軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

LAST AFTER デニス (後編)

特に気負わずに炒飯を作って、付け合わせのスープも用意してやった。

それをお盆に載せて行くと、テーブルに座っていたフィオレンツァは特に何をするでもなく、じっと料理が運ばれるのを待っていたようだった。おそらく、何もせずにじっと待っているが得意な性質なのだろう。なにかと得な性格だ、とデニスは思った。

フィオレンツァの前に料理を置くと、彼女は背筋を伸ばして、スプーンを手に取った。

「いただきます」と彼女は言った。

炒飯を何口か掬って食べると、彼女は何かを考え込む。

デニスは彼女の正面に座って、特に何も言わずに、その様子を眺めた。

こいつも、ある意味では追放者だ。

デニスはそう思った。

アトリエの能力が失われてから、デニスの周りにあれほど集まっていた奇妙奇天烈制御不能な追放者たちは、とんと新顔が現れなくなっている。

ふと、デニスはヒースの言葉を思い出した。

僕たちはみな追放者なのだ。

そうかもしれない、とデニスは思った。

「あれから、如何ですか?」

フィオレンツァがそう聞いた。

「平和にやってるよ」

「それは何よりです」

「お前の方はどうだ?」

「新しい仕事を始めるところです」

「なによりだな」

「私としては、驚いています」

フィオレンツァはそう言って、静かにスープを啜った。

「事件は公にならずとも、私は確実に処刑されるものと思っていましたから」

「タイミングが良かったんだな。炒飯はどうだ?」

「美味しいです。とっても」

彼女はそう言って、デニスのことを見つめる。

「やはり似ていますね」

「自称、俺の兄貴とか?」

「瞳の感じや、雰囲気は違いますが」

「よく言われるよ」

デニスはそう言うと、フィオレンツァに尋ねる。

「俺の兄貴は、お前にとってどんな奴だった?」

「私の最愛でした」

「俺が殺した」

「仕方ありません」

フィオレンツァはそう答えると、ふと炒飯を眺めた。

「グリーンピースは入れないのですか?」

「入れないよ。どうしてそんなことを聞く?」

「いいえ……なんとなくです」

「味がごちゃつくからな」

デニスがそう答えると、フィオレンツァは薄く微笑んだ。

どうして笑ったのか聞こうと思ったけれども、デニスは追及しないことにした。

代わりに、デニスは頬杖をつく。

「最近思うんだけどな」

「なんでしょう?」

「ここ1年くらい、殺し合いや戦いなんかとは無縁の生活を送ってるからよ。手に入れたはずのスキルを全然使わねえんだ」

「『強制退店』や、『 反転予知(ラプラス) 』のことですか?」

「ああ。日常生活じゃあ、ほとんど使わねえからな。『反転予知』は料理にいくらか使えるんだが」

「そんなものですよ」

「なんだかなあ、って感じだよ」

デニスはそう言って、頭の後ろに両手を回した。

「それで、色々と考えて、思ったんだけども。俺とあいつが使ってたスキルってのは……結局、みんなが普通に使ってる力なんだよな」

「『未来予知』と、『過去改変』が?」

「そうだ。みんな前を向いて、未来を変えるために頑張ってる。未来が変われば、過去の意味が変わる。変えちゃいけないこともあるけれど、変わった方が良いこともある。だからみんなそうしてる。そのために頑張ってる」

「なんだか、あの人みたいなことを言いますね」

「あの哲学ポエマーに影響されたのかな」

デニスがそう言った。

しばしの間、二人は何も話さずに沈黙した。

フィオレンツァが静かに炒飯を食べる音だけが、微かに響いていた。

「信じられないほど、平和な時代が来ましたね」

彼女はふと、そう言った。

「みんなが頑張って、何かが上手く回り始めたんだな」

「いつまで続くでしょうか」

「誰にもわからねえよ。でも、もしも、また何かあった時には」

「そのときには?」

「また、みんなで立ち上がればいい」

フィオレンツァが、ちょうど料理を食べ終わった。

彼女はハンカチで口元を拭うと、食べ終えた食器を綺麗に揃える。

「ごちそうさまでした」

「おう。美味しかったか」

「はい、とっても。ありがとうございました」

フィオレンツァは立ち上がると、デニスに軽く頭を下げた。

「また食べに来ても、よろしいですか?」

「ああ、また来いよ。だが営業時間にな」

「わかりました、ありがとうございます」

「お前も、元気でな」

「ご心配なく」

フィオレンツァは去り際、振り返ってデニスに笑いかけた。

「私は、あの人が死んだものだとは思っていませんから」

「恐ろしいことを言いだす奴だな」

「きっとどこかで、いつものように、何かに怒っていることでしょう」

「お願いだから、大人しく死んでて欲しいね」

デニスがそう返して、フィオレンツァがレストランの扉から出て行く。

……それとほとんど入れ違うようにして、扉がガチャンと勢いよく開かれた。

「大将ー! ちょっとマジで困ったんですけどー! 一緒に来てくれませんかー!?」

「ヘンリエッタ!? なんだてめえ、いきなり!」

「緊急なんですよー! ちょっと私には手に負えないので! お願いしますよー!」

騎士甲冑姿のヘンリエッタがそう叫ぶと、その後ろでまた扉が開かれた。

「デニスー!? いるー!? あんた、ちょっと『銀翼』の本部まで来てくれなーい?」

「ケイティ!? なんだ、藪から棒に!」

「新しく採用した新人が、調子に乗ってて困ってんのよー。あんた、うちのOBなんだから模擬戦の一つでもしてくれないー? 天狗鼻を物理的にへし折ってくれなーい?」

「知らねえよ! OBじゃなくて俺は追放されてんだよ!」

ヘンリエッタとケイティが並んでいると、また扉が開かれた。

「デニスはおるか! 昼食のカツ丼の出前が届いていないのだが、どうなっておるのだ!」

「エステル! 今日は定休日だ!」

「そんなー。本当であるかー? 忙しい王務の合間を縫って、せっかく『 虚実重なる王の逸話(エクスカリバー) 』で空間を歪めて瞬間移動してきたのにー。どうにかならんかー?」

「壊れスキルをカツ丼の出前に使うな! あとお前、背ぇ伸びたな!」

「デニス様ー!? いらっしゃいマスカー!?」

「オリヴィア! お前はどうした!」

「特に用事は無いのデスガ! ちょうど近くまで飛んで来ましたノデ!」

「うるせえ奴だな!」

にわかに騒がしくなったレストランのホールで、デニスはため息をつく。

「わかったわかった。とりあえず順番にな、何とかしてやるから」

「この後すぐ、余は王政会議があるのだー。とりあえずカツ丼が食べたいのだー」

「あたしもこの後、すぐにクライアントと会わなきゃいけないんだけど!」

「大将ー!? とりあえず現場に、一緒に来てくれませんか!?」

「順番つってんだろうが!」

「ワア! オリヴィアは、特に何もありマセンヨ!」

「それは知ってるんだよ!」

デニスは大体、そんな感じだった。

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一方

こことは違う、別の場所にある、別の世界で。

とある男が、高らかに笑っていた。

「グハハハハハハハハァ! やればできるもんだ! 諦めなきゃあなぁ!」

深い闇色の霧の中に佇む、荘厳な漆黒の魔王城。

その玉座に我が物顔で座る男は、可笑しそうに、窒息するのではないかというほど笑っていた。

その男の隣で……

大きな杖を抱えた神官装束の少女が、グスリと泣いている。

「うぅぅ……王様、お父様、ごめんなさい……このマチルダは、どうやら魔王よりもヤバイ奴を召喚してしまったようです……」

「マチルダぁ! お前もこの一年間、よーくやってくれたぞ!」

「うぅぅ……私はこの世界で一番の大罪人になってしまいました……魔王の方がマシでした……」

「今の僕で! 弟ともう一度やり合いたいものだ! 相手にもならんがなあ! グアハハハハ!」

「ええ……こんなヤバイ人に弟が居るんですかぁ……? マジですかぁ……?」

その男……勇者ヒースは。

勇者兼、新生大魔王のヒースは玉座から立ち上がると、漆黒のマントをたなびかせた。

目の前に整列して跪くのは、前代の魔王から引き継いだ……というよりも、懐柔して纏め上げてしまった、魔族の最高幹部たち。

そして、彼が立つこの場所は……

魔王城を取り囲む、国家規模な極大の魔方陣。

その中心であった。

「マチルダ! 繋がったという世界の情報は!? 解析できたのか!」

「ほとんどわからないのですがぁ……魔法で解析した情報によると、どうやら『地球』と呼ばれる世界が広がっているようでしてぇ……ただ、詳しいことは……世界の法則が微妙に違っているようでして……」

「チキュウ、地球、地球! 良ーい響きだ! 気に入ったぁ!」

ヒースはその世界の名称を何度か口ずさむと、嬉しそうに叫ぶ。

「即刻貫通し! 穴を穿て! 接続して移動するぞ!」

「そんなことをしたら、向こうの世界が大変なことになってしまいますよ!」

「いいか、マチルダ。何事にも変化は付き物だ。変わらない物なんて無いんだぜ?」

「要らん変化というものがあるんですよー!」

マチルダが叫び、ヒースが笑う。

「さあ、いざ行かん! 待っていろよ、フィオレンツァ! 僕は必ず戻ってやるぞ! 幾千の世界を越えて、幾万の世界を終わらせても! 必ずや舞い戻ってくれよう!」

そう叫ぶと、ヒースは配下の魔族たちを眺めた。

「新生大魔王軍、スローガン! 頑張れば!」

「夢は叶う!」

ヒースの言葉に、魔族たちが呼応した。

「うえーん! この人怖いですー!」

そして、物語の舞台は

4年後へ!!