軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11. 王子様のキスは?

サラヴィアの謝罪から翌日、ティアラローズはさてどうしようかと悩んでいた。

魔力を返してもらう以外の方法で元に戻ると、豪語してしまった。しかし残念なことに、ティアラローズはその当てがない。

――でも、呪いを解く方法といったら……王子様のキス?

まあ、呪いではないのだけれど。

そんなありきたりな方法が思い浮かぶ。

それで魔法がとけるんじゃないかと言ったら、キスで? と、笑われてしまうかもしれないけれど、ここは乙女ゲームの世界なのだから、そんなロマンチックな方法があってもいいのではないかと思う。

けれど問題は、アクアスティードにキスしてとお願いすることだろうか。

「改めて考えると、なかなかハードルが高いような気がするのよね」

「ハードル」

「あ……」

思わず呟くと、隣に座っていたアクアスティードが首を傾げた。

そういえば二人でソファに座りながらのんびりしているところだったと、ティアラローズは状況を思い出した。

「魔力を得るために、何かいい案があったの?」

「え、ええと……」

まさか、キスをしてみましょう! とは、恥ずかしくて言いにくい。

というのも、その原因はアクアスティードにも大いにあるのだ。

――久しぶりに再会したのに、まだキスしてもらってない。

そう、昨日サンドローズにアクアスティードがやってきたのだが……ティアラローズはまだキスをしてもらっていない。

ちょっといい雰囲気かな? と思った瞬間もあったけれど、それはサラヴィアに関する話で本当にすぐ崩れ去ってしまったのだ。

ティアラローズが不安になるのも、実は当然のことで。

――だって、普段のアクア様だったら絶対キスしてくれてるのに!

もしかしてサラマンダーが言ったように、子供になってしまった自分にはまーったく魅力がないから、キスをしたくなくなってしまったのだろうか。

もし本当なら、だいぶショックだ。

それとも、単純に勝手をしたからアクアスティードに呆れられて、嫌われてしまったのかもしれない。

どちらにしても、そういったことがあってティアラローズは自分からキスしてほしいと伝えるのが怖いのだ。もし微妙な反応をされたりしたら、立ち直れないだろう。

「ティアラ?」

どうしたの? と、アクアスティードが心配そうに顔を覗き込んできた。

「いいえ。その、もしかしたら長い歴史の中で同じようなことがあったのではないかと思いまして。そうだったら、書物か何かあるのではないかな……と」

「ああ、確かにその可能性はあるね」

「ですが、おそらく貴重なものになると思いますので……普通に考えたら、他国の王族であるわたくしたちが閲覧することは難しいのではないかなと」

国に関する重要な持ち出し禁止の資料など、そういったものもきっとあるだろう。だからといって、一般開放されている図書館にサラマンダー関連のものがあるとは思えない。

アクアスティードはしばし思案し、頷く。

「そこはサラヴィア陛下に協力してもらおう。さすがに今回の件はイレギュラーだから、許可してもらえる可能性は高いだろう」

「そうですね……」

――キスしてって、言えなかった。

しょぼんとしてしまったティアラローズを見て、アクアスティードは何か対応を間違えただろうかと首を傾げる。

「いえ、なんでもないですよ! ちゃんと戻れるか、少し不安になってしまって」

「そうだね。……でも、何をしてでも私が元に戻る方法をみつけるから」

「アクア様……ありがとうございます」

安心するように、アクアスティードが優しく頭を撫でてくれる。

それが心地よいのと同時に、あ、もしやこれはいい雰囲気なのでは? ……と、ティアラローズは思う。これならわざわざねだらなくても、流れでキスをしてもらえるかもしれない。

どきどきと、心音が少しずつ大きくなってくる。

ティアラローズは瞳を閉じて、アクアスティードに身を任せるように寄りかかる。うっとりするような空気になって、普段の甘い雰囲気になる。

これなら絶対にいけると、ティアラローズは確信に近いものを持つ。

だがしかし、それはアクアスティードの無情な一言によって崩れ去る。

「それじゃあ、サラヴィア陛下に許可をもらって図書館へ行こうか」

「え……」

「え?」

馬鹿正直に嫌そうな顔をしてしまい、アクアスティードがぽかんとした。

「あ、いえ、図書館に行くのが嫌というわけではなくてですね」

「うん? どうしたの、ティアラ」

「……しばらく離れていたので、もう少しこうやって二人でゆっくりしたいです」

アクアスティードの服の袖を掴んで、「駄目ですか?」と瞳を潤ませる。確かにキスで呪いが解けるかなんてわからないので、図書館に行くことだって大切だ。

しかしそれ以上に、もっとアクアスティードと一緒にいたい。

素直に甘えるティアラローズを見て、アクアスティードは頬を緩ませる。

「私のお姫様は、可愛いことを言ってくれるね」

「きゃっ」

体を持ち上げられて、アクアスティードの膝に座らされた。

小さくなってから、彼の膝が自分の定位置になっているような気がしてならない。もちろんそれは嫌じゃないし、というか嬉しい。

それなのに、なんだか心なしか気持ちの距離は遠いような気がするのだ。

――こんな不安、わたくしの我儘よね。

すでにいろいろ迷惑をかけてしまっているのに、関係が不安なんて言えるわけがない。それこそ、今度こそ面倒くさいとうんざりされてしまうかもしれない。

どうにかしていい子でいなければと、ティアラローズは唇を噛みしめる。

「ごめん、不安にさせてしまったね」

「アクア様……いいえ。わたくしこそ、いつもアクア様に頼りっぱなしですもの」

ぎゅうっと包まれるように抱きしめられて、アクアスティードの香りに包まれる。とても心地よくて、今しがた考えていた不安なんて一気に吹き飛んでしまった。

えへへと頬を擦り寄せて、ここぞとばかりにアクアスティードを堪能する。

――この流れなら今度こそ間違いなくいけるわ!

アクアスティードがこないのであれば、こちらからもうほんの少しだけ踏み込むだけだ。

「アクア様、アクア様!」

「ん?」

ティアラローズが呼びかけると、嬉しそうな笑顔が返ってくる。

きゅんと胸がときめいて、疑うようなことを思ってしまってごめんなさいと心の中で謝る。やっぱりアクアスティードは、自分のことをこんなにも見てくれているのに。

まずは雰囲気を作ろうと、ティアラローズはアクアスティードの手を取ってぎゅっと繋ぐ。そのままむにむにと揉んで、大きな手を堪能する。

「わたくしの手が小さくなって、アクア様の手がより大きく見えてしまいますね」

「そうだね。ティアラは普段よりさらに可愛くなってる」

指をからめるような恋人繋ぎをするには、ティアラローズの手が小さくて指の長さが足りないけれど。それでも一生懸命、指を伸ばして絡めようとしてみる。

そんなティアラローズを見て、アクアスティードはくすくす笑う。

「いつもは私からティアラに触れることが多いけど、こういうのもいいね。ティアラに求められるなんて、なんだか癖になりそうだ」

「わ、わたくしはいつでもアクア様を求めていますよ!」

普段はそうでもない風に言うのは、やめていただきたい。

そう言ってティアラローズが拗ねてみせると、アクアスティードは「ごめん」と謝る。

「もちろん普段から愛されてることも知ってるけど、いつもはそれ以上に私がティアラを構うからね」

「わたくしも満足してしまいます。……でも、それはアクア様がたくさんわたくしに愛をくださるからですよ」

どちらが構い始めるかで言えばアクアスティードの方が多いけれど、気持ちは同じだけ返しているつもりだ。

そもそも、ティアラローズがアクアスティードに甘えるより先にアクアスティードが甘やかし始めるのだから仕方がない。

「でも、私がティアラを愛したいんだから仕方ない。それはきっとこれからも変わらないから、覚悟して」

「! 覚悟って、そんなの……もうとっくに出来ています。というか、どんとこいです!」

むしろこちらからも攻め込む勢いだと、ティアラローズははにかみながら笑う。

そんな穏やかな雰囲気になり、まったりしているのだけれど――やっぱり一向に、アクアスティードがキスを仕掛けてくる気配がない。

自分への愛は確認したばかりなのに、どうしてなのか!

ふるふると震えながら、ちらりとアクアスティードの顔を見る。

「鼻もちっちゃくて可愛いね、ティアラ」

「ひゃっ!」

アクアスティードの指先が伸びてきて、鼻の頭を撫でられてしまった。それがとても楽しそうで、やっぱり自分への愛はたくさんあるなと再確認する。

――じゃあ、やっぱりわたくしに魅力がないからかしら?

きっとアクアスティードは子供ではなく、大人の女性でなくてはいけないのだ。

でも、呪いを解く可能性を模索しなければいけないのでずっとそれで悩んでいるわけにはいかない。ティアラローズは意を決して、アクアスティードの首に腕を回す。

「……んっ!」

「!」

ぐっと体を伸ばして、ちょんと触れるようなキスをする。

たったそれだけで、体がどきどきして熱を持つ。

やっと、キス出来た。

自分はやり遂げたのだと、アクアスティードの顔を見る。……と、目をぱちくりとさせている。ぽかんと驚いているアクアスティードは、まさか口づけをされるとは思っていなかったのだろう。

アクアスティードは口を手で塞ぐように覆い、顔を逸らした。

「あ、アクア様……?」

もしかして、本当の本当にいやだったのだろうか? 顔を背けてしまうほど、自分とのキスが嫌だったのだろうか。そう考えると、無性に泣きたくなってくる。

じんわり涙で滲みそうになったときに、けれど気付いてしまった。

――アクア様、耳が赤い。

もしかしてもしかしなくても、照れているのだろうか。

すっかり、涙なんて引っ込んでしまった。

――あ、そういえば元に戻らなかった。

呪いじゃないから、これは仕方がない。

「……はぁ。私が我慢してたのに、どうしてティアラからしてくるんだ」

「え? 我慢……?」

「今のティアラは子供なんだから、可愛がるのはまだしも……キスはしない方がいいと思ったんだ」

どうやらアクアスティードは、自制していたらしいことが判明した。

「そっ、それならそうと言ってください! もしかして嫌われてしまったのかとか、わたくしに魅力がないからかなとか、とっても不安だったんですよ!」

「ティアラ……そうだな、すまない。自分で考え込んで結論を出してしまったのは、よくなかったね。夫婦なんだから、ちゃんと言葉で話をするべきだった」

決して嫌いになったわけではないのだと――アクアスティードはティアラローズの頬を両手で優しく包み込んで、額に一つキスを落とす。

「……はい。安心しました。サラマンダー様がアクア様にちょっかいを出していたので、子供より大人の女性の方がいいのかな……とか」

「そんなわけないだろう。ティアラのために、ティアラが悲しむようなことはしないよ」

「わかっていますが、もしかしたらと思ってしまって。今も一生懸命誘惑したのに、アクア様はまったく靡いてくれませんでしたし……」

ティアラローズは先程までの葛藤をすべて喋ってしまう。

アクアスティードは、なるほどそんな可愛いことを考えてくれていたのか……と、にやけそうになるのを必死で堪えている。

「ああもう、ティアラは可愛すぎて困る。不安にさせてしまってごめん。私はどうしようもないな……」

「そんなことはないです! わたくしだって、アクア様がくるのを待たずに無茶をしてしまいましたし。ある意味自業自得です」

「……確かに、もう少し自重してもらえると嬉しいかな。私の心臓がいくつあっても持ちそうにない」

今回だって、キースがいなければいったいどうなっていたか。

おそらく護衛のタルモだけだったら、今ごろティアラローズはこの世にいなかったのかもしれないのだから。

「好きだよ、誰よりも愛してる……ティアラ」

「わたくしもです、アクア様。大好きです」

見つめあって愛を囁いて、唇が重なり合う――というところで、頬にちゅっとキスが落ちた。

「アクア様、そこは唇じゃないんですか?」

「……歯止めが効かなくなるといけないから、ここは大人に戻ってから」

そう言って、アクアスティードはふてくされているティアラローズの唇を指で撫でるのだった。