軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2nd Season 予告編

「あれから四年……か」

王城の通路を歩くポワゾンは、一人そう呟いた。

結局あれから、玉の輿で良い男を捕まえて結婚できないまま、四年も過ぎてしまった……というか自分自身が王政府の要職なのだから、結婚するとしたら『逆玉』になってしまう……というか私、今何歳だっけ……考えたくない……ではなく。

あの幻霧祭における一件から、幼王エステルの治世が始まってから。

もう4年が経ったのだ。

カツカツ、とハイヒールを踏み鳴らしながら、通路を進む。

そしていつものように、『王の間』を開くと……

その先には、玉座に座り込んで書類を読みふけっていた様子の、エステルが居た。

彼女はポワゾンに気付くと、「おや」、という声をあげる。

「どうかしたかの、ポワゾンよ。今日は、休みを取っているはずでは?」

「緊急事態よ」

真剣なトーンのその声を聞いて、エステルは深く座り込んでいた玉座から、すくっと立ち上がった。

「話せ。何事であるか」

立ち上がったエステルの姿を見て、ポワゾンは不意に、時の流れを感じる。

いたいけな少女であったこの幼王は、4年の歳月を経て、ずいぶん成長していた。

といっても、まだまだ「少女」ではあるものの……背が伸びて、美しくもずいぶん凛々しい顔つきになった。腰に常に差されてある王剣スキルグラムも、彼女の成長と共に微細に伸長し、その形を変え続けている。

その王剣は、この少女王と一体の存在なのだ。

「追放者部隊の、ジョヴァンが謁見したがっているわ」

「余に直々に、であるか?」

「そうよ。私も詳しくは内容を聞かされてない。とにかく直接会って、話がしたいって」

「よい。午後の余の予定を全てキャンセルし、ジョヴァンとの会合をセッティングするのだ」

「もう手配したわ。あとは、あんたの承認があれば全て動かせる」

「余とジョヴァンが会っていると公に知られては、なにかと不都合である。その辺りもよろしく頼んだぞ」

「もちろん。場所はすでに決めてあるわ、出かける準備をして」

「どこを予定しているのだ?」

「この王国で、一番安全なレストランよ」

◆◆◆◆◆◆

「もうあれから、四年か……」

一人の青年が、そう呟いた。

中性的で、見方によっては女性のようにも、端正な青年のようにも見える顔立ち。

しかし、そのスラリと伸びた線の細い長身と骨格で、彼が『青年』だと断定できる。

青色のコートを羽織ったその青年は、王都の街中を歩いている。

片手に屋台で買ったサンドイッチを持って、それをパクつきながら。

「あとで、デニスさんに会わないとなー。あの件、もうちょっと詰めないといけないし……」

そんなことを呟いていると、不意に。

通りの向こう側が、にわかに騒がしくなった。

「ひったくり! ひったくりよ!」

女性の叫び声。

道行く人を突き飛ばしながら駆けて来る、一人の男。

「ぐ、グハハ! 追いつけるかよ」

手提げ鞄を抱えながら走るその男は、不格好な風の魔法を自分の脚元に発動させた。

彼の足が空気を踏み込み、空中を駆け上がって『上』へと逃げようとする。

「おやおや」

サンドイッチをパクついていた青年は、その光景を見て、そんな声を漏らした。

授業で、民衆には風系統の魔法が人気だとは聞いていたが……もしかして、こういう盗賊稼業に人気ということなのだろうか。偉大な魔法の祖に申し訳ない事態だ。

そんなことをのんびり考えながら、その青年は。

コートの袖から、スチャッと一本の杖を取り出す。

「グハハ! このまま、警察騎士が来る前に逃げ切れば……!」

空中を駆け上がっていくそのひったくりは、ついに脇の建物の屋根まで到達しようとしていた。

そんなとき。

「下から失礼しますよー?」

ふとそんな声が響いてきて、そのひったくりは下の方を見た。

その声の主が誰かを確認する暇もなく、空気を捉えていたはずの足が空中で踊り、駆け上った先の上空で態勢を崩す。

「————は?」

そのまま、彼は自由落下で直下へと落下した。

「あ、あれ――っ?」

わけがわからず、その盗人は空中でじたばたと足を動かしながら、頭から地面へと落下していく。風の魔法使いならば、即座に魔法をかけ直すことができる程度のアクシデントであろうが……おそらく、どこかで魔法を教えてもらって、筋が良かったのでちょいと使えるようになっただけなのだろう。

このようなイレギュラーな事態に対しては、全く対応ができないようだった。

「『 柔らかい手のひら(パーム) 』」

落下してきた盗人の身体を受け止めるようにして半透明な魔法の薄膜が展開し、地面と衝突する直前で受け止めた。その薄膜は生物のように蠢いて、端と端を自らたぐりよせるようにしてひとりでに縮こまると、盗人の身体に密着して包み込み、拘束衣の如き役割を果たして身動きを取れなくしてしまう。

「はっ!? はぁ!?」

まるでサイズが小さすぎる服を何枚も着せられたようにして、魔法の膜によって拘束された盗賊は、そのまま地面に転がった。

身動きの取れない彼に向かって、青いコートを着た一人の青年が歩み寄って来る。

「ということで。警察騎士が到着するまで、大人しくしててくださいね」

「だ、誰だ!? なんだ、てめえはぁ!」

「僕かい?」

青年は杖をコートの仕込み部分に差すと、艶やかな髪をナルシストっぽくかきあげた。

「知らないなら教えてあげよう。『 封印膜(シールドカーテン) のビビア』っていうのは、何を隠そう僕のことさ」

「だ、だから誰だ!?」

「ああもう! 期待していたリアクションじゃない!」

◆◆◆◆◆◆

一方また、別の場所で……。

「ず、ずっと好きでした、アトリエさん! 付き合ってください!」

「すまん」

頭を垂れて手を差し出した少年に、銀髪の少女が即答した。

「えっ……ダメってことですか……?」

「うん。すまん」

それを聞いて、告白玉砕を果たした少年はガックリとうな垂れる。

アトリエと呼ばれた少女は少年の肩を叩くと、親指を立ててサムズアップして見せた。

「は、はい……?」

「うむ」

何がなんだか意味がわかっていない様子の少年をしり目に、その少女はなぜかやり切ったという雰囲気で、スタスタとその場を離れる。

……その一連の光景を、物陰から眺めていた金髪ロールの少女が、彼女と合流して隣を歩き始めた。

「……あのねえアトリエ。告白に「すまん」ってなんですの。普通「ごめんなさい」とかでしょう?」

「そうなの?」

「そうよ。あの子だって、断られたのかどうなのか、よくわかってなかったみたいじゃない」

「それは申し訳なかった」

4年前より、いくらか背の伸びた少女……アトリエが、チムニーに対してそう言った。

「あと、最後に親指立てたのはなんなの?」

「「大丈夫、君ならもっと良い人が見つかるよ。気にするな。元気出せ」という意味」

「斬新な煽り方をしているようにしか見えないですから、やめた方がいいですわ……」

「なるほど。気を付ける」

そう言ってパタパタと歩くアトリエを眺めながら、チムニーは深いため息をついた。

初めて出会ってから4年も経ったというのに……このアトリエときたら、何も変わっていない。

いやむしろ、その規格外なマイペースさには拍車がかかっているようにも見える。

背も伸びて、見た目ばかりは年齢相応に成長したというのに……この子には一体いつになったら、相応の社会性を身に付ける日が来るのだろうか。

「ああ、そうですわ。アトリエ?」

「なに?」

「このあと暇かしら? ちょっと気になるお店があって……」

「今日は無理」

アトリエに即答されて、チムニーは意外そうな顔をした。

「あら? 珍しいですわね」

「今日は、デニス様が早く帰って来いって」

「あら、それは仕方ないですわ。なんの用?」

チムニーがそう聞くと、アトリエは物静かな、しかし何らかの意思を感じさせる目を向けた。

「たぶん、国家規模の用事」

「はあ。あんたの言い出すことは、いつになってもわかりませんわ」

「たぶん、ウソじゃない」

◆◆◆◆◆◆

『4年後』の世界を舞台に、

新しい物語が始まる。