軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27話 史上最大の危機はクライマックスの前に 終

デニスとエステル、ポワゾンにジュエル、それに町民たち。

彼らは、街の最北である冒険者ギルドに辿り着いていた。

ポワゾンが脚に刺し傷を負っている馬車屋の親父の傷を診ている横で、町民たちが窓から外の様子を窺っている。

「くそっ。もう騎馬兵が来てる」

「さっきの女は? ビビア君は?」

「ここからじゃ見えない。どうなってるかわからん」

籠城した街の人々がそう言い合っている中で、デニスは身体に力が戻って来たのを感じながら、思考の整理が付かないでいる。

ビビアはどうなった?

ツインテールは? ポニーテールは?

捕まったのか?

あのヒースとかいう男はなんだ?

何がどうなっている……。

ズボンの布地が引っ張られて、デニスは現実に引き戻される。

アトリエが、デニスの服を引っ張っていた。

「アトリエ。無事だったか。よかった」

「ここから逃げるべき」

アトリエはそう言った。

「今すぐ」

「逃げるっつっても、これ以上は無理だ。ここで踏ん張るしかない」

デニスにそう言われて、アトリエは首を横に振る。

アトリエはポワゾンらを指さした。

「ポワゾン。ジュエル。エステル。デニス様と彼女らだけでも逃げるべき」

「どういうことだ?」

「単純に能力と重要度の問題。ここに居ても押し込まれるだけ。ロストチャイルの時と違う」

「おめおめと、てめえだけ逃げられるか」

「いや、アトリエちゃんの言う通りだ」

そう言ったのは、脚の手当てを受けている馬車屋の親父だ。

「このままじゃ、みんな捕まるだけだ。デニス。お前らだけでも逃げおおせてくれれば、まだ可能性がある」

「んなこと、言われたって……」

「デニス。しっかりしろ。ここが正念場だぞ。お前らだけでも逃げて、助けを求めるんだ。王都には、お前の仲間がたくさんいる。彼らの手を借りるんだ」

「…………」

馬車屋の親父がそう言って、ギルドの待合室に逃げ込んでいた町民たちは押し黙った。

「……しかし、包囲されてる。どうやってここから脱出すればいい」

「ンドゥルフフフ……我々がどうにかするしかないネ」

「変態ポルボの言う通りだ。俺っちらで、店長たちを逃がすしかない」

「でも、捕まるぞ……」

「どっちにしろ捕まるんだ……」

町民が何かと言い合っている中で、エステルが声を上げた。

「よ、余が、もう一度交渉してみよう……。き、きっと大丈夫じゃ。あの者たちも、余が額に土を擦りつけて、頼み込めば……」

そう言ったエステルの頭を、町民の一人が叩く。

「い、いだっ」

「いいか、嬢ちゃん。あいつらはもう、交渉なんて聞かねえのはわかってるだろ」

「で、でも……お、お主らが……」

「大丈夫だ。エステルちゃん。俺らはこれまで、ずっとこうやってきたんだ。町民根性の見せ所だ」

町民の一人がそう言って、デニスのことを見た。

「……みんなの命を頼めるか? 食堂の大将」

「…………」

デニスは押し黙った。

任せろとは言えない。

しかし、彼らの覚悟はすでに、固まっていた。

◆◆◆◆◆◆

「さてさてさてさて?」

中央通りを北上しながら歩いているヒースは、正面から駆けて来た騎馬隊の隊長を見つけた。

「隊長殿。首尾はどうだね」

「冒険者ギルドに立て籠もっていた町民たちを、全員捕縛しました」

「そうか。エステル姫は?」

「それが、まだ確認できていません」

「確認できない?」

ヒースは笑いながら、騎馬隊長に問いかける。

「そこに居なかったのか?」

「突撃の直前に、町民たちが一斉に出て来まして。兵が対応を迷っている一瞬の混乱の内に、おそらくは」

「ふーん。なるほど」

「あのデニスとかいう男の姿もありませんでした。毒使いも」

「つまるところ、いきなり逆突撃をかまされた挙句に勝手に混乱して、主要人物だけは取り逃がしたわけか。失策だなあ、隊長殿」

「申し訳ございません」

「いいや。君の失敗は僕の失敗だ。気にすることはない」

ヒースは微笑みながら、隊長にそう返した。

「むしろそれでいい」

「はい?」

「こっちの話だ。継続して、この街の人間を捕まえられるだけ捕まえろ。片っ端にだ。全員王都に連れて行け」

「連れて行ってどうするのですか?」

「国賊は全員、斬首刑に決まっているだろう?」

ヒースがそう言うと、隊長は一瞬だけ、表情を曇らせる。

「わ、わかりました」

「わかったら、さっさと命令を飛ばしてくれ。それじゃあ、あとは任せたよ」

騎馬隊長が駆けて行き、ヒースは鼻歌を歌いながら、街の中央通りをのんびり歩く。

さてと。

この街での仕事は終わりだな。

そんなことを考えていると、正面からフィオレンツァが歩いて来るのが見えた。

小脇に、何やら青いコートを着た少年を抱えている。

「フィオレンツァ。よくやってくれたな。その少年は? 騎馬兵に預けたらどうだ?」

「ヒース様。この少年を借りてもよろしいでしょうか」

「…………」

ヒースはフィオレンツァの正面に立つと、彼女の小脇に抱えられた少年を覗いた。

あのデニスと非常に仲が良い人物の一人だ。たしか、名前はビビアとかいう。

「どうして?」

「興味がありまして」

「フィオレンツァ」

ヒースはフィオレンツァの両頬に手を添えると、ポンポンと頬を軽く叩いたり、その柔らかい肌をひっぱったりした。

「精神状態は大丈夫か?」

「良好です」

「やや獣臭いぞ。獣化したな? 知能の具合は元に戻っているか?」

「問題ありません」

「それじゃあ。その少年をお前が個人的に持って帰る、もっと具体的で合理的な理由を述べてみろ」

「ネヴィアに似てます」

「…………」

ヒースは困ったような表情を浮かべた。

「僕はそう思わん。髪型と雰囲気が、ちょっとばかし同じであるように思えるかもしれないだけだ」

「私は似てると思います」

「だからどうした?」

「借りてもいいですか?」

フィオレンツァはヒースの目を見据えて、そう言った。

ヒースは何か答えようと思ったが、その間に何度か表情を変えて、

「……わかった。好きにしろよ。僕は別に構わん」

結局、そう答えた。

ヒースはフィオレンツァの肩を叩くと、その場を去ろうとする。

「しかし。“使命”に影響が無いようにしろよ」

「わかっています」

「僕たちの“使命”は?」

「人類を救済することです」

「そのために?」

「『 世界の終わり(ハッピーエンド) 』に到達します。正しい形で」

「そうだな。それでいい。それじゃあ、頼んだぞ」

◆◆◆◆◆◆

街を遠方から見渡すことのできる木陰に、デニスを始めとした四人が隠れていた。

デニス、エステル、ポワゾン、ジュエル。

それが、残された残存戦力。

街から出発する騎兵隊の姿が見えて、それに囲まれた多くの町民たちの姿も見える。

「これからどうするの?」

ポワゾンが、デニスにそう聞いた。

「俺の元同僚や、食堂の元常連、元従業員に接触する。彼らに協力を仰ぐよ」

「同僚に、常連に、従業員?」

ジュエルが聞き返した。

「そんなん、役に立つわけ? 相手は国家なんだよ」

「かけあってみるしかねえ。やってみるしかねえんだ」

「どちらにしろ」

エステルが言った。

「余らに残された力は少ない……利用できる力を最大限に用いて、奴らに立ち向かうしかあるまい」

◆◆◆◆◆◆

場所は変わって、王都。

赤い甲冑の女性が……豪勢な応接室のソファに座りながら、何やら話し込んでいる。

「さて。それでは、こういったシフトで、うちの団員を警備に差し出すということでよろしいですか?」

「うふふ……『銀翼の大隊』が警備に付いてくれるとなれば、うちも安心だよ」

「信頼して頂けるようで、嬉しい限りです」

「それで、ケイティ団長。きみはこれからどうかね? 食事でも一緒に……」

「申し訳ございません。これから、別の予定が入っていますので。それでは引き続き、何卒よろしくお願いいたします」

そう言って書類を纏めると、ケイティは素早く応接室を後にした。

「はーっ。エロ親父相手は商談纏めるのは楽だけど、きっついわー」

ケイティはそんなことを呟きながら、屋敷の通路を歩く。

「そういえば。デニスはどうしてるかな。あれ以来会ってないし、ちょこっと顔でも見せてあげようか」

ケイティは次の商談先へと早足で歩を進めながら、ため息をついた。

「あーあ。私もそろそろ身を固めたいなー。結婚したいなー。あいつ、結婚願望とか無いのかなー」

◆◆◆◆◆◆

場所は再び、王都。

「えーっと? 新設の、国王特別親衛隊……ですか?」

ヘンリエッタはそんな文言が書かれた辞令書を見て、そう言った。

「そうだ。君の次の配属先は、国王特別親衛隊……だ」

王国騎士団の長、ジョバン団長は、苦々しい顔を浮かべてそう返す。

「す、すっごーい! じゃない! えっと、光栄です! ありがとうございます!」

「う、うん……なんというか……すまん、頑張ってくれ」

「あの! 失礼ながら! お聞きしてもよろしいでしょうか!」

「な、なんだね」

「ど、どうして私を、こんな凄い役職に!?」

「その、君は、顔もスタイルも良いし、若いし、ピチピチだし……じゃなくて、新人ながら、功績がな、うん。その辺をな、高く評価してな」

「あ、ありがとうございますー! 私、頑張ります! お任せください!」

「う、うん……。そうだな。頑張って欲しいな……」

ヘンリエッタは王国騎士団本部の団長室を後にすると、浮かれた気分で辞令書を眺めて、ニヤついた。

「す、すっごーい! た、大将に連絡しなきゃ! すごい出世だあ!」

◆◆◆◆◆◆

場所はさらに、王都。

「よおーっし! 飛行試験は合格だ! すごい! すごいぞオリヴィア!」

「うおおすげええっ! あのメイドロボすげえぇっ! いやこの機能付けた我々もすげええっ!」

「魔法の! いや現代魔法工学の勝利だぁっ!」

魔法学院の教授陣がハチャメチャに興奮した様子でそんな雄たけびを挙げている中、

学校の広場に降り立ったオリヴィアは、つま先を地面から浮かせたまま、興奮しきった様子の教授陣へとスィーッと近づいていく。

「オリヴィアは凄いデスカ!? 今日は音速を越えマシタ!」

「音速超えたの!? ヤッバあ! マジやべえ!」

「教授! 若者言葉が!」

「もう80歳なのに! 威厳を大切にして!」

「音速の二倍は出マシタ!」

「そういえば衝撃波が出てましたね!」

「うおおお! 大いなる魔法学の進歩だ! これからは人が空を飛ぶ時代が訪れるぞ! 馬なんてすぐに時代遅れだ!」

「やったあ! もうなんかあれだ! みんな優勝だ!」

「教授! 落ち着いて! 優勝ってなに!?」

「ワアイ! オリヴィアは嬉シイ! みんな喜んでクレテ嬉しい! 店長にも報告シナイト!」

オリヴィアは空中に浮かんで高速で回転しながら、王都のお偉い教授陣の歓声を浴びている。

その様子を遠巻きから眺めていたバチェルは、苦笑いを浮かべながら呟く。

「ああっと……これ、店長にどう報告すればええんやろなあ……」