軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話 カーテン・コール (前編)

蒼金髪(サファイア・ブロンド) の青年。

奇械王ユヅト。

中性的な端正な顔立ちで、古めかしい魔法使いのコートを着こなす彼は、背後に展開した無数の魔方陣から一瞬にして十数の魔法を起動させた。

「『 魔術の集約(スペル・ギャザリング) 』」

その瞬間、オリヴィアを抱きかかえた彼の足元に発光する魔方陣が浮き上がり、背後の魔方陣と共に、正面に立つ巨大な 石巨人(ゴーレム) へと襲い掛かった。

その石の身体を切断するかのように飛び掛かった十数の魔方陣は、巨人の各関節にバシリと音を立てて嵌め込まれ、その錬金結合を打ち消して崩壊させる。

建物よりも背が高い巨人の身体が、一瞬にして泥へと変質して、ゴシャリと崩れ去った。

「うーむ」

巨人を一瞬にして無力化したユヅトは、自分の手を開いたり閉じながら、不思議そうに呟く。

「これは一体、どういうことなんだろう……最盛期の身体で復活したのか? 時空が歪んでいるということか? 空に広がる、あの魔力の薄膜と赤い閃光は……時空間の傷かな」

状況を分析しているユヅトに、抱きかかえられていたオリヴィアが飛びついた。

「ユヅト様! ユヅト様ァ!」

「お、おう! オリヴィア! 元気だったか!?」

「ハイ! おかげさまで、トッテモ!」

「というか、なんで飛んでるの!? 何その機能!? どういうことなの!?」

嬉しそうに抱き着いて飛び回るオリヴィアに対して、ユヅトは困惑しながらそう言った。

セスタピッチにエントモリ、ポワゾンにジュエル、それにヘズモッチ……

みながその光景を、わけがわかっていない様子で眺めていると、

大通りの奥から、子供たちの叫び声が聞こえてくる。

どうやら、いまだ愛した人と会えずに暴れまわっていた子供たちが、ここに到着したようだった。

「おやおや……再会を喜んでいる暇はないようだぞ、オリヴィア」

「ドウシマショウ、ユヅト様!」

「そうだな。オリヴィア、封印武装を第十八番から第百二十七番まで解除!」

「カシコマリマシタ!」

その瞬間、オリヴィアの全身が弾け開いて展開し、内部のゼンマイ機構があらわになった。

ユヅトの声だけに反応する、オリヴィアの封印されし武装の数々。

全身を構築するゼンマイが噛み合い、分裂して結合し、人工皮膚と記憶鉱石が変質して光り輝く強化外骨格へと変形し、体外へと展開する。

オリヴィアの背中から、天使の如き白い機械の両翼が広がり、ジャキンッ、と音を立てて左右四対の砲口が伸びる。

バチリッ、と音を立てたのは、彼女の体表にピッタリと組み合わされて展開した、物理・魔法完全反射の光り輝く強化外骨格だ。

「『 高機動外骨(ストライク・) 格武装形態(カタパルティア) 』! 展開完了シマシタ!」

「ハハハァ! よりによって、この天才的なぼくと、その天才的なメイドに喧嘩をふっかけるとはな! 良い度胸だっ!」

◆◆◆◆◆◆

王城の近くの林では、草木の陰から立ち上がった灰色の狼と、その隣に立つ少女が歩き始めている。

「いやー。ここはいつの時代だろう? どういう現象なんだろう? ねえポチ、私が死んでからどれくらい経ったのかな?」

『“……知らぬ……”』

ポチが思念でそう伝えると、その少女は彼の灰色の毛並みにしがみついて、軽やかな身のこなしでその背中に飛び乗った。

「さてさて。どうやら、なんだかなんだか王都が大変なことになってるみたいだぞ? ちょっと見てみようか、ポチ!」

『“ナチュラ……お前は相変わらず、騒がしい……。”』

「まあまあ、そう言わずにさ。ねえねえ、少しは再会を喜んだらどうなんだい? ねえポチ。ツンデレかい? ツンデレフェンリルなのかい?」

『“……うるさいわ。”』

「素直じゃないねえ」

冒険王ナチュラが彼の毛並みをポンポンと叩くと、ポチの灰色の体毛が電撃のような色を帯びて、バチバチと激しい音を立てて逆立ち始める。

「幻獣使い、レベル100スキル! 『 神獣装甲(フェアル・パレード) 』! さあ、王都までどれくらいで着くかな?」

『“2秒もあれば、十分!”』

◆◆◆◆◆◆

王城前の広場では、相変わらずデラニーとエピゾンドに囲まれているエステルの横に、

微かに桃色がかった白い長髪を、腰のほどまで垂らした青年が立っていた。

ビビアは恐る恐る、飾り気の無い古めかしい麻の服を着た、一種の神々しさすら覚えるその線の細い青年に尋ねる。

「あ、あの……あなたは?」

「ええと、私はユングフレイという者だ。ユングフレイ・キングランド。初めまして」

「はー。まさかなあ。まっさかなあー! あはははは!」

混乱しすぎて笑ってしまっているビビアを横目に、そのユングフレイと名乗った青年は、王城の最上部へと視線を向けた。

「……イニスの遠い子供たちよ。そこに居るのか」

白髪の青年は、ふとそう呟いた。

彼の姿を半笑いで眺めていたビビアは、後ろからツンツンと指差される。

そこには、魔法使いのローブを羽織った茶髪の少女が立っていた。

「ねえねえ、きみきみ」

「な、なんでしょう?」

「これは一体、どういう状況なのかな?」

「いや……僕にも、よくわからないっていう……」

ビビアが困惑しながらそう答えると、その茶髪の少女がふと尋ねる。

「君の名前は?」

「僕? 僕は、ビビア……。君は?」

「私はシンシア。私たち、どこかで出会ったことあるかな?」

その名前を聞いて、ビビアは思わず、息を飲んだ。

「うん……あるよ。たしかに、会ったよ」

「私も、そうなんじゃないかと思ったんだ。ところで君、どうして泣いてるの?」

そんな二人の隣で、次から次へとポコポコと現世に復活してくる従者たちに囲まれるエステルが、白髪の青年に声をかけた。

「さて、ユングフレイという者よ」

「なにかな?」

「余はエステル。エステル・キングランドである」

「なるほど。私のかなーり遠い子孫っていうところかな」

「お主ならこの状況、どうするか?」

「そうだな」

ユングフレイという少年は振り返ると、炎上する王都の方を眺めた。

「とりえあえず、私の『 全ての美(バタフライ・) しい記憶(エフェクト) 』で王都の方を直してくるから、君は正面の方を頼むよ。あの分じゃ、大勢死んでそうだ」

「……大丈夫であるか? そのスキルを使って、かなり大変なことになった覚えがあるのだが」

「それは使い方が悪かったのさ」

初代王ユングフレイは微笑むと、王都の方へとゆっくりと歩いて行く。

その反対方向へと歩いて分かれながら、エステルは王剣を握った。

「さあさあ! そろそろそこを退いてもらおうか! 子供だからと手加減しておったが……よく考えたら、余も子供であったわ! 加減の必要無し!」

「姫様! どうされるので!?」

「姫様ー! 何をするでおじゃるか!」

「まあ、見ておれい!」

付き従う大量の従者たちを背に、エステルが王剣を鞘から引き抜いた。

解放されつつあるエステルのスキルに、周囲の空間が怯えるようにして強張る。

ちょうどそのとき、王都の方へと向かったユングフレイの周囲にも、稲妻のような赤い閃光が炸裂した。

「『 虚実重なる王の逸話(エクスカリバー) 』!」

「『 全ての美(バタフライ・) しい記憶(エフェクト) 』……ッ!」

◆◆◆◆◆◆

『列王たちが復活しています』

通信用の小石を耳に当てながら、ヒースはその報告を聞いていた。

大窓から王都の様子を眺めると、先ほどとは異なるどよめきが発生していることがわかる。

王城前の広場では、巨大な破壊の光が満ち溢れ。

王都の中央部では、八本ほどの光線がやたら滅多に打ち放たれている。

空から飛来した背丈の大きな狼が、建物の屋上に降り立つ姿も見えた。

さらに奇妙なのは、粉々に破壊された建物が、まるで時間が巻き戻っていくように次々と修復されていく光景だ。それは赤い閃光を撒き散らしながら、何かが進行するかのように再生の波を広げている。

「なぜ列王が? はるか昔の連中だろ」

『正確なところはわかりませんが……もしかすると、存在の容量の大きな者から先に、優先的に 顕現(アップロード) されているのではないかと』

「まあ、考えても仕方がないな」

『はい……私もここで、失礼いたします。……ああ、お父さん、この人はね。私の上司で……』

通信の中に、別の声が混じるのがわかった。

彼女も、会いたい奴に会えたということか。

「わかったよ、メルマ。君はとてもよくやってくれた。お疲れ様。最後の時を楽しむといい」

『はい……それでは。ご武運を、お祈りしています』

通信が途切れて、ヒースはその小石を辺りに捨てた。

デニスは石床に膝をついて、血まみれの腕で何とか肉切り包丁を持ち上げながら、応戦の構えを取っていた。

不意の一撃を喰らわぬように気を付けながら、ヒースはデニスに注意深く歩み寄る。

「まあ、 だ(・) か(・) ら(・) ど(・) う(・) し(・) た(・) って話だな。 世界の終わり(ハッピーエンド) はすでに確定している。あとはこのまま、その時を待つだけだ……」

「これが……てめえの目的か」

「そうだ。素晴らしいだろう」

射程圏内へと踏み込みながら、ヒースがそう語り掛ける。

脚の骨を折られて、もはや立ち上がることができないデニスは……その目の前で跪きながら、とにかく攻撃に備えていた。

「一撃で葬ってくれる。その怪我では、もう未来を予知しようが避け切れまい……!」

「ざっけんじゃねえ……ぶち殺されようが、必ず道連れにしてくれる……!」

片手で肉切り包丁を握りながら、デニスがそう返した。

しかしそうは言いながらも、もう片方の手は、すでに肩と腕の骨を折られたせいで持ち上がらない。

「無駄だ。殺されようと、無かったことにしてしまえばいい……っ! これから、全てそうなるんだ! 全ての過ちは無かったことになり、全ての間違いは都合良く正されて、この世界には『完璧な幸せ』だけが残される! 世界の終わり(ハッピーエンド) でなあっ!」

ヒースがそう叫んだ。

それを聞いて、椅子に縛り付けられているアトリエが、小さな口を開く。

「そうは……思わない……」

それは誰にも届かない、小さな声だった。

「全て無かったことになればいいなんて、思わない……」

アトリエは、満身創痍のデニスに向かって拳を振り上げようとするヒースの背中を見ながら、言った。

「違う……! 大事なのは、 過去(イママデ) でも、 未来(コレカラ) でもない……!」

彼女は涙を流しながら、そんな弱弱しい声を絞り出す。

ただただ幸せに暮らすことができたら、どれだけ良いだろう。

悲しいことは、全て無かったことになれば、どれだけ良いだろう。

「違う!」

アトリエは、今まで彼女が出したことのないような叫び声を上げる。

違う。

そうだけど、違う。

それよりも、もっと。

本当に、したいことは。

「辛いことが、たくさんあった! 大変なことが、たくさんあった! それでも、それでも歩き続けた!」

優しい料理人が、美味しい炒飯を作ってくれた。

町の人たちが、優しくしてくれた。

みんなで立ち上がってくれた。

みんなで笑ってくれた。

お皿を洗うのが……とっても上手くなった。

歩き続けた先に、たくさん良いことがあった。

たくさん、色んなことがあった。

転んで、立ち上がって、歩き続けなければ出会えなかった、たくさんのことが。

「アトリエは……私は! そんなことを、伝えたいだけなんだ! 私は 今(イマ) 、会いたい! 会って、伝えたい! 過去の私でも、未来の私でもなく! 今の私で! 頑張ってるよって、頑張って来たよって! こんなに大きくなったよって! お父さんに伝えたいんだ! それだけなんだぁっ!」

ヒースの拳が振り上げられ、デニスに襲い掛かる。

デニスはその拳が、自分の鎖骨を砕き、皮膚を貫通し、心臓もろとも破壊して致命傷を与える未来を予知した。

しかし避けられないし、応戦もできない。

駄目か……と、デニスは静かに思った。

その瞬間。

バシンッ、という赤い閃光が周囲に炸裂し、辺りが激しい紅光に包まれる。

「――――っ!?」

突然の事態に驚くも、ヒースはその拳を振り下ろす。

デニスは思わず、目を瞑った。

そして、その拳は……デニスの身体に届かなかった。

何かに防がれたことを悟ると、ヒースは素早くバックステップして距離を取る。

ブシュッ、と拳から血が噴出した。

それを見て、ヒースは不思議に思う。

深い切り傷……? いつの間に?

「……やれやれってところね。どこまでも、世話が焼ける子だわ」

「子供の喧嘩に、親が何とやら……ってやつかな」

そんな男女二人の声が聞こえて、ヒースは正面を見た。

跪き、殺されるのを待つだけだったデニスの隣に、

白いコック姿の長髪の女性と、シックな衣装に身を包んだ銀髪の男性が立っている。

その姿を見て、ヒースは歯噛みした。

「ジーン・ブラックス……ファマス・ワークスタット……!」

この世に顕現して名前を呼ばれた二人は、デニスを守るようにしてその前に立ちふさがる。

「やれやれ。状況はわからんが、とにかく彼を倒せばいいのかな」

アトリエの父親……ファマス・ワークスタットがコートから杖を取り出しながら、そう言った。

「まったく。いつまで経っても一人立ちのできない子だこと」

デニスの育ての母親……ジーン料理長が、スキルを発動させて周囲に無数の刃物を展開する。

「チッ……! あの小娘が、復活の優先順位を書き換えたのか……?」

ヒースはそう呟きながら過去改変で怪我を治すと、再度歩み出す。

「だが! 関係ない! もう一度殺されておけっ! このジジババどもがぁ!」

ヒースが叫び、ジーン料理長とファマス卿がニヤリと笑った。

「さあ、それはどうかな?」

「年季の違い、見せてあげましょうか」