軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38話『オチ』

毒魔龍が息絶えた後。

俺は、目の前に広がる破壊の跡を眺めた。

ルシラの 息吹(ブレス) は、毒魔龍の 息吹(ブレス) に匹敵するほどの威力だった。毒魔龍が傷ついていたとはいえ、まさかあの戦況を一気に覆すとは……。

「……純粋な火力のみなら、10位以内に入りそうだな」

これでもそれなりに場数を踏んでいると自負していたつもりだが、この威力の攻撃は滅多に見ない。多分、龍の中でも最上位に該当するだろう。

「説得を手伝った私に感謝して欲しいものだな」

レーゼがどこか得意気に言った。

「説得と言っても、俺が書いた手紙を渡しただけだろ?」

「…………そうだな」

「おい。なんで今、視線を逸らした? まさかとは思うが、何か余計なことを喋ってないだろうな?」

「ふふふ……さぁな。ふふふ……」

レーゼが意味深な笑みを浮かべた。

絶対、余計なことを喋っている。昔の俺についての話とか、していなければいいが……。

『ネット』

腹の底に響く声音が、俺を呼ぶ。

見れば龍化したルシラが、大きな足音と共にゆっくりと俺に近づいてきた。

「お疲れ。気分はどうだ?」

『気分か……ふ、ふふふ……気分、か……』

その返答に俺は「ん?」と首を傾げた。

どうも様子がおかしい。まさか何か問題でも起きたのかと思い、不安を抱くと、ルシラは目の前で龍化を解除した。

銀髪の少女が、一糸纏わぬ姿で現れる。

眼前に広がる破壊の跡に、ルシラは身体を震わせた。

「お……」

「お?」

「おんぎゃああああああーーーーーっ!!!! 怖かった! 怖かったぞ、ネットぉおぉおぉお!!」

ルシラは全速力で俺のもとまで走り、勢いよく抱き締めてきた。

裸で抱き締められていることに、少なからず動揺するが……それ以前に、痛い。肋骨が悲鳴を上げていた。華奢な体躯にも拘わらず、ルシラの膂力はとても強い。まだ龍化の影響を受けているのだろうか。

「お、おお、怖かったな。もう大丈夫だぞ……大丈夫だから、一旦離れて……」

「やっぱり妾に戦いは無理じゃっ!! もうせんぞ! 妾はもう二度と、戦わんのじゃあぁああぁあぁぁぁああぁぁあーーー!!!」

激痛のあまり意識が薄れていく中、俺はルシラの言葉に納得した。

あぁ……そうか。

薄々、そうかもしれないとは思っていたが……。

元々ルシラは、自分が毒魔龍のようになってしまうのではないかという不安が原因で、戦いや争いから距離を置いていた。「戦いが嫌い」という言葉の真意はそういうことだ。

しかし、そうして戦いから距離を置き続けた結果……ルシラは純粋な意味でも戦いを恐れるようになったのだろう。

こればかりは、龍の力とは関係ない。

理不尽な運命に縛られているわけでもない。単純に……趣味趣向の話だ。

「ネ、ネット。毒魔龍を倒せたのは、嬉しいことだが……あれを見てくれ」

メイルが遠慮気味に声を掛ける。

本来なら勝ち鬨を上げてもおかしくない状況だ。しかし、メイルの視線の先――クレーターの縁で沈黙する毒魔龍の周辺では、異変が起きていた。

毒魔龍の死体から、大量の毒が溢れ出ている。

ボロボロに崩れた鱗の隙間から、紫色の体液が垂れ流されていた。毒魔龍を中心に、地面はみるみると毒々しい色に染まり、このままでは数分もしないうちに俺たちがいる場所も浸食されてしまうだろう。

「……後片付けのことは、あまり考えていなかったな」

死してなお厄介な龍だ。

風馬で逃げれば、毒の浸食に追いつかれることはないだろうが……このまま放置すれば辺り一帯の土地が再起不能になってしまう。

「ルシラ。もう一度、 息吹(ブレス) を使えないか?」

「無理じゃ。……正直、もう立っているだけで精一杯なのじゃ」

あれほどの威力だ。予想はしていたが、やはり消耗も激しい。

一番手っ取り早いのは、高威力の攻撃で毒魔龍の死体そのものを消し炭にしてやることだ。しかしルシラはもう息吹を使えず、レーゼが持つ《栄光大輝の剣》のスキルでは僅かに威力が不足している。

「どうするべきか………………ん?」

頭を悩ませていると、ポーチの中で通信石が震動していることに気づいた。

このタイミングで誰が通信していたのか。気になった俺はすぐに通信に出る。

『お~! ネット、久しぶりだなぁ! やっと繋がったか!』

その声は――少し前まで共に旅をしてきた男のものだった。

「ロイドか? ……久しぶりだな。てっきり、通信石を取り上げられていると思ったが」

『そうそう、取り上げられてたんだよ! だから買い直した! ユリ……なんとかっていう、ネットの代わりに入った騎士には止められたんだけど、適当に縛っといたからもう大丈夫だ!』

以前から思っていたが、今回の件、一番の被害者はそのユリなんとかさんかもしれない。

ユリなんとかさんは今、身動きが取れない状態のようだ。

「そっちは魔王討伐の旅をしている最中だろ? 何か問題でもあったのか?」

『いや、問題があったのはそっちじゃねぇの?』

「ん?」

『リズの奴が、ネットにかけていた《 護身衣(ルーラシールド) 》が解除された~~って、めちゃくちゃ騒いでたんだよ。そんで俺たち、ネットが危ない目に遭ってるかもしれねぇと思って、急いで通信石を用意したんだ』

成る程。

そんな経緯だったのか。

「気持ちは嬉しいが、ちょっと遅かったな。もう解決した」

『え、マジ? さっき《鷹の眼》で見たら、なんか紫色の蜥蜴が暴れてたから、一発でかいの撃っちまったんだけど』

「……は?」

ロイドの言葉を理解したくなくて、俺は一瞬だけ思考停止する。

次の瞬間――どこからともなく、黄金の斬撃が飛来した。

耳を劈く爆音と共に、三日月状の斬撃が毒魔龍の死体を消し飛ばす。

それはルシラの息吹に勝るとも劣らない威力だった。

斬撃が消えた後、毒魔龍の死体は跡形もない。

誰もが呆然としている中、通信石の向こうで男が嬉しそうに騒ぐ。

『お、その音は届いたっぽいな!』

「あぁ……届いた。……結果的には、まぁ、助かった」

『じゃあ問題なしだな!』

終わりよければ全てよしとも言うが、だからといって過程を考えないのは如何なものか。……と言ったところで、この男は聞かないのだ。俺はそれをよく知っている。

『いやー、なんか久しぶりだな、この感じ! 通信でやり取りしながら敵をぶっ倒すやつ! 『星屑の灯火団』もよかったけど、偶にはその前のメンバーでも冒険しようぜ!』

「……気が向いたらな。暫く忙しくなりそうだから、一旦切るぞ」

『おう!』

かつての冒険仲間との通信を切断する。

背後を振り返ると、ルシラたちはまだ呆然としていた。

「あー……その、知人が後片付けをしてくれたみたいだ」

気まずい空気の中、俺は告げる。

「ネット……」

ルシラが、引き攣った顔で言った。

「……妾、頑張る必要あった?」

勿論だ――と、言いたいところだが。

この光景を前に、俺は断言することができなかった。