軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15. 名前を呼んで

鉱石の城で一日、フィラルシア王国で数日過ごし、ティアラローズたちはマリンフォレストへ帰る準備が整った。

用意された馬車を見ながら、アカリがしょんぼりとしている。

「もう帰らなきゃいけないなんて……。もっとティアラ様たちと一緒にいたいし、ノームの国も探検して私の剣を作ってもらおうと思ってたのに!!」

「アカリ様……」

いやいやと首を振るアカリに、ティアラローズは苦笑する。というか、アカリが剣を使うところなんて見たことがないけれど……。

「また遊びに来ましょう。エルリィ王国は周知されていない国ですし、これから交流していくことが大切ですから」

もしかしたら、他国から反発などがあるかもしれない。

そうなったときに、マリンフォレストとラピスラズリが味方であるということは大きい。どうしても、ドワーフを異質だと受け取ってしまう人はいるだろうから。

ティアラローズがそう言うと、アカリは力強く頷いた。

「そうですね。ラピスラズリの地下にはエルリィ王国の鉱山部分が多くあるみたいですし、正式な出入り口を作るのもいいかも。うぅん、作ります! ラピスラズリは腕のいい職人が多いから、きっとドワーフたちとも相性がいいです! さっそく取りかからなきゃ!」

ラピスラズリは珊瑚などを加工する職人の腕がいいため、ドワーフが武器などを作り、装飾を職人が行うのもいいと判断したようだ。

確かに、今までとは違った素晴らしいものが出来るだろう。

アカリのテンションが一気に高くなったので、ラピスラズリへ帰ってからが大変そうだなとティアラローズは思う。主に、振り回されるであろうアカリの周囲の人たちが。

「ティアラローズ様、アカリ様」

「エメラルド姫!」

名前を呼ばれたので振り返ると、エメラルド、シルフ、ノームの三人が見送りにきてくれたようだ。

エメラルドはティアラローズの手を取り、「ありがとうございました」と笑顔を見せる。

「わたくし、たくさんお世話になってしまいましたね。ティアラローズ様たちがいらっしゃらなかったら、どうなっていたか」

「いいえ、エメラルド様。もとはといえば、わたくしがちゃんとお話をしておけばよかったのです」

むしろ、エメラルドを巻き込んでしまったので、お礼を言うのはこちらの方だ。

ティアラローズが申し訳なさそうにすると、エメラルドは微笑んだ。

「精霊のことでしたから、仕方ありませんわ。わたくしだって、シルフの存在を誰かにお伝えするつもりはありませんでしたから」

それはティアラローズも同じでしょう? と、エメラルドが言う。その通りなので、ティアラローズも頷くしかない。

けれどこれからは、ドワーフの存在が周囲から認められ、精霊のことも認識されていくだろう。

――もちろん、むやみに公表するつもりはないけれど。

サンドローズでも、サラマンダーの存在は国家機密になっていた。おいそれと、精霊がいますとは言えないのだ。

ティアラローズが考え込んでいると、エメラルドが「二人とも」と後ろにいたシルフとノームを前に押し出してきた。

「シルフ様、ノーム様」

『……ノームがいろいろと迷惑をかけちゃったわ。それに、私も結局ルチアと共鳴しちゃったし……ごめんね』

『ボクも……謝って許されるものでもないかもしれないですけど……すみませんでした』

シルフとノームの二人は、改めてきちんとティアラローズに謝罪をしたかったようだ。

「お二人のそのお言葉だけで、十分です。ノーム様も国を守るために、王としてご判断されたのですよね。それはきっと、辛いものがあったと思います」

『ティアラローズ……』

それぞれ大切なもののために動き、今は反省している。それを考えると、何かをねちねち言うことなんて出来るわけがない。

ティアラローズが微笑んでみせると、ノームはティアラローズにぎゅっと抱きついた。

『ありがとう、ティアラローズ。ボクは、絶対に味方でいます。……何かあれば、いつでも頼ってください』

「……はい。ありがとうございます、ノーム様」

少し鼻をすする音と、心からの謝罪。

土の精霊がそこまで言い味方になってくれるのならば、なんと心強いのだろうか。

ノームはティアラローズから離れると、控えていたドワーフのメイドを呼んだ。その手には、箱を持っている。

『ティアラローズはお菓子作りが好きだと聞いたので、その……ボクが全身全霊を込めて作ったお菓子用の調理器具を……どうぞ』

「え……」

まったく予想していなかった展開に、ティアラローズは目をぱちくりさせる。

――ノーム様が全身全霊を込めて作ったお菓子作りの道具!?

そんなの、素晴らしいの一言しか出てこない。

というより、ノームの腕前を調理器具に使ってしまっていいのだろうかと考える。

あまりの出来事にフリーズしてしまったティアラローズを見て、ノームは気に入らなかっただろうかと心配になる。

『ええと……クッキーやケーキの型がほとんどですけど、スプーンやクリームを絞るものも作りまし……た』

メイドが箱を開けて、ティアラローズに中を見せてくれた。

「すごい……」

ノームは簡単に『型』と一言ですませたけれど、とても細かく作られている。一流の職人でも、ここまでのものを作ることはできないだろう。

――まるで神の御業のよう。

「ありがとうございます、ノーム様。大切に使わせていただきます」

『……はい』

ティアラローズが嬉しそうに礼を言うと、ノームも笑顔を返してくれた。笑ったのを見るのは、初めてだ。

話がひと段落したところで、ルチアローズを抱いたアクアスティードがやってきた。そろそろ、出発する時間のようだ。

ノームはアクアスティードの下へ行くと、膝をついた。

『ルチアローズ、ノームとドワーフたちは、いつでもあなたを救世主として迎え入れよう。そしていつか……ボクに、あなたの剣を打たせてほしい』

「あうぅ~」

「…………ありがとうございます」

ルチアローズはきょとんとしていて、ノームの言葉の意味はわかっていない。代わりにアクアスティードが返事をし、礼を述べた。

「それではまた」

『……はい。道中、どうぞお気をつけて』

別れの挨拶をして、ティアラローズたちはフィラルシア王国を後にした。

***

「んー、やっと帰ってきたか」

馬車から降りたキースはぐぐっと伸びをして、固まった体をほぐしている。人間はよく長時間馬車に乗っていられるよな……という言葉とともに。

ティアラローズは苦笑しながら、「お疲れ様です」と馬車を降りる。最後に、ルチアローズを抱いたアクアスティードも馬車から降りた。

ルチアローズは疲れたようで、うとうとしている。

「――おかえり」

全員が馬車から降りると、クレイルが転移で姿をみせた。

「無事に帰ってきて、なによりだ。事情はキースから聞いてるから、説明はいらない」

「ああ、すべて片付いた。今後は、マリンフォレストにもドワーフたちが来ることもあるだろう」

ますます賑やかになりそうだと、アクアスティードは微笑む。

「にしても、ここでルチアの魔力問題が片付くとはなぁ……」

いいことだが、祝福を贈るタイミングを完全に見失ったとキースは頭をかく。……まあ、きっとこの先の人生で必要になるときもくるだろう。

キースはアクアスティードの腕の中でうとうとしているルチアローズの頬に、指先で触れる。むにむにだ。

「うぅ……?」

「キース、そんなことをしたらルチアが起きるだろう……」

アクアスティードがキースの手を振り払おうとすると、その手をルチアローズの小さな手が掴んだ。

「ルチア?」

思いがけない行動に、どうしたのだろうとアクアスティードがルチアローズの顔を覗き込む。

すると、花がほころぶように笑う。

「ぱーぱぁ!」

「……っ!!」

娘の突然の言葉に、アクアスティードは言葉を失った。

まだきちんと喋ることは出来ず、ちゃんとした発音はこれが初めてかもしれない。アクアスティードが感動で震えていると、ティアラローズが隣にやってきた。

すると、ルチアローズはティアラローズを見て手をのばす。

「まぁまっ」

「ルチア……っ!」

初めて名前を呼んでくれたことに、ティアラローズも感動して口元を押さえる。嬉しくてうれしくて、たまらない。

まだまだ赤ちゃんだと思っていた娘は、こんなにも立派に成長していた。

「アクア、アクアのことをパパって呼びましたね」

「ティアラのことも、ママって呼んだね」

二人で顔を見合わせて微笑み、ルチアローズを抱きしめる。こんなに可愛く呼ばれたら、長く乗っていた馬車の疲れも吹き飛んでしまうというものだ。

「俺は呼んでくれないのか? ルチア」

「あー?」

キースが不貞腐れた顔で、ルチアローズの顔を覗き込んだ。どうやら、同じように呼んでほしいらしい。

「ほらルチア、キースだ、キース。言えるか?」

「きー……ちゅ?」

「おおっ! 呼べるじゃねえか」

いい子だと、キースはルチアローズの頭を撫でる。

「きーちゅ!」

「おう」

ルチアローズに名前を呼んでもらえて、キースはにこにこだ。

そしてそれを見ていたフィリーネとエリオットが、こちらにダッシュでやってきた。

「ルチアローズ様、わたくしはフィリーネです」

「私はエリオットですよ」

「もう、二人とも」

名前を呼んでほしくてたまらないフィリーネとエリオットに、ティアラローズは笑う。そして期待を込めて、ルチアローズを見る。

「ふぃーね、えいえい!」

「はいっ、フィーネですよルチアローズ様~!」

「えいえい……!? 私の名前は呼びにくいんですかね……」

フィリーネは大喜びし、エリオットは何とも言えない顔をしたが、すぐに笑顔になった。何よりも、呼んでもらえたことが嬉しいのだろう。

それから、クレイルもひょっこり顔を出した。何も言いはしないけれど、呼んでほしそうにしているのはわかる。

ティアラローズはルチアローズの名前を呼んで、顔をクレイルへと向ける。

「ルチア、クレイル様よ」

「くえいゆ?」

ルチアローズが名前を呼ぶと、クレイルが頬を緩める。表情こそあまり変わらないが、嬉しかったようだ。

「上手に呼べたわね、ルチア」

「これなら、あっという間に喋れるようになれそうだね」

「はい」

きっとこうして、毎日出来ることが増えていくのだろう。

ルチアローズの成長がまだまだ楽しみだと、ティアラローズたちは微笑んだ。