軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1話 追放者小隊へようこそ! この社会から追放された俺たちは、騎士団で秘密作戦部隊を作ります! (前編)

「エステル真王よ」

『王の間』で、一人の男が口を開いた。

豊かな髭を蓄えた顎に、厳めしく刻み込まれた顔面の深い皺。

跪かずに王座の前に立ち、エステルと同じ赤と黒色のサーコートを身にまとったその年配の男は、重々しい声色で語り掛ける。

「陛下が庶民からの人気が高いのはわかる。しかし、あまりにも下級市民たちを庇護し、有力諸侯たちを蔑ろにするならば……いつかそのしっぺ返しが来るものと思った方が良いですぞ」

「何が言いたい、バヴィエール伯爵」

王座に座るエステルが、刺し返すようにそう言った。

「婉曲な言い回しをするでない。言いたいことがあるのならば、率直に述べよ」

「国王陛下は、我々上流貴族階級の権益を破壊しようとしているように思える」

バヴィエール伯爵……タデア・バヴィエール伯爵は、要求された通り率直に発言した。

彼の背後には、他にも複数人の有力諸侯たちが肩を並べている。伯爵は、彼らの代表者でもあった。

「優先すべきは、国家の長期的な発展である。今は不満に思うことがあっても、全ての施策は最終的に全王国民の利益となるであろう」

「ワークスタット家にロストチャイル家……それに数年前のジディ家。貴族階級の筆頭家系が立て続けに没落したところで、エステル陛下は諸侯勢力を切り崩し、権力の集中化を図ろうとしているのではあるまいか」

「そんな意図は毛頭無い。余が望むのは、全王国民の繁栄と成長である。それには当然、諸君らも含まれているものと思え」

「どこまで信じてよいものか……」

バヴィエール伯爵はため息交じりにそう言うと、エステルのことを一瞬だけ睨みつける。

「あの『英雄ヒース』の騎士団追放も、まさか陛下の策略では……?」

「口を慎めよ、バヴィエール……余を卑怯な圧政者と申すか?」

「いいえ。しかし諸侯の中には、そのように考える者も居るということですよ…… 国(・) 王(・) 陛(・) 下(・) 」

バヴィエール伯爵はそう言い捨てると、控えさせていた諸侯たちを引き連れて、『王の間』を去っていった。

「……やれやれね。詳細な経費の計上を求めた途端に、こうなるとは」

そう言って王座の肘掛けに手を突いたのは、傍に控えていたラ・ポワゾンだった。

上流階級に対する、厳密な税収の実施。これまでなあなあで済まされ、不透明極まりなかった貴族階級の金の動きを透明化し、不正な脱税と蓄財を防ぐための新施策。

それらを打ち出した途端、彼らが動き出したのだった。

「仕方あるまい。反発は予想していた」

エステルは厳しい調子でそう言って、細腕を組む。

「何か対抗策を用意しないとまずいわね。何かしてくるかも」

「ポワゾン。頼んでもよいか?」

「任せなさい」

ポワゾンがそう言って、エステルに微笑む。

エステルは返事をする代わりに、彼女の腕を肩で小突いた。

「して、ヒースの捜査はどうなっておるかな」

「さっぱりね。影すらも掴めないみたい。詳しくは、ジョヴァン団長から聞いた方がいいだろうけど」

「……なぜ、諸侯たちはあれほどヒースのことを信頼しておる?」

「あんたは知らないかもしれないけど、彼は王国の英雄だったから。諸侯たちは何か大きな問題があったら、ぜんぶヒースが解決してくれるものと思ってる節がある」

ポワゾンはそう言うと、エステルのことを見下ろした。

「ヒースは、数年前の あ(・) ん(・) た(・) の(・) よ(・) う(・) な(・) 存(・) 在(・) だったのよ。チビ姫」

「……チビ姫はよさんか」

「ふふん。とにかく、彼は伝説の英雄だった。彼が率いていた、『追放者小隊』もね」

◆◆◆◆◆◆

————数年前。

王国騎士団本部の通路を、ツカツカと革靴で踏み鳴らして歩く、一人の背が高い青年。

眉の上で切りそろえられた黒髪。真新しい白色幹部礼服。鋭い眼差し。

青年と少年の中間のような顔立ち。

その青年が通路を歩いているのを見て、騎士団の幹部たちがヒソヒソ話をしている。

「見ろ、あれがヒースだぞ……噂のヒース・ホワイツだ」

「幹部候補生学校を、次席で卒業したって話の?」

「本当は首席だったって話だぜ。でも、素行が悪かったんだ」

「なんでそんな奴が、出世コースの王族護衛官職じゃないんだ?」

誰かがそう聞いた。

「政治力だよ。ジディ家に目をつけられたんだ」

「噂じゃ元々、貧民層のストリートチルドレンだったって話だぜ」

「あげくに待機部隊まで追いやられそうになって、養父のジョヴァン警騎副長に配属し直されたんだ……」

「警察騎士部隊って聞いたが、どこに配属されたんだ?」

「窓際部署って話だけど……」

そんな話し声を、ヒースは全て聞き流していた。

どいつもこいつも、人のウワサ話が好きな野郎どもだ。

暇なんだろうな。ヒースはそう思った。

「おやおやあ? これはこれは、僕の同期のヒース君じゃないかあ?」

正面から歩いてくる金髪の男が、ニヤニヤとした顔を浮かべてそう言った。

ヒースが見てみると、それはイェスパー・ジディだった。

幹部候補生学校の同期。大貴族ジディ家の子息で、ヒースと首席の座を争った……と本人は言っている青年。ヒースの感覚としては、別に競争した覚えは全く無いのだが。

イェスパーは背後に数人の取り巻きを連れながら、ヒースの前に立ちはだかる。

「僕はこれから、名誉ある『王族護衛官』に配属される予定だけど……君はどうだい?」

「これから見に行くところさ。それじゃあな」

ヒースはそれだけ言って、彼の横を通り過ぎようとする。

しかしイェスパーが横に歩を進めて、その道をふさいだ。

「……どいてくれないか?」

「いいか? 候補生学校をよく知らん奴は、『本当の首席』はお前だったなんて言う奴もいるがな……これが家系の差だ! 思い知ったか、ヒース!」

「そうか。急いでるんだが、どいてくれよ」

ヒースはどうでもよさげにそう言った。

このイェスパーが、父親に泣きついてヒースの人事を工作したのはわかっている。国の援助を受けて幹部候補生学校に入った庶民上がりの連中をいびり散らすので、一度殴ってやったことがあった。その報復人事というわけだ。

ヒースは単純な成績自体は断トツだったわけだが、教育中にそういった暴力沙汰を何度も起こし、大幅に総合成績を下げられたのだった。それでも、最終成績は主席のイェスパーと僅差だったわけだが。

「お前が道を迂回したらどうだ? そこに階段があるだろ。二階を通って行けよ」

「そうか。残念ながら遠慮しとこう」

イェスパーのニヤケ面に、ヒースは突然素早い右ストレートを繰り出した。

目にも止まらぬ、初動を感知すらさせない速拳。

鼻頭にヒースの素拳を喰らったイェスパーは、後ろに転がって鼻から血を垂れ流す。

「い、イェスパー様!」

「大丈夫ですか!」

「ひ、ヒース! 貴様ぁ! ただじゃおかんからなぁ! 覚えておけよ!」

はいはい、とヒースは思いながら、そのままスタスタと歩いていった。

まっすぐに自分の目的地へと歩を進めて、廊下を渡る。

階段脇の小部屋を見つけると、ヒースはその部屋名をちらりと確認した。

『待機小隊室』。この部屋のはずだ。

軋むドアノブを回して扉を開いてみると、その瞬間。

ドサドサガラガラという喧しい騒音が響いた。

「だぁーっ! ぐわあー!」

見てみると、棚の雑多な荷物や時代遅れの装備が崩れ落ちて、その中に青髪の少年が埋もれている真っ最中だった。

ヒースはそのゴミの瓦礫に近づいてみると、青髪の少年のことを見下ろす。

「あったたぁ……! おや? あんたは?」

「俺はヒースだ」

青髪の少年に、ヒースはそう返した。

少年は瓦礫の山から這い出ると、パッパと自分の制服を叩いて埃を落とし、ヒースに握手を求める。

「ああ、ボクたちの小隊長っていう人だな! よろしく!」

「お前は?」

「ボクはネヴィアだ! 職種は魔法使い。候補生学校を卒業したばっかりさ!」

青髪の少年……ネヴィアがそう答えて、ヒースと握手を交わす。

小さくてか細く、貧弱そうな手だった。

ヒースの筋張った大きな手に包まれると、そのまま粉砕されてしまうのではないかと心配になる。

ネヴィアと名乗った少年はかなり美形な顔立ちをしていたが、目の周りのひどいクマが目立った。鼻には分厚い丸眼鏡をかけていて、ひどい近視なことがわかる。そのせいで、目つきが非常に悪く見えた。整った顔立ちが台無しだ。

「しかし、ひどいゴミ溜めを押し付けられたもんだな」

ヒースはぐるりと小隊室を見回すと、そんな文句を垂れずにはいられなかった。

小隊室とは名ばかりの、埃を被った単なる倉庫。並べられた装備は、どれも二回りほど時代遅れ。唯一まともそうなのは、丈夫そうな足をした古い長机くらいだ。椅子の数さえ足りない。

ネヴィアはガラクタの中から座れそうな樽を見つけると、それに座り込んだ。

「ちょっとは掃除しようと思ったんだけどね! まあ、仕方ないよ。今期はとんでもない問題児が多かったってことで、ここに纏めて集められたみたいだし」

そう言うと、ネヴィアは何かを思い出したような表情を浮かべる。

「でも、あんたは確か……ジョヴァン副長の子供じゃなかっけ? どうしてこんなゴミ溜め小隊に?」

「ふん、子供じゃなくて養子だ。これでも庇ってくれたんだがな。もう少しで、筋トレ愛好会まがいの防衛騎士部隊に入れられるところだった」

「ウエエ。ボク、あそこだけは配属されたくなかったんだよなあ」

「お前はどうしてここに?」

ヒースが長机に腰掛けながらそう聞くと、ネヴィアはニヤリと笑った。

「エヘヘ。訓練期間中に、家系書を偽造したのがバレちゃって。幸いボクったら成績が良くて、除名はされなかったんだけど……このザマさ。半分追放処分みたいなもんだね」

「家系書の改竄?」

「書類をいじくってね。あの大貴族、ワークスタット家の親戚ってことにしたのさ」

「真面目そうな面しやがって、ひどいペテン師だな」

「ボクみたいな下級市民出身は、そうでもしないと出世なんて望めないからねー」

「ニャーン」

ヒースとネヴィアがそんなことを話していると、部屋に一匹の子猫が入って来た。

綺麗な銀色の毛並みをした子猫。

その猫はピョコンと長机に飛び乗ると、ヒースに擦り寄って来る。

「ニャー」

「なんだコイツ。紛れ込んで来やがったのか?」

「アハハ。懐いてるじゃん。うちの三人目の小隊員ってところかな」

「うるせえ。あっち行け、この猫公め」

ヒースが猫を抱きかかえて外に連れ出そうとすると、

ボンッ! と突然、魔力の煙が爆発した。

「おおっ!? なんだあ!?」

煙が晴れると……ヒースはいつの間にか、子猫ではなく全裸の少女を脇から抱えていた。

お尻から尻尾を生やした銀髪の少女は、猫のようにヒースの顔を舐める。

その瞬間、ヒースは絶叫してその少女を放り投げた。

「うわああ! なんだ! なんだコイツはぁ!」

「ファッ!? ああ! 聞いたことがあるぞ! その娘、もしかして訓練生に紛れてたっていう獣人の子じゃないのか!?」

「なんで獣人が訓練生に紛れてるんだ! 幻獣の類だろ!?」

「なんでも発見された時はひどい怪我をしてて、群れに虐められたんじゃないかっていう……そのまま寮室に住み着いちゃって、一緒に訓練受けたらしいですよ! なぜか最後まで居たから、ついでに騎士に任官されちゃったっていう!」

「テキトーか!! 騎士団はアホの集まりか!」

「名前はたしか……そうだ、フィオレンツァって付けられたって!」

ヒースに放り投げられた銀髪の少女は、素っ裸のままで空中でクルリと受け身を取り、猫じみた滑らかさできれいに着地する。

その直後にもう一人、小隊室を訪れる者がいた。

「おやおや? ここが『警騎待機小隊』かな?」

扉の前でそう言って腕を組んだのは、 鍔(つば) の広い帽子を被って全身の至る所に色とりどりの鳥の羽を差し、どこかエキゾチックな服装をした青年。よくよく見てみれば、その服は騎士団の制服を好き勝手に改造したものであることがわかる。その腰には刀を差していた。

「……てめえは?」

ヒースがそう聞くと、青年はピンッと人差し指を立てて帽子の鍔を上げる。

「よくぞ聞いてくれたな! ワイは孤高のギャンブラー、ヒマシキ! 『疾風のイカサマ師』たあワイのことよ!」

「……知らん。ネヴィア、お前知ってるか?」

「あれだ。ギャンブル中毒で商人一家から追放されて、騎士団に押し込まれたっていうヒマシキですよ。訓練期間中に教官を巻き込んだポーカー大会を主催して借金背負わせて、成績を偽造させて死ぬほど問題になったっていう……」

「ウハハハァ! 貴族階級の教官ときたら、プライドばっか高くてワイらのことを見下すもんでよぉ! ちょっと揉んでやったわけよぉ!」

高笑いするヒマシキの背後から、もう一人。

自分の背丈ほどもある大きな丸盾を担いだ紫髪の少女は、オドオドとした様子で部屋を覗き見た。

「………………………………………………………………ここが『警騎待機小隊』ですか?」

「……喋り出すまでが長えなあ!」

ヒースがそうツッコむと、大盾を抱えた少女はビクリと仰け反る。

「ヒィッ! ………………………………………………………………ごめんなさいぃ! 何事も防衛志向なものでぇ! 守勢なものでぇ! 後の後なものでぇ!」

「盾スキルしか使えないって噂のキャノンだ! 成績が悪すぎて魔法学校を退学させられて、転属先の騎士団でも、盾以外は騎士候補生史上最赤点って噂の!」

「………………………………………………………………そうですう! はいい!」

「ネヴィア! てめえ何でも知ってるな!」

「エヘヘー! 情報通なものでー!」

◆◆◆◆◆◆

家系詐称の詐欺少年にギャンブル狂、そして盾スキル以外使えない沈黙の長い少女……。

それに全裸のフィオレンツァなる獣人の少女は、ネヴィアのコートを羽織らされて、その膝にちょこんと座っていた。

彼らをとりあえず長机の周りに座らせたヒースは、額に青筋を立てながら言葉を絞り出す。

「も、問題児が集まってるとは聞いてたが……限度があるんじゃねえのか……?」

「まあまあ! よっ! 小隊長!」

「とりあえずポーカーするかぁ!?」

「ニャーン」

「………………………………………………………………みんな凄いですねぇ」

ヒースは統率も何も無い自分の部下たちを眺めると、心底不安そうな表情を浮かべた。

しかし、次の瞬間にはキッと頭を入れ替えると、彼らに向かって語り掛ける。

「まあ……アレだ。俺たちは、どっかこっかで色んな所を追放されてきた連中ばかり。クズ野郎どもの集まりだ」

ヒースはそう言うと、4人の部下たちを眺める。

詐欺師の魔法使い、ネヴィア。

ギャンブラーの刀使い、ヒマシキ。

銀髪の獣人少女、フィオレンツァ。

盾スキル特化の時間差少女、キャノン。

「だが俺たちは、こんなゴミ溜めに押し込まれたままじゃ終わらねえ! いいか! お前たちの小隊長はこの俺だ! このヒース・ホワイツだ! 俺たちはこれから、この王国をひっくり返してやるぞ! 上流階級たちの鼻を明かしてやる!」

「おお! いいぞー! ヒースさん!」

「面白そうじゃねえかぁ大将! 人生は大勝負だなあ!」

「ニャー!」

「………………………………………………………………わおー! やっちゃいましょー隊長ー!」

ヒースは彼らに向かって手を振りかざすと、どこかのレストランに勤めている青年にそっくりな自信に満ちた表情で、叫ぶ。

「我ら『警騎待機小隊』改め、『追放者小隊』! 悪いようにはしないぜ、俺に付いてきな! この国をひっくり返してやれ!」