得して、視線をエリオットに向ける。仕事量やスケジュールはエリオットが管理しているので、彼の確認が必要だ。

「一段落して少し休憩しようとしていたところですが、本日中に終わらせてしまいたい書類があるので……あとで合流するかたちはいかがでしょう?」

「……仕方ない、そうするか。オリヴィア嬢、レヴィ、ティアラたちをよろしく頼む。子どもたちも連れて行ってくれるんだろう?」

「はい! この後、声をかけてティアラローズ様の下へ戻ります」

ありがとうございますと一礼し、オリヴィアはアクアスティードの執務室を出た。

オリヴィアが出ていくのを見送ると、アクアスティードはぐぐっと伸びをする。お茶を飲みながら少し長めの休憩をしようと思っていたが、森の書庫へ行くので仕事を進めることにした。

「そこまで量は多くありませんから、急いで終わらせてしまいましょう」

「ああ。付き合わせてすまないな、エリオット」

「いえいえ」

慣れていますから問題ありませんと言って、エリオットは笑った。

***

森の書庫では静かな時間が――流れてはいなかった。

〈むう、私も菓子が食べたいぞ〉

「本が喋った! クッキーをどうぞ」

『花茶もあるよ~』

一番奥に収納されていたグリモワールは、書庫内であれば自由に動けるようになっていた。一冊きりでいるのは寂しかったようなので、キースや司書が許可したらしい。

グリモワールはティアラローズがお土産に持ってきたクッキーの周囲を飛び回って、うらやましそうにしている。

そんな騒がしい雰囲気だが、オリヴィアは一切気にすることなく読書に熱中している。

ルチアローズはグリモワールと森の妖精たちと遊んでいるので、ティアラローズはシュティルカとシュティリオに葉の本の絵本を読んであげることにした。シュティルカとシュティリオはキースの膝の上に座っている。

「なんの本を読むんだ? ここは記録ばっかりで、絵本なんてあったか……?」

『ありますよ!』

キースの疑問に答えたのは、もちろん司書だ。そして数冊の絵本を持ってきてくれる。『妖精の大冒険』『美味しいお菓子の作り方』『友達のハリネズミさん』だ。

「お菓子の作り方……?」

ティアラローズは気になった一冊を手に取り、わくわくしながらページをめくる。

妖精たちは食事の必要がないため、ティアラローズに会うまでは何かを食べるという習慣がなかった。その妖精たちの料理の、しかもお菓子の本! 気にならないわけがない。

パラパラ中身を見たティアラローズは、目を瞬かせて驚いた。

「これ……わたくしがここで作ったことのあるお菓子なんですが」

「ああ、ティアラの菓子レシピか」

キースが「そういや作ったな」と笑う。

自分が知らない森のお菓子が載っているのかもと思ったので、ちょっとだけ残念だ。とはいえ、こうして本にまとめているのなら、お菓子好きの森の妖精が誕生してパティシエになる未来もそう遠くはないかもしれない。

「作っているときにわからないことがあれば、いつでもお手伝いさせていただきます!」

「つっても、誰も作ってないけどな……そもそも妖精たちは本を読まないぞ?」

「なんと……」

せっかくレシピ本があるのに、妖精たちは本を読まないらしい。そういえば書庫へ足を運んだときに、森の妖精が読書をしている姿はみたことがない。今だって、ルチアローズと一緒に遊んでいる。

――まずはお菓子のイラスト集からの方がいいかしら?

なんて、森の妖精パティシエ作戦を脳内で考えてしまった。

「絵本は~?」

「そうだったわね。ごめんなさいね、ルカ、リオ。絵本を読みましょうか」

ティアラローズは『友達のハリネズミさん』という絵本を手にして、葉のページをめくっていく。可愛いイラストと、短い文章がついている。

シュティルカとシュティリオの目は本に釘付けになっていて、早く読んで! と訴えているのがわかる。

「……森の妖精が遊んでいると、一匹のハリネズミに出会いました」

このお話は、森の妖精がハリネズミと友達になって、一緒に森を探検するという内容だ。

普段は空を飛んでいる妖精が、ハリネズミと一緒に地面を歩いて、いつもと違う視点で森を見ていろいろな発見をしていく。

ハリネズミのご飯の木の実を分けてもらったり、川の浅瀬で水を飲んだり……楽しくて、日が暮れるまであっという間だった。そして妖精は、友達がとってもいいものだと笑顔になりました――そう締めくくられていた。

「お友達と遊ぶのは楽しいですからね。二人も、クリストアと遊んだりするでしょう?」

「うん!」

「楽しいよ!」

ティアラローズの言葉にシュティルカとシュティリオは何度も頷く。

「森、いきたい!」

「いこう!」

シュティルカとシュティリオは盛り上がって、森に遊びに行くのだと嬉しそうに話す。それを見たキースは、二人の頭を撫でる。

「なら、そのときは妖精たちも連れていけ。森の中は得意だから、いろいろ教えてくれるはずだ」

「うん!」

キースの言葉に、シュティルカとシュティリオの言葉が重なる。二人は「いついく?」と相談しているので、すぐにでも行きたいみたいだ。

「ありがとう、キース」

「別にいいさ、これくらい。あいつらもルカとリオが好きだからな」

もちろん俺もと付け加えて、キースはくつくつ笑う。

「そういや、今日はどれくらいまでいるんだ? お前たちは妖精と違って、飯が必要だろう?」

そう言いながら、キースはちらりとオリヴィアへ視線を向ける。微動だにせず本を読んでいるので、まだまだかかりそうだ。というか、今日一日では読み終わらないので定期的に通うことになるだろう。

ティアラローズはどうするべきか考える。

――アクアがあとから合流すると言っていたから、夕食の時間までには王城へ帰れそうだけれど……。

キースの城で夕食を取るのもいいのでは? と思ったけれど、残念なことにここには料理人がいなければ食材もない。あるのはティアラローズが好むお菓子の材料くらいだ。

「差し支えなければ、私がご用意させていただきます」

「レヴィ?」

「オリヴィアは本に夢中です。ずっと森の書庫へ来るのを楽しみにしていたので、可能であればギリギリまで堪能させてあげたいのです」

なのでレヴィが王城へ一度戻り、料理などを準備すると提案してくれた。

「その際に、アクアスティード陛下の様子も見てまいります」

「なら、レヴィにお願いするわ」

「お任せください」

ティアラローズがレヴィに許可を出すと、一礼して森の書庫から出ていった。