軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7. フィリーネとエリオットの結婚式

フィリーネの結婚式まであと一週間、準備は着々と進んでいた。

今日は王城にティアラローズ、アカリ、オリヴィア、アランの四人で集まって、ウェディングドレスとケーキの最終確認だ。

フィリーネはエリオットとともに、最終の打ち合わせをしているためこの場には不在。

「見てくださいませ! この美しい仕上がりを……っ!」

ばーんとオリヴィアが見せたのは、総レースの美しいウェディングドレス。花柄に編まれ、首元はシースルーになっていて色気も兼ね備えている。

デザインを合わせたアクセサリーとティアラも用意してあるので、あとは本番を待つばかり。

「あぁぁもう、最高です! オリヴィア様!!」

アカリが手放しで喜び、早く当日にならないかなとにまにましている。

「これならエリオットもイチコロですね!」

「アカリ様! アラン様の前でなんてことを言うのですかっ!!」

はしたないですよと、アカリの言葉にティアラローズが慌てて注意する。アランは、顔を赤くしつつ「大丈夫ですよ」と首を振った。

「あ、ごめんなさーい! えへへっ」

可愛くペロッと笑うアカリに、絶対に反省していないとティアラローズは苦笑する。ドレスの仕上がりは問題ないので、ケーキの話題に移った方がいいだろう。

「アラン様、ケーキはいかがですか?」

「はい! 最高のものが出来ましたよ!! 試食をお願いいたします」

合図をすると、メイドが数人がかりでウェディングケーキを載せたワゴンを押してやってきた。

一メートルほどの高さがあって、とても迫力がある。けれどそれでいて、ケーキ自体は繊細なデザインを綺麗に作り込まれている。

遠くから眺めても、近くから見ても、違ったすごさを楽しむことができるだろう。

「デザイン画の通りに出来たと思うのですが、いかがですか? ティアラローズ様」

「アラン様……とても素敵な仕上がりです。チョコレートも綺麗に作られているし、生クリームで描かれたレースはわたくしが想像していた以上に細かいです」

問題なしだと、ティアラローズは判断する。

「よかった……! ありがとうございます、ティアラローズ様!!」

「こちらこそ、ありがとうございます。アラン様のケーキは、本当に素晴らしいわ」

しかしその豪華なウェディングケーキを見たからか、ティアラローズにうっとした気持ち悪い感じのものが込み上げてくる。悪阻だ。

「ティアラローズ様! アカリ様、窓を開けてくださいませ!」

「は、はいっ!!」

すぐにオリヴィアがティアラローズを支えて、背中をさする。指示を出されたアカリは窓まで走った。

アランはどうしたらいいかわからず、心配そうにオロオロしている。

ティアラローズはといえば、せっかく完成したケーキをお披露目してくれたというのに迷惑をかけてしまったと自己嫌悪する。

「大丈夫ですか? ティアラ様」

「すみません……。ちょっと悪阻が出てしまったみたいで」

しょんぼりしつつ、しばらくすれば落ち着くからと微笑む。

「ごめんなさい、アラン様。びっくりしてしまったでしょう?」

「あ……いえ。何もお力になれず、すみません。母が悪阻に苦しんでいるのは見たことがあるのですが、そのときもどうしたらいいかわからなくて……」

男として不甲斐ないですと、アランが言う。

けれど、それをすぐにオリヴィアが否定する。

「そんなことありませんわ、アラン様。殿方は、奥様の心配をして側についていればいいのです。背中を撫でてあげたり、要望を聞いてあげたり。きっと、それだけで心強いはずですから」

一緒にいるだけでもいいというオリヴィアの言葉に、確かにアクアスティードが側にいてくれたら、それだけで気持ちが楽になるなと思う。

アカリも頷いて、「病気のときに一人が寂しいのと一緒ですよ~」と言っている。

「はい。忘れないよう、心に刻んでおきます!」

「アラン様はいい旦那様になりそうですね! 年齢的にも、婚約者がいてもおかしくないですもんね」

「あー……そうですね」

アカリの言葉にアランは苦笑して、「話はいただくんですが……」と呟く。

「何か婚約したくない理由でもあるんですか?」

「……今は、スイーツ事業が楽しくて。自分の婚約とか、あまり考えられないんですよね。学園に在学中のときは、まあ……お金もない男爵の長男ですから、いい婚約話もなくて」

事業が軌道に乗った今は、婚約の申し入れも何件かあったのだという。けれど、どうしても事業を優先したくて、アランは婚約に乗り気になれないらしい。

ティアラローズ、アカリ、オリヴィアの三人は揃ってうぅ~んと悩む。

正直、日本を知っていると……アランの年齢で男が結婚は早いよね、とも思ってしまうのだ。とはいえ、ティアラローズとアクアスティードは一七で結婚をしたが……。

オリヴィアは「別にいいと思いますわ」と静かに告げる。

「アラン様の価値は、これからどんどん上がっていきますもの。だから今は慌てず、しっかりお家のことを見るのがいいと思いますわ」

「オリヴィア様……ありがとうございます。少し気持ちが楽になりました」

今は事業のことだけに専念しますと、アランがいい顔をした。

ティアラローズは自分が最初に提案した事業ということもあり、それがアランの足かせとなり結婚できないということを心配したが、どうやらそれは余計なお世話だったようだ。

――アラン様が楽しそうでよかった。

「さて……ティアラローズ様のお加減もよくなったようですから、私は失礼いたしますね」

「えっ、ケーキをまだ食べてないですよ!?」

アランの言葉に、アカリが待って待ってと焦る。それをオリヴィアが呆れた目で見ているが、「だって~」とアカリは子犬のようにしゅんとなった。

「味は私が太鼓判を押しますから、ぜひ本番で食べてください。ただ、もう少しだけ改良したくなったんです」

「改良、ですか?」

ティアラローズが何か問題があっただろうかとケーキを見ると、アランが「いけません」とケーキを下げさせる。

「ティアラローズ様のデザイン案に、私が手を加えることを許していただけますか?」

「もちろんです。式の当日を楽しみにしていますね」

「はい! では、私はここで失礼いたします」

アランは丁寧に腰を折り、退室した。

――いったいどんなケーキになるのかしら。

食べてはいないが、見ただけでとても完成度の高いウェディングケーキだということはわかった。

苺の品質もとてもよく、生クリームもとても美味しそうに作られていた。

けれど、アランが姉であるフィリーネのために改良したいと思ったのならば、きっともっといいものが出来上がるだろう。

***

そして、結婚式当日。

フィリーネとエリオットの結婚式が執り行われるのは、小さな聖堂。

二人ともそこまで懇意にしている貴族もいないので、招待客もそう多くはない。

ティアラローズたちいつものメンバーに、アカリ、オリヴィア。二人の両親と同僚と、何人かの友人だ。

ティアラローズたちは参列者席に座り、今か今かと開始を待っている。それを見たアクアスティードが、「落ち着いて」と笑う。

「なんだかとても緊張してしまって……早くフィリーネの姿が見たいです」

「そうだね、私もエリオットが身を固めてくれて嬉しいよ。なんとも感慨深いな……」

そう言って、アクアスティードはティアラローズの腰に手を回して軽く抱き寄せる。

フィリーネとエリオットの結婚は、ティアラローズとアクアスティードが結婚しなかったらあり得なかっただろう。

ティアラローズが悪役令嬢で、ハルトナイツに婚約破棄をされ、なおかつアクアスティードに求婚されるというイレギュラーがなければ叶わなかったもの。

いくえにも重なった運命のようなものは、まるで奇跡のようだ。

でなければ、フィリーネは今頃ルーカスと無理やり結婚させられていたかもしれない

――悪役令嬢でよかった。

ティアラローズが悪役令嬢だったからこそ、結ばれた二人なのかもしれない。そう思うと、まだ式が始まっていないのに感極まってしまう。

「あー! もう、駄目ですよ泣いたら。まだ式が始まってないんですから」

右隣に座っていたアカリが、ハンカチでティアラローズの目元を拭ってくれる。アクアスティードも驚きつつ、優しくティアラローズの背中をさすってくれた。

「泣き顔で迎えたら、フィリーネに心配をかけてしまうよ」

「そうですね……。ありがとうございます、アクア様、アカリ様」

ティアラローズが笑顔を見せると、アカリが赤くなってしまった目元に手を当てて治癒魔法を使ってくれた。

「ん、これでばっちりですね!」

「ありがとうございます」

今更ながら泣いてしまったことが恥ずかしくなってしまい、ティアラローズは照れた笑みを浮かべてお礼を告げた。

天井にあるステンドグラスの窓から光が差し込み、厳かな音楽が聖堂に流れる。新郎新婦入場の合図だ。

二つある聖堂の扉から、それぞれフィリーネとエリオットが姿を見せる。

純白に身を包み、青のブーケを手に持ったフィリーネ。

きめ細かな総レースのウェディングドレスは、純粋なフィリーネを神聖に見せる。ロングトレーンがサムシングブルーのバージンロードにとても映える。

フィリーネと合わせたデザインのタキシードに身を包む、エリオット。緊張しているかと思ったが、凛々しく、とても落ち着いた雰囲気を纏っていた。

バージンロードが交差する地点まで歩むと、フィリーネに笑顔を見せてエスコートをする。

「わあ……っ」

ふたたび感極まって、ティアラローズの瞳に涙が溢れる。フィリーネだってティアラローズの結婚式では嬉しさで号泣していたから、きっと大丈夫だ。

ハンカチで目元を押さえながら、二人の式を見る。

ブルーのバージンロードは、二人の道が交わると白へと変わる。これからの人生を、二人の色で染めていく……という想いが込められている。

神父が祝福の言葉を唱えると、新郎から新婦へ指輪の誓いだ。

この世界では、結婚指輪の交換は行われない。

新郎が指輪に魔力を込めて贈り、新婦は自分の魔力をお返しするのだ。生涯、貴方とともにいます……と。

上辺だけの誓いの言葉よりも、ずっと深いもので繋がることができる。

エリオットはフィリーネの前に跪いて、左手の薬指に指輪をはめる。そして優しく口づけをして、愛を誓う。

「フィリーネ。生涯ずっと貴女を愛し、守ります」

「……はい。生涯ずっと貴方を愛し隣で支えます」

フィリーネがエリオットの額に口づけをして、魔力を刻む。これで、二人は正真正銘の夫婦となる。

エリオットは立ち上がって、照れた笑みを浮かべる。

今まで凛々しい表情だったのは、どうやら緊張がてっぺんを通り越してしまっていたからのようだ。

「やっぱり、フィリーネと一緒にいると落ち着きます」

「エリオットったら……」

フィリーネはくすくす笑って、目を閉じる。

エリオットはフィリーネのヴェールに触れて、丁寧にあげる。あらわになったフィリーネの顔は赤く色づき、ほんのり涙ぐんでいた。

ああ、美しい――。

見惚れてしまい、エリオットの時が一瞬だけ止まる。

「……っ、フィリーネ」

ゆっくり、宝物に触れるように。

けれど止められない恋心のような熱も、エリオットの中にあった。見つめ合ったのはきっと、数秒、いや、もっと短かったかもしれない。

気付けばどうしようもないほど焦がれて、フィリーネに口づけていたから。

エリオットとフィリーネがキスをすると、参列者から祝福の拍手が沸き起こる。

新たな夫婦に幸あらんことを――と。

***

聖堂での式が終わったあとは、披露宴が行われた。

とはいっても、食事を楽しむだけのもので、日本のように盛大に行うものではない。

メインはもちろん、ティアラローズが考案しアランが作り上げたウェディングケーキだ。

「わあぁ」

ティアラローズは改良されたウェディングケーキを見て、感嘆の声をあげる。

基本的な部分は同じだが、土台の周囲のデザインが少しだけ変わっていた。丸いゼリーの中に、薔薇の形にカットした苺が入れられたものがくわえられていたのだ。確かに、苺だけよりずっと華やかになって、美しい。

隣にいたアカリとオリヴィアも、出てきたケーキに目を輝かせている。

「わー素敵! 早く食べたい~!」

「アラン様のフィリーネ様への思いと、ティアラローズ様への思いがたくさん詰まったウェディングケーキですわ!」

オリヴィアの言葉を聞き、アランは自分を気遣って苺の薔薇ゼリーを用意してくれたことに気付く。

――悪阻のときは、わたくしがゼリー系しか食べられないって言ったから。

だからウェディングケーキにゼリーを加えてくれたのだろう。

完成したケーキから改良を加えるのは、きっと大変だっただろう。ティアラローズはアランの気遣いが嬉しくて、また涙目になる。

「今日はもう涙腺が緩いです……」

「大丈夫だよ、ティアラ。一緒にケーキをいただこう?」

「……はいっ」

ケーキの部分は少しだけにして、ゼリーもいただく。今日も悪阻が酷いかと心配していたが、泣いたぶん少し落ち着いているようだ。体調はいい。

苺の薔薇ゼリーは、美しくて食べるのが勿体ないと思ってしまう。

甘い苺の香りと、みずみずしいゼリーの触感。最初にお菓子作りを教えてから、アランは随分腕を上げたものだと感心する。

「美味しい……!」

ティアラローズが満面の笑みで食べると、じっとアクアスティードが見つめてくる。

「あ、アクア様?」

「いや……幸せそうに食べて、可愛いなと思って」

言われた瞬間、ぼんっとティアラローズが赤くなる。

「そんなことを言われたら食べづらいじゃないですか……」

「ごめんごめん、ついね」

気にせず食べてと言うアクアスティードに、気にしますとティアラローズは熱くなってしまった頬を手で扇ぐ。

「美味しいですから、アクア様も召し上がってみてください。アラン様が最後の最後まで改良を重ねてくださったケーキですから」

「そうだね」

アクアスティードと一緒にケーキを堪能していると、フィリーネとエリオットがやってきた。

「フィリーネ、エリオット! 結婚おめでとう」

「おめでとう、二人とも」

ティアラローズとアクアスティードが祝いの言葉を述べると、二人は嬉しそうに「ありがとうございます」と笑顔を見せる。

「これからもエリオットと二人、ティアラローズ様とアクアスティード陛下に誠心誠意仕えてまいります」

「フィリーネとこうして巡り合えたのも、アクアスティード様あってのことですから」

「もう、結婚式の日にまでわたくしたちを気遣わなくていいのに……」

「いいえ。わたくしにとって、ティアラローズ様はとても大切な存在ですから」

目に涙を浮かべながら告げるフィリーネに、ティアラローズもつられてしまう。せっかくケーキを食べて涙を引っ込めたというのに。

そんな二人を見ていたアカリが、「ほらほら笑いましょう!」と話に入ってくる。

「今日のフィリーネは世界一幸せな花嫁なんだから!」

「そうね。フィリーネの笑顔は世界一だもの」

アカリとティアラローズに言われて、フィリーネは頷いて笑顔を見せた。

「はい。ありがとうございます、ティアラローズ様、アカリ様!」