軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

軍人達の窓口日記

Jouluk 02 Aake

城塞は今日も平和だ。

交代で窓口の番をしていたが、外から来るのは商人ばかり。雪も深まればニ、三日に一度の頻度でしかやって来ない。極夜の前は、稼ぎ時だからか、頻繁にやって来るが。

その代わり、森を生活の糧とする村人達は、毎日よく通る。

だが、冬の間は狩猟に出掛けるおっさんしか通過しないのだ。

村の男ども、特に年寄りのじーさん達は、俺達に冷たい態度を取る。

それも仕方がない話だと、アールトネン隊長は言う。

確かに、今までふざけ過ぎていた。

そんな俺らはかつて、食事代を天引きされた給料が支給されていた。

当たり前のように、有り金を全て酒につぎ込んでいたからだ。前の前の前の隊長が、そういう風にしていたらしい。

当時、給料が底を尽きて、食事すら出来ないと、金を借りに来る奴らがあとを絶たなかったとか。

本当に、酷い状態だったように思える。

勤務時間なんてなんのその。好きな時に寝て、起きるという生活を繰り返していた。

城塞の中は酒臭かっただろうし、村人にも絡むこともあった。嫌われて当然だ。

そんな俺達が変わったのは、領主様と奥方とのトラブルがきっかけだった。

いろいろあって、今はすっかり更生している。

真面目に軍人を続けることが出来ているのは、怖い顔をした領主の奥方が頻繁に監査に来るから、というのは冗談で、良いことがたくさんあるからだ。

まず、たま~に村の娘さん達が差し入れを持って来てくれる。みんな可愛いからテンションが上がる。

他に、規則正しい生活をしているので、体の調子が良くなった。

それから、暇なので村の雪かきをしていれば、「おつかれさま」とか、「ありがとう」と村人から言ってもらえるのが、案外嬉しい。

以上が理由である。

何もなくて、つまらない場所だけど、前よりはマシになった。

明日も頑張ろうと思う。

本日の通過人数:五十二人、うち、商人が三名、戦闘民族のおっさん一名。

今日の仕事、終わり!

Jouluk 07 Hanno

窓口にやって来た領主様が、お知らせを書いた紙を出入り口に貼って欲しいと願いにやって来る。

それには、新しく出来たお店の宣伝が書かれていた。

辺境酒場『紅蓮の鷲』亭。

数日後に開店をするらしい。

軽食とちょっとしたお酒を楽しむ場所だとか。

驚いたことに、領主が経営をすると言うのだ。

紙には、可愛い店員が居ると書かれている。

村の女性を雇っているのだろうか? 聞いてみれば、世界一可愛い子が居ると、領主は言う。

世界一可愛い娘。非常に気になる。

アイロラさんのところのエリカさんだろうか、それとも、カッリオマキさんのところのヒルヤちゃんか。

まさか、領主と仲のいいという噂の、村一番の美少女である、ベルグホルムさんのところのアイナさんかもしれない! と思ったけれど、つい何ヶ月か前に、異国人が連れて行ってしまったことを思い出した。

それが発覚した日は、他の同僚達も凹んでいた。

この日ばかりは、酒を飲むのを許して欲しいと思った。

村の宝を連れ去ったのは、背の高くて、たれ目の金髪軍人らしい。

――同じ軍人なのに、どうして俺らだけ無視を……。

誰にでも靡かない、『塩対応のアイナ様』と裏では言われていたのに、結局、彼女が選んだのは顔の良い男だった。

小汚い顔の同僚達は、揃って悔しがっていた。

思い出してしまった。俺達は、傷心状態にあったのだ。

可愛娘ちゃんを見ながら、食事をする。いいじゃないかと思った。

心の傷も癒されるかもしれない。

早速、同僚達を誘ってみることにした。

本日の通過人数:六十七人、うち、商人がニ名、戦闘民族の男性が一名。

今日の仕事、終了~。

Jouluk 12 Jere

皆で、今度出来る酒場について盛り上がっていたら、アールトネン隊長に注意されてしまった。

開店してすぐに大人数で行けば迷惑になるので、一日二人まで、二時間以上長居をしない、酒は飲み過ぎないという、決まりを作っていた。

行く人が被ってはいけないので、一覧表を作ってくれる。

最初だけ、我慢をすることにした。

休憩時間は、噂の、『紅蓮の鷲』亭の可愛娘ちゃんのことで盛り上がる。

そこから、今の村一番の美人は誰かという話し合いに移ったが、なかなか決まらなかった。

皆、好みがバラバラで、何人もの女性の名前が挙がる。

やはり、アイナ・サロネン・ベルグホルムほどの、抜きんでた女性はなかなか居ないのだ。

戦闘民族の家の娘もなかなか美人だという声が上がったが、話題が出た瞬間に、そこの家の親父が窓から休憩所に現れたので、死ぬほど驚いた。

何用かと思えば、川で捕まえた魚を差し入れとして持って来てくれたらしい。

――森の熊さんかよ。

戦闘民族の親父はすぐに出て行った。

その窓、出入り口じゃないから。たまに現れることがあったが、誰も指摘出来ないでいる。

夏くらいから、木の実や蜂の巣、果物など、気まぐれに持って来てくれるのだ。

話が出来ないので、意図は謎のまま。

机の上に置かれた魚がビチビチと跳ねている。心臓のバクバクはなかなか治まらなかった。

ちなみに、あそこの家の奥さんもなかなか美人で、素晴らしいスタイルをしているが、親父が恐ろしすぎる。

戦闘民族の家の女性の話をするのは止めようと、皆で話し合って決めた。

まあ、その前に、あの娘は既に村の男が、誰も近づけないように、周囲に牽制をしている訳だが。

とりあえず、酒場の娘さんに集中することにしようという意見でまとまった。

本日の通過人数:九十二人、商人が三名、戦闘民族の親父が一名。

今日の仕事、終わり!

Jouluk 19 Kai

とうとう辺境酒場の開店日となった。

今日は仕事なので行けないが、明日、遊びに行く予定になっている。

とても楽しみだ。

皆、それぞれ一度行くまでは、店の内容などバラさないようにしようと話し合っていた。

そうすれば、みんな新鮮な気分で楽しめる。

でも、個人的には気になったので、帰って来た同僚を捕まえて話を聞いた。

帰宅をした二人、ラッシとミッコは、楽しげな様子で戻って来る。

聞けば、食事はどれも美味しく、良い酒を出す店だったらしい。

肝心の可愛娘ちゃんについて聞けば、おかしなことを言ってくる。

――可愛い娘さん? 居ると言えば居るし、居ないと言えば居ない。

よく分からなかった。

本日の通過人数:百人、商人がニ名、戦闘民族のおじさんが一名。

今日の仕事、終わり!

◆◇◆

翌日。

待望の休日となった。

酒が飲めるのは夜の数時間だけ。とは言っても、極夜の期間なので、時間は夕方くらいだ。

酒場なのに、夜の八時過ぎには閉店するという、驚きの健全店だった。

同僚と二人、ドキドキしながら店に向かう。

店の周りには、村人達が集まっていた。どうやら様子見をしているらしい。窓から店を覗けば、席は空いていた。遠慮なく、入店させていただく。

扉を開けば、カランと鐘の音が鳴った。

店内には大きな暖炉があり、冷え切った体がじんわりと暖かくなる。

暖色系の内装で揃えられており、温かな雰囲気もあった。

台所は食堂の中に設けられていて、調理風景が覗けるようになっている。

キョロキョロと店内を見ていると、低くて、落ち着いた女性の声で、「いらっしゃい」と言ってくる。

それを聞いた瞬間に、条件反射で背筋がピンと伸びた。

ゆっくりとした動きで、声がした方を向く。

そちらに居たのは、背が高く、赤毛で目付きが鋭い、領主様の奥様だった。

「空いている席に座ってくれ」と言われ、「ひゃい」と返事をする。

品目(メニュー) を渡してくれたが、また呼ぶのも恐れ多いので、オススメ料理と水を頼んだ。同僚も同じ物を注文する。

領主様経営のお店だから、奥様が居ても不思議ではない。

それにしても、不愛想な接客だ。もっと笑顔でと思った。が、奥様から満面の笑みを向けられても困惑するだけなので、即座に要らないなと判断。

それにしても、噂の可愛娘ちゃんは一体どこに……?

見渡しても、若い娘さんなんて客以外で居ないように思える。

ハッと、同僚が隣で息を呑むのが分かった。

どうしたのかと聞けば、厨房を見ろと言う。

厨房には、せっせと働く人の姿があった。

――い、居た! 可愛娘ちゃん!

髪を一つの三つ編みに纏めており、頭には三角に折った布を巻いている。

一生懸命調理をしているようで、伏せた目はとっても可憐だった。

あんなに可愛い娘、この村に居ただろうかと首を捻れる。

だがすぐに、そこに居たのが領主様だということに気付いた。

――こ、この、トキメキ泥棒め!!

上半身の一部しか見えていなかったので、すっかり勘違いをしてしまった。

そうこうしているうちに、食事が運ばれる。

元気よく 品目(メニュー) 名を言いながら料理を運んでくれたのは、領主様だった。

料理は初めて見るもの。肉団子のトマト煮込みの下に、何かが盛り付けてある。

パスタという食べ物らしい。

料理名は、『肉団子のトマトソースパスタ』だと言っていた。

フォークに肉団子とパスタを数個、刺して食べる。

――う、美味い!!

香草が効いた肉汁溢れる団子に、モチモチのパスタとやらが、酸味のあるソースに絡んで美味しい。

同僚と無言で完食をしてしまった。

その後、酒を何杯か飲んで、帰ることにした。

帰り際に、領主様が来てくれてありがとうと、お礼を言ってくれた。

念の為に、店の宣伝にあった可愛い娘さんについて聞いてみる。

すると、領主様は、厨房で皿洗いをしている奥様をチラ見して、照れたような顔で「ジークのことです」と言っていた。

「どこが可愛娘ちゃんだ!!」と叫びそうになる。

まあ、旦那にとっては、世界一可愛い妻なのだろう。理解は出来ないが。

また来ると言えば、嬉しいと言って輝かんばかりの笑顔を向けてくれる。

改めて、領主様が女の子だったらと思ってしまう。

愛想がよくて、働き者で、料理が上手くて、可愛い。

村で一番人気の女性になっていたかもしれない。

ここでやっと、ラッシとミッコが言っていた、『可愛い娘さん? 居ると言えば居るし、居ないと言えば居ない』の意味を理解することになった。

――やっぱり、可愛娘ちゃんって、領主かよ!!

でも、料理はすごく美味しかったし、お腹が満たされていたので、どうでも良くなっていた。

領主様の見送りを受けながら、店を出る。

暗い空から、しんしんと雪が降っていた。

角灯の灯りを頼りに、城塞までの道を歩いて行く。

城塞の窓口まで行けば、本日の当番が店はどうだったのかと声を掛けてきた。

結局、みんな気になって話を聞いてしまうようだ。

早く感想を教えてくれと言うので、同僚と顔を見合わせ、料理は最高で可愛娘ちゃんは可愛娘ちゃんだったと、教えてやった。

明日の反応が、非常に楽しみである。

また、店が落ち着いたころに、肉団子とトマトソースのパスタを食べに行こうと思った。