軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30話 追放姫とイツワリの王権 その1

王城前の大広場に、大勢の群衆が集まっている。

彼らは何事かを言い合ったり、顔をしかめたり、これから起きる事態に興奮したりしている。

現場責任者の一人である王国騎士団のジョヴァン団長は、人員が適切に配備されていることを確認すると、舞台の中心部に並べられている者たちを眺めた。

田舎町から連行されてきた大量の町民たちが、後ろ手に手錠と足枷を付けられて並べられている。

「ぐぅぅ……」

「くそぉ……!」

「もー! たすけてー!」

「やー! ゆるしてー!」

「静かにしろ!」

呻いたり泣いたり叫んだりツインテールだったりポニーテールだったりしている町民たちを、近衛兵が怒鳴りつけた。

公開処刑は、王国騎士団と近衛兵の混成人員によって取り仕切られている。

王国騎士団の人員は、銀地に国色である青と黄色があしらわれた儀礼用の甲冑姿。

近衛兵の人員は、赤色と黒色の儀礼用制服。

新王の統治において、絶対に逆らってはならない者たちは誰か。

この公開処刑を通じて、それを国民に知らしめようというわけだ。

ジョヴァンはふと、斬首の時を待つ囚われの町民たちから目を離し、周囲を眺めた。

ヒースはどこだ。

奴は近衛兵側の、現場責任者のはずだが。

ジョヴァンがそんなことを考えていると、彼の名前を呼ぶ者がいた。

「団長、ジョヴァン団長!」

そう言いたてながら処刑台の方から降りて来たのは、王国騎士団の首脳幹部の一人。

背中に身の丈の二倍はあろうかという大剣を担いだ、警察騎士“副長”のピアポイントだ。

「本当にこんな処刑をやるつもりですかい! ええ!? マジなんですかい!?」

フルフェイスの鎧兜を被ったピアポイントが半ば叫びながら近づいて来て、ジョヴァンは“彼女”の頭を、兜の上からガツンと甲冑の小手で殴りつける。

「いっだぁー!」

「ピアポイント! あまり大きな声で不敬なことを言うな! 国王陛下の勅命だぞ!」

「だってなぁー! 団長ー! オレは全然納得いかないぜぇー! 言っちまえばこんなの虐殺だよぎゃくさつぅ! っいだぁ!」

もう一度ピアポイントの兜を殴りつけたジョヴァンは、背丈の低い彼女に対して上から指さす。

「いいか! お願いだから黙って仕事をしろ! お前は口を開けば問題発言しかしないんだからな!」

「だってぇー!」

「お前の不祥事をな! 私が何回、その、ごちゃごちゃしてやったと思ってるんだ! 言っとくがもう限界だからな!」

「だって助けてくれるもんなー。わーったわーったよ……オラァこの雑魚士官に下士官共ォ! ちゃっちゃと準備しろグラァ! 皆殺しにするぞゴラァ!」

専用の小さい銀甲冑と大きすぎる大剣をガチャガチャと言わせて、怒号を撒き散らしながら去って行った“彼女”……『 罪悪天敵(ナチュラルエネミー) 』の異名を持つピアポイント警騎副長の後ろ姿を眺めながら、ジョヴァンは浅いため息をつく。

そこで、王城側の広場の奥から、風の魔法に乗せられてきた声が響いた。

「注目! 国王陛下のお目見えである!」

ジョヴァンがそちらを向くと、彼は思わずギョッとした。

王城の方から、何やら巨大な金色の山……いや神輿が移動してきている。

四角錘状の巨大な黄金の輿は、何十人……いや百人単位の人間によって担がれ、もっぱら人力でゆっくりと移動しているようだった。

権力を誇示するために、これ以上効果的な乗り物はこの世にあるまい。

その悪趣味極まりない金輿の上に立つのは……

やはり、あのレオノール・キングランド王だった。

その異様な国王の姿を見て、広場に集まっていた国民たちが当然の如くざわつく。

レオノールはその様を輿の頂点から満足気に眺めると、王族に特有の桃色がかった金髪を太陽の光の下で輝かせた。

「親愛なる王国臣民たちよ!」

レオノールの声は、彼を乗せた巨大な輿を担ぐ従者たちと共に追従する風の魔法使いによって、広場全体に拡声される。

「今日という日は、記念すべき日となる! その目でとくと見届けるがいい! 王国を脅かす国賊が、どのような末路を遂げるか! 国王たるこの俺様が、国を守るためにどのような覚悟をもって国家の敵と対峙するか!」

◆◆◆◆◆◆

騒然とした様子の王城正面。

その一方。

王城の裏口に、ヘンリエッタが立っていた。

「新設の、国王親衛隊?」

裏口の守衛が、そう言ってヘンリエッタの顔を見た。

ヘンリエッタは困ったような笑顔を浮かべると、守衛に言う。

「は、はい……あの、今日は催しの後に、部隊のお披露目があると聞きまして……!」

「そんな話は聞いてないな」

「あー、あのですね! 辞令書もあるんですよ! これです!」

ヘンリエッタはそう言うと、先日にジョヴァン団長から受け取った辞令書を見せつける。

守衛はそれをじっくりと眺めると、ふうん、と鼻を鳴らした。

「たしかに、王国騎士団の正式な書面だな。それも騎士団長直々の」

「そう! そうなんですよー!」

「しかしなあ。そういう命令は申し受けてないしなあ」

「そ、それがですね……!」

ヘンリエッタは守衛の耳元に顔を近づけると、囁き声で言う。

「じ、実は……その、ゴニョゴニョなアレなんですよ……」

「ゴニョゴニョなアレ?」

「そ、そう! あの、ここでは言いづらいと言いますか……その、国王陛下も、お盛んなものですから……!」

「ああ、そういうことか。なるほど」

守衛は何かを察したように頷くと、裏口の扉に手をかけた。

「どうぞ、“部屋”はわかる?」

「え、部屋?」

「知らないのか? 娼婦用の部屋がきちんとあるから、中のメイドにでも聞いてくれよ……っと、そういえば人がいないかもしれないな。まあ、自分で何とかしてくれ」

「あ、あー……ま、マジで、こういうのってよくあることなんですか?」

「よくあるというより、新王になってからは毎日さ。前王の頃は、こんな馬鹿げた業務は無かったんだが……おっと、今のは聞かなかったことにしてくれよ」

年配の守衛は呆れたようにそう言った。

「あ、ありがとうございます……」

「しかし国王陛下も、今度は騎士団から夜の相手を選ぶとは。いつかやるだろうとは思ってたがね」

守衛はそう言って、『鍵開け』のスキルを発動した。

彼がスキルを発動して扉のノブを何度か回すと、扉全体に複雑な紋様が走り、ガチャリという開錠の音が響く。

それを見て、ヘンリエッタが「ほーっ」という声をあげた。

「これが、王家の裏口のスキルですか……!」

「そう、俺の一族の専用スキルなんだ」

守衛は得意気に言った。

「他の連中の開錠スキルとは違くてね。俺たちのスキルはこの『王城裏口』しか開けないが、逆にどんなにレベルが高くても、他の連中にこの『王城裏口』は開けない。そのおかげで、代々守衛として雇ってもらってるわけだ」

「す、すごーい」

「王城の召使たちは、そういう王家専用の特化スキル持ちばかりさ」

「そう。だから、開けてもらうまで待っていたんだ」

不意に男の声が背後から響いて、守衛は振り返った。

そこには自分よりもいくぶん背の高い、肩幅の広い男――デニスが立っていた。

◆◆◆◆◆◆

「今日ここに罪人として引っ立てられたのは! 国賊たるエステル・キングランドを町ぐるみで隠匿し! 国家反逆の企てを幇助していた愚か者たちである!」

黄金の輿の上に立ったレオノールが叫ぶと、拘束していた町民たちの何人かを、近衛兵たちが引きずっていく。

その中には、ポルボやグリーン、それに馬車屋の親父も含まれていた。

「ンドゥフフフ……こ、ここまでかネ……」

「ぐわー! いやだ! 助けてくれー! 俺はただの、ただのかっこつけなんだ!」

「グリーンの兄貴ぃー!」

「くそ……」

両手両足を拘束された町民たちを、近衛兵が引っ張って処刑台に上げていく。

並べられた処刑台の前には、王国騎士団の首切り人たちが整列して待ち構えていた。

一番最初に連れてこられた町民たちは抵抗するものの、殴りつけられたりして、最終的には一人ずつ断頭台に組み伏せられる。抵抗むなしく頭を差し出し、彼らは断頭用の木枠へと次々に嵌め込まれていく。

広間の中央に設営された、大規模な処刑台。

ジョヴァン団長はその足元に立ち、公開処刑の準備が着々と進んでいく様子を眺めていた。

「本当にやるんすね」

そう言ったのは、ジョヴァンの隣に立つ、ピアポイント警騎副長だ。

「ああ」

「いいんですかい、団長」

「王政府の命令を全うするのが我々の仕事だ」

「それがどんな命令でも?」

「そうだ」

複数の近衛兵が、抵抗していた最後の一人に群がり、断頭台の木枠に組み伏せようとしている。

「いやだ! 死にたくなーい!」

「兄貴ー!」

その様子を、ジョヴァンはやや遠い目で見ている。

「命令に対する具申は行う。だが、決定には従うのが我々騎士団だ。そうじゃないと国は成り立たん」

「オレはそうは思いませんがね、団長」

「ならどう思う?」

「どんな形であれ、国民を守るために悪を打ち倒し、敵に立ち向かうのが騎士団だ」

ピアポイントはそう言った。

フルフェイスの鎧兜と銀甲冑で全身を覆い、肌の一欠けらも見えない"彼女"は、体前で窮屈そうに腕を組んでいる。

「オレはどうも、これは決定的な事件なんじゃないかと思いますよ。いわば、オレたちはこの国で最大の悪党になろうとしてるんだ」

「善悪じゃない」

ジョヴァンはそう言って、連絡員の準備完了の合図を確認する。

「いかなるときも王政府の側に立つのが、我々王国騎士団だ」

「国民の側じゃなくてっすか?」

「通常はそうだ。しかし、必ずしもそうだとは限らない」

ジョヴァンはそう返すと、片手を振り上げて、喉から声を張り上げる。

「王国騎士団々長より斬首部隊へ! 抜剣!」

◆◆◆◆◆◆

ヘンリエッタは裏口から王城に入ると、辺りをキョロキョロと見渡した。

たまに入る王国騎士団の本部も立派なものだが、こちらはちょっとスケールが違う印象を受ける。

何もかもが大きくて、広く、ゆったりとしていて。そして何よりも、どこもかしこも豪勢かつ煌びやかにピカピカと光っている。

周囲に人影は無い。

どうやら昼の公開処刑に際し、守衛などを除く大半の職員が出払っているらしい。

「王家の宝物庫は……私の記憶では王城の最上階、その二階下だよ」

ジュエルがささやき声で言った。

「どうする? 予想通り王城は手薄になってるみたいだ。こっそり行くかい? それとも……」

「全力だ」

デニスがそう返す。

「コソコソしてたって、どうせどっかで見つかるんだ。『王家の宝物庫』まで全力で突っ走るぞ。障害は全部ぶちのめす」

「わかった。ヘンリエッタさん、あんたはどうする? あたしたち、これからガッツリ国家反逆するわけだけど」

「わ、私だって行きますよ! 町のみなさんの命がかかってるんですから!」

ヘンリエッタがそう言って、三人が王城の通路を駆け出した。

いつもは従者や王政府の役人たちで賑わっているはずの王城は、まるっきり人気が無いように思える。

甲冑をガチャガチャと言わせて走りながら、ヘンリエッタが言う。

「ね、ねえ! 大将!」

「なんだ、ヘンリエッタ!」

「なんだか、楽しいですね!」

「なに馬鹿なこと言ってんだ、お前は!」

見つけた階段をかけ上りながら、デニスがそう返した。

ヘンリエッタは息を切らせながら、嬉しそうに笑う。

「私、ずっとこんな風に大将と走ってみたかった! 助けてもらったあの日から! ずっと! 隣を走ってみたかった! 一緒に戦ってみたかった!」

それを聞いて、デニスは何か言い返そうと思ったが、

結局、何も言わずに階段をかけ上ることに決めた。

「もうタダ飯喰らいのヘンリエッタじゃありませんよ! 王国騎士団警察騎士部隊所属! 上等騎士(ファーストナイト) のヘンリエッタです!」

「わーった! いいから走れ! 本物の『王剣スキルグラム』を手に入れるぞ! それが必要だ!」

「あいさー!」

◆◆◆◆◆◆

処刑台で、王国騎士団の首切り人が一斉に腰の剣を抜いた。

処刑人の剣(エピュドジャスティ) 。

それは一見して普通の剣のように見えるが、その先端は丸みを帯びて切っ先が存在しない。これはあくまで斬首のために振り上げて使用する代物であり、これを使用した戦闘や刺突は想定されていないからだ。

「構え!」

ジョヴァン団長の号令が響き、処刑人たちが一斉にその剣を振り上げる。

木枠から首を突き出した馬車屋の親父は、なかば諦めた顔色でその音だけを聞いていた。

眼前には、公開処刑を見に集まった大勢の群衆。

彼らの表情は恐怖に引きつっていたり、逆に興奮に彩られていたりする。

処刑人の腕が良いことを祈るだけだ……。

彼がそう思っていた時、ふと、頭上から。

「すまん……」

そんな声が聞こえて来た。

馬車屋の親父が、動きが制限された首で足元を見ると。

自分の横に立つ処刑人の脚が、微かに震えているのがわかる。

おいおい……。

しっかりしてくれよ……。

馬車屋の親父がそんなことを考えながら、斬首の号令を待っていると。

処刑台を囲む群衆が、にわかにどよめきだしたのがわかった。

「お、おい!」

「なんだあれは!?」

ざわめきの中から、そんな声が聞こえてくる。

馬車屋の親父がふと顔を上げると、つい今まで自分たちに好奇の目を向けていた群衆が、みな空を見上げていることに気付いた。

澄み渡る大空に、こちらへ向かってくる飛翔物が見える。

それは鳥ではなかった。

それはメイドだった。