作品タイトル不明
中編
静かな部屋に雨が硝子窓を打ちつける音が響いている。
私は婚約者の家から届いた夜会のドレスを眺めていた。
彼の瞳に合わせた若草色のドレスに添えられたメッセージカードは彼の角ばった特徴ある筆跡ではなく女性的な柔らかいもので一目で送り主が彼の母だと分かった。
婚約者から贈り物はないが彼の母からは贈り物が来る。
三男で何処かに婿入りする必要がある彼の縁談は私達の祖父同士が酔った勢いで取り付けたもので政略と呼ぶには微妙すぎる内容です。
『ウチの孫に婿入りする代わりに通行手形を持った商人の通行税をさげてくれよ。』と祖父は勝手に決めて帰ってきて私の両親から絞られたと聞きました。
それでも酒の勢いで成立したとはいえ利害が絡む婚約であり母として縁が壊れないよう必死に計らっているのでしょう。
残念なことに社交界では婚約者に私が蔑ろにされている噂は広まっている。
私の両親もあちらのご両親も火消しに奔走したが当事者には響かなかった。
仕事を優先する事は悪い事ではない。
1年目は我慢して様子を見ることにした。
2年経った。
顔合わせのお茶会は丸2年上司と仕事を優先した。
私が高熱を出した時も上司との早駆けを優先した。
大叔母様の葬儀は上司に誘われて狐狩りに行った。
『仕事の方が魅力を感じているのかしら?』
『お仕事と言って特別な方がいらっしゃるのでは?』
『婿入りでしょ?いいのかしら?』
強風に煽られた枝葉が壁や窓を撫で擦る音が何時かの夜会で聞いたざわめきに重なる。
もう私だけの問題ではなくなっている。
これは私達一族の評価に関わる。
深く息を吸って呼吸を整えてからベルを鳴らした。