軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四部 エピローグ (後編)

「よっと」

片手で放り投げられた荷物が、馬車の荷台の上に転がった。

乱雑に載せられた荷物の山を見て、馬車屋の親父が顔をしかめる。

「デニス、もうちょっと綺麗に入れられないのか」

「俺の身体を見てくれよ。これでも頑張ってんだ」

そう言って、デニスは肩をすくめて見せた。

デニスは松葉杖を突いて、片足は包帯をグルグル巻き。右肩にも包帯が巻かれており、片手はあまりうまく動かせないように見える。荷台を閉じながら改めて彼の姿を眺めた馬車屋の親父は、ふと溜息をついた。

「まあ、とりあえずはこんなものか?」

「ああ、第一陣はな。あとの荷物は、引っ越すときに纏めて持ってくよ」

デニスがそう言うと、馬車屋の親父は馬に乗り込む。

「それじゃあ、先に行ってるぞ。必要な物は入れてないだろうな?」

「別に入ってたって、構わんさ」

それを聞いて、馬車屋の親父は馬で荷台を引いて行く。

先に王都へ向かった彼は、レストランにデニスの私物を置いてから、もう一度戻って来てくれる予定だ。

今度は、デニス自身を運ぶために。

それを見送ってから、デニスは街の大通りを引き返そうとする。

そこにちょうど、買い物に出てくれていたケイティが戻って来た。

その細い体で大量の紙袋を抱えたケイティは、疲れたような顔でデニスの隣を歩く。

「買ってきたけどー? こんな必要なのー?」

「おう、ありがとう。そんだけありゃ足りるだろ」

「あんたもちょっとは持ちなさいよー。重いのよー」

「今の俺に持てると思うのか」

「レジェンダリー炒飯なんだから、何とかしなさいよー」

「出来ることと出来ねえことがあってなあ」

松葉杖を突きながら、デニスはケイティと一緒に食堂への道を歩いた。

ヒースとの死闘の後。

数日にわたって生死の境を彷徨ったデニスは、なんとか日常生活が送れるレベルまで回復していた。

全身の骨が折れて砕けて、内臓がいくつも損傷し、ついでに大量出血も相まって完璧な致命傷であったデニスが生き残ったのは……ひとえに、駆けつけたツインテールやポニーテール、それにバチェルらの魔法による応急処置と、彼を魔法学校まで物理で運んだヘンリエッタ、それに王国教員たちの最先端の治癒魔法と、デニス自身の生命力のおかげであった。

しかしそれでも、いまだに折れた脚や抉れた肉は完全に回復していない。

あまりに酷い損傷であったため、治療は長期的に続けられる予定だった。

それでも……最初にデニスの負傷を見た治癒魔術師が、「王城の最上階から突き落とされて攻城砲撃でも何発か喰らったのかな?」と聞いたことを思えば、その回復度合いは幸運中の幸運としか言いようがない。

食堂までの道中で、デニスは鍛冶屋のおばあちゃんと出会った。

「デニス。怪我の具合はどうだい?」

「全然へっちゃらだぜ。すぐに治るよ」

デニスがそう答えると、鍛冶屋のおばあちゃんは袋の中から、紙に包まれた一本の包丁を取り出した。

「お前が町から出るって聞いてね。丹精込めて錬金したんだよ」

「いいのか? すげえ業物に見えるぜ」

「うん。ちゃんと、料理に使ってあげなさい。お前の錬金は速度ばっかりで、雑で仕方ないからね」

「うへえ、手厳しいな。ありがとよ、大切にするぜ」

デニスはそう言うと、松葉杖と一緒にその包丁も握って、またよっこらと歩き出す。

食堂の前まで歩いて来ると、そこでは大勢の町民に囲まれたビビアが、花束を受け取っている最中だった。

「ククク……はなむけってやつだな……ククク」

「フフフ……向こうでも頑張ってくれよ……フフフ」

ビビアに花束を渡す役目をなぜか受け持っていたらしいグリーンの兄貴とその舎弟が、気恥ずかしそうにそんな声をかけている。

「あ、ありがとうございます!」

町民たちに囲まれているビビアが、そう言った。

「あの……王都の魔法学校に入学することに、なったのですが……向こうでも! みなさんのことは、忘れません! いつか、必ず戻ってきます!」

「おめでとー! ビビア君!」

「行ってらっしゃい! いつ出発するの!?」

「ツインテールさんに、ポニーテールさん! それは……」

そこまで言ったところで、ビビアはデニスが歩いて来たことに気付いた。

「俺と一緒に出発するんだよ」

ケイティと一緒に歩いてきたデニスが、そう言った。

それを聞いて……集まっていた町民たちは、少しだけ静まり返る。

「ククク……行っちまうんだな、店長」

「フフフ……本当に……レストランを継ぐんだな……」

グリーンの兄貴とその舎弟が、そう言った。

「まあ、行くっていってもよ」

デニスは松葉杖を脇に抱えて器用に頭を掻きながら、気恥ずかしそうな顔を浮かべる。

「別に、もう戻ってこねえってわけじゃねえ。ちょっくら料理長の跡を継いで、向こうの店を盛り立ててやって……それから帰って来るさ。だから、この店はこのままにしておく」

デニスはそう言って、今日から長期休業に入る自分の店を眺めた。

追放者食堂。

ここで、色んなことがあった。

色んな人に飯を食わせた。

色んな奴らを助けて、

色んな奴らに助けられて、

大切なことをたくさん教わった。

そんな風に一瞬だけ物思いに耽ったデニスに対して、ツインテールとポニーテールが、二人でずいっと前に出る。

「待ってるよ、店長ー!」

「向こうでも、元気でねー!」

「おうよ、ありがとな」

そう言うと、デニスはケイティに支えられながら、店に入っていく。

ケイティが扉を開けてくれると、食堂にはすでに、ポルボとヘンリエッタ、それにバチェルが居た。

その三人がテーブルを囲んでいる中には、なにやら高速で手を動かしているアトリエの姿がある。

「アトリエちゃん、すっごーい!」

「何やこのスキル!?」

テーブルを囲んでいるヘンリエッタとバチェルが、驚愕していた。

それはアトリエが、得体の知れないスキルを使って、高速で魚を捌いているからだ。

目にも止まらぬ速さで包丁を操るアトリエの手によって、魚が握られた瞬間に綺麗な三枚おろしに捌かれていく。

「『レジェンダリー三枚おろし』。便利」

「ンドゥフフフ……デニスも顔負けの速度ネ……」

「アトリエの方が速い」

そう言って、アトリエがポルボにピースサインで返した。

どうやら彼女の中で、流行がサムズアップからピースサインに戻ってきたらしい。

ヒースによって王都中から集められた不要スキルを流し込まれたアトリエは、何だかよくわからない謎スキルの宝庫と化していた。

1秒もかからずに衣服を十何枚も畳む『一閃/ワイシャツ』や、雑巾を一度で完璧に絞り切る『ハイエンド雑巾絞り』、右手から唐揚げを生成する『不滅のおかず』、頭の上に荷物を何でも載せられるようになる『頭上運搬』……アトリエはそんな謎スキルを日常的に使うようになり、なんの説明も無しに謎の挙動をしだすので、デニスはわりと困っていた。

デニスが帰って来たことに気付くと、アトリエはパタパタと歩いて、彼のところにやってくる。

そんな彼女に、デニスは声をかける。

「ただいま、アトリエ」

「おかえりなさい」

アトリエがそう答えた。

あれから、アトリエは少しずつ……前よりも、喋るようになっていた。

どうやらあの一件以来、彼女の中で常時起動していた精神干渉スキルが消滅してしまったらしい。アトリエのユニークスキルは永久に失われてしまったのか、それとも成長と共にまた発現するものなのか……それは、王都の学者たちにもわからない。

またそれによって、アトリエは人の心を読んだりすることができなくなったようで……こうして今は、普通に喋る努力をしている。

そして彼女も、デニスやビビアと一緒に、王都へ移り住むことに決まっていた。

王都の学校に通って、父から受け継ぐ血筋を……ワークスタット家を、立て直すために。

以前は自分の家系に興味が無い風にしていた彼女ではあったのだが、どうやら心境の変化があったらしい。

そんな彼女は、デニスに報告する。

「お魚、たくさん捌いた」

「本当か。どれくらい捌いたんだ?」

「80匹くらい」

「捌きすぎじゃない!? そういう業者なの!?」

デニスがそんな風に突っ込んでいると、ヘンリエッタが楽しそうに声を上げる。

「大丈夫ですよ! 今日は、みんなで飲めや歌えやの大騒ぎなんですから! すぐにみんなで食べきっちゃいますよ!」

「あーもう、お腹空いたわあ! 店長、もう始めてもええんやないか?」

バチェルがそう言って、ポルボやアトリエも頷く。

「ったく。誰が料理すると思ってんだ」

デニスはぶつくさと呟きながら、松葉杖でカウンターの中へと入っていく。

ケイティはそんなデニスを助けるように、買ってきた食材を並べてくれた。

その後も続々と町民がやってきて、食堂はすぐに人でいっぱいになってしまう。

「よーし! お別れ会だ!」

「今日は食べるぞー!」

町民たちがそんな声を上げて、デニスはやれやれと呟きながら、料理の準備を始めた。

身体はまだズタボロだが、俺はレジェンダリー炒飯だ。

これくらい、無数の料理スキルでどうにかしてくれる。

「デニスさーん。僕はとりあえず、炒飯が食べたいなあ」

ビビアがそう言った。

「大将! 私はカツ丼でー!」

ヘンリエッタがそう言った。

「店長ー、ウチは……何にしよっかな?」

バチェルがそう言って、考え込む。

彼女らに続いて、町民たちも好き勝手に料理を頼み始めて、その注文をアトリエが謎スキルで全て聞き取って高速でメモっていた。

するとまた、食堂の扉がガラガラと開かれる。

どうやら新顔の旅人か何かのようで、田舎町の食堂でこんな騒ぎが起きているとは知らず、普通に飯を食べに入店して来てしまったらしい。

そんな新規客の姿を見て、町民たちは顔を見合わせた。

カウンターに座っている面々も、そしてデニスも。

みんなで声を揃えて、彼のことを迎えてやる。

「追放者食堂へようこそ!」