軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間 競え、その筋肉! 出張追放料理人、炎のボディビルディング! 前編

◆◆◆◆◆◆

親愛なる我が王国臣民にして「追放者食堂」店長、デニス・ブラックス氏へ

筋肉の祭典「ボディビルディング大会」を開くので、選手として参加するように。

これは王政府の決定事項である。

以上。

お主の最愛たる国王、エステル・キングランド真王より

追伸

王都までカツ丼の出前とか出来ないものかの?

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「なんじゃこりゃ……」

王政府の使者が送って来た勅書を眺めて、デニスはそう呟いた。

その隣から覗き込んでいたアトリエも、書面を眺めながらふと呟く。

「ぼでぃびるでぃんぐ?」

「筋肉の大きさと美しさを競い合う大会ですよ」

そう答えたのは、カウンターであんかけ炒飯を食べていたビビアだ。

「そういえば、そんな大会を始めるっていう話を聞きましたねー。なんでも、王国の健康促進事業の一環なんですって」

あんかけと炒飯を丁度良い分量で掬いながら、ビビアがそう続けた。

一方のデニスは、わけがわかっていない表情だ。

「いやいや、どうすればそれとこれが結びつくんだ」

「適度な運動を心がけましょう、っていう意識付けじゃないですか? これを機に、健康な食生活や身体作りのための運動方法とかも、パンフレットで配っていく予定らしいですよ」

「……なんでお前、そんな詳しいんだ?」

デニスがおずおずとそう聞いた。

最初に追放者食堂を訪れてからというもの、わりと色んな種類の修羅場を潜ってきたビビアは、何だか貫禄が付き始めたようにも見える。

最近ではもはや、デニス以上に大抵のことには動じない。トラブル耐性のようなものかもしれない。

「作家のエントモリさんが、パンフの執筆とかに参画してるんで。僕のところにしょっちゅう手紙が届くんですよ。本も山ほど送ってくれるんで、いつか本屋さんが開けそうですね」

「……なんで俺なんだ?」

「むしろデニスさん以上の適任が、この王国に存在するかの方が疑問ですね。その完璧な筋肉ならスター選手間違いなしですよ」

ビビアはそう言うと、ズズーッ、と付け合わせのスープを啜った。

それを聞いて、アトリエもいささか目を輝かせた様子でデニスを見つめる。

「デニス様。スター?」

「いやいや、一体誰が提案しやがったんだ……」

「ポワゾンさんらしいですよ」

「あの野郎……」

王城の会議室で高笑いしているポワゾンの姿が、デニスには目に浮かぶようだった。

そんな話をしていると、食堂の扉がガラガラと開かれる。

見てみれば町民たちが大勢集まっていて、その中には馬車屋の親父や、ツインテールとポニーテールまでいた。

「デニス! お前、どうして言ってくれなかったんだ!? すごいじゃないか!」

「すごーい! 店長有名人ー!」

「やばーい! 店長かっこいいー!」

興奮した様子で騒ぎ立てる町民たちを見て、デニスは目を白黒とさせる。

「……は?」

◆◆◆◆◆◆

「な、なんじゃこりゃ……」

デニスの本日二度目の「なんじゃこりゃ」は、街のいたるところに貼り付けられた張り紙に向けて吐き出された。

『第一回 王国ボディビル大会『オランピア』、開催!』

『自慢の筋肉で競い合え! 究極の肉体美を見せつけろ!』

『栄えある初代チャンピオンは誰の手に!? 王国のマッスル・シンボルになるのは君だ!』

そんな煽り文句がデカデカと書かれた張り紙には、

短髪で背の高い、筋骨隆々の……どこからどう見てもデニスっぽい男が、上裸でその鋼の筋肉を見せつけるようなポーズで描かれている。

『エステル真王と共に圧政を打倒した、伝説の勇士デニスも参戦! 我こそはという筋肉自慢求む!』

唖然とした様子でその張り紙を眺めるデニスを囲んで、町民たちは興奮しながら囃し立てる。

「すげえ! 食堂の店長、超有名人じゃん!」

「まだまだ大量に届いてるぞ! 張り紙止まらねえ!」

見てみれば、鍛治屋のおばあちゃんやらポルボやらグリーンやらその舎弟やらが、張り紙の束を抱えて歩き回っていた。

彼らは嬉々として、王都から届いた張り紙を街中の建物という建物に貼り付けている。

「ンドゥルフフフ……なかなか凄いことになっていますねえ……ンドゥフフ」

「フフフ……伝説の勇士か……フフフ……」

「ククク……俺はいつか、店長はこうなると思っていたぜ……ククク……」

そんな喧騒の中でデニスはただ一人、誰よりもわけのわかっていない表情を浮かべていた。

「えっ……? 何これ……?」

「すごい。デニス様すごい」

アトリエは一人、ぱちぱちと拍手していた。

◆◆◆◆◆◆

王国ボディビル大会『オランピア』の噂は、すでに王都全域にも広まっていた。

デニスの育ての親であるところの、ジーン・ブラックス料理長。

彼女が経営するブラックス・レストランにも、その張り紙はデカデカと貼り付けられている。

というより、壁を埋め尽くさんとする勢いで貼られている。

張り紙を山のように抱えた副料理長のヘズモッチは、若干うんざりした様子で、ホールに画鋲を打ち続けていた。

「……た、たしかに凄いけど……料理長!? 本当にこんなに張るんですか!?」

「じゃんじゃん貼っちゃいなさい。壁を埋め尽くしちゃいましょう」

困惑している様子のヘズモッチ副料理長に、ジーン料理長がそう答えた。

スタッフ総出で大量の張り紙をホールに貼り付けさせているジーン料理長は、嬉しそうにその光景を眺めている。

デニスのイラストが描かれた広報ポスターを画鋲で何枚も貼り付けているスタッフたちが、料理長には聞こえないようにコソコソと話し合っていた。

「これじゃレストランじゃなくて、トレーニングジムか何かだぜ……」

「あんまり大きな声で言うなよ。料理長はたまにああなるんだ。年に一回くらいな」

「あの人、デニス副料理長のこと大好きだからな」

「本人の前じゃつっけんどんにしてるけど、息子みたいなもんだからな。仕方ねえよ」

スタッフたちがそんな風にコソコソと話していると、ジーン料理長が思いついたように声をあげる。

「あら、良いこと思いついたわ。ポスター全部に、『元、当レストラン副料理長!』って書いておきましょう。『伝説の勇士』、の後にね」

「は、はい! わかりました!」

「あと、『料理長の弟子』とも書いておいてね。ああ楽しいわ。こんなに楽しいのは久しぶりだわ」

「だ、大丈夫か!? ウチの料理長大丈夫か!?」

「あんまり大きな声で言うな! あの人ああ見えてレベル100だからな! 死んだら列王される人だからな!」

「いつもはクールな人なのに!」

「料理長も人の親なんだよ!」

◆◆◆◆◆◆

一方の、未だ半壊した部分の復旧が進んでいない王城。

エステル・キングランドの膝元である『王の間』。

そこにはジョヴァン騎士団長に連れられた、王国騎士団の各部隊最高幹部たちが参上していた。

整列して跪き、頭を垂れている騎士部隊の隊長たち。

エステルは彼らを眺めると、「よし」と声を上げる。

「よくぞ参上してくれたな、みなの者」

「王国騎士団各部隊隊長以下副長! ジョヴァン団長の指揮により参上いたしました!」

「苦しゅうないぞ。頭を上げよ」

そう促されて、各部隊長たちが跪いたままで顔を上げる。

小剣を腰の鞘に納めたエステルは、彼らに向かって微笑んだ。

「近日開催予定の『オランピア』大会。諸君らの威光を国民に示すにはうってつけの舞台である。各部隊ともに、お抱えの筋肉自慢たちを出場させてくれることを期待しておるぞ」

「もちろんであります、我が王!」

いの一番にそう答えたのは、防衛騎士部隊の部隊長。

ラフォン・ドルドラ防騎部隊長だった。

「我が防衛騎士部隊は、外敵から都市を守るための防衛専門部隊であるという特質上! 他部隊に比べて影が薄く、不要論が囁かれることも少なくありません!」

ドルドラ防騎部隊長は、顔を赤くして唾を飛ばしながら叫んだ。

「我が防騎部隊は、これを機に国民へその存在感を見せつけぇ! 国王陛下の望む結果を得ることを誓います!」

「うむ。その心意気やよし。期待しておるぞ、ドルドラ部隊長よ」

「有難き幸せ! 我が防騎部隊コールドマン副長が! 必ずや陛下のご期待に応えることでしょう!」

そんなやり取りを、同じく参上していたピアポイント警騎副長が暑苦しそうに眺めていた。

彼女は常に全身フルアーマーの兜姿なので表情こそ見えないが、考えていることは何となくわかる。彼女を知っている者なら。

その一人である、部隊の整列から離れたところに立つジョヴァン団長。

彼はその光景を見て、「なるほどねえ」と思っていた。

ジョヴァンもこのところ、色んな会議に参加して意見を交流し合っている最中である。そしてエステル真王が初めに着手しているのは、言ってしまえば、あらゆる面における流動化と透明化だ。

都市間の流通や階級間、組織間の交流を促し、それまで役割や階級、地理的経済的理由によって断絶されてきた国民の垣根を取り払い、「王国一丸」というムードを作り出そうとしている。

それらの断絶を一挙に破壊するのではなく、様々な施策によって少しずつ透明化していく。

それはつまるところ、これから訪れる制度改革の時代を下支えする、新しい国民意識の形成が目的でもある。閉塞的な雰囲気から抜け出し、変化と流動性の時代へ対応するための地盤固め……

「ジョヴァンよ。お主も選手として参加してみるかの?」

エステルに突然そう振られて、ジョヴァンは苦笑いした。

「いえ。私はちょっと……忙しくさせて頂いておりますので」

「そうか、それは残念であるな。お主の警騎副長時代の逸話は、かねがね聞いておる所であるのに」

エステルが軽く肩をすくめると、ジョヴァンは苦笑いで返した。

これまで贅の限りを尽くしてきた王侯貴族達も、その頂点であるエステル王が倹約に励んでいる姿勢を見せつけられては、あまり表立っては動きづらい。浮いた税収は産業と文化に出資されて、切り開かれた交流と流通の中で花開く時を待っている。

すべては 相乗効果(シナジー) だ。これまで華美な贅沢に浪費されていた資金とシステムが開かれ、より大きな視点から俯瞰した国家運営にあてられようとしている。

それは全て、エステル・キングランド真王という圧倒的な国王が、この王国に誕生したからに他ならなかった。

王位継承者として生まれて教育を受け、追放されて庶民達と一緒にこの国を眺め、無二の力と共に王座に返り咲いた少女。この王国には、君主制の最も良い側面が現れようとしている。ジョヴァンはそう考えていた。

……ヒースよ。

お前もこんな時に、万事何事もなく、あの頃のままでこの場所に居られたら。

私の跡を継ぐ、次期騎士団長の筆頭候補として居てくれたら。

どこで、なんの螺子が狂ってしまったのだろう。

ジョヴァンはそう思わずにはいられなかった。

お前は今、どこにいる?

「さあ。著名な冒険者パーティーに商人組合、各職業ギルド。いたるところから参加を募ろう。初代王者には名誉と褒賞を与え、余が直々に叙勲してくれよう。新しい時代の主役は他でもない、諸君らであるぞ」