軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14. 新たなる炎の息吹

炎霊の火が戻ったあと、ティアラローズたちは鉱石の城へとやってきた。そこで、ノームがお礼にとパーティを開いてくれたのだ。

街のドワーフたちも、元に戻った――いや、サラマンダーの涙を使いさらに美しくなった炎霊の火を見てどんちゃん騒ぎをしている。

そんな中、ティアラローズとアカリはバルコニーでルチアローズが遊んでいるのを見守っていた。

「きゃう~!」

「わああ、すっごい迫力……!!」

ルチアローズが、獅子の石像に乗ってはしゃいでいる。ノームが作ってくれたもので、今にも動き出しそうなほど精密だ。

アカリはテンションを上げて、「私もほしい~!」と楽しそうにしている。

しかしティアラローズは、「石像だから頭でもぶつけたら大変……」と心配そうにしている。

「大丈夫ですよ、遊んでる間はちゃんと見てるんですから」

「……そうね。ルチアが楽しく遊ぶのを、わたくしたちが守ればいいんだものね」

理由をつけて何かと駄目と言わないように気を付けようと、ティアラローズは思う。

ルチアローズが獅子の石像で遊んでるのを見ながら、ティアラローズはここにいないアクアスティードとキースのことを思い浮かべる。

二人は今、ノームと話をしている最中だ。さすがに、今回の件はなんの咎もなしというわけにはいかない。

――ノーム様のことを考えたら、あまり重い処罰を与えてほしくはない……。

けれど、それでは示しがつかない。

ルチアローズはマリンフォレストの王女で、王位継承権第一位だ。もちろん、それだけではない。自分たちの大切な娘なのだから、怒って当然だ。

――とはいえ。

「穏便に済めばいいのだけれど」

バルコニーでしばらく遊んでいると、ルチアローズの乗っている獅子の石像が動き出した。

「きゃーあ」

楽しそうに笑っているところを見ると、ルチアローズが自分で石像を動かしているのだろう。

てっきり魔力で動かすのはぬいぐるみだけだと思っていたのだが……子どもの成長はすごいと感心する。

――ああでも、ベッドを浮かしたこともあったものね。

「わああぁぁ~! ルチアちゃん、めっちゃ格好いい! 私も獅子に乗りたいなぁ~」

「アカリ様はちょっと……」

動く獅子がアカリに渡ったら、それに乗ってどこまででも行ってしまいそうだなとティアラローズは思う。

そして振り回される周囲の人間が疲れ果てるところまで簡単に想像できる。

獅子はルチアローズを背に乗せたまま、のっしのっしと歩く。そのままバルコニーをくるくる回るのかと思っていたら、室内――パーティー会場へと入ってしまった。

パーティー会場には招待されたドワーフたちがいて、楽しそうに歓談している。どうやら、人間でいうところの貴族のような立ち位置にいるドワーフたちのようだ。

ルチアローズが獅子に乗って姿を見せると、ドワーフたちがわっと歓声をあげてこちらにやってきた。

「あなたが炎霊の火を復活させてくれたお姫様か!」

「その石像の獅子は、もしかしてノーム様がお作りに……? とっても素敵だわ!」

「ありがとう、あなたのおかげでエルリィ王国の火は復活したんだ!」

「ルチアローズ様、万歳!」

ドワーフたちは口々にお礼を言い、ルチアローズを崇め称える。炎霊の火が、ドワーフたちにとってどれほど大事なものだったのかがよくわかる。

一躍人気者になってしまったルチアローズを見て、アカリが「すごいですねぇ」と嬉しそうに笑う。

「確かにルチアちゃんはノームに攫われて大変なことになりましたけど、ドワーフたちにとっては英雄ですね」

ルチアローズの暴走しかけた魔力も使うことが出来たし、結果だけ見ればよかったと言うことは出来るだろう。

「それにほら、こういうイベントがあった方が楽しいじゃないですか!」

「それはアカリ様だけです!」

一緒にしないでくださいと、ティアラローズはすぐに反論する。確かにゲーム好きとしては楽しめるかもしれないが、母親としてはたまったものではない。

ティアラローズはため息をついて、「無事でよかったわ」とルチアローズを見る。

「あー?」

「なんでもないわ。ルチアはこの獅子がお気に入りなのね」

「あぅ~!」

ルチアローズは笑顔を見せて、獅子をぺしぺしと叩いている。

――これは、お父様が対抗心を燃やしそうね。

この事実を知ったら、たくさんのぬいぐるみがプレゼントされてきそうだとティアラローズは苦笑する。

「もう少し大きくなったら、この獅子に乗ってどこへでも行けますね」

「そんな恐ろしいことを言わないでください……」

獅子に乗ってどこへでも行ってしまうお姫様なんて、大変どころの騒ぎではない。護衛騎士が馬で追いかけるところまで想像して、ティアラローズはぶんぶん首を振る。

そんな雑談をしていると、入り口がざわめきだした。

アクアスティード、キース、ノームの三人が話し合いを終えたようで、会場に姿を見せたので注目を集めているようだ。

ひとまず話し合いが無事に終わったようで、ティアラローズはほっと胸を撫でおろす。

すぐティアラローズに気付いたアクアスティードが、こちらにやってきた。

「私が席を外している間は、何事もなかった?」

「はい。とはいっても、ルチアは注目の的になってしまいましたが」

そう言って、二人でドワーフたちに囲まれているルチアローズを見る。ドワーフたちはみんな友好的で、ルチアローズも嬉しそうだ。

「喋ってる暇はないぞ、アクア、ティアラ」

「キース!」

やってきたキースが、くいっと顎で待っているノームのことを示した。

これから挨拶があるので、その場にティアラローズ、アクアスティード、キースが同席することになっている。

内容は、アクアスティードたちが決めた罰の報告……と言ったところだろうか。

――わたくしは内容を知らないのよね。

けれど、ティアラローズは妃としてアクアスティードの判断に従おうと思っている。

「お手をどうぞ、ティアラ」

「……はい」

アクアスティードのエスコートを受け、壇上へと上がる。そのあとには、獅子に乗ったルチアローズとアカリもついてきた。

その際に迎え入れてくれたノームは、ティアラローズとルチアローズに深々と頭を下げる。それを見た会場内のドワーフたちから、どよめきが起こった。

『……ルチアローズ、ティアラローズ。今回のことは、全面的にボクが悪かったです。自分たちのことしか、考えませんでした』

ノームの謝罪に、しんと静まり返る。

鉱石の城に勤めていたメイドのドワーフなど経緯を知っている者もいるが、普通に暮らしているドワーフたちはルチアローズが誘拐されたということは知らないのだ。

『ボクは……どうしても、誰かに頼るとか、相談するとか……そういうことが苦手です。全部、全部ぜんぶ、自分で出来ることは行ってしまえばいい……と、そう思っていました』

そんなとき、決まって一番ノームのことを叱るのはシルフだ。

シルフの顔を思い出して、自分は酷いことをしてしまったのだなと改めて悔やむ。けれど、過ぎ去った時が戻ることはない。

じわりと、髪で隠れて見えないノームの目頭が熱くなる。

『ボクはルチアローズが火の魔力を持っているのをいいことに、誘拐して炎霊の火を復活させようと……考えました』

ノームの告白に、どよめきが大きくなる。

まさか、自分たちの知らないうちにそんな大事になっていたなんて、と。

ドワーフたちはどうしたものかと、周囲の者と視線を交わす。けれど、答えなんてすぐに出てくるわけがない。

だってドワーフたちは、鍛冶をする自分たちにとって――ノームにとって――炎霊の火が、どれほど大事なものかを知っているから。

『……結果として、ルチアローズの力により炎霊の火は復活しました。けれどそれは、ルチアローズをはじめ、アクアスティード……アクアスティード陛下と、妃のティアラローズ殿下、そして森の妖精王キース殿下のご配慮あってのことです』

ノームはアクアスティードの前に立ち、今一度深く腰を折る。

『エルリィは、炎霊の火を持ってマリンフォレスト王国を支えていくことをここに誓う』

「その誠意、受け取りました。マリンフォレストは、エルリィ王国との絆を大切にしよう」

思いもよらないノームの宣言に誰もが言葉を失ったけれど、少しずつ会場の中に拍手の音が聞こえてくる。

それはどんどん大きくなって、エルリィ王国中で拍手が起こった。

***

パーティーが終わり、ティアラローズとアクアスティードは鉱石の城のゲストルームで落ち着くことが出来た。

ルチアローズはたくさん遊んだので、疲れてベッドで寝ている。

「……どうなることかと思いましたが、無事に終わってよかったです。それに、ルチアの魔力も落ち着きましたね」

「そうだね。それが一番の収穫……かな」

アクアスティードはソファへ深く腰かけて、息をつく。結果こそよかったものの、ルチアローズを攫われてしまった事実が消えるわけではない。

マリンフォレストへ戻ったら警備の見直しをしなければならないが、精霊の対処をしろと言われても難しいだろう。

戻ったら、課題が山積みだ。

目に見えて疲れているアクアスティードに、ティアラローズはどうしようとおろおろする。

――わたくしも手伝いたい。

けれど、ティアラローズが出来ることはそう多くない。警備面などはティアラローズではわからないし、逆に迷惑をかけてしまいそうだ。

ティアラローズが悩んでいると、「どうしたの?」と逆に心配をされてしまった。

「……疲れているアクアの力になりたいと思ったんですけど、わたくしに出来ることはあるかなと思って」

「私はいつもティアラに助けてもらってばかりだよ」

そう言って、アクアスティードがティアラローズの肩に寄りかかってきた。頬にダークブルーの髪がかかって、なんだかくすぐったい。

「アクア……」

「私が甘えられるのは、ティアラだけだからね」

「……っ」

「ティアラが隣にいるだけで疲れが吹き飛んで元気になるし、幸せだ」

アクアスティードの視線がティアラローズを捉え、とびきりの笑顔を見せられてしまった。とたんに顔が、赤くなる。

――それは、わたくしの台詞なのに。

ティアラローズも、肩の力を抜いてアクアスティードに寄り添う。

「二人――ルチアと三人でいたら、ずっと元気で幸せに暮らせますね」

「ああ。ずっと一緒だ」

「……はい」

ゆっくり近づいてくるアクアスティードの顔を見ながら、ティアラローズは目を閉じてキスを受け入れた。