作品タイトル不明
後編
嵐の夜から数日経った。
私の身を包むドレスはあの夜届いたものでは無く元々あった家紋の深い青をイメージしたドレスを手直ししたもの。
あの夜、侍女を呼び父に取次をお願いし今までの彼の行動を予定をキャンセルするメッセージカードの束と共に報告した。
その上で彼はこの先も我が家に対し優先順位を見誤る可能性があり婚約の継続が難しいと考えている事を伝えた。
眉間の皺を指で押さえながら父は了承してくれたため私の婚約は解消の方向で調整が行われ昨日両家揃って話し合いの場が持たれた。
婚約の話を持ち込んだ祖父は祖母に口をきいて貰えず部屋の隅で小さくなっているそうだ。
当事者の婚約者だった彼は上司から呼び出されてやはり来なかった。
上司の姪に送るプレゼント選びに付き合うそうだ。
散々今日だけは話し合いを優先するよう言い聞かせたにも関わらずこの顛末に彼のご両親は肩を落とし天を仰いでいた。
夜会用に頂いたドレスを婚約が白紙になるためお返ししようとしたが迷惑料として受け取って欲しいと言われてしまった。
物語のようなドラマチックな断罪劇などないまま。
婚約が白紙になって最初の夜会に向かう馬車から見た空は雲一つ無かった。
煌々と輝く三日月は鎌の様に鋭い。
解消した婚約者の代わりに親戚がエスコートを引き受けてくれたので1人で会場に入ることだけは避けられたが社交界では婚約者を繋ぎ止められなかった女とか仕事に負けた女という評価に晒される覚悟はしている。
夜会主催者に挨拶を終え飲み物を…と思った時に最初の一撃が飛んできた。
「 嫁(・) 入(・) り(・) 先(・) が無くなって残念でしたわね。」
…あらあら、不勉強。
無くなったのは婿入りの方なのですがと思い口元を扇で隠しながら。
「…婿入りしていただいて共に歩む予定でしたのですが。」
俯いて返答した所、過ちに気付いたようで彼女の顔色が悪くなった。
( ・ิω・ิ)「えっ…婿入り予定でしたの?!」
目を点にして言われても此方が…困らないか…。
不勉強は自分の居場所を失う。
明日から彼女どうするつもりかしら?
遠巻きでザワつく声は彼女への嘲笑も含まれている。
その会話を切っ掛けにまるで凪いだ水面に一石が投じられたようにさざ波のように声が広がる。
『婿入りしない?爵位あるのかしら?』
『継ぐ爵位があっても社交しないのは…』
入場した時と比べ潮目が変わったようね。
「休日に呼び出ししているのは男性上司なので間違いは起きていないと思いますが物事の優先順位をつけるのが苦手なようなので縁が無かったという話になりましたの。」
扇で口元を隠したまま伏し目で一気に呟く。
( ・ิω・ิ)( ・ิω・ิ)( ・ิω・ิ )「「「えっ?」」」
遠巻きにしていた御婦人達の視線が刺さる。
さては呼び出ししている上司は女性と思っていましたね。
まぁ、会う約束を反故にする呼び出しは女性からと思われがちですが違う事があるから正確な情報収集された方がよいですよ。
淑女らしくないポカン顔の御婦人達をその場に残して飲み物の入ったグラスを片手にバルコニーに出た。
「一部誤解を解いただけでも収穫ありかしら。」
その後、社交界で不勉強な婦女子による元婚約者の男色疑惑の噂が流れていたようですが相変わらず上司に振り回されて火消し出来ていないようで貴族に婿入りしないままなら平民になるしかないから恐らくこの噂に対する彼の優先順位は低いのでしょう。